ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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フェーズⅠ.Beginning『旧校舎のディアボロス』
第一話『運命の邂逅』


 

『アルヴェム……』

 

 ゆっくりと、優しい声が耳を撫でる。

 声の主は一人の女性だった。

 顔は霞みがかったように朧げで、思い出そうとしても上手く思い出せなかった。

 

『あなたはどんな人とも生まれが違う。そのせいで、他の人たちの心が理解できないかもしれない。もしかしたら、酷い迫害を受けるかもしれないわ……ごめんなさい。あなたを"あの人"のもとから連れ出した私が悪いの。これしか方法がなかった』

 

 遠い記憶。いつの記憶は分からない。

 だが、いつも覚えているのは女性の悲しげな表情。

 

『過去、未来、並行する世界線の数々、どこを探しても"あなたという存在"はここの他にない。だからこそ、私はあなたをこの世界から逃がします。あなたが何よりの希望なのです』

 

 一体何の希望なのか、それを語るにはあまりにも時間がなかった。

 光に包まれる自身の身体。遠くなっていく女性の姿。

 意識が途切れる寸前、女性は言葉を紡ぐ。

 

『あなたを理解してくれる……理解しようとしてくれる人が必ず現れる。だから、その人が現れた時――』

 

 そこから先の言葉は届かなかった。

 少年——アルヴェムの意識は光に飲み込まれていき、一気に覚醒していく――

 

 ―〇●〇―

 

【おはよう寝坊助さん、朝よ朝! あ~さ~!】

 

 甲高い幼女の声によって寝坊助ことアルヴェム・オーヅァの朝は始まった。

 声とブザー音のダブルパンチで休眠状態を解除されたアルヴェムは気怠そうに肩を竦める。

 

「……そんなことしなくたってタイマーを設定してるんだから自動で目覚めるって。わざわざ変な起こし方すんなよ、ユールー」

【何言ってるの。不完全なアナタをナビしてあげるのがアタシの仕事なんだから感謝して欲しいくらいよ!】

 

 目を向けた先、宙に寝転びながら幼女――ユールーは笑っていた。

 人間、というにはあまりにも小さい。全長にしても二十センチあればいいくらいの小柄で妖精と言った方が想像に易いだろう。

 

 小さい身体だが尊大な態度で口うるさく、お節介。朝からため息の一つも出てしまう。

 だが、反論したところで上手なのは向こうの方、アルヴェムは素直に「ありがとう」と口にしておく。

 

【って、何だか元気ないわね。またここに来る前の記憶でも見たの?】

「ああ。毎回思い出せないところも一緒だ」

【アタシたちなら全部鮮明に覚えてるはずなのにね~。もしかしたら、意図的に思い出さないように記憶をロックされてるのかも。何ならその記憶消そっか? 休眠状態の時、毎回同じ記憶見てたら嫌になってくるでしょ?】

「そんなのいちいち気にするかよ。俺の記憶はいじらなくていい」

 

 生活品も嗜好品さえもない真っ新な部屋、それがどれだけ無頓着なのかを示していた。

 大体、アルヴェムは水も食料も必要としない特異な体質。理屈はさっぱり分からないが、風呂に入らずとも清潔な身体を維持することができる。

 だからこそ、必然的に何も必要としない。それで不便なこともないし、むしろ余計なことをしなくて助かっているほどだ。

 

 そんなことを考えていると、頭の中でピピピ……と小さく電子音が響く。

 設定していたタイマーが今頃になって作動したようだ。時刻を見れば設定した時間の通り、つまりユールーに五分弱ほど早く起こされていたようだ。

 何をそんなに楽しみにしているのか、ユールーは宙に浮きながら小躍りをしている。

 その楽しみにはアルヴェムも心当たりがあった。

 

「そんなに"学校"ってヤツが楽しみなのか?」

【ふっふっふ、もちろんじゃないの! この世界の生物が通う学び舎よ? 生態調査は侵略の第一歩よ】

「事あるごとに侵略って言ってるが俺はそんなのする気はないぞ」

【ま~いいじゃない。アタシたち、この世界のこと何にも知らないんだから】

 

 アルヴェムたちがこの世界に流れ着いたのは三日ほど前。

 自分がどういう存在かさえ知らないアルヴェムを他所にユールーは持ち前の能力でハッキングし、巨万の富を手に入れ、高層マンションの最上階を拠点にした。それが一日目。

 そして現地調査と称して街を探索していたところ、ユールーがある一帯の地域が怪しいと言い出したのだ。

 

 ――駒王町。

 何でも人間以外にも"人型の何か"がいるらしく、詳しく調査をするためにその中でも有名な私立駒王学園に生徒として編入することになった。その編入するにあたっての手続きに二日目を要した。

 ユールーも慎重にアルヴェムの戸籍を作ったらしく、まず見抜くことは不可能だと言っていた。

 これでアルヴェムがしくじらない限りは安全に調査ができる。アルヴェム自身はあまり気乗りしていないという点を除けば状況は完璧に近い。

 

【うんうん、似合ってる似合ってる。これで完璧に学生よ!】

「……まあ、見た目はな」

 

 制服に袖を通せば、ユールーが視界にアルヴェムの姿を反射させる。

 この世界の"人間"という生物を見てアップデートされたアルヴェムの姿はまさに人そのもの。

 紅色の髪、蒼色の瞳は目立つだろうが、この国は日本と呼ばれる地。世界には数多の国があるそうで、人種もそれによって様々だ。なので、外国人とでも言っておけばこの国では素直に納得してくれる者が多い。実際、それでここ二日は何とかなってきた。

 

「――じゃあ行くか」

 

 ―〇●〇―

 

 私立駒王学園。

 ユールーが用意した情報によると、数年前まで女子校だったが今では共学。

 だが最近共学になったということで男女比率は相変わらず女子生徒の方が多いようだ。

 正門を潜る前からほとんど男子の姿を見ていない。というより、女子生徒たちから何やら視線を感じる。

 視線を向けると、キャーキャー言われて手を振られる。それに何の意味があるかは分からないが、とりあえずこちらも手を振り返しておく。するとまたキャーキャー言われる。

 一種の無限ループのようだが、見るからに敵意はないようだ。

 

【さっそく人気者ね~】

「どうだかな」

 

 アルヴェムの視界には女子生徒の姿以外にも一人一人に文字と数値が表記されている。

 種族、そして戦闘能力を数値化したもの。今のところ、出会う者全てが"人間"で戦闘能力も全く高くはない。こちらがその気になれば潰すのに一秒もかからないだろう。

 本気で侵略するつもりなら"人間"という種族は全く相手にはならないが――

 

【ん、大物が来たみたい!】

 

 ユールーの言葉に、アルヴェムは周りの人間が息を飲んだことに気付く。

 一点に集まった視線にアルヴェムも目をやる。

 そこにいたのは自分と同じ紅色の髪を持つ人間離れした美貌を持つ少女だった。

 

 腰まである真紅の髪を靡かせ、彼女の登場によって周囲の空気は一変する。

 キャーキャー言うわけでもなく、誰もが彼女の美貌に目を奪われていた。

 だが、アルヴェムが注目したのは彼女の容姿ではなく、視界に表示された文字と数値。

 

「悪魔……?」

 

 一日目、二日目とこの世界を探索したが初めて見る種族だった。

 しかも戦闘能力も他の人間とは比べ物にならないほど高い。本人は隠しているようだが、アルヴェムから見ればその身体に纏う力は特別なものだ。

 

【連れの女の子も特別みたいね】

「悪魔と堕天使……混血ってヤツか」

 

 紅髪を持つ美少女の後ろに付き添って歩く黒髪を後ろで一つに束ねた少女もまた超常の存在のようだ。

 どうにも早速当たりを引いてしまったらしい。ユールーの捕捉能力も大したものだった。

 と、そんな風に考えていると紅髪の美少女と目が合った。

 向こうは少し驚いたように目を丸め、傍にいた黒髪の美少女に何かを言われて笑みを浮かべる。

 手を軽く振られ、一瞬考えたが周りにはアルヴェム以外にはいない。

 なので、こちらも手を軽く振り返しておく。

 アルヴェムの対応に満足したのか、紅髪の美少女たちは校舎の中へと去っていった。

 

【目をつけられたっぽいかな?】

「同じ髪色ってことで珍しくなっただけだろ。気にすんな」

 

 調査すべき相手を見つけた、それはこちらにとっても収穫だ。

 アルヴェムも編入手続きのために校舎へと入っていく。

 

 ―〇●〇―

 

「――今日から一緒に勉学に励むことになった留学生のアルヴェム・オーヅァくんだ。彼は北欧の出身でまだ日本には慣れていないようなのでサポートしてあげるように」

「アルヴェム・オーヅァです。よろしく」

 

 担任の教師に促され、軽く手を挙げての挨拶。

 たったそれだけでクラスの半分以上を占める女子生徒から黄色い声が上がる。

 この世界の女子生徒は何にでもこんなに黄色い上げるのか……いや、クラスの男子がやや遠い目をしているのでそういうわけでもなさそうだ。中には恨めしそうな視線で見てくる者さえいる。

 

「かっこいい~! 木場くん以外にも推しができちゃう!」

「リアス先輩と同じ髪色なんて素敵! 北欧出身の人って紅色の髪の人が多いのかな!?」

「はいはい、質問! 彼女いるんですか~?」

 

 などと、男子生徒とは真逆のハイテンションで質問が飛んでくる。

 そもそも、"彼女"とは何なのか……アルヴェムは後頭部に手をやり指で軽くトントンと叩く。

 今は非表示にしているユールーを表示する合図だ。ユールーはアルヴェム以外に見えないが何せよく話しかけてくるので学園にいる間はそう取り決めている。

 

【"彼女"っていうのはね、お互いに好意を持ってて恋人~って自覚を持ってる異性のことよ! 今のアンタは男の子だから女の子が対象ね!】

 

 ありがとう、と心の中で感謝を述べ、再度ユールーを非表示にする。

 好意を持っている、恋人の自覚がある、アルヴェム何とも無縁な話だった。

 

「そういうのは本当に分からないから、彼女なんていないよ」

 

 そう素直に答えると再び湧き上がる歓声。

 中には「立候補しちゃおうかな!」などと声も上がっており、収拾がつかなくなってきたところを担任の教師が場を制止し、何とか落ち着きを取り戻した。

 

【アルヴェム、これがモテるってことよ!】

「……物珍しいだけだろ」

 

 非表示にしても音声だけ飛ばしてくるユールーは、アルヴェムよりもはるかに楽しそうな声を上げていた。

 

 ―〇●〇―

 

 昼休憩時間。

 他クラスの女子生徒にも絡まれまくったアルヴェムはようやく自分の席に戻っていた。

 本当ならばもう少し時間がかかりそうだったが、気を利かせてくれた……確かアルヴェムのファンクラブがどうのこうの言っていた女子生徒が「転入初日で質問攻めばかりするのは良くないわ!」と周りの女子生徒を一旦退散させてくれたのだ。

 

 この学園に入学してからというものの担任と女子生徒としか話していない。

 男子生徒という生き物がどんな生態をしているのか、それもまた調査対象だ。

 幸い隣の席は男子生徒。今は丸刈り頭と眼鏡姿の男子生徒と三人組で何やら話しているようだった。

 

「何を話してるんだ?」

「うぉっ!? 急に顔出すなよ!」

 

 輪の中に不意に顔を出してみると三人組の一人、名前は確か兵藤一誠が酷く驚いていた。

 他の丸刈り頭……松田、眼鏡の元浜も驚いているがすぐに手を払ってシッシッとされてしまう。

 

「お前のようなモテ男には関係ない代物だ! ほら、去った去った!」

 

 一誠の机の上を見てみると何やら一枚の記録媒体が置かれていた。

 一糸纏わぬ姿の女性が表紙を飾っており、どうやらこれについて話していたらしい。

 元浜の言葉を意にも介さず、アルヴェムはその記録媒体を手に取る。

 

「これは……何だ?」

「エロDVDだよ。北欧にはこういうのはないのか?」

「知らないな。何を記録してるんだ?」

「そりゃあもちろんおっぱいが大きいお姉さんがキャッキャウフフなことをしたり、あられもない姿を晒したりしてる姿だよ!」

「……それに何の意味があるんだ?」

 

 首を傾げるアルヴェムに熱弁してくれていた一誠がずっこける。

 向こうからすればあまりにも真顔で疑問を口にするので、松田も元浜もどうリアクションしていいのか分からないでいるようだ。

 ここで普通なら会話終了だが、一誠はどうやら粘ってくれるようで――

 

「ほら、女性のおっきなおっぱいとかお尻とか見たらこう……テンションが上がるだろ?」

「そういう……ものなのか?」

「イッセー、ダメだ。こいつにはエロスが何なのか全く通じる気配がないぞ」

 

 首を横に振るう元浜。まるで理解できないものを見ているようだった。

 確かにアルヴェムには理解できない代物だ。全裸の女性を見て何を思うのか……こういったところの感性はアルヴェムと人間では大きな違いが出てしまっているらしい。

 

 種族の差。

 そうやって否定してしまうのは簡単なことだ。

 この世界で生きていかなければならない以上、現地の生き物が何を想いどう生きているのか、それを知り分析するのが今しなければならない。

 と、ここでアルヴェムがすべき行動は――

 

「よく分からないが、これを一日貸してくれ。見たら返す」

「「「ええっ!?」」」

 

 とりあえず内容を見てみる、それに限る。

 アルヴェムの言動に一誠たち三人組はもちろん教室の中でこちらに聞き耳を立てていたクラスメイトも驚くが、そんなものは意にも介さない。

 

「も、もしかしておまえもこっちの世界に来るつもりなのか……?」

 

 怪訝そうに聞いてくる一誠に対し、アルヴェムは「さあな」などと適当なことを言って、勝手に借りたDVDを鞄の中に投げ入れた――

 

 ―〇●〇―

 

 その日の夜、アルヴェムは少し大きめのダンボールを抱えて夜道を歩いていた。

 ダンボールの中身はDVDレコーダー。何でもこの世界ではDVDを再生するのに専用の機器が必要らしく、わざわざ探して購入していたのだ。

 

【アンタならそんな記録媒体、身体に入れちゃえばすぐ再生できるのに無駄な労力ね~】

「手間だろうが何だろうが人間と同じことをする……それが理解する一歩だ」

 

 歩いて帰っているのも調査活動の一環。陽が昇っている時とは違い、空には月が浮かんでいた。

 周囲は設置された街灯が辺りを照らし、人通りもない。

 どうにも人間は夜の世界を忌避しているようだ。生物の大半は夜に眠り休息を取る。この世界の生物でもそれは共通しているらしい。

 

「――――――♪」

 

 だが、不意に聞こえてきたのは歌声。

 透き通るような澄んだ声が、人気(ひとけ)のない夜道に響く。

 声の方角は――公園。

 アルヴェムの拠点とは方角が違うが、その歌声に足は自然と公園へと向かう。

 

【罠かもよ?】

「構わない。たとえ罠だろうが何とでもなる」

 

 ユールーは【それもそうね♪】とすぐに納得し、アルヴェムは足を早める。

 すぐに公園には辿り着いた。昼間は子供連れの親子で賑わう公園だが、夜は不気味なほど静かだ。

 歌声は……まだ聞こえている。

 そこまでなら普通の光景と言ってもいい。だが、噴水広場に立ち入った瞬間に異質さを感知する。

 薄紫色をした淡い粒子が辺りを漂い、それは噴水の前で歌っていた少女を中心に踊るように舞っていた。

 

「――――♪」

 

 歌う少女の容姿は他の人間とは一線を画す幻想的なものだった。

 紫色の長い髪を揺らし、豊満な胸を持つその身は純白のドレスで包まれている。目を閉じ歌う姿はまさしく歌姫と言っても過言ではなく、アルヴェムですら彼女に目を奪われた。

 

 だが、それ以上に注目すべきは視界に表示された文字と数値。種族は悪魔と人間、両方の性質を併せ持ち、数値化された戦闘能力はリアスという悪魔を遙かに超えている。

 さらに少女の周りに漂う粒子……あれはリアスが纏っていた力とは別種だと感じる。

 異能(ユニーク・スキル)とでもいうべきか、彼女は特別な存在なのだろう。

 

「――っ!」

 

 ようやくアルヴェムの存在に気付いたのか、橙色の瞳を見開いて少女が驚く。

 彼女のような存在がこの世界にどれほどいるかは分からない。それでも、アルヴェムは彼女に興味を持った。

 相手を刺激しないように、アルヴェムは手に持っていたダンボール箱を地面へ置き、静かに落ち着いた声音で話しかけてみる。

 

「驚かせた。綺麗な歌声が聞こえたから気になって見に来たんだ」

「……あなたは、ドラゴン……? いえ、それだけじゃない……もっと、違う何か……?」

 

 小首を傾げながら、少女はじっとアルヴェムの顔を見つめてくる。

 眠たそうな瞳で映る自分は夢とでも思っているのだろうか。それにしては、アルヴェムの正体にかなり近づいているようだ。

 本質を見抜く才能でもあるのか、アルヴェムはこの少女に興味が出てきた。

 

 この世界に来て初めてもっと話したいと思えた相手……だが、話すには少々邪魔が入ったらしい。

 突き刺さるようないくつもの視線。すでに噴水広場を取り囲むようにして複数人の何かがいる。

 

 不意に飛んできたのは禍々しい色をした光の塊。

 狙いは少女。アルヴェムの身体は考えるよりも先に動いていた。

 少女の前に立ち、その光の塊を正面から受ける。制服が破れるもアルヴェムの身体には傷一つなく、視線は周囲の草陰へと向けられた。

 

「……今すぐ立ち去るなら深追いはしない。だが、そこから一歩でも出てみろ。宣戦布告として受け取る」

 

 警告はした。

 だが、当然聞くような相手ではない。

 悪魔、そう表記された連中が次々と草陰から飛び出し、アルヴェムと少女を取り囲む。

 どうにも聞き入れてはもらえなかったようだ。

 人数は十五人ほど、誰もが殺意と敵意を向けてくる。逃げる様子は微塵もない。

 アルヴェムは呆れて一つ息を吐き、そして――

 

「仕方ない――八秒、それで決着をつけよう」

 

 音を立て、右手を変形させていく――

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