ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第十三話『猶予』

「アルヴェム、あなた……っ」

 

 アルヴェムの突然の行動にあれだけ激昂していたリアスも目を丸くする。

 だが、そちらに目は向けられない。

 上半身ごと悪魔が弱点とする光の槍で吹き飛ばしたはずだが、ライザーの生命反応は消えていない。

 

 フェニックス――

 悪魔に関しては一通り調べたが、幻獣の一種であるフェニックスと悪魔のフェニックスはほぼ同義。

 どちらも灰と化しても蘇る不死の生命力、その一端を見せられていた。

 

「さて、どうやって殺すか」

「おいおいリアス、随分と手荒い眷属がいるようだな……」

 

 炎が集まり、身体を再生させたライザーの背には一対の炎の翼が生まれていた。

 ライザーなりの戦闘態勢なのだろう。

 だが、今はそんなことどうだっていい。イングヴィルドに危害を加えると言うのなら、契約に基づいて相手がどんな存在であろうと消すのみ――

 

「お二人とも、落ち着いてください。これ以上すると言うのなら、私も黙って見ていられなくなります。サーゼクス様の名誉のためにも、遠慮など致しません」

「『最強』の女王と称されるあなたにそう言われちゃあ矛を収めないとな。サーゼクス様の眷属は誰もがバケモノ揃い……絶対に相対したくはないな」

 

 グレイフィアの静かな迫力にライザーは炎の翼を消す。

 そして、アルヴェムに問いかけてくる。

 

「こちらは矛を収めたが、そちらはどうする転生悪魔くん? まだやるつもりか?」

「――ああ。俺はイングヴィルドと結んだ契約を遵守する。彼女を傷つけようとする奴は神だろうが世界だろうが必ず消す」

Smash Drill(スマッシュ ドリル)

 

 右腕が変形し、返しが大量に付いたドリルへと変化した。

 高速回転するドリル刃はこの部屋に漂う魔力を巻き込み、聞くだけで危険な回転音を響かせた。

 

 一撃で死ななければ、磨り潰し続ける。

 グレイフィアもこちらの敵意、殺意は行動で示し続けているのは理解している。

 だから手元に魔法陣を出現させ――

 

「――♪ ――――♪」

 

 不意に歌が聞こえた。

 誰もがその歌の主に目を向ける。

 歌っていたのはイングヴィルド、どうして歌っているのか――

 そう問いかけようとした瞬間、不意に力が抜ける。

 片膝をつき、立ち上がろうにも力が入らない。いや、込めることすら拒絶されているようだ。

 

「なん、だこれ……」

 

 見ると一誠も巻き込まれていた。

 他の面々には何の異常もない。この空間で影響を受けているのは自分と一誠のみ。

 思わずアルヴェムは自らの中で眠っているユールーを叩き起こす。

 

【久しぶりに出てこれたって思ったらナニコレ!? とんでもないエラーが出てるじゃないの!?】

(いいから原因を調べろ……死にはしないが動きが止まっている……)

【えーっと、アンタのナマモノの部分の中でも……ドラゴンの部分が反応してんのよ。あっちの子も一緒。ドラゴンの神器を持ってるから、彼もドラゴンの一種ってわけね。アンタも元々改造されて今の身体になってんだから対策しないと効くのは当然。しかもあれ、だいぶ強いわね~対策するのに結構時間かかるわよ~】

 

 神器はこの世界特有の兵器。

 それも神が創り出し、神すらも屠る能力があるとすればアルヴェムに有効なものもあるだろう。

 まさかそれがイングヴィルドのものとは思わなかった。

 

 このタイミングで彼女の神器、その二つ目の能力が判明した。

 イングヴィルドの神器の能力は――海を操る力とドラゴンを制御する力。

 極めるとドラゴンの大群を率いて、海より未曾有の超災害を生み出すことができる。

 まさに『神滅具』と称されるに相応しい大規模な代物だ。

 

 変形していた右腕も元に戻り、戦意もなくなるアルヴェム。

 それを見たグレイフィアは構えを解き、歌うのを止めたイングヴィルドが傍へと寄る。

 

「ごめんなさい、アルヴェム。故郷の歌、あなたが好きだと言ってくれたから……歌えば落ち着いてくれるかなって思ったの」

「いや、いい……おかげで冷静になれた」

 

 未だにアルヴェムの中で吐き出され続けるエラーの数々。

 もはや数万の域に達しているエラーの処理はユールーに任せ、アルヴェムは一度リアスへ頭を下げる。

 

「出過ぎた真似をした」

「いいえ、あなたはイングヴィルドを守ろうとしただけよ。下がっていて」

 

 優しい笑みでそう言われると、アルヴェムは元いた位置までイングヴィルドと共に下がる。

 一誠の方はすでに身体の調子は戻っているようだ。対して、この世界の異物であるアルヴェムは未だに良くなる気配がない。

 この話が終わり次第、徹底的にメンテナンスをしなければならないだろう。

 

 場は荒れたが、双方の矛は収まった。

 グレイフィアは話を切り出す。

 

「これは最後の話し合いの場……しかし、両家共に納得するとは考えていませんでした。そこで、最終的な手段として、お嬢様とライザー様による『レーティングゲーム』で決着をつけるようにとお言葉をいただいております」

 

 レーティングゲーム――

 爵位持ちの悪魔が自らの駒、眷属悪魔と共に様々なルールの下で行われる競技だ。

 そのゲームでの強さが悪魔の上下関係を作り出すとも言われている。

 しかし、参加できるのは成人した悪魔のみ。ライザーはともかくリアスはその要件を満たしていない。

 

「身内同士、御家同士のいがみ合いは非公式のレーティングゲームで決着をつけなさいってことね。どこまで私の生き方を縛ればいいのかしら……だけど、受けるわ。ゲームで決着をつけましょう、ライザー」

「へっ、受けるのか。俺はすでに公式のゲームを何度か経験している。何なら勝ち星の方が多い。それでも受けるつもりかい?」

「当然。あなたを消し飛ばしてあげるわ!」

「キミが勝てば好きにすればいい。だが、俺が勝てば御家の決定に従って結婚してもらうぞ」

 

 挑戦的な笑みを浮かべるライザーに勝気なリアス。

 両者の視線が交錯し、見えない火花が両者の間で散っていた。

 

「双方の合意を確認致しましたので、私グレイフィアが此度のゲームを取り仕切らせていただきます。お二方、よろしいですね?」

 

 グレイフィアの言葉にリアスもライザーも肯定する。

 非公式ながらにレーティングゲームが決まった、その途端にライザーは嘲笑を浮かべる。

 

「しかし、リアス。キミの下僕はこれで全てかい? だとしたら、相手になるのは『女王』である『雷の巫女』か……気に食わないが、そこの威勢がいいガキしか俺のかわいい下僕たちに対抗できそうにないな」

 

 先ほどの一撃で

 パチン、と指を鳴らすライザー。

 すると彼の後ろにいくつもの魔法陣が出現する。

 そのどれもがフェニックスの紋様。そして現れるのは十五人もの女性だった。

 

「お、おぉ……っ!」

 

 今まで不満げにしていた一誠もこの壮観には声を上げた。

 多種多様な恰好をした女性たち。チェスの駒数から考えてフルメンバーだ。

 どうやらライザーは己の不死性を利用して数で押すのを主にしているらしい。

 計測器でサーチしたところ、戦闘能力はまばら。中でも『騎士』や『戦車』、『女王』は当然ながらに比較的数値は高い。

 

 平均的な強さから言って、リアス側が不利なことに違いはない。

 何より、一誠にとってこの光景は――彼が夢見るハーレムの光景だった。

 

「おい、リアス……あの下僕くん、俺を見て号泣しているんだが……?」

「この子、ハーレムを作るのが夢なの。すでに夢を叶えているあなたに感涙しているのよ……」

 

 ドン引きの表情を浮かべるライザー。

 他のライザー眷属たちも「きもーい」などと言って、一誠の涙に引いているようだ。

 しかし、すぐにライザーは笑って、

 

「くっくっく、おまえには一生できないさ。ただの下級悪魔の下僕くん」

「くそっ! 気にしてることを言いやがって! ブーステッド・ギア!!」

「ミラ、やれ」

 

 止める間もなく、一誠が『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を発動させ、ライザーに向かって突貫していく。

 ライザーが顎で示すと、前に出たのはライザー眷属の中にいた一人の少女――ミラ。

 小猫と同等に小柄。しかし、その身に余るほどの長さを持った棍を取り出しては器用に回して先を一誠へと向ける。

 

 対し、一誠は棍を奪って戦意を喪失させようと赤い籠手が装備された左手を伸ばすも――その身体が一回転する。

 走ってきた一誠の勢いを利用し、ミラは一誠の足に棍引っ掛けて転がしたのだ。

 何が起こったかわからない一誠にライザーは屈んでその様子を笑う。

 

「弱いな、お前。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』は俺だって知っている。極めれば俺や魔王、神すらも殺せる代物だ……だが、過去何人もいた使い手が魔王退治や神滅を成したことはない。何故だかわかるか? その神器が不完全であり、使い手もまたお前のような弱者ばかりだったというわけだ!」

 

 ライザーの笑いは止まらない。

 

「せっかくの神器もお前のような弱者には『宝の持ち腐れ』、『豚に真珠』……まったく、人間は好きではないが、その言葉選びは褒めるに値するよ。まさにお前のことじゃないか、下級悪魔の下僕くん!!」

 

 その言葉に一誠から奥歯を噛み締める音が聞こえた気がした。

 一度はアーシアを助けられず、今はリアスの敵の、それも末端にすら敵わない。

 悔しさはアルヴェムには想像できないほどのものだろう。

 

「――だが、少しでも使いこなせればマシな戦いができるだろう。今すぐにやっても勝敗は目に見えている……ゲームは十日後でどうだ? それだけあれば、キミなら下僕を何とかできるだろう」

「……ハンデとでも言いたいつもり?」

「感情で勝てるほどゲームは甘くないぞ。ゲームは下僕の力を十全に発揮できなければ即敗北の世界。いくら才能があろうとも初戦で力を発揮できなかった悪魔を俺は大勢見ている」

 

 軽い男だと思っていたが、どうやら少し違ったようだ。

 それともただ婚前の試練を楽しみたいだけか。理由は不明だが、まともなアドバイスをしている。

 ライザーの視線はリアスから一誠へと移る。

 

「リアスに恥をかかせるなよ。お前の一撃がリアスの一撃になるんだ」

 

 それは一誠だけの言葉ではなかった。

 グレモリー眷属全体への言葉であり、ライザーは背を向けて軽く手を振るう。

 

「じゃあな、リアス。十日後、フィールドで会おう」

 

 魔法陣が輝くと、ライザーとその眷属は一斉に光の中へと消えていった。

 部室には重苦しく、張り詰めた空気だけが残る。

 しかし、アルヴェムは今それどころではなかった。

 

 先ほど受けたイングヴィルドの力、それが予想以上の被害を齎している。

 エラーは増える一方で、視界の中ではユールーもあたふたしていた。

 

【ちょっと、一旦スリープモードに入ってよ! このままだとエラーを抑えるだけで何にもできないって!!】

「あぁ……わかった……」

「アルヴェム……?」

「すまない。この後、色々話すのかもしれないが……俺は一旦眠らせてもらう。先ほど受けた神器の力でエラーが止まらないんだ」

 

 言葉を選んでいる余裕すらない。

 覚束ない足取りでソファへ向かうと倒れるようにして横たわる。

 

「――――」

「――――――!」

 

 イングヴィルドやリアスたちが何かを言っているようだが、すでに音声は遮断されてしまった。

 プツン、とそこでアルヴェムの意識は遮断され、眠りについてしまう――

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