TS歯車王女は謳歌したい 作:作業中
「──当学院は簡潔に言えば、政治的対立から始まった」
担任のグレイが淡々と話す。
つまらなそうですわね……
ここに務めて何年も経ってるのならそりゃ飽きるかもしれませんが、私達がその話を聞くのは初めて。もう少しやる気多めで語っていただいてもよろしくて?
隣を見ればオーレリアさんは焦燥した顔で何かを思案している。
う~ん……?
どんな裏があっても現時点でそんな顔面蒼白になるような出来事は起きてないと思うんですが……
なんでしょうね。
本格的に気になってきました。
オーレリアさんがとんでもない小心者で常に心配で心をすり減らしてるようなタイプならそれで終わりですけど、そうではありませんし。
ちょっとブラッドに相談してみましょうか。
「貴族側と騎士側での対立────さて、これだけを聞いて説明できる奴はいるか?」
おっと、これはチャンスでは?
ここで事の成り立ちを説明する事で、
『流石王女様……!』
『すごいわ、そんなに詳しいなんてっ!』
『王女様最高! 素敵! 抱いて!』
こんな感じに評価を爆上げ出来るのでは!?
ふっふっふ、このチャンスを逃すわけにはいきませんわね!
転生者としてのチートは何一つありませんが、それなりに苦しんだ王族教育を発揮するときが来ました! さあ手を上げよ、私ことグロリアス王国第三王女オーフェリアが往きますよ!
「おっ、いい反応だスタンフォード」
────なん……だと……
こ、この私が負けた?
誰よりも早く手を挙げ担任の質問に答える事でクラスのカースト上位層に「アピールうざい」とか「いい子ちゃんぶったガリ勉」とか好き放題言われまくった、この私が……!?
レオナルドくんは蒼い髪を靡かせ、貴公子のような顔付きで挙手していた。
く、くそっ!
イケメンは何をしても絵になりますわね!
これが私との差ですの……?! 第三王女になってもなお拭えない歯車陰キャオーラがあるなんて、信じたくありませんわ!
レオナルドくんに視線を向けていると、目が合う。
彼は少しばかり目を見開いて喉を一度鳴らして(恐らく唾を呑み込んだ)、フッと気障に笑って見せた。
なんだその笑みは当てつけか?
私のロイヤルプライドが酷く傷つきました。
許せません……
レオナルドに-30オーフェリアポイント!
もうそろそろ下限に近づいちゃいますよ?
まあレオナルドくんの保有ポイントは500くらいあるので全然痛くも痒くもありませんが……
顔がいい人はみんな500ポイントほどございますので。
「はい。古来より騎士とは貴族がなるもので、決して平民が目指せるものではありませんでした。しかし、100年前の戦にて多くの騎士や兵が亡くなったことで体裁を保てなくなった貴族が平民からの受け入れを容認したのが事の始まりです」
「うん、よく勉強してる。座っていいぜ」
流石だ……
くっ、このままでは知識披露からの崇められ愛されムーブが出来ないじゃありませんか!
レオナルドくん……まさかそこまで考慮して……?
姫は何もしなくても愛されるからそのままで居ろという遠回しな男女差別!? (※違います)
許せませんわ、レオナルド……!
「っ!?」
突然キョロキョロ周囲を見渡す蒼髪の好青年を放って、私は仕方なく前を向き直した。
「この学園は貴族も平民も身分に関係なく入学できる。一年は総合、二年から個別で選択式のクラス分け……つまり、既に将来を決めている奴も、決めてない奴もここでは同じスタートラインにいるって訳だ」
思ったよりちゃんとした学園ですね。
なんていうか、もっと、こう……
なんか昔からある由緒正しい学園かと思ってました。
ノベルゲーだとよくあるお話ですわよね?
なんか昔からある由緒正しい学園、姉妹校にライバルポジがいたりいなかったりするあの……
──ハッ!?
姉妹校、もとい兄弟校……!
もしかして学園対抗戦とかあったりします!?
めっちゃ異世界ファンタジーっぽいじゃん!
現代日本で学園対抗戦とか部活くらいしかないですものね。
現代で学園対抗戦とかやるのは不良漫画の世界なので。
やりますか、異世界卍リベンジャーズ……!
日和ってる奴いらっしゃいますか?
いないですわよねぇ!!
「スタンフォードのように既に騎士として鍛えてる奴もいれば、ロスチャイルドのように実家を継ぐから最初からパイプ作りに来てる奴もいる。だが、何も決まってない奴がそいつらに負い目を感じる必要は一切ない」
グレイ教諭は至極真面目だった。
えっと……
第一印象と言ってる事が全然違うんですけど?
めっちゃ真面目ですやん。
なんかやる気のない燃え尽き感はどこに行ってしまったんですか……? 典型的なやる気ないけど何かしらの情熱を持ってるタイプの教師だとは、この第三王女オーフェリアの目をもってしても見抜けませんでした……ッ!
おいおいこの学園もしかして異世界ファンタジーじゃなくて乙女ゲーでした?
今にして思えばそうっぽいですわね。
最強無敵の上級騎士ブラッド・チェンバレン。
上級騎士の息子で好青年のレオナルド・スタンフォード。
第三王女である私に興味がなさそうな黒髪の青年エドガーくん。
やる気が無いように見えて教師としての職務に情熱を抱いてそうなグレイ教諭。
フッ……
あれ?
それにしてはオーレリアさんやミーシャさんの存在がちょいと邪魔ですわね。第三王女の私が主人公だとしたら妄信ポジはいても腹に色々抱えてそうな商人の娘なんて出てこないでしょう。
やっぱり乙女ゲー世界ではありませんわね(※乙女ゲー世界です)。
ブラッドの戦闘力から考慮すると異世界ファンタジーか厨二エロゲ世界の方が可能性ありますもん。
普通に考えて人は音速で動けないし斬撃は飛ばせないんですよ。
『なんで出来るんですかなぁ……』
こっちが知りたいわ!
「それに、このクラスに限っては貴族の身分も大した誇りにはならん。間違っても平民いびりとかするんじゃないぞ」
そう言いながらグレイ教諭は此方を一瞥した。
そりゃあね。
だって私王女だもの。
この国で一番偉い血族ですよ?
そんな尊むべき血を持つ私が居るのに平民いびりする貴族とか、私がこの手でひっぱたいてあげます。ブラッド仕込みの剣技と体術でボコボコのボコにしてあげます。あの男情け容赦ないですからね。自分の身は自分で守れるようになりたいって言ったら普っっっ通に打ちのめしてきましたから。
信じられます?
あの男王女の身体に傷つけるんですよ。
しかもお父様もお母様も魔法と薬で治るからって許可してるんですよ!!
ありえませんわ許せませんわ!
私が結婚した後もあの男に傍仕えさせますからね。
逃げる事なんて許しませんから。
乙女を傷物にした責任くらいは取ってもらいます。
────……んっ。
なんか視線感じる。
グレイ教諭ではありませんね。
後ろから突き刺すようなものを感じます。
ンン、なんでしょうこれ。
負の感情、多分……
恨み?
それっぽいですわね。
詳細はわかりませんが……
視線を向ける訳にもいかないので甘んじて受け入れる事にする。
こういうちょっとした感情の向きに敏感なのも、多分前世と今世の影響が色々合わさった結果でしょうねぇ。
前世では卑屈で陰で周囲の視線を気にしながら生きていました。
容姿やおしゃれに興味がなかった自分も悪いと思いますが、どうにも他人の視線が全て己を責めてるように思えたんですよね。大人になってからはとにかく他人と社会のために生きてなんとか心を保ってましたが。
そして今世では王族として他人の視線を気にしていました。
立ち振る舞いや容姿に衣服、男に好かれやすい女として求められる姿と王女として求められている姿の差異、とか色々。
これがいつしか当たり前になってしまいました。
────まあ!?
今世の私はとてつもない美少女なうえにおっぱいも大きい究極王女ですのでェ~~、見られることに対して忌避感なんて全然ないのです!
でも初夜はまだ待ってほしいかな……
心の準備ってものがあるので……
婚約者に捧げる予定の初めても大切に残してあります。
んふ、なんだかんだあの方の事、嫌いじゃないんですよ。
「とまあ、この学園の成り立ちと最低限のルールって所だ。初めての一人暮らしだったり、他人と生活空間を共有することに慣れてない奴もいるだろ。そういう奴は相談しに来い」
それもしかして私に言ってます?
舐めないでくださいよグレイ教諭。
こちとらブラッドとず~っと二人で過ごしてたせいでパーソナルスペースゆるゆるなんですからね! 下着とか特に仲良くないブラッドの部下に見られましたけど? それに比べたら同性の相部屋如きで文句なんか出ませんわ!
「ここまで何か質問あるか? …………無いな。それじゃ、授業に入るぜ」
どうやらここまでがオリエンテーションだったらしい。
久しいですわねこの感じ。
高校とかもう少しちんたら説明してくれたような、してくれなかったような……
もう前世の記憶も朧げですけど、なんとなく、懐かしいってノスタルジーが胸にあります。
折角の学園生活ですもの、楽しまなくちゃ損ですから!
ブラッドもそうですなぁと言っています!
今回はレオナルドくんに不覚を取りましたが、次こそは必ず私が先手を打ってあげますからね……!!
メラメラと心の炎を燃やしながら、私はグレイ教諭の話に半分くらい集中力を傾けるのだった。