ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第十一話『グッバイ初恋』

「わ、私は至高の――」

「吹っ飛べ、クソ天使ッ!!」

 

 教会の聖堂で一つの戦いに決着がついていた。

 籠手を装備した一誠の左手がレイナーレの顔面を深々と捉え、殴り飛ばす。

 大きな破砕音と共にレイナーレの身体は壁を突き破り、外へと叩きだされた。

 あの威力で殴り飛ばされたのだ。気を失い、すでに戦闘能力もなくなっている。

 

 肩で息をし、やがてよろめく一誠。

 その戦闘能力は一時的だろうが上級悪魔にも匹敵するほど。部室で話していた時からは考えられないほどの向上だった。

 

 倒れそうになる一誠を支えたのは木場だった。

 彼もまたリアスの命令で一誠とレイナーレの戦いを見守っており、彼が出てきたということは戦闘状況が終わったことを意味している。

 リアスも一誠の元へ出て、アルヴェム、イングヴィルド、朱乃もその後へ続く。

 

「お疲れ様、イッセー。見ていたわ、さすが私の下僕くんね」

「ぶ、部長……俺……」

「言わなくていいわ。今回、教会をこんなにボロボロにしたところで他の刺客から狙われることはないでしょうし」

「え……それって、どういうことですか?」

「この教会は元々捨てられていた場所。そこに組織に独断で動いていた堕天使たちが勝手に使っていただけ。公式な陣地に喧嘩を吹っ掛けたわけじゃないから、相手も悪魔の中でも地位のある私の縄張りだということを考慮して報復なんて愚は侵さないはずよ。相手は幹部ならあり得たかもしれないけど、今回の敵は末端も末端だから」

 

 どうやら、リアスと朱乃はその裏を取っていたようだ。

 そうこうしているうちに小猫が気絶しているレイナーレを引き摺って持ってきていた。

 

「……部長、持ってきました」

「ありがとう小猫。それじゃあ、起きてもらいましょうか」

 

 部長が手で示すと、朱乃が魔力で水の塊を創り出し、それをレイナーレの顔面へ浴びせる。

 水音の後、レイナーレは咳き込み、ゆっくりと目を開ける。

 目が合うリアスとレイナーレ。しかし、その口元はまだ余裕があるのか嘲笑の笑みを作った。

 

「グレモリー一族の娘……してやったりと思ってるんでしょうけど、私には私の計画に同調してくれた堕天使たちがいる……今回の計画は上には話さなかったけど、何かあれば彼らは私を――」

「無理よ。あなたのいう三人の堕天使はすでに私たちの手中にあるもの」

「う、嘘よ!」

 

 余裕から一変。明らかに狼狽するレイナーレ。

 リアスがこちらへ視線を送るので、アルヴェムは連れてきていたカプセルを見せてやる。

 

「ミッテルト、カラワーナ、ドーナシーク……多少抵抗されたが、今は俺の研究に快く協力してくれているよ。部位(ブロック)単位でもいいなら返すが?」

「ひ……っ」

 

 カプセルの中を見て、レイナーレから引き攣った声が出る。

 中ではすでに必要な分の解析は終わり、身体はバラバラになっているものの三人とも生きてはいた。

 この光景には一誠も引いているようだが構わず続ける。

 

「一応礼は言っておく。おかげで俺も光の槍を使えるようにはなった」

 

 試しに手を翳すと光が伸び、槍の形へと変化する。

 その濃度はミッテルトたちとは比べ物にならないほど濃く、見ている木場たちも一度目を背けるほどだった。

 リアスが軽く手を挙げると、アルヴェムは察して光の槍を消して下がる。

 

「堕天使レイナーレ。あなたの敗因はイッセーの力を見誤ったこと……この子の神器はただの神器じゃない。極めれば神をも屠れる赤いドラゴンの魂が宿った神滅具(ロンギヌス)――」

 

 ――『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』。

 リアスは一誠の左手に装着されている赤い籠手の名をそう呼んだ。

 

「言い伝えの通りなら『赤龍帝の籠手』は十秒に一度宿主の力を倍にしていく。例え一から始まったとしても時間が経てばいずれは上級悪魔、堕天使の幹部をも上回る力になる……そんな神器を持っている相手にあなたは余裕ぶって遊び過ぎたのよ」

「くっ……フリード! わ、私を助けなさい! 生きているのでしょう!?」

「はーい。俺、参上ってね! でも、ムリムリムリの三乗よ? こんなに戦力差があってしまうんですからねぇ!」

 

 穴の開いた壁から人影が現れる。

 神父の恰好をした若い白髪の少年、フリードと呼ばれた者は来るなりすぐさま諦めを口にした。

 

「大体クズ悪魔に圧倒されるなんて、それだけで上司失格! 不合格よ不合格! それにこっから助けたところでアンタ身持ちも無駄に固いから、エロいことひとつもさせてくれないじゃないっスかぁ? じゃ、ご臨終シクヨロってことで!」

 

 そこまで言って、フリードはレイナーレから視線を外す。

 それだけで見捨てたことは十分に伝わったようだ。レイナーレの表情が絶望へと変わる。

 

「あっ! あとそこのイッセーくぅん、キミだいぶ面白い能力を持っちゃってますねぇ! 必ず殺す、フォーリンラブ!! もうロックオンしちまったからこれ!!」

 

 わけのわからない言葉を並べ、一目散に逃げていく。

 その影はもう見えなくなり、リアスも横目で見ると追うように指示もなかった。

 最優先なのはレイナーレ。リアスの手には魔力が宿る。

 

「あなたがアーシアという子から奪った神器――『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』は返してもらうわ。あなたにはもう必要ないもの」

「こ、この力はアザゼル様とシェムハザ様のために――」

「愛のために生きる……それは立派なこと。でも、あなたのやり方は薄汚いわ。そういうの許せないの。一片の慈悲もなく、消し飛ばしてあげる」

 

 この場にはレイナーレの味方はいない。

 結末は決まっていた。だが、レイナーレは――

 

「イッセーくん助けて! 私、あなたのことを愛してる! だから、この悪魔を一緒に倒しましょう!!」

 

 最後まで生き汚く足掻いた。

 一誠の情に訴え、何が何でも助かろうとする。

 一度は愛した女性の懇願。惨めなかつての彼女に一誠は歯噛みする。

 そして、一誠は――背をレイナーレに向けた。

 

 拒絶。それは誰もが当然だと思った答えだった――

 

「グッバイ、俺の初恋……部長、お願いします……」

 

 絶望したレイナーレの顔はすぐさまリアスの一撃によって消滅する。

 そして、その中から飛び出た淡い光の塊、神器を取り戻す。

 数秒前までレイナーレだったものの黒い羽根が舞う中、イッセーは一筋だけ涙をこぼした。

 それでもすぐに拭って、リアスへと頭を下げる。

 

「部長、すみませんでした。俺、部長が手を貸してくれないからって失礼なこと言って……裏で動いてくれていたことなんて知らなくて……それに、俺は……アーシアも守れなくて……」

 

 そこでアルヴェムも気付いた。

 一誠の近くにある長椅子には一人の少女――アーシアが横たわっていた。

 生命は感じない。無理矢理、神器を引き抜かれてしまったことで息絶えてしまったのだろう。

 自らを責める一誠の頬をリアスは優しく撫でる。

 

「今のあなたを見て誰が咎められるかしら。あなたは懸命に戦って、堕天使にも打ち勝ったわ。胸を張りなさい」

「でも、俺……」

「――強くなりなさい。その悔しさを力に変えて」

「はい……」

「さて、敵も片付いたことだし、これをアーシア・アルジェントさんに返しましょうか」

「でも、アーシアは……」

 

 何か言いたげな一誠を置いて、リアスはアーシアの傍へと寄る。

 淡い光――神器を返すと、すでに息絶えているというのに少しばかり安らかな表情になったように見える。

 

「イッセー、私にはまだ使用していない『僧侶』の駒があるわ。『僧侶』の力は眷属のフォロー、この子の回復能力は向いているから前代未聞だけど、悪魔へと転生させるわ」

 

 他勢力の者を自らの眷属に。

 かなり危険な行動だが、リアスはアーシアの胸の上に駒を置くと魔法陣を描く。

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ずる。汝、アーシア・アルジェントよ。死した魂を再び現世へ帰還させ、我が『僧侶』として悪魔と成れ――」

 

 唱えると『僧侶』の駒はアーシアの胸へと静かに沈んでいった。

 やがて、アーシアは静かに目を開け、

 

「あれ、ここは……?」

 

 状況がわからず、上半身を起こして周りを見渡す。

 その様子を見たリアスはクスッと笑い、未だに呆然としている一誠の肩へ手を置く。

 

「悪魔をも治す回復能力は私の役に立つと思ったから転生させたの。あとは先輩悪魔として、あなたがあの子を守ってあげなさい」

「ッ……はい、ありがとうございます!! 皆も助けてくれて本当にありがとう!」

 

 部員がそれぞれ手を軽く振り答える。

 一誠はアーシアを抱きしめ、これで今回の一件は無事に解決した――

 

 ―○●○―

 

「アーシアさん、助かって良かったね」

「ああ。こちらも協力した甲斐はあった」

「ふふっ……アルヴェムは自分のやりたいこと、してただけだよね」

 

 アーシアと一通り挨拶を終えた後、悪魔としての活動を終えてアルヴェムとイングヴィルドは拠点である高層マンションへと戻ってきていた。

 微笑むイングヴィルドはというと、何故かキッチンへと立っていた。

 今まで彼女の食事は全てアルヴェムが用意しており、それに対して彼女も文句はなかったが今日は何故か『自分が作りたい』と言い出したのだ。

 

 どういった心境の変化なのか。

 それは不明だが、イングヴィルドは鼻歌交じりで楽しそうに料理をしている。

 作っているのはパスタのようだ。鍋で今もなおパスタ麺が茹でられているのが見える。

 包丁の扱いも手馴れているようだ。手際良くまな板に横たわるイカを捌き、着々と準備を進めている。

 

「それにしても、どうして料理を?」

「故郷の味、アルヴェムにも知って欲しいから……かな?」

 

 曖昧な答えだが、したいことができたなら止めはしない。

 怪我だけはしないように様子を見ておくことにする。

 

 料理が完成したのは、それから数分後のこと。

 二人分の皿には綺麗に盛り付けされた海鮮パスタが湯気を立てていた。

 やはり、海辺の街が故郷だと海の幸が食卓に並びやすいのだろうか。

 

「はい、どうぞ」

 

 促されて、アルヴェムは一瞬躊躇う。

 機械生命体である以上、食事は必要ない。

 一応食事という行為はできる。だが、永久機関で動力を賄っているアルヴェムにとっては、時間の無駄でしかない補給だ。

 だからこそ、いつもはイングヴィルドが食べている姿を見るだけで、自身は食べていない。

 

 ただ、今回はイングヴィルドの善意の行動。

 無下にはできない。フォークを掴んで、一口食べてみることにする。

 

「……どう?」

 

 イングヴィルドの問いに、すぐには答えられなかった。

 何しろ、味がない。

 

 味覚センサーが障害を引き起こしたわけではない。

 サーチしてみるもアルヴェムの身体のどこにも異常はなく、どうにも本当に味がない。

 いや、あるにはあるのだが素材本来すぎるだけで、不味くはないにせよ料理とは言いにくい。

 これがイングヴィルドの故郷の味ならば、率直な感想は彼女を傷つける。

 それに百年前はこういった素朴な味が好まれていたのかもしれない。

 

「……俺はこの世界に来て食事をするのはこれが初めてだ。だから『美味しい』の基準はわからない」

「そう……」

「だけど、ありがとう。俺を想って行動してくれたことは嬉しい」

「っ……うん。作った甲斐あったわ」

 

 限界まで言葉を選んだおかげでイングヴィルドも満足してくれたようだ。

 安心して、イングヴィルドも一口パスタを口に運ぶ。

 すると――

 

「あれ……味がない。ふふ、忘れていたみたい」

 

 無邪気に笑って、口元を手で押さえる。

 やはりこれは正しい料理の形ではなかったようだ。聞いて、アルヴェムも安堵する。

 

 と、そこに魔法陣が現れる。

 アルヴェムは警戒して右手を変形させるも、魔法陣はグレモリー家のもの。

 誰かが出てくるわけでもなく、畳まれた衣服が出てきた。

 それを見たイングヴィルドは寄っていき、手に取って衣服を広げて見せてくる。

 黒を基調とした駒王学園の女子生徒用の制服だった。

 

「それは?」

「私も、駒王学園に入学したいなって思って、お願いしたの……書類はリアスさんが何とかしてくれるって。後は、アルヴェムが許可をくれたらいいよって、言ってくれたわ」

「キミの負担にならなければ、止める理由はないよ」

 

 そこまで学園に行きたがっていたとは気付かなかった。

 確かにこの拠点は娯楽がない。そういった面ではストレスを与えてしまっていたのだろう。

 

「学園に行くなら準備が必要だな」

 

 イングヴィルドは"眠りの病"から全快はしていない。

 なので時折強い睡魔に襲われることがあり、授業中でも同様のことが起こるだろう。

 そこでアルヴェムは右腕から機器を作り出して取り出す。

 

 並んだのは眼鏡とペン。

 怪訝そうなイングヴィルドに作った眼鏡を掛けさせる。

 

「これは……?」

「黒板の文字をレンズで翻訳するものだ。その他にもテストの時、全ての答えが表示される。ペンは眠ったとしても勝手に黒板の字や図をノートに模写してくれる。一からやりたいかもしれないが、できるようになるまでは無理せず使うといいよ」

「うん、ありがとう。私……頑張るね」

「頑張らずとも楽しめばいい。キミにはその権利がある。入学祝いは味のないパスタしかないが、それで祝おう」

「今のはいじわる……」

 

 頬を膨らませて不満げにするイングヴィルド。

 その頬を指でつついてから、アルヴェムは再び食卓へと戻るのだった――

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