悠久の賢者ベネディクトゥスはそろそろ死にたい   作:エテンジオール

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 あたおかしか書かないと精神汚染がひどそうなので幼女視点(清涼剤)です(╹◡╹)


A2.森林に住むという特性上、火攻めは避けられません。悔しかったら土の中に住んで水責めを受けてください。あと単純に寒色系の瞳に映る赤い火の対比が綺麗だからしかたないね。

 わたしは、みんなに望まれて生まれてきた。里で五人目のハイエルフとして、“とうときち”を繋ぐものとして、みんなに望まれて、愛されて生まれてきた。

 

 不便なことは沢山あったけど、みんなやさしくしてくれた。みんなわたしに期待してくれた。世継ぎを作って、血筋を1000年伸ばすことを。

 

 わたしたちハイエルフは、にんげん?のくに?で言うところの、おーぞくというものに近いらしい。ちゃんと説明すると違うらしいけど、みんなのしょーちょーになって、みんなを導くためにいるらしい。そのために、“ちのせいとうせい”を保っていないといけなくて、だからわたしはおじさまに嫁がないといけないのだとか。

 

 おかあさまの言うことはむずかしい。まったく知らない言葉が当然のように出てくるし、ちゃんと覚えられなかったら怒られる。ふだんのおかあさまは優しいから好きだけど、お勉強の時のおかあさまはこわいからちょっときらい。

 

 お勉強から逃げるために、賢者のおじさんのところに遊びに行くのは好きだ。おじさんはいつも果物をくれるし、わたしがおしゃべりしててもニコニコしながら聞いてくれる。お勉強でわからなかったところもわかりやすく教えてくれるし、おもしろく教えてくれる。

 

 おかあさまじゃなくておじさんからお勉強を教えてもらいたいと、おかあさまに伝えたこともある。でも、おじさんは本当はすごい人で、そんなことをお願いするのはおこがましい?のだと言われた。

 

「そんなにすごい人なのに、いつも果物食べてるの?」

 

「それほどすごい方だから、里にいてくださるだけで光栄なことなのです。我々が平和に暮らしていられることも、ひとえにあの方のおかげなのですから」

 

 ただ果物を食べながらにこにこしてるだけで、おじさんは里を守っているらしい。何かをしているところなんて見た事がないのに、不思議だ。

 

「あの方のすごさがわかったのなら、もう気安く遊びに行くのはおやめなさい。わたくしも数える程しか直接お話したことはないというのに、全くあなたときたら豪胆なのか図太いのか……」

 

 おかあさまは不満そうにしながらわたしのことを止めたが、わたしはそのすごい人からまた遊びにおいでと言われたのだから、行かなくてはならない。すごい人に言われたのだからしかたがない、しかたないったらしかたない。

 

 今日もおじさんのところに遊びに行って、お勉強や魔法を教えてもらう。りろん?を大事にするおかあさまとは違って、おじさんは簡単な使い方を教えてくれるからうれしい。それで興味を持ったら、りろんを勉強すればいいのだと言ってくれた。

 

 そんな生活をしていたある日、おじさんがお出かけするのだと言った。行き先は教えて貰えなかったが、とても遠いところらしい。寂しいし、お勉強から逃げられなくなるのが嫌だから連れて行ってほしいとお願いしたら、危ないところだからダメだと言って、お勉強を頑張れるようになるお守りをくれた。大変な時は、これにお願いすれば何とかなるのだと言っていたから、早速ついて行きたいとお願いしたのになんともならなかった。おじさんのうそつき。

 

 頑張ってお勉強して、毎日おしゃべりしたいのを我慢して、どうしようもなくて飛び出した。わたしはもっと遊びたいのに、おかあさまはお勉強をしなさいと言う。同い年のミネスは毎日遊んでばかりなのに、わたしは遊んじゃいけないという。早く一人前にならないといけないわたしには、遊びにうつつを抜かしている暇は無いのだと。

 

 確かにわたしはみんなに優しくしてもらってるから、頑張らなきゃいけないのはわかる。でも、こんなにも好きな事が何もできないのは、さすがに不公平だ。わたしだけがこんなに我慢するんじゃなくて、もっとみんなも苦労するべきだ。

 

 そんなことを考えながら、おじさんのお家で一人いじけていたのがいけなかったのか、それともそんなわたしの願いを、神様が間違って叶えてしまったのか。突然何か大きなものが降ってきて、おじさんのお家がなくなった。

 

 地面におっきな穴が開いて、そこからでてきたのは真っ黒いとげとげ。ぐにゃぐにゃしながら、ドクンドクンしながら動いて、太いうねうねを上に伸ばす。その先っぽがぐばあと開いて、そこから何かが出てきた。

 

 それは、たぶん音。でも、ふつうの音とは違って、おかあさまからビンタされた時みたいな、それよりもずっと強い痛みが体中に響いて、何もわからなくなる。痛いのを我慢するために体に力が入って、抜けて、わたしが今どんな格好をしているのかも、まだ体があるのかもわからなくなる。

 

 すぐに終わったのか、ずっとそうしていたのかはわからないけど、それは終わった。おかしくなっていた目と聞こえなくなっていた耳をおじさんに教えてもらった回復魔法で治したら、目の前の景色は変わり果てていた。

 

 葉が、散っていた。枝が、折れていた。先ほどまで飛んでいた虫は一匹も残らず落ちていて、追いかけっこをしていたリスの兄弟は仲良くひっくり返っていた。視界の端に落ちてきた何かを見つけたら、地面には真っ赤になった鳥がいた。それが一度声を出しただけで、世界から音が消えた。

 

 絶対に、見つかっちゃいけない。おじさんに魔法を教えてもらっていても、戦っちゃいけないとわかる、絶望的なまでの生命体としての格の差。おかあさまは、ハイエルフは気高くなくてはいけないと言っていたが、これを前にしたらきっとちょっと頑丈な虫と大して変わらない。

 

 逃げないと次はわたしなのに、足が震えて、逃げることができない。ちょっと逃げても変わらないとわかっていても逃げたいのに、からだが固まって逃げれない。

 

 

 化け物が、わたしの方を見た。ぽっかりと開いた口を、真っ暗で吸い込まれそうな穴を、わたしに向けた。目なんてないはずなのに、見られていることがわかった。それに見られた瞬間に、あの中にはいれたら、きっと幸せなのだと思った。きっと無駄に痛みを感じることなく死ねる。あれに見つかって、そう死ねるのはきっと幸せなことだ。

 

 そう思って全部あきらめようとしたら、おじさんにもらった首飾りが突然光りだした。温かくて、柔らかい光。怖い気持ちとか、悲しい気持ちを全部溶かしてくれるような、優しい光。

 

 気がついたら足に力が戻っていた。立ち上がることができた。おじさんのくれたお守りは、本当にわたしのことを守ってくれた。動けるようになったことで、本能が逃げろと言う。それに逆らわないで、走った。怖くて、右も左もわからなくて、ふらふらよたよたとしか走れなかったけど、がんばって走った。

 

 あの化け物は、まともに走れないわたしに合わせるかのようにゆっくり近づいてくる。獣が獲物を追い詰めるみたいに、ゆっくり、でも確実に近付いて来る。

 

 全力でその速度なのか、それとも逃げるわたしで遊んでいるのかはわからない。たぶんだけど、遊ばれているのだと思う。あんなに恐ろしいものが、ヒトが逃げ切れるとは思えないから。それでも逃げて、里の方に向かってしまうのは、みんながいれば何とかしてくれるかもしれないから。大きな魔物といつも戦っている戦士たちなら、何とかしてくれるかもしれないから。

 

 おかあさまは言っていた。エルフの戦士は強いと。100倍の人間とも互角に戦えて、魔物の親玉でも狩れるのだと。そんなすごい人たちなら、きっと何とかしてくれるはずだ。なら、里の中心まで逃げれば、わたしは死ななくてすむ。

 

 おじさんの首飾りを握りながら、どうかわたしが助かりますようにとお願いする。いつ追いつかれるのかも、あとどれくらいで里につけるのかもわからない。でもきっと、着けるはずだと。それまでおじさんが守ってくれると信じて、最初よりまともになった足で走る。

 

 ゴールは、それほど遠くなかった。いつもの広場に続く道。里の真ん中に続く道が、見えてきた。あと少し。あと少し。後ろを見たらダメだ。きっと心が折れてしまうから。まだ追いつかれていないと信じて、なるべく早く走る。

 

 足が、均された道についた。広場の方を見ると、戦士たちが集まっているのが見えた。その先頭にいるのは、里の戦士長であり、この里でいちばん強い戦士でもある、わたしの婚約者、ハングおじさまだ。

 

「……おじさま!!」

 

 気付いてほしくて、助けてほしくて、がんばって声を出した。おじさまはわたしに、そして後ろから来るそれに気付いたようで、けれどもいつもみたいに紳士的にわたしを助けて、戦士たちの後ろに逃がしてくれた。

 

「アリウム、もう大丈夫だ。あとのことは私達戦士団が何とかするから君はゆっくりそこで休んでいたまえ」

 

 そう言って、わたしを座らせて、おじさまは元の場所へ足速に帰っていった。戦士たちの先頭、一番最初に化け物とぶつかる最前線。地面を砕きながら迫ってくる化け物を相手にしているはずなのに、おじさまたちは一歩も引かない。

 

 歌が聞こえる。森に住む精霊たちに、助力を願う歌。音が紡がれる。なにをどうしてほしいのか、精霊の力に指向性を持たせる言葉。

 

 力が、奔流として化け物に放たれた。戦士たち一人一人の力を束ねて、極彩の光線として放つ技。それぞれの魔法が複雑に干渉しあい、それを制御することで爆発的な破壊力を誇る、ブラストと呼ばれる合成魔法。エルフの戦士たちの最強の一撃で、最後の一撃。

 

 この技を食らったものはこれまで、全て灰も残さずに消え去ったという、里を守る最後の砦。本来、こんな広場の真ん中でみれるものでは無いもの。

 

 それを最初から撃たなくてはならないくらい、あの化け物は恐ろしいものだったのだろう。でも、それでもブラストが撃たれたのなら、もう終わりだ。わたしは生き残ることができたのだ。助かったのだ。

 

 安堵の息が漏れて、腰が抜ける。あの化け物と対峙して、生き延びれたことに、涙が込上げるほど安心する。よかったと、素直にそう思う。

 

 その直後、赤い何かが飛び回って、わたしの目の前に何かが転がってきた。どさりと落ちて、赤い液体を撒き散らしていたのは、おじさまだった。何が起きたのかわからないと、きっとわたしと同じ表情のまま地面に転がったのは、頭だけになったハングおじさまだった。

 

 幻でも見ているみたいに突然やってきた頭は、その直後に覆い尽くした白い炎によって、幻のように消えた。頭だけでなく、その首から下とともに。

 

 沢山いたはずの戦士たちが、消えていた。残っていたのは、地面の黒い影だけ。理解ができなくて、呆気にとられていると、また化け物が音を出す。攻撃されたことに怒っているのか、今度は音と一緒に真っ赤な火を撒き散らして、それが里中に広がる。わたしのおうちも、おじさまのお家も、ミネスくんのおうちも、全部全部焼けてしまう。音が収まって、そこらじゅうから悲鳴が聞こえてくる。火だるまが沢山出てきて、動かなくなる。

 

 あのお家はトサさんの、あのお家はオムレさんの、あっちは、あの小さな火だるまがでてきた家は、2年前に生まれたマルヤちゃんのお家。

 

 出てきた火だるまは、小さかった。ちょうど、マルヤちゃんと同じくらいの大きさ。はいはいするみたいに出てきて、そのまま倒れ込んだ。

 

 みんなの家が焼けて、みんなが焼けた。なのになぜか、わたしだけが無事だった。みんな焼けてしまったのに、火だるまになっているのに、消えてしまったのに、それを目の前で見ていたはずのわたしが、わたしだけが無事だった。

 

 化け物がこちらに来る。おじさんのお守りが光る。そうだ、このお守りのおかげで、きっとわたしは無事だったんだ。おじさんのお守りが守ってくれたから、わたしだけは無事だったんだ。

 

 でも、なんでお守りはわたししか守ってくれなかったんだろう。こんなにすごいお守りなら、きっとみんなのことも守ってくれたはずなのに。なんでわたししか守ってくれなかったのだろう。

 

 ふと、思い出した。わたしはお守りにお願いした。わたしが助かりますようにって、お願いした。だから、なのかもしれない。わたしが助かりますようにってお願いしたから、お守りはわたししか助けてくれなかったのかもしれない。

 

 

 ……もし、そうなら。今わたしの前にある光景は、全部わたしのせいなのかもしれない。里の平和を守ってくれていたおじさんが、わたしに渡してくれたお守り。ほんとうならみんなを守れたそれを、わたしはわたしだけのために使ったのかもしれない。

 

 わたしが、あそこで化け物に会わなければ。わたしが、あそこにいなければ。わたしが、お勉強から逃げなければ。そうしたら、こんなことにはなっていなかったのかもしれない。

 

 

 

 わたしのせいで、みんなが死んじゃった。

 

 

 化け物がこっちに来る。逃げたいのに、足が動かない。腕の力だけで必死に逃げる。背中を向けて逃げたいのに、目をそらせない。後ろ向きで逃げる。

 

 足が擦れて痛いけど、それよりも目の前の化け物がこわい。少しでも逃げたいけど、逃げても意味なんてないのだとわかる。逃げても、それよりも速く管が伸びてくる。

 

 真っ暗なその穴に、吸い込まれそうになって。

 

 突然光出したお守りが、化け物を吹き飛ばした。エルフの戦士たちを、おじさまをあんなに呆気なく消してしまった化け物とは思えないくらい、無造作に化け物が転がる。子供が放り捨てた人形みたいに、おもちゃみたいに転がる。

 

 このお守りには、やっぱりすごい力が込められていたのだ。おじさんは嘘つきなんかじゃなくて、本当のことを言っていて、それでも、わたしが使い方を間違えたせいで、みんなのことを助けられなかった。

 

 吹き飛ばされた化け物が、怒ったみたいにわたしの方に襲いかかって、お守りが光るのと一緒にでてきたモヤモヤに全部防がれる。先程までの遊んでいるような緩慢さがなくなって、わたしの目では追えないくらいの速度で襲いかかる化け物。そして、それを全部弾くもやもや。

 

 お守りは、こんなに強い力を持っていたのだ。お守りがあれば、こんなにも化け物は力を使えなかったのだ。

 

 なら、それを無駄に使ってしまったわたしは、どれだけ悪いことをしてしまったのだ。みんなを守る力を、自分のためだけに使ってしまったわたしは、許されないことをしてしまった。

 

 モヤモヤが化け物を弾く度に、真っ赤な炎を逸らす度に、わたしはわたしの罪深さを知ることになった。誰にも許されることのない、わたしの罪。わたしだけの罪。

 

 

 そうして、わたしが自分を責めているうちに、責めながらも浅ましく化け物から逃げようとしているうちに、化け物はまた音を出した。モヤモヤに守られて、わたしの元には届かないそれ。でも、景色が歪んで見えるから、そこにあることだけはわかったそれ。

 

 

 それが止むのとほとんど同じタイミングで、おじさんのくれたお守りは砂になって消えてしまった。もう何も守ってくれるものがないのだと思って、みんなより少し遅くなったけど同じところに行く覚悟をして前を見たら、化け物はまるで最初からいなかったかのように消えていた。里中を包んでいた真っ赤な火も、最初からそんなのなかったかのように消えていた。

 

 消えてしまったなんて、きっと何かの間違いだ。きっとすぐに、あの化け物がひょっこり出てきて、わたしのことを丸呑みにするんだ。油断なんかしちゃいけない。この里で最後まで生き残ってしまったただ一人として、里が終わる最後の瞬間を見届けなくてはいけない。それが、ハイエルフとしての最後の役割だろうから。エルフたち(みんな)の象徴として生かされてしまったわたしが、迎えるべき、結末の姿だから。

 

 

 そのはずなのに、そうわかっているのに、最後のときを見ることなく、わたしの意識は遠のいてしまった。頭の中が真っ暗になって、何が起こるかもわからない広場の真ん中で、たった一人で意識を失ってしまった。

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