TS歯車王女は謳歌したい   作:作業中

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第六話

 

 自己紹介は簡潔に、それでいて面白く。

 なかなか難しいお題だと思う。

 だって何が面白くて何がつまらないかなんて人それぞれじゃないか。

 それなのに他人の基準に合わせた自己紹介をしないとつまらない人間なんて思われるのは、正直心外である。

 面白く見せようと努力すればそれでいいじゃないか。

 私はそれでいいと思う。

 うん、だから何が言いたいかというと──

 

「…………エドガー」

 

 一言呟いて席に座った。

 あれ、それ以上何かないのかな? 

 もしかしてそれで終わりですか? 

 名前、エドガーくん。

 黒髪黒目で目立たない容姿の彼は、そのまま頬杖をついて外を見始めてしまった。

 興味なしって感じですね! 

 

 ──もっと頑張りなさいよお前!! 

 

 隣のオーレリアさんを見なさい! 

 顔面蒼白で「なんで……どうしてこうなってるの……」って震えてるじゃありませんか! 

 きっと彼女にも同じような過去があってそれがフラッシュバックして恐ろしいんでしょうね……教室の空気は最悪と言っても過言ではないですし、冷え冷えです。

 

「えー……エドガーはこの通り結構クールな子なので、みんなそこらへんわかってあげような。それじゃあ次」

 

 それで通すんだ担任……

 クールとかそういう話? 

 多分もうわたしたちに興味ない感じだと思いますけど……

 

「俺はレオナルド・スタンフォード。上級騎士であるエドウィン・スタンフォードの息子で一応跡取りだ。父のような立派な騎士になりたいと思っている、これから三年間よろしく頼む」

 

 見なさい、これが本当の自己紹介というものです。

 自分の名前、自分の説明、これからの目標、そしてあいさつ。

 う〜ん完璧ですね。

 私もそうしようかな。

 でも今更王族アピしても意味ないし……もうバレバレだし。

 王族に興味ないってことはエドガーくんは結構アレなのかな、田舎の子? 

 このわたくしに興味が無いなんて……おもしれー男。

 この文脈使ったの初めてですね。

 

 そしてレオナルドくんの後ろに座っていたこれまた黒髪黒目の少々地味目な女子生徒が元気よく立ち上がり、これまでの雰囲気を払拭するかのように堂々と胸を張って言った。

 

「はいっ! 私はミーシャ・ロスチャイルドと言います! 平民出身、家庭は商人! 将来の人脈構築の為に学園に来ました、よろしくお願いしますっ!」

 

 おぉ~、すごくそれっぽい理由だ。

 これで関西弁だったら言う事無しだったんだけど、流石にそういう訛りは無い。

 ていうか日本語ですら無いからね。

 語学習得には中々苦労しましたわ。

 英語っぽい何かをフィーリングで感じ取る他ありません。

 

「特に! オーフェリア王女殿下とは懇意にして頂きたいと思いまして~!」

「あら、私ですか?」

 

 あぶなっ! 

 全く関係ない事考えてる時に突然ターゲットにされると反応に困る。

 王族モードを半分以上維持してるから外面は大丈夫だけど思考はかなり適当になってますからね。

 商人、商人の娘さんですか。

 第三王女としては特別ご贔屓に、という事は少し難しい。

 だって信用も信頼もない相手を贔屓する理由がないじゃないですか。

 そこから実績を積み立てるのを待つのもいいんですけれど、私個人と仲良くなって商売繁盛は無理な話です。

 

 嫁入りしますからね。

 商売に携わる事はないでしょう。

 

「はい! ……まあそれは追々という事で」

 

 ロスチャイルドさんはそのまま笑顔を絶やさないまま着席した。

 無駄に時間を消費して印象を悪くするより、目的と自分の評価をさっくり伝えて後々に託す方式を採用している。

 焦ってないって言うのは好印象です。

 

「オーレリアさんはどんな自己紹介するか決めましたか?」

「えっ……えーと、うーん、そ、そうですね」

「私もロスチャイルドさんのように活発に言った方がいいのでしょうか」

 

 ちょっと悩む。

 

 勿論出来ない訳ではない。

 オーフェリア50%くらいに切り替えれば出来なくはない。

 でもオーフェリアを見せるのは親しい人物のみと決めている。

 ブラッドは100%オーフェリア、レオナルドくんはまあ50%くらいでいいんじゃない? 

 

「オーフェリアさんらしさがあればいいと思いますよ!」

 

 玉虫色の回答〜! 

 もしかして社会人を経験していらっしゃる? 

 

「私らしさ……」

 

 オーフェリアらしさ。

 王族らしさ。

 

 うーん、可もなく不可もなくって感じでいいのかな。

 まあ自己紹介とか自己PRってそういうものですし、それでいいのかもしれません。

 就活の時に培った私の面接力がここで発揮されますね。

 これが……転生チート……! 

 

「はい、それじゃあ次」

 

 あっちょっとお待ちになられて。

 まだ心の準備ができておりません。

 ええとオーフェリアらしさ、違う違う就活就活。

 就活もちょっと違くない? 

 あっやばいとりあえず立たないと。

 

 し、か〜〜し! 

 私は十五年もの間第三王女として生きてきた女。

 ふとした動作で粗相をするような安さはありませんの。

 こっちは人生賭けてんだ! 

 アゲてけよ!! オーフェリア!! 

 

「改めまして──私はグロリアス王国第三王女、オーフェリア・グロリアスと申します。見聞を広げ世界を知るために学園に参りました」

 

 そしてここで王女スマイル。

 作り笑顔の練習なんてするまでもない。

 愛想笑いは社会人の嗜みなんですの! 

 おっさんに延々聞かされるくだらない武勇伝に比べればこんなもの屁でもありませんわ! 

 

 そしてここでも登場、それっぽい理由! 

 前提として私はブラッドの通ってた学校で黒歴史を封印しデビューしてみせるという野望を叶えるために来たのですが、それをありのままで言うのは憚られます。

 なのでここで言うべき理由は王女っぽい感じで行かねばなりません。

 そしてそれは勿論決めてあります。

 

 深窓の令嬢、箱入り娘、かつて暗殺されかけた過去、お付きの国最強の上級騎士の存在。

 それら全てを統合すれば、そう──もう答えは決まっていますね! 

 

「私は『未知』を知りに来ました。人を、世を、国を世界を──全ての未知を知るために」

 

 暗殺されかけた理由を知りに、みたいな感じで納得できませんかね……? 

 あんまり自信はないんですよね。

 だってブラッドくらいしか真面目に批評してくれる人が身近にいませんでしたし。

 あの男、私の口調に関して公の場では全く触れないくせにプライベートになった瞬間好き勝手言いますから。

『姫様はお転婆くらいでいいんじゃないでしょうか』

『まあそんな感じでいいんじゃないでしょうか』

『いいんじゃないですかなぁ』

 

 ええい、ブラッド……! 

 顔がいい… …! 

 

 オーレリアさんの方からガタガタッ!! という音が聞こえてきたけれど聞かなかったことにする。

 んも〜、せっかく王族モードで演技してるのに〜。

 

「三年間、よろしくお願いしますね? みなさん」

 

 最後に王女スマイルで締めて、よし! 

 まばらな拍手が送られたから失敗はしなかったことにしよう! 

 

 

 

 

 

 

(なんつー威圧感だよ……)

 

 頬を冷や汗が滴る。

 黒髪黒目で平民出身の目立たぬ教師──グレイ・アストリアは内心で呟いた。

 

 グレイは上級騎士にはなれなかった騎士の成り損ないである。

 幼い頃から英雄譚に憧れて、稼ぎの少ない両親に無理を言って値の張る養成所に入ってその武に触れた。

 絶対に上級騎士になってやる。

 その願いを持って、養成所を出る頃にはその中で一番強いと言われるようになった。

 事実最も年齢の高い層では負けなし、賞金の出る大会等に出場すれば準優勝には食い込めるような実力者へと成長し、グレイは将来有望だと噂されるようになっていた。

 そんな将来有望だと言われていた男が、どうして騎士崩れの教師になっているのか。

 

(……あの野郎が育てた、ってのもあながち間違いじゃねぇのかもな)

 

 あの野郎──グレイはその男に酷く昏い感情を抱いていた。

 

 グレイは進路を騎士学校に向けるのではなく、わざわざこの学園にしたのだ。

 なぜならば、世代で最強だと噂されていたとある準男爵家の長男がいたから。

 賞金も得て自分で生計を立てることすら可能になっていた、大人顔負けの自分よりも優れていると噂されているあの野郎(・・・・)

 なんの面白味もない準男爵家出身の騎士候補を打ち負かし、自分こそが上級騎士に相応しいのだと驕った感情を持っていたグレイは、建前を語り周囲を納得させこの学園に入学し──本物の騎士というものに出会ってしまった。

 

 ブラッド・チェンバレン。

 準男爵家に生まれた怪物。

 騎士として生きるために生まれてきたと言っても過言ではない強靭な肉体と精神を併せ持つ本物の騎士。

 

 それと競い、夢破れ、自身の才覚というものに見切りをつけ──気が付いた時には、騎士は目指していなかった。

 

 もう、目指せなかった。

 

(覚悟も目的も、恐らく強さも──流石は王女様か……)

 

 暗殺されかけた子供の胆力ではない。

 グレイはオーフェリアの瞳をじっと見つめた。

 象徴とも呼べる双眸は紅く染まっており、その妖艶な美しさを煌めかせている。

 王女様直々の入学なんて初めてだから注意しろと命令を下されている程度には信頼と実績を積み上げている事実はグレイの頭の中に一切なく、ただただ年下の少女が放つ真紅の威圧に身を縮こませるばかり。

 

(…………すげーなぁ)

 

 グレイはため息を吐く。

 変わらない毎日を過ごすだけで、王女様が入学したりとちょっとしたイレギュラーはあるが、それだけだ。

 これまでと同じ、平和で何事もない人生を送る。

 それでいいじゃないか。

 もう三十路だぞ。

 諦めることには慣れていた。

 

 だから、オーフェリアの瞳から一度目を逸らして。

 わずかに灯った火を消して、今日も燃え尽きた教師として振る舞う。

 

「よし、オーフェリア……あー、殿下とつけた方が?」

「いいえ、必要ありません。一生徒として扱っていただけますか?」

「はいよ。それじゃあオーフェリア、これからよろしく」

 

 ただ。

 どうにもただでは終わらないだろうという、長年の経験から導き出された不思議な予感のようなものを抱いていた。

 

 

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