ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第十話『堕天使の捕獲』

「何度言ったらわかるの、イッセー。あのシスターの救出は認められないわ」

 

 はぐれ悪魔討伐からそう経っていない頃、部室では乾いた音が響いていた。

 一誠がリアスから平手打ちを受けた音だ。

 例の一誠と出会ったシスター――アーシアが堕天使に攫われ、堕天使たちの計画に巻き込まれそうになっているらしい。

 

 現在、この駒王町では複数の堕天使たちが徒党を組んで画策しているようだ。

 それに関わっているのがアーシアという少女。

 アーシアはその身に悪魔をも治癒してしまう神器『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を宿している。

 一誠の元彼女である天野夕麻――レイナーレはそれを狙っている。

 

 そこで一誠はアーシアを救うために教会に乗り込むことをリアスに提案した。

 しかし、リアスはこの件に対して干渉する気はないと告げたのだ。

 諦めきれない一誠は詰め寄るも、そこで頬を叩かれた。

 

「あの子は元々神側……例え堕天使に下ったとしても私たちとは根底から相容れない存在なのよ。敵以外の何物でもないわ」

 

 堕天使の勢力は堕天使以外に教会から追放されたはぐれ悪魔祓いやシスターが集っていると聞く。

 経緯はどうであれ、アーシアも同様らしい。

 

「アーシアは敵じゃありません! 俺は彼女と友達になりました! アーシアは大事な友達です。見捨てるなんてできません! 俺は一人でも教会に乗り込んで助けに行きます!!」

「あなた本当にバカなの? 前にはぐれ悪魔祓いに襲われた時も私たちが行かなかったら死んでいたのよ? そんな相手が何人もいる敵の本拠地に行けば確実に死ぬわ!」

 

 激昂したリアスは「それだけじゃない」と言葉を続ける。

 

「これはあなただけの問題じゃないわ! あなたの行動ひとつで私や他の部員、悪魔側にだって多大な影響を及ぼすの! グレモリー眷属としての自覚を持ちなさい!!」

「だったら、俺を眷属から外してください。そうすれば――」

「そんなことできるわけないでしょう! どうしてわかってくれないの!?」

 

 平行線な言い合い。

 リアスの言葉はグレモリー眷属の『王』として、至極正しい。

 だが、それは理屈。一誠が今話しているのは感情の問題だ。

 一誠とアーシアにどんなことが起こったかは不明だが、それでもアーシアを大切に想っているのはわかる。

 敵同士だろうとも、その友情は責められない。

 

 アルヴェムとしてはどちらの味方をするわけでもなかった。

 考えていることと言えば、堕天使のことだ。

 

 この街には今複数の堕天使がいる――そうなると数人採取しても良いのではないだろうか。

 リアスは不干渉を貫こうとしているが、堕天使の構造を知る絶好の機会でもある。

 

 サーチしてみると現在この街にいる堕天使は四人。

 教会にいる一人が一番戦闘能力があり、他三人は教会の外で待機している。

 恐らく計画実行の邪魔が入らないように警戒しているのだろう。

 

「アルヴェム、どうするの……?」

 

 会話に入れないイングヴィルドが耳元で小さく問いかけてくる。

 アルヴェムのイングヴィルドの耳元に顔を近付け、

 

「結論がどうなろうとも俺は動く。堕天使のサンプルが欲しいからな」

「私も行く」

「約束は?」

「守る……だから、連れて行って」

 

 強い意志を秘めた目にアルヴェムもそれ以上言えなくなる。

 そのうちにリアスたちの会話も終わったようだ。というよりも、リアスが朱乃から何かを言われて強引に切り上げたという形だが。

 リアスと朱乃、二人は魔法陣でどこかへとジャンプし、他の部員が部室に残される。

 

「話は終わったみたいだな。行こうか」

「い、いいのか?」

 

 予想していなかった一誠はアルヴェムの言葉に驚く。

 それもそうだ。関わってはいけないと散々言われたのに途端に無視しているのだから。

 

「とは言っても、俺は外にいる堕天使三人に用があるから中には入らないけどな。イッセー、キミの実力だと教会に入って二分足らずで死ぬと思うが……」

「それでも行く。アーシアだけでも絶対逃がす!」

「いい覚悟だ……でも、無謀なことに変わりないよ。だから、僕も行く」

 

 意外にも、木場もこの話に乗ってきた。

 すでに腰に剣を携えており、準備は万端といったようだ。

 

「お前まで……大丈夫なのか? 部長の言葉に逆らうことになるんだぞ?」

「それは違うよ、兵藤くん。部長はキミに教会へ行っていいって遠回しに許可をくれたんだ。じゃないと出て行く前にプロモーションの説明なんてしないよ」

 

 プロモーション――確か『兵士』の特性だ。

『王』が敵の本拠地に足を踏み入れた時、『王』以外の駒に特性を変えることのできる『兵士』の切り札。

 実際のチェスでも、これによって最弱の『兵士』でも『王』を取れる。

 まさにチェスの醍醐味と言っていい特性だった。

 

 確かにそうでもなければリアスは魔法でも何でもして一誠をこの場に閉じ込めておくはずだ。

 リアスの優しさに触れ、

 

「……私も行きます。アルヴェム先輩が離れる以上、二人では不安です」

「ありがとう、小猫ちゃん! 俺は猛烈に感動してるよ!!」

「あ、あれ? 僕の時はそんな反応しなかったのに……」

「これが男女の違いだよ、木場。気を落とすな。キミが女子にでもなれば、イッセーの反応も変わる」

「へ、変なこと言うなよ!」

 

 ともかく、と一誠は拳を握っては掲げ、

 

「待ってろ、アーシア! 俺たちが必ず助けてやるからな!!」

 

 ―○●○―

 

 部室を飛び出して、教会へとたどり着いた一誠率いるオカルト研究部部員一同。

 アルヴェムとイングヴィルドは一誠たちから離れ、木々に囲まれた地を走っていた。

 月明かりが照らす夜の中、イングヴィルドをお姫様抱っこして走るアルヴェムはすでに堕天使たちを捉えている。

 

「あら~かっこいい悪魔さんの登場だこと」

 

 声が聞こえた。少女の声だ。

 木の枝の上、そこに堕天使の一人が座っている。

 ゴシック調のドレスに身を包んだ金髪の少女――彼女はこちらを見るなり、木の上から下りてくる。

 

「はじめまして、わたくし堕天使のミッテルトと申しますの」

「ご丁寧にどうも。外で見張りとは、そちらも警戒していたようだな」

「大事な儀式を邪魔されたらレイナーレ様に叱られてしまいますもの」

「すでに他のメンバーが正面から教会に入っているぞ。見張りにしては随分とお粗末だ」

「えっマジ!?」

 

 お嬢様口調から一変、素の口調が飛び出たミッテルトは地団太を踏む。

 

「てっきり来るなら裏からだと思ったのに……チッ、めんどくさいなぁ。でも、よく考えてみたら無問題(モーマンタイ)じゃね? だって、教会の中にはたんまり悪魔祓いもいるしね。というか、大丈夫なの? こんなところにお熱いカップル二人で来ちゃって?」

「それこそ問題ない。俺一人ですら過剰だからな」

「これでも?」

 

 パチン、と指を鳴らせば魔法陣が展開される。

 その魔法陣を見ると転移魔法のものと類似していた。堕天使にも悪魔と似たような術があるらしい。

 出てきたのは二人、男と女の堕天使。

 

「ドーナシーク、カラワーナ、侵入者よ! さっさと殺すから手伝いなさいな!!」

「お前が命令するんじゃないよ」

「あくまで我々はレイナーレ様の計画に集った者、間違っても貴様の部下ではない」

 

 黒髪の堕天使カラワーナ。黒いスーツ姿の堕天使ドーナシーク。

 ミッテルトと合わせて三人、これで数は揃った。さらにアルヴェムの周囲を囲むように魔法陣も現れる。

 堕天使側がアルヴェムとイングヴィルドを逃がさないように結界を張ったのだ。

 しかし、逃げるつもりもないアルヴェムは不敵に言う。

 

「言っておくが中に入っていたイッセーたちは強いぞ。少なくともお前らのボスよりかはな」

「イッセー? ああ、あのレイナーレ様とママゴトしてた元人間のこと! あはは、聞いたわよレイナーレ様から! 随分と勘違いしちゃってたみたいね!」

「言うなミッテルト、また腹がよじれるほど笑ってしまう!」

「まあ、酒の肴にはなったがな!!」

 

 悪趣味に笑う堕天使たち。

 その姿にアルヴェムは胸の内に黒い靄のようなものを感じていた。

 

 少なくとも一誠は本気だった。

 きっと、上手くできなくとも、不器用だろうとも真剣に天野夕麻を幸せにしようとしていたのだ。

 毎日美女をとっかえひっかえするハーレム王になりたいなど言いながらも、惚れたらその女性と真摯に向き合う……出会って日は浅いが、そんな男に思えた。

 

 だからこそ、その気持ちを踏みにじり一度命を奪ったことが――許せない。

 

「好きに言え。その方が容赦なく研究に使える」

「研究ぅ? 何言ってんだか! あんたはここで死ぬんだよ!!」

 

 下卑た笑みのまま、堕天使たちは空を舞う。

 その手には光が収束し、槍を形成。それぞれ形状の違う光の槍がアルヴェムへと投擲される。

 突き刺さる三本の槍。しかし、それらは肉体を貫通することはない。

 戦う以前にわかっていた。ミッテルトたちの戦闘能力ではアルヴェムを守るバリアを貫通するにははるかに及ばない。いくら繰り返そうが結果は変わらない。

 

「なっ……我々の槍を受けて倒れないだと……っ!?」

「光は悪魔にとって猛毒のはず……何故死なん!?」

「何なのよ、コイツ!!」

 

 答えはしない。

 驚愕する堕天使たちに構わず、アルヴェムの腕が変形していく。

 作り出されるのはヒト一人入れそうなほどの大きさをしたカプセル状の捕獲機だった。

 

Capsule Capture(カプセル キャプチャー)

 

 捕獲機は側面から本体を支えるそれぞれ三本ずつ地に足をつけており、堕天使という目標を発見するなり飛び出す。

 光の槍で迎撃されようとも捕獲機は破壊されず、扉状になっている箇所が開く。

 

「何これっ!? ちょっと待――」

 

 ミッテルトの言葉がそこで途切れる。

 捕食されるように捕獲機に捕らえられ、中から拳を当てて叫んでいるようだが全く聞こえない。

 これで堕天使のサンプルが三人分手に入った。

 着地した捕獲機三機、その中でもミッテルトが入れられている捕獲機の上にアルヴェムは座る。

 

 透明性のある正面からミッテルトたちの姿はよく見えた。

 現状をまるで理解できていない彼女たちに一応にため説明をする。

 

「それは中の声を遮断する。反対にこちらからの声は聞こえているだろう? この捕獲機の中には研究や実験に必要な機材を好きに出せるんだ。今から堕天使の構造を知るためにキミたちには色々と協力してもらう」

 

 返答など求めていないが堕天使たちの口は動いているので、何かしら抗議しているのだろう。

 狭い中で光の槍を放つも、それを計算して作ってあるため破壊は不可能だ。

 

「ああ、食事や排泄は気にするな。キミたちは今から眠る。その間に調べさせてもらうよ。一生目覚めないかもしれないが、その時は運がなかったと思ってくれ」

 

 言い終えると中が一瞬煙で満たされる。

 同時に堕天使たちの瞼は瞬間的に落ちていき、深い眠りへついた。

 眠ったことを確認すると中にある器具が動き出し、堕天使の各所を調べていく。

 五体満足で出られる可能性はゼロだが、そんなことはどうでもいい。彼女たちはアルヴェムにとって何でもない路傍の石程度の存在なのだから。

 

「アルヴェム、もう終わった……?」

「ああ。これで後は自動で研究できる。待てば俺も光の槍を使えるようになるよ」

「私も、いつか……これに入れるの?」

「ん……? いや、そんな予定は全くない。こいつらはすでに成長しきった個体だ。まだまだ成長性のあるキミとは違うし、そもそも堕天使は敵だ。甘い対応はしない」

 

 その言葉を聞いてイングヴィルドは胸を撫で下ろす。

 相手は堕天使。彼女のように自由の身にすれば何をしでかすかわからない。それでイングヴィルドの身に危険が及べばそれこそ本末転倒だろう。

 さらに言えばアルヴェムにとって三人の堕天使はそれほど魅力的な研究材料ではない。

 何せ戦闘能力が低い。やはり、イングヴィルドのように秘めたる能力が大きければ研究対象としては良い。

 

 これでこちらの戦闘は終わりだ。

 一誠たちの方はまだ音が続いているので、今もなお戦闘中だろう。

 用も早く終わったので踵を返そうとしたところ――

 

「――アルヴェム、あなたこっちに来てたの?」

 

 魔法陣からリアスと朱乃が現れる。

 その口振りはやはり一誠が行動するとわかっていたようなもので、アルヴェムも別段驚くこともなく答える。

 

「ああ、俺はこちらにいる三人の堕天使に用があったからな。今は解析中、終わったらそちらに身柄を渡すかこちらで処分するか再利用するつもりだが」

「はぁ……あなたも本当に好き勝手やってくれるわね。でも、今回はよくやってくれたわ。これで私の溜飲が下がるもの」

「それで、イッセーの方には援護しに行くか? 俺がトドメを刺してもいいが……」

「いいえ、手出しは無用よ。イッセーはあんな堕天使には負けない。あの子の神器は……いえ、想いはあの堕天使を遙かに凌駕しているから」

「うふふ、それでは私たちは敵の退路を断ちながら参りましょうか」

 

 朱乃の視線の先には教会から出てきたはぐれ悪魔祓いたちがいた。

 どうやら中で戦っている木場や小猫に恐れをなして逃げてきたらしい。

 ここまでやったアルヴェムが言うのも何だが、一応聞いておく。

 

「すでに事は起きているが……こんなことをすれば堕天使と戦争になるんじゃないのか?」

「今回は大丈夫よ。あとでイッセーと合流したら説明してあげる。放っておいても悪さしかしないでしょうし、まずはこの連中を消し飛ばしてあげましょうか」

 

 手のひらに消滅の魔力を迸らせるリアス。

 そこから始まるのは当然の蹂躙だった――

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