TS歯車王女は謳歌したい   作:作業中

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第三話

 

 荘厳な純白の校舎。

 

 五階建てで明らかに無駄だろと言いたくなるくらい巨大なここは学園であり、私がこれから通う伝統ある総合学校。

 

 優雅に王族専用魔力車(馬の代わりに魔力タンクで動く車より性能の低いやつ)から降りて、周囲のざわめきと視線を一点に浴びながら髪を風に靡かせて緩やかな春の温度を肌で感じつつ、私は内心で叫び声をあげた。

 

 ────学園ファンタジー、ついに来たぜぇッッ!! 

 

 しかも顔のイイ王女様という最強の立場を手に降臨してしまった。

 もうこんなことしたら一般生徒達は私に平伏すほかないのでは? だって私、王女だし。

 王女に対してフランクすぎる我が騎士が居た所為でちょっと狂ってしまったが、元来私は高貴な者なのだ。いいかブラッド、お前のような胡散臭い顔のいい騎士のせいで私の男性観が狂わされていたら許さないからな。

 

 そして今日は入学式。

 入学式特有の浮ついた空気感に突如出現した高貴すぎる私。

 周囲の学生たちの視線を釘付けに、同年代の高嶺の花としてマドンナ的枠を確保するのは確定的に明らか。

 ニコリと口元を歪めて薄く笑って見せればそれはもうバッチリよ! 

 

「オーフェリア様、こちらへ」

 

 そして私の手を軽く握り、とても柔らかい笑顔で笑いかける男性。

 何もかもを吸い尽くすような漆黒の髪に胡散臭い目つき、二十代というには少し老けて見えるがそれが余計深みを生み出している顔のいい我が騎士──ブラッド・チェンバレン。

 

 なんでいるの? 

 あの別れの挨拶はなんだったの? 

 貴女のことを常に思って(・・・)いますよ、じゃあないんですよ。

 なんで普通にいるんですかね。

 

「ありがとう、ブラッド」

「我が務めでありますから、お気になさらず。御身に傷一つ埃一つつけさせないと誓いましょう」

 

 しかも騎士モードじゃねぇか! 

 完全無欠に外行きスタイルに切り替えているブラッドはアイコンタクトで「俺もどうしているのかわかんないんですなぁ」と言わんばかりの視線を向けてきた。

 お前上級騎士だろ。

 男爵だからそこまで位が高いわけじゃないけど上級騎士なんだぞ、しかも王族の側仕え。

 この国でもトップクラスに格の高い男でしょうが……! 

 

「おい見ろよあれ。第三王女様だ」

「えっ……オーフェリア様? うわ、本当だ……」

「美しい……手を取っているのはブラッド・チェンバレン上級騎士か。なんとも絵になるものだ」

 

 そしてコソコソ話す周囲の様子を聴覚強化を施した耳で聞き取りわずかに悦にひたる。

 

 そうそうこれこれ、陰キャオタク時代では味わえなかった賞賛と敬意の嵐。

 んほ〜〜たまんねぇ〜〜ですわ! 

 これが異世界転生の醍醐味でしょう。

 何かの事故か幼い頃から人格矯正と命の危機と現代日本だったら想像もできない目に遭いまくってきたけれど、やっぱこれが異世界転生ですわよね。

 これまでがおかしかったんです。

 これからが私の時代です。

 TS異世界転生第三王女は乙女ゲーから逃げれない、くらいのタイトルで将来的に自伝を書き上げてあげましょう。

 ブラッドにはサイン付きを百個差し上げます。

 

 周囲の視線を一身に受けながら、私とブラッドは優雅に、それでいてスピーディに歩みを進めた。

 到着したら他の生徒と同じ教室に向かう前に来賓室へお越しくださいと事前通告されているからな。学園の間取りは楽しみすぎて全部暗記しているので一人でもいいんだけど折角ブラッドがいるからブラッドに任せちゃおう。

 我が騎士〜、まだつかないの? 早くして欲しいんだけど(ベシベシ)。

 手をにぎにぎするとブラッドはニコリと微笑みながら手のひらに文字を描いてきた。

 

『俺にもよくわかってないんですなぁ』

 

 役に立たねぇ我が騎士だな……

 その顔は飾りかよ! 

 お姉様方でもお母様でも誰でもいいから籠絡して話聞き出しなさい、全く。

 でもブラッドは私の推しだから。

 私の推しはね、女の子を無意識に落とすのが得意なのであって、自分から女の子を落とそうなんてことはしないの。不潔だから。何も意識してないけどふとした瞬間に見せる鋭さで昼行灯だとわからされるのがいいのよ。

 

 校門を抜け正面玄関を通過し土足と変わらないと言うのに真っ白で清潔な状態を保たれた校舎内を歩くことおよそ三分。

 

 来賓室と記された扉の前にたどり着き、ブラッドは躊躇せず扉を開いた。

 

 中は純白の廊下とは真逆の、真紅の装飾で彩られていた。

 グロリアス王国において紅は気品高いものだとされている。

 それは王族が代々赤髪だからであり、赤眼だからであり、わかりやすい象徴として掲げられているから。

 細かくてどうでもいい部分かもしれないけど、国民の支持を得る……というよりは、国民に一体感を持たせるためにそういう努力をしているらしい。クーデターとか起こされたらヤバいけど善政を敷くことで反転しないことを心がけているんだとか。

 私には関係のない話でありんすね。

 

「さ、オーフェリア様。今ざっと探りましたがここは周囲との環境が隔絶した場所でありますゆえ、普段通りに振る舞われても問題ありませんよ」

「────なんでいるんですか?」

「なんでですかなぁ」

 

 ブラッドはいつも通り胡散臭い笑顔で適当に言った。

 

「俺も特に伝えられてないんですよねぇ」

「え、それヤバくないですか? 流石に報連相出来なすぎでは……」

「やっぱり第三王女だから軽く見られてるのでは?」

「ぶっ飛ばしました、この高そうな壺を」

「オーフェリア様!! それはマジでヤバいです」

 

 上級騎士としての実力を遺憾なく発揮したブラッドによって私の壺破壊作戦は失敗に終わった。

 無念だ……

 俯いて下を見れば制服と下着で押し潰されているのに柔らかく豊満にアピールするバストが。

 おっふ、デカ……

 でも自分の身体だし欲情もクソもないんだよね。

 流石にいくら努力したとはいえ三十年間男として生きた記憶と感性があるがゆえ、必死に女になった十五年もまあ全然完璧ではない。

 婚約者と初夜を過ごす頃には完全に女性になれてるといいなー……

 

「因みに俺はここで臨時教導官として扱われるそうです。はい証明書」

「あらあらまあまあ」

 

 顔がいい……

 うっとりしそうになったから私は伝家の宝刀「あらあらまあまあ」で場を濁した。

 あらあらまあまあはマジで万能なので皆さん気軽に使ってほしい。

 あらあらまあまあ、そうなんですなぁ……

 

「……体のいい厄介払いされてませんか?」

「……考えないようにしてたんですがねぇ」

 

 王宮内にブラッドがいると不都合な点でもあったのだろうか。

 まあ無意識に年頃の女の子を惚れさせてるタイプの男だからな。

 ハーレム築かれると勘づいたお父様が追い出したのかもしれない。

 追放だ、現代日本で流行りの追放ものだ! 

 第三王女側仕えだからそういうアピールをされてなかっただけで、侍女とかに大人気だったのを私は知っている。

 私とブラッドの関係にキャーキャー言っていたのも知っている。

 ブラッドと私がそんな関係になれるわけないだろと歯軋りしていたのは私です。

 だって推しは主人公を好きになるもので、私は主人公じゃないから。

 歯車のことを主人公とは言わないんですよ。

 

「まあ王宮内には俺より熟練の上級騎士が二人控えてるんで、有事の際も大丈夫でしょうね」

「ああ……あのお二人ですか」

 

 ジェラルド・ロックウェル伯爵とエドウィン・スタンフォード騎士爵。

 

 五十を超える齢でありながら現役の上級騎士として第一線に立ち続ける化けも……超人。

 

 ブラッドよりは劣ると言われながらもその強さは計り知れない。

 私も剣を握るし魔法も使うけれど、上級騎士とかいう人外と殺し合うのだけは勘弁願いたい。

 だってこの人たち頭おかしいもん。

 なんで生身で音速突破できるんですかね。

 斬撃が飛んでますわ。

 剣圧を飛ばしてるってなんですの? 

 異世界ファンタジーと厨二エロゲ世界を一緒にしないで欲しいんですけど……

 

「オーフェリア様も筋がいいですからねぇ、三年間みっちりここで腕を磨けばそれくらい出来るようになりますよ」

「そんな領域は目指していませんから! 私はあくまで優雅に、それでいて光り輝く学園生活を送るのが目的です。別に上級騎士なんて人外になりたくてここにきたわけじゃないんですよ」

「非常に残念ですが……そのくらい出来ないとここでは生き残れません」

「本当になんなんですかこの学園!?」

「嘘です。揶揄い甲斐があって大変よろしい」

 

 鎧ごしに魔力を浸透させることでブラッドにダメージを与えつつ、今一度この学園について思い出そうとして──扉がノックされた。

 

『──失礼。学園長のセバスチャン・アインシュタインと申します』

「──入りなさい」

 

 スイッチを切り替える。

 

 私は第三王女だ。

 グロリアス王国において一番尊い血筋を受け継いだ女。

 粗相は許されない、失敗はあり得ない。

 スペアのスペア如きが調整に失敗しているなど、誰にも思わせてはやらない。

 それが王族というものだ。

 

 扉が開き、中へ初老の男性が入ってくる。

 

 仮にこの男性が襲撃犯であったとしても問題はない。

 なぜなら私の側にはこの国最強の上級騎士、ブラッド・チェンバレンがいるのだから。

 敵が動く刹那を見切って先手で殺す、くらいのことはやってのける。

 その程度できなければ最強などと謳われることはない。

 無敵で最強だからブラッドは讃えられているのだ。

 これが私の騎士だ。

 私にだけ仕える、私が私以上に信用しているたった一人の騎士。

 

 初老の男性は私から三歩離れた場所で片膝立ちの姿勢になって、その年齢にしては豊かだと思ったのに頭を下げたことで見えた不毛の大地(頭頂部)に目を見開いた私のことを気に留めることなく言葉を続けた。

 

「お初にお目にかかります。私は当学園の学園長を勤めている、セバスチャン・アインシュタインと申します。神童と名高い王女殿下にお会いすることが出来、感謝の極み」

「──私はグロリアス王国第三王女、オーフェリア・グロリアス。伝統ある学園に入学できたこと、とても喜ばしく思います」

 

 ハゲじゃねぇか。

 この対面は非公式だが非公式ではない、互いに最低限の礼儀作法は弁えなければいけないファーストコンタクト。

 サラリーマンの名刺交換とは格が違うのだ。

 文字通りの意味で私は王族で彼は由緒正しき学園の長、これから学びを受けるために生徒という立場になるとはいえ、私はこの国の王女殿下である。

 ハゲじゃねぇか。

 無礼を働けば後々になって事件に発展する可能性もあるし、ここはきっちりしておかなければいけないだろう。

 だから私も王族として接する。

 てっぺんハゲじゃねぇか。

 

「顔を上げてください。王族という肩書きは消せませんが、私も一生徒として教えを受ける身分。平等に扱っていただいて構いません」

「……恐れ多いお言葉、ありがたく拝聴いたします。では」

 

 立ち上がり、ファサァッと前髪を優雅に靡かせたセバスチャン。

 見苦しいぞてっぺんハゲ。

 罵倒が喉までせり上がってきたが、しかし私は今王族モード。

 シリアスが崩されていてもペースは握らせない。

 

「ご入学おめでとうございます。まさか王女殿下が我が学園に入学される時が来るとは夢にも思っていませんでした」

「私が初めて入学する王族だと聞いています。多大な迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません」

「ああいえいえ、お気になさらず! 高貴なお方を迎え入れることができて皆光栄だと胸を張っておりますよ」

 

 社交辞令社交辞令&社交辞令。

 

 かれこれ二十年くらい付き合いがあるこのやりとりには最早慣れすら存在している。

 会社員の頃ですらこんな感じだったしね。

 ここまで大仰ではないが、それでも他会社の人と仕事の話をするときはこんな感じだった。

 中間管理職か……セバスチャン。

 かわいそうに……

 

「本当ならもっとお時間をかけて歓迎会でもしたかったのですが、大変心苦しいですが、行事の時間も迫っておりまして……」

「気になさらないでください。王族として、ではなく、生徒として扱って欲しいと言ったのは私ですから」

 

 王女スマイルでニコリと笑って穏やかに流しておく。

 

 ……と言っても。

 今の会話、もう事前に決められてたものを事実確認しただけなんだよね。

 私は『第三王女としての立場もあるけど学園としての立場もあるだろうから落とし所はこのライン』として事前に提示してあり、それを受け取って承諾した学園側と改めてその話をしただけ。

 うん、非常に面白味のない会話です。

 だから顔を上げてください、と言った時点で大仰な儀式的言葉使いは必要ないですよとやんわりと伝え、それを理解したセバスチャンは学園長としての立場に切り替えたという訳だ。

 

「お時間まではこちらで待機していただいて構いません。予定に関しては……」

「──それは私が。事前の手筈通り(・・・・・・・)実行しています」

「承知しました。……大きくなったのう」

「先生こそお変わりないようで。……ああいや、ちょっと頭が残念なことになっていましたねぇ」

「毎年気苦労が絶えんのだ、ワッハッハ」

 

 豪胆に無礼を笑い飛ばしてセバスチャンは退室していった。

 無論退室時に礼儀を尽くすことも忘れない、いい大人。

 あれは有能だから一番上に据えられてそのまま逃げれなくなったタイプの人だな……

 私が派閥とかに興味があったら囲い込んでいたかもしれない。

 

「あの人は俺の担任でした。口調が爺さんに変化しております」

「その情報は必要ないですね……」

 

 十五年あれば人が変わるには十分すぎるとでも言いたいのか? 

 十五年あっても男から女に全て変えるのは無理だったぞ。

 少なくとも心の中で男口調で適当に思案するのがやめられない程度には無理だった。

 

「この後のご予定は、聞かなくても大丈夫ですかね」

「ええ、把握しております。……元より私一人の予定でしたが?」

「なんででしょうねぇ、さっぱりわかりませんなぁ」

 

 ヘラヘラ笑うブラッドに青筋を浮かべつつ、私は今日の予定を想起する。

 

「入学式を大講堂で受けた後各自割り振られた教室へ移動、その後クラスで学園説明でしょう」

「お間違いない。ちなみに割り振られた用紙はお持ちですか?」

「え? なんですかそれ」

「実は三日程前から寮入りするのが当たり前というか規則なので、割り振られた机の上にクラスと入学式で座る席のリストがあります」

 

 は? 

 

 入学式当日にここに着いたが? 

 おい、ブラッド。

 どういうことか、詳しく説明してください。

 今、私は冷静さを失いそうになっています。

 

「そこらへんは王族を迎え入れるにあたって細かく調整していた大人たちの所為ですなぁ」

「ああ、普通に私が原因ですね。申し訳ないことをしました」

「なので、俺が受け取っておきました。荷物の搬入もしてくれたそうですよ」

「へえ、どなたが?」

「俺の部下ですなぁ」

「ブラッドの部下ですか。……男しかいませんよね?」

「そりゃもちろん」

 

 ふぅーッ……

 私、ちゃんと衣服も下着も持ち込んでいるんですけれど。

 デリケートな持ち物も結構普通に持ち込んでいるんですけれど!? 

 

「気にしなくていいですよ、誰も気にしてません」

「私が気にするんですよ!! 誰が男視点の話をしているんですか!」

「ちょっと小洒落てきましたね、オーフェリア様。好きな男とかできました?」

「きゃーーーー!! 死になさい!!」

 

 乙女の恥じらう部分を躊躇いなく踏み抜いて穢した我が騎士に怒りの鉄槌を下そうと試みるも、生身で音速を超えることが出来る超人にとっては容易に回避できるもので、腕を組んだままその場で消えたり現れたりする謎ムーブによって全て避けられた。

 に、憎い。

 この推しが憎い。

 でも推しだからな……

 推しが私の下着を見て子供っぽいと思われるよりいいかもしれない。

 推しの好感度稼ぐのはいいけど推しが私に惚れるのは解釈違いだから。

 だって私、主人公じゃ(以下略)。

 

「はい、これが入学式の席番とクラス控えです。俺は俺で職員室行かなきゃいけないらしいので、ここらでお別れですね」

「そもそも王宮でお別れすると思っていました」

「それは俺もですなぁ」

 

 本当か……? 

 なんかあやしいぞ、我が騎士。

 具体的には裏で策謀張り巡らせてる推しの臭いがする。

 糸目で胡散臭くて飄々としてて昼行灯な男は裏で何かやってるのが鉄板だ。

 ブラッドに関してはまるっきりそういう男でありながら十年間ずっと私の側にいたので(比喩でもなんでもなく本当にずっと居た。トイレとお風呂以外ずっといた)から忘れていたけど、そういう奴だったよ(偏見)。

 

「オーフェリア様」

「なんですか、我が騎士」

「……大人たちがどうしてギリギリまで調整に時間を費やしたのか、おそらくクラスでわかると思います」

 

 えぇ……

 何が起きるんだよ。

 平民と貴族の差別意識がぶつかり合ってるとかそういうパターン? 

 いやでも王都でそんなのほぼなかったよね。

 なんならブラッドなんて元を辿れば平民だから(あくまでルーツを辿った場合の話)、高貴な私と成り上がりの英雄でラブロマンスとかそういう言い方されてたの知ってますよ。

 ブラッドも学園生活は度々闘うことになるから大変だったと言いつつ冒険楽しかった、みたいな感情出してたし……

 

「だから俺が呼ばれたんでしょうねぇ」

「まあ、期待しておきます。ネタバレ厳禁ですよ」

「はいはい、仰せの通りに」

 

 異世界ファンタジーで異世界学園。

 絶対イベントたくさんあるだろ! 

 学園対抗バトルとかクラス対抗バトルとかクエストとか冒険者とかそういうやつ!! 

 隣国との殺し合いが定期的に発生している世の中である、という点が本当に不安を呼び寄せるけれどそれはそれ。

 ここは軍人養成学校でもないし魔道士育成校でもないし騎士学校でもない。

 その前身というより、将来的に何を目指すかの高校みたいなものなのだ。

 前述の三つは大学、もしくは幼い頃から通い始めるタイプのとこ。

 だから王族がこれまで通ったことはないし私が初めての例になり得る訳ですね。

 

 ──第一王女以外の行く末なんて、決まっているのだから。

 

「楽しんで参ります。それじゃあね、ブラッド」

「ええ、それではまた後ほど」

 

 そしてブラッドと別れるために扉を開き、大講堂へ足を向けようとして──気がついた。

 

 一人の女子生徒、私と同じ『赤』の制服に身を包んでいる。

 色が抜け落ちたような灰色の髪をセミロングで整えた、赤い目の少女。

 怪訝な目つきで、それでいて信じられないものを見たような驚愕を宿した瞳で私を捉えているそれに近づき、私は優雅にスカートを掴み礼をする。

 

「ごきげんよう」

「あっ……ご、ごきげんよう」

 

 素朴な声。

 慣れていないのが丸わかりで、貴族社会に馴染みがないのだとすぐさま理解した。 

 だからと言って王族モードは解きませんけどね。

 ブラッドの前以外で私を出すつもりは一切無い。

 

「私の名前は、オーフェリア・グロリアス。気軽にオーフェリアとお呼びください」

「えっ、あっあっ」

 

 おやおや、私の高貴なるものオ〜ラでボコボコですわ。

 

 無様な姿を晒しつつ、時折何もない空を眺めるように視線を忙しなく動かして、少女は名乗る。

 優雅にでは無いけれど、それでも礼を欠かないように丁寧に。

 

「は、初めまして。私の名前は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は動揺を隠せなかった。

 

 目の前に存在する人間の正体を理解するのを脳が拒んだからだ。

 なぜ拒んだのか。

 それは、本来ならここにはいない筈の人間だからだ。

 そう、この学園に本来ならいない、それどころかこの世から既に居なくなっている筈の人が目の前で優雅に礼をすれば誰だって動揺する。

 

 真紅の髪を後ろ髪で纏め上げ、同系色でありながら真紅よりも薄い赤で染められた制服に身を包んだ彼女、オーフェリア・グロリアスに答えなければと少女はぐるぐると思案して。

 

「オ、オーレリア。オーレリア・バーンシュタインです……!!」

 

 灰色の髪と赤い目が特徴的な少女──オーレリア・バーンシュタインは思った。

 

(────どうして……)

 

 王族を象徴する真紅の髪。

 気品あふれる気高さと、それに劣らぬ覇気を滲ませる瞳。

 柔らかく歪められた目尻に一点泣き黒子、妖艶さすら感じ取れる美しさ。

 

 紛れもなく第三王女本人だと、オーレリアは確信し──ゆえに、動揺した。

 

(どうして……!?)

 

 ────これは。

 

 異世界にTS転生した主人公が学園ファンタジーを楽しむ物語…………ではなく。

 

「オーレリアさん、ですね。これからよろしくお願いします」

「は、はいっ……!」

(な、ななな……なんで原作開始時点で死んでる筈の第三王女が生きてるの──!?)

 

 無自覚に原作崩壊した所為で本来存在しない筈のイベントに巻き込まれ続ける自業自得ドタバタ乙女ゲー転生ものである!! 

 

 

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