ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第十四話『不調の機械』

 夢を見た。

 誰かの在りし日、遠い記憶の残滓を――

 

『ノイン、あなたに魔力を継がせられなくてごめんなさい……私は母親として、当然の力をあなたにあげられなかった』

 

 母親、そう自らを称した女性はいつも謝っていた。

 その両腕の中には、ひとりの少年が抱きしめられているが表情は窺えない。

 

『それでも、あなたにはたくさんの家族がいる。愛してくれる人たちがいる……決してひとりではないわ。だから、周りから何と言われようともあなたは夢を見ていいの。叶えたいと願って、努力していいのよ』

 

 そう言う母親だが、頬には涙が伝う。

 自分を責めているのだろう。本来、持って当然の力を持ち合わせていないことが、どれだけこの人生の先で足を引っ張ってくるのか知っているが故に。

 

 それは少年にも伝わっていた。

 自分の存在が母親を苦しめていることはわかっている。

 だからこそ、何も言わなかった。

 罵詈雑言を浴びせようとも、泣いても、自分が置かれた状況は変わらない。

 この苦しみは未来永劫母親にも、この場にいない父親にも伝わらないのだから。

 

 だが、少年には十歳にしてわかっていた。

 生まれが失敗してしまった以上、自分が本当になりたいものにはなれないのだと。

 

 結局のところ、どれだけ社会が変わろうとも、求められているのは力なのだ。

 価値観は少しずつ変わっている。しかし、その根幹は変わらない。

 貴族も、民衆も、惹きつけるのは持っている力。冥界では魔力が物を言う。

 

 その点、双子の兄は何もかも違った。

 母親から魔力の性質を継ぎ、父から神器の適正をも継いだ。

 才能もあり、自分とは違ってあらゆる力を見せ、少年が欲しかったものを全て持っている。

 反対に自分はその全てを持っていない。全くもって対極の位置に存在していた。

 

 いや、生まれが悪くとも研鑽を重ね、自らの身体を極限にまで鍛え、王の座に就いた者なら知っている。魔力を持たぬ者にとっての希望とすら称されていた。

 

 しかし、それは五体満足だからこそ可能だったに過ぎない。

 抱きしめられいる少年の身体の一部が透けて消えていく。

 消えた先、その身体にはいくつもの欠損が見られた。

 左腕は肩から先がなく、左足も膝上から先が削り取られたようになくなっている。

 

 少年の双眸には確かな絶望があった。

 

 何もない自分。それでも、少年は家族の役に立ちたいと心から願っていた。

 そのためにも努力はした。剣技だけならば兄をも凌ぐほどになり、これで一緒に戦えるはずだと思っていた。

 だが、自分から腕と足を奪ったのは――

 

 と、そこで母親が靄となって消えていった。

 場面は変化し、少年はまた一人となる。

 だが、そこに一人――いや、一体と称すべきか。

 全身が機械で創られし超常の存在――機械生命体(エヴィーズ)が静かに佇んでいた。

 悪魔のように魔力を発するわけでもない。しかし、その身から伝わる迫力は辺りの時を停めているのかと錯覚するほど濃密なものだった。

 

『全てを奪われ、絶望の淵に立つ子よ――少し、話をしよう』

 

 ―○●○―

 

「…………」

 

 妙な夢を見た。

 記憶フォルダを覗こうとも、該当するデータはどこにもない。そんな夢を。

 

 起きはしたものの視界は真っ暗。頭は酷く重苦しい。未だにエラーは吐き出され続けているようだ。

 どうやら休眠状態を解除したところで、視覚は遮断されているらしい。それほど予断を許さない状態のようだ。

 

 この世界に来て、間違いなく一番の深手だ。

 それを与えたのが自分が助けたイングヴィルドだとは皮肉が効いている。

 

「……んっ」

 

 と、ここでようやくその他に起きている異変に気付いた。

 どうにも視界は完全に真っ暗というわけではない。

 後頭部、そして顔には柔らかな感触が伝わっており、今聞こえたのは間違いなくイングヴィルドの声だ。

 

 何が起こっているのか。

 視界はままならないが、腕は動く。

 とりあえず、手で目の前にある塊に触れてみる。

 球体が二つ繋がっているような形状。布地の感触。適度な重厚感。中には何か水を含んだものが入っているのか、柔らかい素材のようで下から軽く押し上げるとたぷたぷと揺れる。

 不思議と触っていて飽きない。一体、自分は何に挟まれているのか――

 

「あ、アルヴェム……その……ちょっとだけ、恥ずかしいかな……?」

 

 上方から聞こえてきたイングヴィルドの声。

 そこでアルヴェムは自身がやらかしたことに気付く。

 ゆっくりとアルヴェムの顔に乗っていたものが退き、部室の天井がようやく見える。

 

 その前には顔を紅潮させたイングヴィルド。

 触っていたのは――彼女の乳房だった。

 どうやら膝枕をして看病しているうちに自らも前屈みになって眠っていたらしい。

 

「……本当にすまない。計測器もろくに機能しないからキミだとわからなかった」

 

 心の底から素直に謝罪する。

 年頃の女性の乳房を異性が触るのは断固許されないもの。

 現にイングヴィルドも少し暗い表情を浮かべ、

 

「目を覚まして良かった。私のせいで倒れたから、もしこのまま目を覚まさなかったらって思ったら……」

 

 どのような報復も受ける覚悟だったが、イングヴィルドが暗い表情をした理由は乳房を触られたことではなかったようだ。

 

 不意に水滴がアルヴェムの頬に落ちる。

 それはイングヴィルドが流した涙。かつて家族、知人を全て失った彼女にとって、自分の力によってアルヴェムが倒れたことがよほど堪えたらしい。

 ポロポロと涙を流すイングヴィルドに、アルヴェムはその頭に手を置く。

 

「俺は大丈夫だ。少し機能不全に陥っているだけで、すぐに直る。それにキミから膝枕をしてもらえた分、男として損得勘定するなら得の方だろうな」

 

 それを聞いてイングヴィルドは目を丸め、やがてクスっと微笑んだ。

 

「それなら良かった……リアスさんがこうしたらすぐに元気になるって教えてくれたから」

「そういえば他の面々が見えないが……俺が眠ってからどれくらい経った? 他のメンバーはもう帰ったのか?」

「うん。寝ていたのは四時間くらい、かな。アルヴェムがソファに倒れて、私が傍に行ったらバリア……が、私たちを囲って、治療しようとしたアーシアさんも皆も近付けなくなったの。自己修復しているみたいだからって、後は私に任せてくれて。アーシアさんたちは家に帰って、リアスさんと朱乃さんはレーティングゲーム……の作戦会議をするみたい」

「そうか……ありがとう」

「アルヴェムはどう? 調子は戻った?」

「正直、かなり厳しい状態だ。ドラゴンを制御する力……それが俺の中で妙な挙動をしたせいで、身体のあちこちにエラーが大量に発生している。自己修復はレーティングゲームに間に合わないかもしれないな」

「本当にごめんなさい。私のせいで……」

「キミを責めてはいないよ。むしろ、このレベルでの脅威を今のうちに対策できることは何よりの成果で、礼を言いたいぐらいだ」

 

 その言葉に嘘はない。

 だが、そのエラーの処理している間、アルヴェムのリソースはそちらに割かれ続ける。

 おかげで現状戦闘能力はかなり落ちてしまっていた。修復も十日後のレーティングゲームにはギリギリ間に合うかどうかのレベルだが、他のメンバーの活躍に期待するしかない。

 また落ち込みそうなイングヴィルドにアルヴェムは頭を彼女の膝に委ねる。

 

「神器の力はまだ制御できるレベルじゃない。ゆっくりでいいんだ。そして、今キミにできることと言えば、まだ立ち上がれない俺に膝枕を続けてくれることかな」

「うん、任せて」

 

 ようやく笑ってくれたイングヴィルドに、アルヴェムも満足する。

 そこで再び頭の中に警報が鳴り始めた。どうやらユールーからの休めとの合図のようで、アルヴェムの瞼は再び閉じられる――

 

 ―○●○―

 

「ほら、イッセー。早く歩きなさい」

「はぁ……は、はい……」

 

 レーティングゲーム決定から翌日の朝。

 リアス率いるオカルト研究部は鍛錬のために山を登っていた。

 一誠の背にはリアス、アーシア、朱乃、一誠の四人分の荷物がこれでもかとあり、その身長をも上回る巨大な荷物を背負わされていた。

 

 空は突き抜けるほど青く澄んでいる。

 周囲に木々は生い茂り、小鳥の囀りも聞こえ、まさに自然の豊かさを堪能できるシチュエーションだ。一誠本人に楽しんでいる余裕など微塵もないが。

 リアス曰くこれも修行の一環らしい。山にはグレモリー家の所有する別荘があるらしく、今回の目的地。

 まだ三分の一程度しか進んでいないため、一誠の命が持つかはわからないが本人は悪戦苦闘しながらも山道を進んでいた。

 

「それじゃあ、イッセーくんお先に」

 

 そんな一誠の隣を木場が通り過ぎていく。

 木場も同じくらいの量を持たされているものの、その表情は涼しい。

 露骨に悔しそうな顔をする一誠だが、ふと気付いた。

 

「あ、あれ……そういえば、アルヴェムとイングヴィルドは……?」

「――ここだ」

 

 周りを見渡し姿を探す一誠にアルヴェムの声が近付く。

 しかし、一誠の隣を通り過ぎたのは誰よりも大きな荷物を背負った小猫で、一誠も疑問符を浮かべるも小猫が背負う巨大なリュックにはまだ続きがあった。

 

 リュックには固定具が付けられており、その先は荷車へと繋がっていた。

 その荷台にはふわふわの絨毯が敷かれており、昨日に引き続きイングヴィルドの膝枕で横たわっているアルヴェムがいた。

 

「塔城、本当に助かる。俺だけじゃなくイングヴィルドも乗せてくれてありがとう」

「私からも、お礼を言わせて……ありがとう、塔城さん」

「……いえ、全然平気です。私たちの代わりにあの焼き鳥に一撃入れてくれたの嬉しかったですから、そのお礼です」

 

 ライザーとの一件、表情には出さなかったが小猫も相当怒りを堪えていたようだ。

 それを聞いていた一誠は自分を指差し、

 

「い、一応俺も向かって行ったんだけど……?」

「……あそこで勝ってくれてたら話は違ってました」

「うっ! 痛いところを突かれた!」

 

 完敗した一誠はどうやら対象外らしい。

 しかし、荷車は意外と寝心地が良い。砂利が多い山道では揺れ続けると思っていたが、リアスが魔法を掛けてくれたおかげで車輪が少し浮いた状態となり干渉もしないので何の問題もない。

 小猫が一誠を通り越え、目が合うと途端に羨望の視線を送られる。

 

「こっちがぜぇぜぇ死にかけながら登ってるっていうのに、美少女から膝枕されながら楽々と運ばれてるなんてうらやまけしからんぜ……」

「仕方ない。動きたくても、身体の中にあるシステムが復旧しない限り動けないのだから」

「そんな機械みたいなことを言って……」

「……? ああ、言ってなかったか。見た目はヒトだが中身は全て機械でできている。この世界のフィクションでもサイボーグ、ロボット……それらを何かしらの形で見たことがあるだろ? 俺はそれだ」

「ええっ!? マジで!? って、確かライザーの時も手がドリルになってたな……」

「今はその変形すらできないがな。なるべくレーティングゲームまでには直すつもりだが、今回の合宿のほとんどは見学か情報収集になる」

「マジか……本当に大丈夫なのか?」

「ああ、心配せずともどうにでもなる。キミに近しい表現で言えば……気合いで何とかなる、かな」

「なったらいいんだが……まあ、無理でもお前の分まで俺が頑張る! それしかねえ!」

「頼もしい限りだな」

 

 と、そこまで会話して小猫がさっさと一誠から通り過ぎて行ってしまう。

 あっという間に後ろで小さくなっていく一誠に早速頼りなさを少々感じてしまうアルヴェムだった――

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