ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
第十二話『リアスの婚約者』
アーシアが同じクラスに転入してきて数日後――
「は……はじめまして。イングヴィルド、です。よろしく、お願いします……」
緊張した面持ちでイングヴィルドはクラスメイトに挨拶をしていた。
彼女の精神面を考慮して、アルヴェムの傍にいられるようにリアスが同じクラスにしてくれたようだ。
だが、立て続けに来る転入生に他のクラスメイトは疑問に思わないのだろうか、そう考えるも――
「アーシアちゃんに続いてまた美少女が!?」
「やばい……もう人生の運を全部ここで使い果たしているかもしれない!!」
主に一誠の悪友、松田と元浜が騒いでいる。
他の反応も似たり寄ったりなところで、誰もこの教室……いや学年に起こっている違和感には気付いていないようだ。
「なあ、アルヴェム。こんなに連続して転入生が来て大丈夫なのか?」
悪魔側の事情を知る一誠から、そんな質問が飛んでくる。
アルヴェムは頷き、
「聞けばすでに仕込みは済んでいるようだ。学園にいる一般生徒の記憶を改竄して『このクラスの人数は他よりも少ない』認識になっている。元々いたクラスメイトの何人かは他のクラスに移籍させたらしい」
「なるほどな……だから、クラスメイトも少なくなってたのか」
「まだ増える可能性はあるらしいし、多めに枠を取っているんだろう」
「でも、良かったのか? まだ眠りの病っていうのも完全に治ってないんだろ」
「あの病は長期的な治療が必要だが今は経過観察でいい」
それに、
「彼女の希望だ。それにいつまでも俺と一緒とはいかない。いつになるかはわからないがイングヴィルドに関しては研究が終わり次第、解放するつもりだ。その後は彼女の自由に生きればいい」
「う~ん……お前ら二人のことだから、あんまりこっちがどうのこうの言えないけどさ。イングヴィルドにはそのこと話してるのか?」
「聞かれれば答える。時が来れば俺から伝える。彼女にはなるべくストレスを与えない方向性で研究を進めているんだ。だから無暗に情報を与えないだけだよ」
「研究って……そういえば、あの堕天使たちはどうしたんだ? 確かカプセルに捕まえたままだったよな?」
「ああ、分解したがまだ生きていたので再度修復して有効活用しているよ。俺の代わりに夜はチラシ配り、昼間は学園の用務員をさせている」
「ええっ!? 外に出してるのか!?」
「ああ、部長から許可も得ている。何せ、あいつらの身体にはいくつも仕掛けがあるからな。妙な真似をしたらその時点で死は免れない。真面目に働いてくれているよ」
外を見れば用務員の恰好をしたドーナシークが花壇の手入れをしていた。
あれだけ他の生物を見下した尊大な態度だったが、その影はない。
レイナーレ主導の計画が失敗して心が折れたか。それとも敵わぬ者を見て悟ったか。
カラワーナもミッテルトも、存外素直に言うことを聞いている。
「キミやアーシアにとっていい思い出はないだろうが、いざとなれば生徒を守る盾にもなる」
「確かに恨みがないって言ったら嘘になるけど、あのクソ堕天使を吹っ飛ばしてアーシアが生きてるならもうなんだっていいさ」
どうやら一誠もあれからレイナーレのことは大方吹っ切れたらしい。
手痛い失恋だったようだが、アルヴェムは言う。
「初恋相手と結婚までたどり着いたのは、十人に一人程度らしい。だから、キミに異常なことはない。もう次の恋でも始めたらどうだ? 例えば部長とか」
「おいおい、俺らは下僕だぜ? あんな高嶺にいる人と付き合えるかってーの。でもさ、今日部長と結婚する夢を見たんだよなぁ……」
「それが正夢となるか、それとも別の男が部長と結婚する暗示か……イッセー次第だな」
「他の男と結婚って……嫌なこと言うなよ」
「不思議なことじゃない。悪魔の中でも名のある家の生まれ……しかも、結婚するには十分な年齢を重ねている。種族を存続するための政略結婚だって大いにあるはずだ」
「元一般家庭の人間にはわかんない世界だなぁ……でも、そうなった時、部長はどうするんだろうな」
「あの性格だ。絶対に認めないはずだよ」
違いない、と一誠は笑う。
見るとイングヴィルドの自己紹介はようやく終わっていた。
どうやら一誠と話しているうちは生徒からの質問攻めにあっていたようで、一限目が始まる前からすでに疲れが見える顔をしている。
「それじゃあ席は……オーヅァの隣の席に座ってくれ」
「はい……」
ぺこり、と一礼したイングヴィルドはそそくさと自分の席へと座る。
するとすぐさまアルヴェムの袖を掴んできて、
「疲れた……眠たい」
「キミが来たいと言ったんだろう……転入してから少しの間は我慢してくれ。一過性のものだ。あとは穏やかになっていく」
「うん、頑張る……」
そういった傍からウトウトと頭を揺らし、アルヴェムの肩に寄りかかって寝息を立て始めるイングヴィルド。
まだ授業も始まっていないというのに完全に眠ってしまったようだ。
「イングヴィルド、大丈夫なのか?」
「ああ、心配ない。大勢の人間の前に出て、緊張の糸が切れただけだ」
そんなことを言っていると、周りからひそひそと声が聞こえてくる。
転入生同士のただならぬ関係……などと噂されてしまう。
ホームルームが終わり、まだ授業時間まで時間がある。
妙な誤解をされても対処に困る。それに元浜と松田の目がすごい。一誠とアーシアの仲の良さに当てられた時も、今にも殴り掛からんばかりに嫉妬の炎が燃え盛っていた。
それとは反対に恋愛話が好きな女子生徒、アルヴェムに憧れを抱く女子生徒は何とも言えない表情をしている。
そこでイングヴィルドが後ろに倒れそうになったため、彼女の肩を手で支え、妙な誤解を解いておくことにする。
「一緒に住んでいるんだ。これぐらいの気は許されている」
誤解を解くどころか、イングヴィルドの知らないところで突き破ってしまっていた――
―○●○―
「イングヴィルドさん、何かあったら私も頼りにしてください。まだ不慣れな部分はありますが、全力で力になりますから!」
「うん……ありがとう」
授業が終わり、放課後。
旧校舎の中で部室に向かう途中、前を歩くアーシアがイングヴィルドとそんなことを話していた。
だが、アルヴェムはそんな話は上の空で部室の方に視線を向けている。
「アルヴェムくんも感じるかい?」
「感じるというより、いることがわかる。悪魔……それも相当な実力者だ」
「……?」
目を細める木場に、何も気付いていない一誠。
部室にはリアス、朱乃、小猫ともう一人、グレイフィアと表示された悪魔がいる。
敵性は感じられない。恐らく、上層部からの使者なのだろう。
「イングヴィルド、俺の後ろに下がってくれ。念のためだ」
アルヴェムの言葉に頷くと、イングヴィルドはアーシアとの会話を切り上げて背後へと移動する。
ただならぬ雰囲気にアーシアも気付いたようで、自らも一誠の元へと下がった。
部室へたどり着き、扉を開けると捕捉した通りの面々が揃っていた。
いつもの面々と違うのは銀髪のメイド――グレイフィアのみ。
「あなたがアルヴェム・オーヅァ様、そしてイングヴィルド様ですね。はじめまして。私はグレモリー家に仕えるメイド、グレイフィアと申します。以後、お見知りおきを」
一礼するグレイフィア。やはり敵ではなく、リアスの身内らしい。
挨拶されるとアルヴェムとイングヴィルドも一礼を返した。
それを見て、部員の一人一人を確認したリアスは話を切り出す。
「全員揃ったわね。部活を始める前に話したいことがあるの。実は――」
リアスが口を開いた途端、部屋の中心にある魔法陣が輝き始める。
しかし、それはグレモリー家の紋様ではない。鳥にも見える紋様だった。
「この紋様は、フェニックス……」
木場がぼそりと呟く。
瞬間、魔法陣が大きく輝き、人影が現れる。
その影を追うように魔法陣からは炎が舞い、辺りに火の粉を巻き散らす。
イングヴィルドには当たらないように防ぎながらも視線は外さない。
炎をものともせず、中から出てきた男性が腕を薙げば嘘のように炎はその姿を消した。
「よぉ、愛しのリアス。会いに来たぜ」
軽々しい口調で話す男性。
赤いスーツを着崩しており、金髪。見た目年齢は二十代ほどだ。
その風貌や口調から生真面目さは見られず、どちらかと言えば不良の部類。
軽々しい態度でリアスの腕を掴むも、リアスはその腕をすぐさま振り払った。
「軽々しく触らないで――ライザー」
「これはこれは。相変わらず手厳しいねぇ……」
リアスの声には明らかな怒気が含まれている。
対する男性――ライザーは飄々としていて、何一つ意にも介していないようだ。
「おい、あんた! 部長に軽々しく触るんじゃねぇ!」
「あ? 誰、お前?」
「俺は兵藤一誠! リアス・グレモリー様の『
「あっそ」
聞いておきながら、まるで興味のない反応。声音もまたリアスの時とは何もかもが違う。
道に落ちているゴミを見るような目。明らかに高等種としての見下しを感じさせる。
「つうか、あんたこそ誰だよ。さっきから偉そうに……」
「何だ、リアス。俺のことを下僕に話していなかったのか? 俺のことを知らないって、転生者にしてもなぁ」
呆れた口調のライザー。
そんなことを言えばアルヴェムもライザーのことなど知り得ないが、どうやら冥界では有名人らしい。
それ以上の説明はしないライザーの代わりにグレイフィアが口を開く。
「この方はライザー・フェニックス様。純血の上級悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家のご三男――そして、リアス・グレモリー様の婿殿でもあります」
「えぇええええええっ!?」
グレイフィアの言葉に一番驚いたのは一誠だった。
婿、その単語にリアスも酷く激昂する。
「前にも言ったはずよ! 私はあなたとは結婚なんてしないわ!!」
「こちらも前に言ったはずだ。俺との結婚はキミだけの問題じゃない。どこの御家にも事情はあるのさ。太古の戦争で疲弊し数を減らした純血の悪魔、今の三大勢力の拮抗状態にどれだけ純血の新生児が必要とされるか賢いキミには予想できるだろう? キミのお兄様もお父様も、御家断絶が怖いのさ」
「家は潰さないわ。私は私が選んだ婿と共に生きていく。少なくともその婿はあなたじゃないわ!!」
「必要とされるのは純血の俺と純血のキミの子供……そのために俺たちは選ばれたんだ。俺だってフェニックス家の看板を背負って、来たくもない人間界に来ているんだ。全ては家の名に泥をかけないようにしているんだよ」
平行線の話し合いに痺れを切らせたのはライザーだった。
目が鋭くなり、今までの飄々とした雰囲気は一気に消え去る。
「――俺はキミの下僕を燃やし尽くしてでもキミを冥界に連れて帰るぞ」
ライザーから駆け上がるのは炎。
火の粉が再び舞い散って、床や壁を焦がす。
そして一斉に広がる敵意と殺意。
上級悪魔の気に当てられ、一誠も思わず強く拳を握る。
アーシアも恐怖から一誠の腕に抱きついていた。木場、小猫、朱乃も今にも臨戦態勢に入ってもおかしくない状態。
イングヴィルドもアルヴェムの裾を掴み、その表情は不安げなもの。
それを見た瞬間、アルヴェムの行動は早かった――
「――今のは宣戦布告と見た。戦闘を開始する」
【
手のひらから光が噴き出し、槍を形成。
圧縮した空気と共に爆発的な速度で光の槍が撃ち出される。
行動の早さに敵意を向けてきたライザーすら目を丸くし、驚愕の表情を作っていた。
その驚愕した表情を上半身ごと吹き飛ばす。
それだけでは止まらず、部室の壁を貫き風穴を開け、それでも空へ突き進んだ一撃。
フェニックスどころか、悪魔陣営全体を敵に回しかねないほどの暴挙だった――