TS歯車王女は謳歌したい   作:作業中

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第四話

 

 灰の髪を持つ赤目の少女を捕まえた私は満足気に歩みを進めていた。

 

 いや〜、灰髪に赤目ですってよ! 

 絶対異世界ファンタジーの関係者ですよ。

 もうこれは決定的に明らか。

 ブラッドなんて黒髪黒目ですからね、面白味のないテンプレイケメンと言っていいでしょう。

 でもその普遍性全部ぶっちぎる胡散臭さがあるからな……あの男……顔がいいんだ。

 

「あ、あの、オーフェリア様……」

「オーフェリアで構いません。どうしました、オーレリアさん」

 

 私の隣を歩くオーレリアさんは、とても控えめに、緊張で身を強張らせている。

 

 そうだよねそうですよねそうなりますよね、だって私王女ですし! 

 これが普通なんですよね~本当に、なんかいつも隣にいる胡散臭い男が適当だったから感覚狂いそうですけどこれが異世界転生ですわ。

 王族に転生してその権威で畏怖と敬意を集めまくる、ウ~ン最高ですわ! 

 

「お、オーフェリアさ……ん?」

「はい、オーフェリアです」

「オーフェリアさんは、どうしてこの学校に?」

 

 おっ、急にぶっこんで来ましたね。

 恐らく平民出身であろうオーレリアさんはこう見えて結構度胸がある。

 普通親身にしてくれているとは言え出会って数分の王族にそんなこと聞けないでしょ。

 私は聞けません。

 ブラッド~! (パンパン)

 最強のセコムは多分呼べば本当に来るから呼ばないけど、爪の垢を煎じて飲ませてあげたいですわね。

 

「そうですね……」

 

 しかし何と答えるべきか。

 

 真実を言えば『推しであり身近に居た大人であり唯一信頼している我が騎士が学生生活の思い出を語ってたのがどうにも羨ましくて王宮を飛び出して来た』なんだけど、流石にそれを言うのは憚られる。

 お転婆姫なんて印象を植え付ける訳にはいかない。

 グロリアス家の権威にも関わりますしね。

 それっぽい理由──無論、用意しております。

 

「未来を決める為です」

 

 そう、この学園に入学する生徒は『未来が決まってない者』が殆どである。

 

 第一子とかならともかく、三男四男三女四女は流石にね。

 政略結婚の使い道は沢山あるけど、それはそれとして家が全て決めなければいけない訳でもない。

 良縁を結ぶのは親が運命を操るだけでは難しい事もあり、新たな繋がりを求めて学園に行かせることはよくある事なのだ。

 親は親で子供達が良縁を持ってきたら得するし由緒正しい学園であるが故に信用もある、子供は子供で親の手から離れて一度自分を見詰め直し将来を決める大事な時期を学園で過ごす。

 

 だから私もそのパターン──というより、王族として繋がりを作りに来ましたという建前でございます。

 

 気心知れた友人を作りに来た訳ではない。

 ただ推しと同じ学園に通いそれなりに楽しめればいいと思っているだけなのだ。

 少なくとも前世の苦しすぎる学園生活を塗り替えてぇ! 

 王女パワーですべて無かったことにしたい!! 

 私の席が空いているのにクラスのイケてる女子が露骨に避けるからそこだけ誰も座らない謎の空間が発生するのなんてみたくないもん!!! 

 

「この国をより豊かにするために、私は知らなければならないと思いましたので」

 

 ニコリとオーレリアさんに微笑んで、よし完璧ですね。

 

「ですから────私と友人になってくださる?」

「────ええ゛っ……わ、私がですか?」

「そんな反応されると傷付きます……よよよ……」

「あ、ああなりますなりますならせていただきますっ!」

 

 オーレリア……おもしれー女……

 平民が王女を傷つけたなんて知られたら人生終わりますもんね。

 そりゃあ必死になってカバーするし振り回されたら苦労するでしょう。

 でもごめんあそばせ。

 王族の身分振り回すの楽し~~~~!! 

 ブラッド!! 

 めっちゃ楽しい!! 

 最高です学園生活!!! 

 

 多分ブラッドには『そんな楽しみ方は覚えて欲しくなかったんですがねぇ』って呆れられる。

 

「うふふ、不束者ですがよろしくお願いします。初めてのご友人がオーレリアさんで良かったです」

「はっ……初めての友人……」

 

 オーレリアさんの眼が曇った。

 美しい赤い目から輝きが失われている。

 ちょっと不敬でして~。

 王女の初めての友人なんて栄誉を与ったんだからもっと嬉しそうにしていただきませんとね! 

 まあでも平民出身なら仕方がない事です。

 私は懐も胸もデカい女、それくらい飲み込んであげますよ。

 なにせ第三王女ですから! 

 オーホッホ! 

 ……なんか不吉な感じがするからオホホ笑いだけはやめておきますか。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 大講堂は既に生徒で埋め尽くされており、赤、青、緑の三色で綺麗に分けられていた。

 

 時刻は開始時刻の十分前と言った所。

 まあちょうどいいでしょう。

 

「む……流石に隣同士ではないですね」

「そ、そうですね……」

 

 折角できた友人兼異世界ファンタジー重要人物(これは偏見)と離れるのは心苦しいが、同じクラスだしそこはまあいいでしょう。

 またあとでちょっかい──もとい、世間話をしに参りますのでお覚悟を。

 

 そして王女オーラを気持ち強めに放出しながら、姿勢を少しも崩すことなく優雅に歩く。

 

 周囲の視線を釘付けにしてる。

 昂ってきた! 

 このために努力してきたんだよ! (別にそうではない)

 

「おい……王女様だ」

「オーフェリア王女様だ……」

「オーフェリア王女様……初めて見た……」

「俺も初めてだ、あのお方が──『神童』、オーフェリア・グロリアス……!」

 

 いやなんですかその呼び方。

 ちょっとこう、いや、かなり…………

 

 異世界ファンタジーみたいじゃないか!! 

 現代日本で『神童……鈴木……!』みたいな呼ばれ方したら罰ゲームだと思うけれど、さすがは異世界ファンタジー。

 名前がまずいいし、渾名らしきセンスもいい。

 うお〜、ついに来たんだな異世界に! 

 

「──ところで、なぜ『神童』……?」

 

 神童ってなんですかね。

 もう神童と呼べるような年齢ではないんですけど……

 聖王女とか駄目ですか? 

 赤眼真紅とか四文字でカッコイイのが欲しかったですね。

 それを刻むのは……これからの私自身……!! 

 

 既にオーレリアさんとは別れているので一人疑問を呟きつつ、指定された席に座る。

 優雅にスカートに手を添えて、丁寧な所作で膝を折りながら尻で着地。

 埃ひとつ立たないような、それでいてゆっくりとしすぎない。

 この領域に至るまで苦労しましたわ……具体的に年月で記すならば四年くらい苦労しました。

 

「殿下」

「はい、なんでしょう──……あら」

 

 周囲をそれとなく観察して暇つぶしをしていると、右隣から声をかけられた。

 

 私とお揃いの赤の制服。

 サファイアブルーの飲み込まれるような蒼い髪。

 そして何よりも──整った、もんのすごく整った顔立ちの幼さの残る青年。

 うわっ顔がいい……

 でもこの子、子供の頃から知ってるんですよね。

 だからこう、「うわ〜イケメン」というよりかは、「あら大きなったわね」という感想の方が強い。

 勝手に母親ヅラするなと怒られそうだ。

 そんな私の勝手な思考は置き去りに、青年は恭しく頭を下げた。

 

「お久しぶりです、オーフェリア殿下。ご挨拶が遅くなり、申し訳ありません」

「お久しぶりですね、レオナルド。エドウィン様はお元気ですか?」

「それはもう。俺に痣が出来ない日がないくらいです」

 

 ハハハ、と冗談で笑い飛ばしてくれた青年。

 

 レオナルド・スタンフォード。

 王宮勤めの上級騎士であるエドウィン・スタンフォード騎士爵の次男であり、幼い頃から私が面識のある幼馴染的な存在である。

 と言っても、色恋は一切無い。

 私は王族で彼は騎士爵。

 サー・レオナルド……と呼ぶにはまだ未熟だが、いずれ優秀な騎士として選ばれるであろう彼と私が結ばれる理由は無い。

 

「オーフェリア殿下もご壮健で何より。ブラッド殿は?」

「元気ですよ。この学園に来ています」

「ああ……『真紅のブラッド』が教導官になるというのは嘘ではなかったんですね」

 

 なんか噂になっていたらしい。

 私は何も伝えられなかったのになんで噂になってんの? 

 

「隣、失礼します」

「気になさらないでください。ああそれと、私も同じ教えを受ける身でありますから──わかりますね?」

「承知しました。あー、いや……わかりました?」

「『わかった』で結構ですよ」

「……………………わ、わかった」

 

 レオナルドは頬を引き攣らせながら言った。

 

 クラスで一人だけ『王女様!』って言われるのも楽しいと思うんだけど、なんかそうじゃ無いんだよね。

 口調とかは別に気にしないけどこう、心のどこかで敬ってくれればそれでいいし。

 舐められるのは勘弁だけど、友人として等しい付き合いをするのはウェルカムだ。

 そもそも公式の場で舐めた口聞いたやつは親が矯正するからね。

 王族パワーというのはそういう感じであります。

 

「昔みたいに『おーふぇりあ!』って辿々しく言ってくれてもいいんですよ?」

「いやそれは勘弁してください。本当に」

「私の騎士になるんじゃありませんでしたか?」

「うっ……そ、それはその……」

 

 レオナルドは顔を逸らした。

 

 残念ながら私の騎士はブラッドただ一人だからそうなることはないけど、昔誓ってくれたからなぁ。

 しかもレオナルドくんはそれを覚えていたらしい。

 よかった、これで覚えてたの私だけだったら恥でしたよ。

『え、そんなの冗談にきまってんじゃん笑』って態度だったらここで惨殺してました。

 主に私の騎士が。

『いちいちそんなので呼ばないでくださいよ』と言いながらやってくる姿が想像できる……顔がいい……

 

「──まだ、その……オーフェリア殿下の騎士には、なれません」

「オーフェリア」

「…………えっ」

「オーフェリア、で構いません。公式の場ならともかく、今の私達はクラスメイトでしょう?」

 

 幼い頃から付き合いがある男の子とクラスで過ごす間くらい名前を呼んでほしい感じはある。

 普段私の名前呼んでる男なんか『オーフェリア様ですなぁ』くらいの感じだからね。

 もう全く敬ってないからね。

 それでも私のことを最優先するあたりちょっと重い男なんだけど、まあ任務だしああいう男は仕事に対して真面目だから。

 その点レオナルドくんはいい。

 全力で私のことを敬ってる感じがある。

 でもちょっとこう、顔のいい少年に名前呼びされるのもちょっといいよね……

 

「オーフェリアさま」

「……………………」

「オ、オーフェリア……さん」

「……………………」

「……オーフェリア」

「はい、なんですかレオナルド?」

 

 うわ~~~!! 

 ねえねえ見た見た!? 

 今のめっちゃ異世界ファンタジーの王女様っぽくない!!?? 

 

 主人公の男子にめっちゃ距離感近い王女様の我儘っぽいじゃん! 

 これが王女様らしさ……! 

 今全てを理解しました。

 この世の全てを支配しています。

 今、異世界ファンタジーの王になりました! 

 王女ですけどね。

 

「オ……オーフェリア。俺はまだ未熟者で、騎士としても半端者だ。だから君のことを守るなんてことは、口が裂けても言えない」

「……そう、ですか」

 

 まあしょうがない。

 なにせ彼は騎士爵の息子だ。

 ブラッドと同じ爵位だけど、実績も実力も何もかもがかけ離れている。

 私がなぜブラッドだけを『我が騎士』と特別扱いするのか。

 そんなのは決まってる。

 

 あの男がこの国で一番強いと知っている上に、推しだからに決まってるでしょうが!! 

 

 だからレオナルドくんが無理だと言うのなら私はそれを笑って流す位の器量はある。

 子供の頃の戯れ言をここまで覚えてくれてる時点で、私としてはそれなりに嬉しいのだ。

 だって私が覚えてた事だもん。

 ……あの頃はブラッドもいなかったから、きっと嬉しかったんだろうな。

 一人だったから、王女として正しいのかも理解できないまま我武者羅に足掻いてた私にとって、認めてくれる人が増えたのは。

 レオナルドくん、今私は王族30%オーフェリア20%乙女50%くらいだから決めるなら今だよ。

 

「……でも」

 

 ぐっと手を握り締め(見えないように机の下に隠してるけど腕が動いたので理解した)、これまた髪と同色のオーシャンブルーの瞳で私のことを見つめながら言った。

 

「諦めない。あの騎士に追い付く事を、君のことをお守りすることも、まだ……!」

 

 おっ…………

 おお~…………

 いやブラッド、おい我が騎士聞いてるか? 

 なんか私を守る事に関してよりブラッドを追い抜こうとする点について重要視されてませんか? 

『なんでですかなぁ』。

 それを聞いてんだよ! 

 イマジナリーブラッドはやれやれと肩を竦めながら虚空に消えて行った。

 役に立たない我が騎士だ……

 

「だから、待っていて欲しい。俺が君を迎えに行くその日まで」

「……うふふ、耳が赤くなっていますよ?」

「っ──は、はあっ!? 折角決めたのに、なんでそんな事言うんだよっ……あ」

 

 おほ~~~!! 

 化けの皮が剥がれましたわね! 

 レオナルドくん、やはり君は昔のままだ。

 背も高くなって私の方が高かった筈なのに目線が同じくらいになってたのは気のせいではない。

 それでも君は弟属性だ。

 そして私は姉属性! 

 姉属性純粋無垢王女枠である! 

 いやでも揶揄ってる時点で大分駄目だな、純粋無垢はやめておきます。

 

「…………はぁ、変わってないな。オーフェリア」

 

 そう言いながら赤く染まった頬を誤魔化すように笑うレオナルドくんに、なんだか懐かしい感覚を抱いた。

 

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