悠久の賢者ベネディクトゥスはそろそろ死にたい   作:エテンジオール

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A13-1.わるーいおじさんがそれを望まなかったからさ!

 リックと付き合ってからも、わたしがちゃんと勉強をすることに変わりはない。ここではおおっぴろげにしている訳ではないけれど、わたしは師匠の弟子として恥ずかしくない人間でないといけないのだ。一度優秀な成績を取れると示した以上、怠けて成績を落とすのは師匠の顔に泥を塗ることになる。

 

 そのために勉強をがんばって、節度のあるお付き合いに留めておくと、うれしいことに学園を成績最優秀者として卒業することが出来た。師匠から教えてもらったことのおかげで、とても難しいと言われている内容も比較的簡単にできたから、成績が優秀なのは当たり前と言えば当たり前だけれど、それでもわたしが頑張ったこともある程度は関係しているだろうから、そこだけは自分を褒めてあげたい。

 

 そうして卒業したら、その後は入学前から決めていたとおり、仲間たちと冒険者の活動をする。色々な人から色々な条件で誘われていたから、それを全部断るのは少し心苦しかったけれど、そもそもそのために入学したのだから、それは仕方がない。気にせずに断れたのは、モルモットとして研究所に所属しないかという誘いくらいだった。

 

 卒業後の活動は、とても順調だった。元々それなりに実力があるパーティーが、学園で専門の知識を得たのだから、順調に進まない方がおかしい。身の丈に合わないむちゃでもすれば話は別かもしれないが、わたしたちの中にそのような無茶をしたがる人は一人もいなかったのだから当然だ。

 

 途中何度か身篭ったことを理由に、冒険に出れないこともあったけれど、その間はみんなが無理のない範囲の依頼に留めてくれたおかげで、ついていけない時と心配はしなくてよかった。それ以外の時に十分すぎるほどに稼げていたこともだいぶ大きいと思うけれど。

 

 幸い、と言うべきか、わたしたちが新しく拠点に決めた街には、わたしたち以上の戦力はいなかったから、手厚くもてなされて、生活でも子育てでも困ることはなかった。ほかの街だとどうしてもわたしの耳が目立って、あまり居心地が良くなかったから心配してきたけど、生まれてきた子供たちも他の子に比べて差別されることもなく、むしろどちらかと言うと好意的に受け入れられたらしい。大きな依頼がない時はそれぞれで適当に稼いで、みんながいないと心配な時だけ全員で行動する。十分な収入を得て、趣味にお金を使えるようになったわたしたちには、その働き方が合っていた。

 

 そんな生活を続けて、後進の育成のためにもほとんど依頼を受けないようになってしばらく。他に任せられないものなんかはまだたまに来るが、学園を最優秀成績者として卒業したわたしが必要になることなんて、そうそう起きることがない。

 

 そのおかげで、近頃のわたしの扱いは何かあった時に頼りになる人くらいだ。危険な魔物が出た時から、引越しの時、子供の考えていることが分からない時の相談相手など、頼まれたことはだいたい解決できる。たまになんでわたしにするのかわからないような相談もされるが、それはまあ、それだけ頼りにされているということだろう。そう思わないとやさぐれてしまいそうだ。

 

 うちの子がアリウムさんに会いたいって言ってきかないのよー、なんて言って子供を預けていくママ友の言葉に、ちょっと頬がひきつるのを感じながら引き受ける。わたしが冒険に行かないといけないときはうちの子をよく預かってくれたので、無碍にすることもできないのだが、なぜいつもわたしのポケットの中にこっそりお菓子を忍ばせて、子供たちには内緒よ、なんていたずらっぽく笑うのだろうか。おかしいな、わたしの方が年上のはずなのに。

 

 それに、安心しきった様子で預けて行っているけど、最近わたしはおたくのお子さんと顔を合わせるのが気まずいんだ。会うたびにプロポーズしてくるんだもん。なんだよ、リックおじさんより俺の方が幸せにするとか、そういう気持ちは娘の方に向けてほしい。

 

 そんなことがあったと話したら子供相手にムキになって対抗心を燃やしたリックをなだめて、落ち着かせる。自分の子供にすらわずかに嫉妬するリックは、少し面倒くさくはあるけど、しっかり愛されているという実感が湧くので、たまにはいい。油断するとそのまま押し倒してあれよあれよのうちに好き放題されてしまうのは玉に瑕だが、お腹の子のことを考えると今はだめだから、ちょっと強めに頭をはたいて正気に戻す。

 

 幸せな生活だ。家族に囲まれて、周囲からも好意的に見られていて、つらいことも何もない。叶うならこのままいつまでもこうして暮らしていたいくらい幸せで、わたしの過去の事なんか悪い夢だったんじゃないかと思えてくる。復讐なんてもう忘れて、このまま幸せに過ごしたいと思ってしまっている。わたしを育ててくれた師匠には申し訳ないけど、もうわたしはこのまま幸せになりたかった。

 

 きっと、師匠なら許してくれるだろう。なんだかんだで別れの直前まで、本当に復讐する気があるのかと聞き続けていた師匠なら、もうやめるといったら祝福すらしてくれるかもしれない。そう思えてしまうくらい、師匠はわたしにやさしかったし、師匠のおすすめ通りに旅をしたら幸せになった。

 

 それでも、いつか謝らないといけないときは来るだろう。師匠の夢の手助けができなくてごめんなさいと、謝らないといけない。これからも苦しむことになる師匠に、わたしだけ幸せになってごめんなさいと謝らないといけない。

 

 でもきっと師匠は許してくれるから、そうしたら師匠にわたしの家族を紹介しよう。リックのことも、子供たちのことも。もし明日にでも会えるのなら、お腹の中の子の名前を決めてもらうのもいいかもしれない。わたしの名前を考えてくれた師匠に、子供の名前ももらえたら、きっとやさしい子になってくれるだろう。

 

 

 そんなふうに、幸せと未来への希望にあふれていたわたしの生活は、突然壊れた。

 

 わたしの不幸は、いつだって突然だった。里の時も、師匠との別れも、モニカさんの時も。突然じゃなかったことなんてなかったし、きっと不幸はそういうものなのだろう。身構えているときには、死神は来ないものだと師匠も言ってたから、きっと間違いないのだろう。

 

 そして今回もまた、油断していた時にそれはいきなり現れた。ひとつだけこれまでと違ったのは今まではわたしが万全のタイミングで現れていたそれが、今回に限ってはわたしが、満足に動けないタイミングで来たということくらいか。

 

 突然街のなかが騒がしくなって、外が明るくなった。ソレと同時に肌に感じる、いつかの時と同じ嫌な気配。あれが来たのだと、わかった。あの、魔王のしもべが再び姿を現したのだと、だれに言われるでもなくわかった。

 

 あれは、危険なものだ。あれは、いてはいけないものだ。わたしが復讐をするとかしないとか関係なく、今ある平和な幸せを守るためには排除しなければならない相手だ。

 

 そのことがわかるから、あれが来たとリックに伝える。あれと一番相性がいいのは、間違いなくわたし。だから一緒に行こうとして、リックに止められる。

 

「アリウム、俺が何とかしてくる。必ず俺が街のみんなのこともお前のことも守って見せるから、今は俺のことを信じて、子供たちとお腹の中の子を守ることに集中してくれないか」

 

 

 一緒にいられないのが、戦えないのが心配で、不安ではないと言ったら嘘になった。でも、リックの言うことは最もだ。今の状態のわたしが、お腹の中の子を守ったまま安全に戦えるかと言われると、だいぶ難しいだろう。

 

 今の状態でもこの街の戦力としてはトップクラスではあるだろうけれど、そうやって頼りにされて、その結果実力を発揮できなかった人の事を、わたしはよく知っていた。とっても強かったその人のことを、わたしは弔った。だから、できると思ってはいても、戦えると思っていても、戦う気にはなれなかった。

 

 リックに、街のみんなを任せる。代わりに、あなたの家族はみんな、わたしが守ってみせると。だから絶対に帰ってきてほしいと。それだけ話すと、リックはすぐに家を飛び出た。こうしているうちにも街の被害は拡がってしまうのだから、仕方がない。むしろ、こうして会話をするタイミングがあっただけ、緊急時にしてはいい方だろう。

 

 

 初めてのことに不安がる子供たちをなだめて、急いで避難を始める。避難場所は、何かあった時にこの子達を守るためのセーフハウス。頑丈さを重視して作ったせいで、街の中には置けなかった、何かがあった時用の拠点だ。普段は子供たちの秘密基地として活用されているそれには魔王のしもべが相手でも救援が来るまで耐えられるくらいの強度がある。

 

 子供たちを守りながら、途中住民の手助けをしつつ向かっていると、突然空から降ってきた何かが、わたしの目の前に着地する。こいつらはいつだってこうだ。こちらの都合なんて何も考えないで、狙い済ましたかのようにわたしの元にやってくる。いや、ようにではなく、もしかしたら本当に狙われているのかもしれない。だって、これまでこいつらがやってきた時、その場所には決まってわたしがいたのだから。仲間たちにも同じことは言えるけど、誰かひとりが原因なのであれば、それはしもべの前に本体の魔王と遭遇したわたしに他ならないだろう。

 

 

 なら、これはわたしが招いたことなのかもしれない。この状況も、街のこの惨状も、わたしのせいなのかもしれない。いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。そんなことよりも、目の前のこれをどうするかを考えるんだ。

 

 放置はできない。背中を向けて逃げることも、きっとできない。わたし一人ならともかく、後ろにいるこの子達を見捨てることになるからだ。こんなことになるのであれば、何かあったら自分たちが守るからなんて考えるのではなく、戦闘訓練、そこまでは行かずとも逃げるための体づくりくらいはさせておくべきだったかもしれない。

 

 けれど、それは今考えても仕方がないことだ。師匠の言葉を借りるのであれば、後悔先に立たず。今は、この子達を逃がすための時間を稼がないといけない。

 

 

 一番上の子の名前を呼んで、下のきょうだいをしっかり連れていくように頼む。大丈夫、体だけはもうわたしよりも大きいんだから、逃げるだけなら十分にできる。いつも行っていた秘密基地に向かえと言ったら、迷子になって迷うような子ではない。

 

 わたしもすぐに追いつくから、お父さんが迎えに来るまでいい子にしているように伝えて、魔王のしもべに魔法を放つ。こういう使い方は無駄が多くてあまり好きじゃないけれど、激しい動きはお腹の子に負担をかけるから、こうするしかない。この子のことを考えずに動くのは、そうしないと自分の命が危ない時だけだ。わたしが死ぬ時はこの子も死ぬけど、この子が死んでもわたしは死なない。考えるだけで胸が苦しくなる算数の話だが、冒険者をしている以上、いつかすることになる覚悟はしていた。まさか切り捨てる相手が産まれる前の子供になるとは思っていなかったけれど。

 

 もしそうなったら、その時はみんなの元に駆けつけて、少しでも多くの人の命を救おうと思いながら、周囲の瓦礫を操って魔王のしもべに撃ち込む。家の残骸の中には、石や木だけではなく、ガラスや金属が混ざっている。壊れたせいで所々がとがっているそれは、すんなりと魔王のしもべの体内に入り込んで、そのからだをズタズタにした。

 

 相手が人間ならこれだけで致命傷だし、硬い肌を持たない魔物でも同様だろうけど、魔王のしもべの恐ろしいところは、その無尽蔵とも思える程の再生能力だ。たちまち回復されてしまい、体内に残ればラッキーと思っていたそれらはドロドロになって体の至る所から吹き出した。

 

 溶けた鉄のようなものが、魔王のしもべの足元にこぼれる。それに触れた途端に、まだ形を保っていた木片が燃え出す。体内の温度で溶けたのか、もしそうならその内部は凄まじい高温になっていそうだ。みんなのことが心配になるけれど、今わたしがなによりも心配しないといけないのは子供たちのこと。

 

 周囲のものを一通り打ち尽くしたら、魔王のしもべの周りにはドロドロに溶けた何かが固まったものと、何も残さずに燃え尽きたもの。沢山あったはずの家は、一軒も残っていなかった。たくさんの思い出があったはずのものを消してしまったことは申し訳なく思うけれど、こうするのが1番負担が少なかったから仕方がない。みんなの家は守らなければいけないけど、家よりも命、お腹の子の方が大切だ。

 

 けれども、そうやって周囲のものを犠牲にしても、まだまだ魔王のしもべの回復力は健在だった。多少弱まっているけれど、倒すまでには全然足りない。子供たちはもう逃げきれたはずだし、わたしももう逃げてもいいのだけれど、コレを野放しにしてまた被害が広がるのは嫌だった。

 

 どうせ金属を撃ち込んでも溶けるから、比較的簡単に作れる氷の剣を作って、手に持たないなら剣にする必要もないことに気付く。その結果選んだのは無数の刃。どれもこれも使い捨てで、使う度に作り直さないといけないけれど、他の方法よりも早かった。

 

 

 もっと強い魔法を使えば、もっと早く片付くかもしれないけれど、極端な魔法の行使は胎児に悪影響があると示す論文があったので、そうすることもできない。ちまちま削って、何とか倒した時には、わたしの魔力は枯渇寸前だった。

 

 何とかセーフハウスにたどり着いて、先に逃げていた子供達の無事な姿を見た瞬間に、わたしの意識は途絶えてしまった。




 おすすめのプリキュアを教えて(╹◡╹)

第2回主人公の頭、

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