悠久の賢者ベネディクトゥスはそろそろ死にたい   作:エテンジオール

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 ただいま!(╹◡╹)


Q12.なぜ初恋は実らないんですか?

 学園に妹ちゃんたちが遊びに行ってからしばらくすると、ちょっとずつアリウムちゃんの扱いは良くなっていった。それと同じかそれ以上に距離を取られることもあったが、それはまあ、仕方がないことだ。好感度は集まっていく習性があるからね。

 

 幼女ちゃんありがとう派と幼女先輩こわいです派に別れたことで、幼女の学園生活もだいぶ過ごしやすいものになっただろう。ちなみに前者は助けられたことに対する感謝、後者はそれよりも戦い方やその表情へのおそれによって生まれたため、ラブにもヘイトにも繋がらない。アリウムちゃんに色恋沙汰とかギスギスはまだ早いとおじさん思うから、この状況はかなりいいね。

 

 さて、色恋沙汰と言えば、幼女だ。まだ早いとは言ったものの、この年で片思いの経験がないのも逆に不健全だと思っていたので、王子君のことが気になっているというのは実にいい傾向である。いい傾向なんだけど、ちょっと相手が良くないよね。一国の王子様とか、上手くいってしまえば玉の輿じゃないか。そんなことになってしまったら幼女は気軽に私を殺しに来れなくなってしまうし、なにより王子側がアリっぽいのがダメだ。片思いはいいけど両思いはダメ。普通なら身分差の暴力があるからセーフなのに、賢者の寵児という立場があればなんとでもなってしまうのも良くない。

 

 というわけで、幼女には失恋してもらわないといけないな。さてどうしようかと考えていると、心優しい私とは違って悪意の塊なエフちゃんがなにやら企んでいるようだった。お前みたいなやつがいるからこの世界から不幸が消えないんだよ。

 

 そんなエフちゃんの素敵な作戦は、妹ちゃんたちが暴れていた時に助けてもらったお礼を伝えることで王子と関わりを持ち、そこから寝取っていくというものらしい。いや、アリウムちゃんと王子君はそういう関係ではないから、寝取ると言うと正しくないのだが、要はそういうことだ。姉かつ母の初恋の相手を目の前で奪うなんて、人の心とかないんか?

 

 普段のお姉様が使えそうなものを送りたいんですとか、絶対に本心では思っていないことを頭お花畑みたいな顔しながら言って誘き出し、そのまま側近付きとはいえ街でデート。エフちゃんの入学のために私が手を回したこともあり、断るに断れない王子や側近くんは簡単に釣れたみたいだ。そのまま世間知らずのおもしれー女ムーブをかまして、王子の興味を引き、初デートが終わる頃にはすぐに次の約束をするまでになっていた。エフちゃん、恐ろしい子っ!

 

 そんな状態でエフちゃんが着々と逢瀬を重ねているなかで、初恋を自覚してしまったアリウムちゃんはと言うと恥ずかしくって顔も見れなくなっちゃった。お昼ご飯とか王子が一緒に食べようと寄っていっても逃げちゃうから、関係の深めようがないね。そしておもしれー女に逃げられた王子の元にやってくるエフちゃん。やり口がさぁ、汚いんだよね。

 

 見た目に全てを吸い尽くされたような、天使みたいな笑顔でゲスいことをするエフちゃんにはドン引きである。ほとんど同じ顔なのに思春期レベルでピュアっピュアなお母さん(アリウムちゃん)を見習えよ。

 

 人間性が弱い方の幼女の引き合いに頭が弱い方の幼女を出して考えていると、何故か突然アリウムちゃんはくしゃみをした。授業中だからか我慢しようとして、キュゥッと小動物の鳴き声みたいな音を出している。あまりやると中耳炎の原因になる、悪いくしゃみだ。不思議なこともあるものだね。

 

 それから数ヶ月、幼女が新しくできたお友達と仲良くおしゃべりして、何となく王子と気まずくなりながら、でもやっぱり気になってチラチラしている間に、いつの間にかエフちゃんは手を繋いでエスコートしてもらえるようになっていた。

 

 王子くんさあ、こんなゲスと仲良くなっても後悔するだけだぞ。絶対ろくなことにならないから。アリウムちゃんにしとけって。もしそうなったらその時は悲劇の演出のためにお前の国滅ぼすけどさ。

 

 幸い?なことに国を滅ぼすようなことにはならなさそうだが、幼女は幼女でそろそろ危機感を持ったらしい。そりゃあ、これまで向こうからアプローチしてくれていた人が、最近気を使って何も言わなくなってきたら、普通は焦るだろう。一人でうじうじするのをやめて、一番のお友達ことセレンちゃんに会いにいくつもりらしい。恋バナ、楽しそうだね。きっと親友なら応援してくれるだろうね。

 

 

 ところがどっこい、そこには当然のようにエフちゃんもいるのである。そりゃあ、セレンちゃんの部屋はエフちゃんの部屋でもあるのだからいてもおかしくないし、少し遅い時間な今、いない方がおかしい。

 

 生憎なことにお留守だったセレンちゃんの代わりに、迎えてくれたのはかわいい妹のエフちゃん。アリウムちゃんは、お姉ちゃんの威厳を保つためにエフちゃんの前では見栄を張ってしまうから、当然恋の悩み事なんて相談できない。

 

 セレンちゃんが帰ってくるまでおしゃべりをしたいというエフちゃんの誘いに乗ったら、演技派なエフちゃんはぽっと頬を朱に染めながら、お姉さまに聞きたいことがあるのですがと切り出す。その様子に若干の違和感を感じているらしい幼女が続きを促すと、エフちゃんが切り出したのは王子君の話。

 

 慌てふためいてお目目がぐるぐるになっている幼女に気付かない様子で、あのお方に贈り物をしたいのですが、何を送ればよろこんでいただけるのでしょうかと乙女の顔を見せるエフちゃん。君、その話の切り出し方気に入っているの?王子くんにも同じことしたよね?それにしても上手な演技をしやがって。ゲスな内面を知らなかったら私だって騙されていただろう。

 

 恥ずかしそうに顔をかあっと赤くしながら、クラスでよくお話するのはお姉さまだと聞いたのでと、最近話せてないことを気にしている幼女の心を深くえぐる一言。なんて惨いことを。

 

 

 そのまま王子くんへの気持ちを明かして、お姉さまにも応援してもらえたらうれしいですとはにかむその姿は、何度見てもただのかわいい女の子だが、遠距離で読心魔法を使った私には、その心のうちはダダ漏れだ。

 

 恋に向き合おうとしてるお姉さまかわいー!とか、芽生え始めの恋心をつむのくせになっちゃうとか、ここでカワイイをひとつまみとか、到底ピュアな子供には考えられないことを考えているのがエフちゃんの内心だ。うん、悪魔かな?私は思わずドン引きした。

 

 不意打ちでの顔面ストレートを食らった幼女に、女の子の顔をしながらお姉さまにも応援してほしくってと追い討ちのラッシュをかけるエフちゃん。アリウムちゃんの体力はもうゼロだよ。

 

 それでもまだ、王子くんへの気持ちを明かし返して、恋のライバル路線に進む道がアリウムちゃんには残されていたが、目を光らせながらアリウムちゃんを見上げるエフちゃんを見て、幼女はその道を諦めてしまった。それならわたしも応援するねと約束して、諦めてしまった。

 

 

 ……うん、これ、エフちゃんちょっとやってるね。こういう機会でもないとあまりエフちゃんのことをちゃんと見ていなかったから気付くのがだいぶ遅れたけれど、この目の光り方、実際に光っている虹彩は、一部の魔物が持つ固有魔法のそれだ。

 

 大量生産していたせいでどれに何を入れたのかすぐには思い出せないけど、添加物として魔物の一部を入れた妹ちゃんたちがかなりの数いたし、その中には瞳を見ることを条件に相手に洗脳まがいの影響を与えるものも存在する。

 

 たぶん、実際に働いている効果としては、親近感を持たせやすかったり、敵意の成長を阻害したり、何となく一緒にいると心地良かったりと、大した害はないものだろう。周囲から好かれやすくて嫌われにくい、その程度の固有魔法。日常生活の上ではとても役に立つものだが、魔法という観点で見ればあまりにもショボイ効果で、だからこそまともに抵抗されることもなく、私すら気付けなかった状態で今に至るのだろう。気付けなかった私の怠慢と言えばその通りだが、いちいちそんな細かいところまで確認なんてしていられるわけがないだろう。

 

 ひとりで逆ギレしながら、作業がてら幼女たちの様子を見る。眼前でほぼ失恋状態のアリウムちゃんを見ながら気持ちよくなってしまっているエフちゃんと、わざわざ遅い時間に相談に来たのに、それよりも先に理由を消されてしまったアリウムちゃん。気持ちがぐちゃぐちゃで、きっと泣きたいくらい辛いはずなのに、なんでもないように振る舞いながら話題を変えて話続けるアリウムちゃん。

 

 そんな中で、アリウムちゃんが元々用があったはずのセレンちゃんが部屋に帰ってくる。賢者の寵児として健康に暮らせているかの確認のために、健康診断を受けてきたというセレンちゃん。大切なルームメイトの帰りにテンションを上げて迎え入れるエフちゃんと、元々用があったのにそれを失ってしまったから何を言えばいいのかがわからなくなったアリウムちゃん。控えめに言ってクソみたいな状況だね。主にアリウムちゃんにとって。

 

 予想外の人物がいることに驚いているセレンちゃんが、幼女にどうしたのかと聞く。天真爛漫を装いながら、お姉さまはセレンお姉ちゃんに話があったんだってと追撃するエフちゃん。ここにエフちゃんがいなければ、幼女は恋バナを始められたのかもしれないが、今応援すると言ったばかりの相手を前に同じ人を好きになってしまったんだなんて相談ができるわけがない。

 

 自ずと、幼女は相談したかった内容を忘れちゃったなんて、不自然極まりない言い訳をしてその場を切り抜けることになる。それ以外の理由だと必ずどこかで違和感が生まれるか、角がたってしまうからね。自分のイメージに傷はつくかもしれないが、それが一番丸く収まる言い訳だ。

 

 それを聞きながら、そんなこともあるんだなぁと素直に受け止めているセレンちゃんと、お姉さまかわいすぎる目の前でイチャイチャして脳味噌焼き切りたいなんて外道なことを考えているエフちゃん。正直私はこの子にも大概酷いことをしているとは思うが、この子に関しては殺されてもいいと思えることは絶対に来ないだろうね。そもそも本人がそれを受け入れていることもあるし、幼女にトラウマと復讐の動機をより強く与えて死ぬ係は継続だ。

 

 

 そうしているうちに時は流れて、幼女の学園生活2年目の終わり。次第にフェードアウトしていった幼女を尻目に、エフちゃんと王子くんは見事に思いを通じ合わせた。本来の身分差を賢者様の紹介という変則的な方法で何とかした恋仲は婚約につながり、誰もが2人の幸せを祝福した。

 

 残されたのは人目をはばからずにいちゃつく一組のカップルと、それを親戚という極めて近い立場で見ざるをえない、WSS(わたしが先に好きだったのに)の幼女。お姉さまの脳破壊……ジュルリ……としているエフちゃんの反応を見るに、まだ幼女は王子くんへの気持ちを捨てきれてはいなかったらしい。

 

 傷心に漬け込むべく好感度を稼ぎに走っているリーダー君と側近くんは、可哀想なことにこの時点では視界にすら入っていなかったようだ。この惨状にはさすがの私も涙を禁じ得ないな、ははっ。

 

 しかしそれも、3年に入ったタイミングでのこと。次第に進んでいくエフちゃんと王子の話を前に、いつまでもこの気持ちを引きずっている訳にもいかないとようやく悟ったらしい幼女は、手近なところで急場を凌ぐことにしたらしく、それまで仲間としての距離しか取ってこなかったリーダー君を相手に、2人きりでのご飯の誘いに乗るようになっていった。大変可哀想な話だが、側近くんに至ってはこの段階まで進んでも多分まだ幼女には本名を覚えてもらっていない。こりゃあ配偶者ダービーはリーダー君の勝利で決定だな。

 

 卒業まで半年を切ったタイミングで、諦め半分ながらも込めた思いだけは間違いなく本気な側近くんが幼女に告白をして、振られる。他に好きな人がいるからと言われて、そこから始まるのは一方的な約束。幼女になにか大変なことがあった時には必ず助けになるから、その時は絶対に呼んでほしいというもの。その時がきたら、王子が暗殺者に襲われていても投げ出して向かっていいと約束を取り付けたからと、側近くんは気持ちを幼女に伝えて、誰もいなくなった屋上で一人泣く。

 

 

 結局、幼女が選んだ相手は、ずっと昔から自分と一緒にいてくれて、何か困ったことがあった時には誰よりも頼りになって、これからもきっと一緒に歩んでくれるリーダー君だった。

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