TS歯車王女は謳歌したい   作:作業中

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第七話

 

 オーレリア・バーンシュタインは焦っていた。

 

 それはもう尋常ではない焦り様だった。

 隣にいる第三王女は呑気に「トラウマでも抉られたのかしら」と考え、上級騎士を志している騎士見習いは「緊張しているのだろう」と考えて、やる気なさそうにだらけた雰囲気で名前を呼んだ教師は「学生はこんなもんだよな」と勝手に物差しで推しはかり。

 

 オーレリア・バーンシュタインは混乱していた。

 

 平民出身で隣に王女がいるから? 

 違う。

 大勢の人間に見られるのに緊張しているから? 

 違う。

 己のことを話すのが苦手だから? 

 違う、どれも違う。

 彼女が混乱している理由はたった一つ。

 この学園でオーフェリア・グロリアスという少女に出会ってから続くこの混乱の大元はズバリ。

 

(────原作が……崩壊しています!!!)

 

 目を剥き心の中で絶叫した。

 

 オーレリアは転生者だ。

 この世界がビジュアルノベルゲームの世界だと知っている。

 オーレリア・バーンシュタインという少女が主役を務めた所謂『乙女ゲー』ジャンルに近しいものであり、この世界で起きる事件や災害、なんならネームドキャラクターの過去や心の傷も知っていた。

 

 例えば、レオナルド・スタンフォード。

 彼は幼少期に幼馴染だった王女を目の前で殺害され、それがきっかけで誰かを守るということに執着するようになる。

 そしてこの学園で出会う、どこかかつての幼馴染に面影のある(・・・・・・・・・・・・・・・・)少女と交友を深め、やがて色んな事件に巻き込まれていく──そんなストーリーが彼には用意されていた。

 

 それがこの世界ではどうだ。

 レオナルドの目の前で死んでいる筈の第三王女はピンピンしている。

 それどころか隣の席でワクワクしながらこちらを見ている。オーレリアは気が狂いそうだった。異世界転生した先がある程度やり込んだノベルゲーム主人公だったからなんとしてでも平和な未来を、と意気込んでいたらこれである。

 

(か…………考えないと!! とにかく! 色々な事を!)

 

 クラス中から視線を集めながら少女は慟哭した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ、オーレリア・バーンシュタインです。よろしくお願いします……!」

 

 名乗って一礼。

 簡潔でわかりやすいけど、面白味はない自己紹介。

 拍手しちゃう! 

 私顔のいい生物に弱いので……

 他の皆様方! ボルテージは温まってまして!? オーディエンス沸かしてこうぜエビバディセイイェア! チェケラ! プッシュハンズアッ〜〜〜プ! 

 

 でもやっぱオーレリアさんは素人ですわね。

 私の王族アイをもってしても彼女はド素人オブ素人、平民の極みと言って差し支えないでしょう。

 動揺と、ええと……ちょっと暗めの感情が浮かんでますね。

 

 なんでわかるのかって?

 そんなの王女だからですよ。

 鍛えたんですよ、当然でしょう。

 

「出来ましたね、オーレリアさん」

「は、はいっ……」

 

 微妙な表情で答えた彼女は着席し、自己紹介は順番に巡っていく。

 まあ勿論私はクラスメイト全員覚えていますけれどね。

 王族っぽい感じを演出するために事前入手したこのクラス割を使えば暗記など容易です。なお先程席番と共にブラッドから奪った模様。貴方の用意したこの資料、実に馴染むぜ……! 

 

 でも目立つ見た目をしてる人は少なめに見えます。

 レオナルドくん、オーレリアさん、そして私ことオーフェリア。

 明らかにこの三人が目立ってるんですよね。

 蒼髪赤髪白髪。

 見事と言うほかありません。

 なんならレオナルドくんのお父さんも蒼髪ですから繋がりを感じますわね。

 一方我が騎士ブラッドは黒髪黒目ですのでちょっと特異点という感じがします。ゲームや漫画だったら途中で死にそうな立ち位置です。

 

 ま、私がいる限りブラッドは死にませんけどね! 

 だって我が騎士だもの! 

 私の許可なく死ぬことは許してないので。

 

「オ、オーフェリアさん」

「どうしました?」

「そのー……スタンフォードくんって、あの、スタンフォードさんですよね」

 

 むっ。

 どうやらレオナルドくんに興味があるらしい。

 まあ確かに気持ちは分かる。

 エドウィン上級騎士は長い間上級騎士を務めるベテランだ。

 ブラッドと同じく国境付近での小競り合いを切り抜け、不利を覆しこの国を守った英雄の一人。

 その功績から王宮勤めの栄誉を受け、後進の育成に力を入れここ数年間で軍隊の水準を引き上げた偉大な人物。

 サー・エドウィンは私も面識があるけれど、それはもう誠実な人だった。

 

 そんな人の息子で、誠実で人柄も良く、騎士を真っ直ぐ目指している青年────おっとまずい、心の中のオーフェリアが出てきてしまう。

 

 サッと切り替えて手早く返答しよう。

 

「ええ、そうです」

「はー……すごい人と同じクラスになっちゃった」

 

 目の前にもっとすごい人いますが?? 

 王族ですけど? 

 第三王女ですよ! 

 異世界に存在すると言われているあの第三王女!! 

 

「あっ、も、勿論オーフェリアさんも!」

「うっ、オーレリアさんから見れば私なんてどうでもいい女ですものね……」

「そ、そうではなくて~!」

 

 口角を引き攣らせているオーレリアさん。

 そして嘘泣きをする私。

 人を振り回すの……最高に楽しいですわ……!! これが悪女の気持ち! 

 転生したら第三王女だったので悪い振る舞いします〜王女ですよ、従いなさい〜 

 連載開始! 

 

「オーフェリア」

「はい、オーフェリアです」

「困ってるだろ。揶揄うのも程々にしないと」

 

 噂をすればなんとやら。

 渦中の人物、レオナルドくんが私達の所まで来ていた。

 あれ? 

 今自己紹介してなかった? 

 それとなく周りを見渡せばいつの間にか教師はいなくなっていてまばらに立ち上がっている人もいたので、いつの間にか休み時間になっていたらしい。

 

 これは……あまりよろしくない。

 これまでブラッドと二人きりでいるときはいいタイミングで口を挟んできたから自分で意識をあまりしてなかったけど、物思いに耽ると時間を気にせずやってしまう傾向がある。

 修正修正っと。

 清廉潔白で欠点のない王女オーフェリア。

 そんな変な部分でマイナスつけられちゃたまんないよ。 

 

「揶揄うなんてとんでもない。親睦を深めていただけです」

「そういう感じには見えなかったけどな。バーンシュタインさん、第三王女さまは気まぐれだからあんまり入れ込むなよ?」

「は、はひっ」

 

 苦笑するレオナルドくんを見てオーレリアさんは耳を赤に染めた。

 

 わかる。

 わかるよ、その気持ち。

 レオナルドくんは顔がいい! 

 キリッとした雰囲気にギラついた瞳の中に見える優しい微笑み。

 ちょっと強面気味なんだけど、口調は気さくで接しやすい。

 そして手は剣を握っているので、おそらく手はゴツゴツしているでしょう。

 えっちだ……

 

「お、オーレリア・バーンシュタインです……っ」

「よろしく。レオナルド・スタンフォードだ」

 

 手を差し伸べて握手をしようとするレオナルドくん。

 オーバーキルやね。

 オーレリアさんはオロオロしつつ、ゆっくりと手を差し出して、そっと握った。

 

 おお……

 おおおお……!! 

 美男美女の青春!!! 

 これだよこれこれ!! 私が異世界に期待してたのはこれですよ!! 

 蒼い髪をした美男子が、白髪の美少女に好意のようなものを持たれている!! うひょ〜〜〜!! よだれが止まりませんわ! 

 

 私? 

 いやあ私は別に……

 そういうことが自由に許される身ではないので。

 婚約者が決まってる身分で異性と触れ合うとか、普通にアウトでしょ。私は別にやられても怒らないけど、立場がありますからね。王女の婚約者様がそういう態度はどうなんですか、で問い詰めますし、問い詰められます。

 私自身にプライドはありませんが、王女という立場はそれくらい重いんですよ。

 え? 

 それじゃあ異性の幼馴染を揶揄ってるのは許されるのかって……? 

 

 …………ブラッド! 

 野暮なことを言う輩を斬りなさい。

 

『無茶言いますなぁ……』

 

「しかし、いつの間に仲良くなったんだ?」

「入学式の前に偶然顔を合わせて意気投合したんです。ねっ、オーレリアさん!」

「あ、はい。そうです」

 

 オーレリアさんはレオナルドくんの手をじっと見つめていた。

 もちろん握ったままである。

 ちょいちょい! 

 貴方の手がえっち過ぎるせいで一人の少女の性癖が歪んでいってます! 

 これは非常にまずいのではなくて!? 

 

 レオナルドくんはそれに違和感を抱くこともなく、そっか、と一言。

 

「あんまり迷惑かけないように」

「ひどいです、まるで私が悪者かのような扱いで……」

「はいはい、悪かった悪かった」

「んま! 私拗ねちゃいますよ?」

 

 うふふ、ンフフフフ……ハッ!! 

 

 普通に青春してしまった! 

 私から見ればレオナルドくんは弟のようなものですが、周りから見ればそうではありません。上級騎士の息子と第三王女、かつて暗殺未遂に遭った二人、幼馴染。邪推される理由になりかねません。

 ただでさえブラッドと私のカップリングで城下町は賑わっていたのに……! 

 私の推しはそんなことしない! 

 婚約者は特段憤ることもなく『仲良しなんだね』で流してくれたのでよかったけど、普通なら噂の出どころを突き止めて色々やってますからね? 本当に! 

 

 だからより一層態度には気をつけねば。

 もう手遅れですなぁと囁く心の中のブラッドはさておいて、んんっと咳払いを一度してから、話を切り出した。

 

「オーレリアさんはどうして学園に?」

 

 自己紹介で聞きそびれたからね。

 別に興味があるわけじゃないんですけれど、話を切り替えるのにちょうどいい。

 なんだか私がドライな印象がつきそうですが、そこは仕方ありません。コラテラルダメージコラテラルダメージ、私の心を読み取る人なんて居ないし平気平気! もし読み取られたら元男なのがバレるので頼むから居ないでください。

 

「……………………」

「……オーレリアさん?」

「は、がっ…………!」

「えっ」

 

 オーレリアさんはピクピクと口角を引くつかせ戦慄していた。

 

 な、なぜ!? 

 戦慄したいのはこちらですよ!? 

 レオナルドくんも怪訝な表情をしている。ま、まずいですわ! こんな壊れた表情をしているオーレリアさんを見せるわけにはいかない! 男子が女子に冷める瞬間ランキングとかで上位に食い込む顔してます! 

 

「レオナルド」

「っ、な、なんだ?」

「あまり淑女の顔を見つめてはいけませんよ」

 

 そういいながら優しい手つきで二人の手を解く。

 思いのほかオーレリアさんの力は強くなく、簡単に解くことが出来た。

 ふぅ、危なかった。

 オーレリアさんの出自はわからないけど、今のところ面白い女の子なのでレオナルドくんに嫌われるのは遠慮したかったんですよね。

 男子って変な女子認定するとトコトンだめになる人がたまにいるので……

 性欲に支配されてないタイプのレオナルドくんはおそらくそのタイプだと見た! 

 きっと清廉潔白でプラトニックなお付き合いをしますわね、ええ。

 

「……そうだな。すまない」

 

 サラッとレオナルドくんの手を触ってしまった。

 お、おい。

 これ事故だよな……? 

 おそらく間者はクラスにいるでしょうし、流石にこれを浮気だとか、淫らだと言われたくはない。

 

 それとな〜く周りをチラリと確認して、うん、問題なさそ。

 

「そろそろ休み時間も終わってしまいますね」

「ああ。また来るよ」

「お待ちしてます」

 

 微笑んで歩いていくレオナルドくんに控えめに手を振って、さて……

 

 オーレリアさんは「どうしよう……このままじゃ……」なんて言葉を呟いている。

 

 ンンン、う〜〜ん。

 なんだか裏がありそうな予感。

 まあ白髪赤目の時点で只者じゃ無いのはわかってますけど。

 ブラッドに調べてもらったほうがよさそうですねぇ……

 

 せっかく学園に来たのに、全然王女としての自分が抜けてない。

 

 その事実にちょっとだけ辟易としつつ、しょうがないなと苦笑して噛み潰した。

 

 私は国を回す歯車です。

 だから、いろんなことに考えを巡らせるのは当然のこと。

 将来の決まっている私をこの学園に通わせてくれた両親に感謝を。その代わりと言ってはなんですが、逆らったりしませんから。

 

 それが正しい。

 だって私は、王女だから。

 どこまで行っても、私に下される評価はそれしかない。

 そうなのだから、仕方ないんだ。

 

 今だって、ホラ。

 誰一人私のことを、ただのオーフェリアだって見ている人は居ませんもの。

 ただの私に価値なんてものはない。

 そんなことはとっくの昔から知っている。

 そう、あの日からずっと。

 あの時、目の前に凶刃が穿たれた瞬間から。

 

 ……とはいえ。

 ちょっとした青春を楽しみたいって気持ちくらいはありますし、まあ、都合よく行きましょう。王女にだって友人はいますから。えぇ、私にも友はいるんですよ? 

 

 隣の席にもう一度視線を向けた。

 

 オーレリアさんは深刻そうな表情で俯いている。

 

 …………まあ、今はそっとしておきますか。

 どうせ頼れる我が騎士もいませんからね。

 うん、焦る必要はない。

 

「よし、授業始めんぞ」

 

 やる気無さそうな態度で入室してきた担任の声で意識を切り替える。

 

 クックック、王女として培った私の知識────発揮するときが来ましたね! 

 

 前世じゃ出来なかった事その1! 

 授業中に当てられて全て完璧に回答する! 

 予習復習を完璧に行って来た今の私なら出来る筈ですわッ! 

 

 さあ来い! 

 どんとこい! 

 流石ですオーフェリア様って褒められる未来が待っていますから! 

 

 

 

 

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