ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第十五話『勝利の女神』

「やはりフェニックスの戦法は犠牲(サクリファイス)と『王』が不死身性を押し付けることか……」

 

 一誠が木場と剣術訓練をしている中、アルヴェムは車椅子に座りながらタブレットを見ていた。

 見ていたのはライザーの公式戦の記録映像。それも最新から順番にだ。

 勝ち星が多いとライザーは言っていたが、その理由は映像を見ればわかる。

 

 絡め手のない真正面から戦うルールならば、例え眷属の力が相手の眷属に劣っていたとしても『王』であるライザーが不死身であるために詰ませることができない。

 そしてライザーは生粋の純血悪魔ともあって、生まれながらに高い才能と魔力を持っている。

 フェニックスを倒したければ、神に等しい一撃で圧殺するか、心を折るかの二択になるが、ライザーの才能がそこまで追い込む難易度を跳ね上げている。

 

 部室で光の槍を放った時、仕留めきれなかったのは対策兵器(アンチ・ウェポン)の精度が低かったためだ。悪魔なら光の槍で軽く死ぬと思っていたが、参照にした堕天使が悪かった。

 あの時、弱点など考えず自らの武器を放っていれば容易く事は終わっていただろう。

 

 しかし、それは『たられば』に過ぎない。

 光の槍で殺す場合は、やはり幹部クラスの堕天使のデータが欲しいところ。だが、レーティングゲーム開始までの期間と身体の調子からして現実的ではない。

 

 少し悪魔に対する認識を改めなければならないようだ。

 異能(ユニーク・スキル)、と言っていいだろう。

 グレモリー家には触れるだけで敵を滅ぼす『消滅』の魔力、フェニックス家には灰になったとしても蘇る圧倒的な『不死身』の再生能力。

 それぞれ特性を持っているため、油断していると足をすくわれることになる。

 

 今回問題なのは、やはりライザーの不死身性をどう突破するか、だ。

 二択にはなっているものの、今のグレモリー眷属ではどちらも現実味がない。

 仮にリアスが一騎打ちに持ち込んだところで、先に体力や魔力が尽きるのはリアスの方だ。

 

 恐らく、それを踏まえた上でリアスの両親はこの縁談を持ちかけたのだろう。

 リアスがライザーを拒絶したところで、ゲームには絶対に勝たせない。

 経験、能力上の不利を押し付けて御家の我を通そうとしているのだ。

 

 それが合理的と言えば合理的だ。

 悪魔という種の存続がかかっている以上、例え名家の次期当主であるリアスでも例外はない。

 彼女が何を感じるかなど冥界の事情に関係のないことなのだから。

 

 しかし、あくまでアルヴェムはリアスの眷属であり彼女の味方だ。

 彼女の庇護によって自分も、特にイングヴィルドは今まで平穏に過ごせている。

 その恩は返さなければならない。

 

 だから、今の状態でも全力は尽くす。

 何かフェニックスの弱点でも知れる方法があれば、話は変わってくるのだが――そうアルヴェムが顎に手を当てて考えていると不意にイングヴィルドがタブレットを指差す。

 

「この子、あのライザーって人に似てるね」

 

 イングヴィルドの指先を見てみると、そこには金色の髪を両側頭部あたりで縦ロールにしている美少女だった。

 ドレスを着込んでいる彼女は他の眷属とは雰囲気が違う。

 計測器がまともに機能していないせいで見落としていたが、確かにライザーに似ていた。

 何なら背中に炎の翼を生やして優雅に飛んでいる姿まで映っている。

 

「ありがとう。すごくいいことに気付いてくれた」

「本当? それなら良かった」

 

 タブレットを操作し、ライザー眷属のページを映し出す。

 先ほどの金髪美少女の情報欄を見ると、そこには『レイヴェル・フェニックス』と表示されている。

 丁寧に書かれている説明欄にもライザー・フェニックスの妹とあり、情報は確定した。

 

「この子がどうしたの?」

「どうやら俺にとっては、この子が勝利の女神のようだ」

 

 その言葉の意味が分からず、イングヴィルドは眉を顰める。

 少し不満そうだが、今は置いておく。

 とりあえず、今はリアス・グレモリーに話すのが先だった――

 

 ―○●○―

 

「レイヴェル・フェニックス……えぇ、知っているわ。彼女はライザーの実の妹よ。間違いないわ。でも、それがどうしたの?」

 

 あれからイングヴィルドに車椅子を移動してもらい、アルヴェムはリアスの元へと来ていた。

 リアスもゲームの記録を確認していたようで、すぐにレイヴェルのプロフィール画像をタブレットに映す。

 

「あくまでひとつの案として聞いて欲しいが、フェニックスの不死身を攻略する手段を思いついた」

「っ……それは本当なの?」

「ああ。俺が堕天使を研究したことを覚えているか?」

「カプセルで捕獲して、その中で解析していたのは覚えているわ。まさか……」

「次のレーティングゲーム中に『レイヴェル・フェニックス』を捕まえて、対フェニックス用の武器を作る。ライザーを倒すなら、これが確実な方法のひとつだ。だが、問題はいくつかある」

「問題……?」

 

 怪訝そうにするリアスに、アルヴェムは実際のゲーム映像を見せる。

 

「前に作ったカプセルを作ろうと思えば今の状態だと時間がかかる。前もっての準備もこの状態では叶わないし、持ち運んでいれば怪しまれる。それにレイヴェル・フェニックスはゲーム中ひとりでは絶対に行動しないはずだ。必ず傍に『騎士』か『戦車』を置いている。序盤から彼女を拉致するにはなかなか難しいだろう」

「確かに彼女が出ている試合は必ず護衛がついているわね……」

「捕まえたとして、ライザーに気付かれればリタイアさせるか激昂して早期に勝負を仕掛けてくる危険性がある。それで数が少ないこちらの盤面を不死身を前面に出して崩しに来られたら一環の終わりだ」

 

 レーティングゲームのルールを調べたところ、駒のリタイア条件に一定以上のダメージを与える以外に『王』が続行不可能とみなした者もリタイアにできると記載があった。

 そして、フェニックス兄妹の関係性は不明だが、大抵の兄は妹を守るために行動する可能性が高い。

 対策もできていない状況でライザーが動き出せば、身体の調子にもよるが止めるのは至難になる。

 

「今回の戦いは彼にとっても負けられないもの……リタイアはともかく死なないとわかっている以上、実の妹を犠牲にしてくる可能性は十分にあるわ」

「だったら、後はリタイアさせない方法だが……単純だ。ライザーに連絡をさせない。俺が妨害電波を出して周囲の通信機器を封じる。俺も使えなくなる分、それ以降の動きは俺の裁量に任せてもらうことになるけどな」

「リスクのある賭けね。つまり、犠牲(サクリファイス)覚悟で単独行動をしたい……それがあなたが提案したい作戦なのかしら?」

「そうだな。失敗してもただの自爆覚悟の特攻に見えるから相手に意図は伝わらない。まあ、レーティングゲーム本番までパワーダウンしていたらの話だ。元に戻っていたら、あれぐらい殺しきれる」

「そう言い切れる自信が今は羨ましいわね……正直なところ、どれくらいで元に戻れそうなの?」

 

 苦笑するリアスは改めてアルヴェムの現状を問う。

『王』の前だ。適当にはぐらかしたり、虚偽を説明することはできない。

 率直にアルヴェムは言う。

 

「普通に歩けるまで二日。出力を完全に戻そうとすると、そこから七日はかかる。力を徐々に戻すことはできない。エラーを全て解消してからじゃないと何が起こるかわからないからな」

「それで戦えるの?」

「ああ。今回の相手に問題ないくらいの力はある。だが、ライザー相手には決定打に欠ける。だからこそ、提案しているわけだ」

 

 犠牲覚悟の特攻。

 情愛深く、眷属を愛してくれているリアスに求めるのは酷な話かもしれない。

 それで勝てるならいいが、勝負の世界はそう甘くない。

 これから本気でレーティングゲームに参加していくともなれば、必ず非情な選択は必要になってくる。その時に出来なければゲームだろうが実戦だろうが付け込まれて終わりだ。

 

 少し悩んで、やがてリアスは答えを出した。

 

「――わかったわ。あなたを信じる。もし失敗したとしても私たちがカバーするわ」

「ありがとう。やるからには必ず成功させる……だが、忘れないで欲しいのはあくまで作戦のひとつだ。第二、第三の矢を考えていてくれ」

「それなら大丈夫。ひとつはもう浮かんでいるから」

 

 リアスがウィンクをし、彼女の視線を追う。

 そこでは小猫と格闘の鍛錬を行っている一誠がいて、何度も吹き飛ばされながらも起き上がって懸命に強くなろうとしていた。

 

「イッセーが基礎体力を上げるほど『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の倍加に耐えられる器が出来上がる。あの子の攻撃力がゲームの状況を左右するはずよ。その分、パワーアップ前に潰される危険性もあるから、力が増幅するまでは逃げる術を教えるつもり」

「部長の人生が掛かっているんだ。イッセーも死ぬ物狂いで強くなるはずさ。ゲームでも部長のために命を懸けて戦うだろう」

「あら、あなたは命懸けで戦ってくれないのかしら?」

「俺は生き汚くてな。今のところは一人のためにしか命は懸けられない。悪いがイッセーや他の面々の命で勘弁してくれ」

「ふふ、わかっているわよ。良かったわね、イングヴィルド。あなたのためなら命を懸けてくれるそうよ?」

 

 悪戯っぽく笑って、リアスが視線を送るとイングヴィルドは俯いてしまう。顔も心なしか赤い。

 ふたりぼっちの契約を遵守する以上、彼女も自分に命を預けるのだから、こちらも彼女に対して命を懸けるのは当然のことだろう。

 あくまでこの契約は対等。どちらが上、どちらが下というものはない。

 

 それよりも、これでリアスからの許可は得られた。

 次にすることはカプセルの最適化と作成にかかる時間の算出――それを手作業でしていくことだ。

 イングヴィルドに声を掛け、アルヴェムはその場から去っていく――

 

 ―○●○―

 

「処理能力もここまで下がっているとはな……」

 

 夜の訓練も終わり、皆が寝静まった頃――

 イングヴィルドと同じ寝室で、ペンを走らせる手を止め、計算結果を見てみると嫌な現実が数値化されていた。

 レイヴェルのプロフィールを見るとカプセルのサイズは小型でいい。自走システムも切っていいだろう。

 だが、戦闘中に扱うために耐久性が必要となってくる。内部にある解析用の道具も削減はできない。その二つでリソースを食われてしまい、十五分は時間がかかる計算だ。

 

 レイヴェル・フェニックスを捕えて完全に解析するのはそれ以上掛かるかもしれない。

 記録を見ていてわかったが、レーティングゲームは短期決戦はあるもののほとんどが長時間に渡って行われる。

 序盤は地形の把握、トラップ、索敵などの牽制から相手の本陣へ切り込むための中間拠点の奪い合い。中盤からは『王』を取るために本格的に動いていくのが定石だ。

 

 こうなれば序盤から敵陣に突っ込むのもあるかもしれない。

 その方が蜂の巣を叩いたように敵が出てくるだろう。レイヴェルも興味を抱いて釣られる可能性だってある。

 

「アルヴェム……?」

 

 考えていると、眠気眼を擦りながら眠っていたイングヴィルドが起きてしまう。

 部屋の明かりを点けていないので部屋は暗いまま、唯一の明かりは光を放つタブレットのみ。

 ただ、悪魔は夜目が利くのでイングヴィルドは迷わずアルヴェムの隣に座ってくる。

 

 一度数式が書かれた紙を見るも理解できなかったのか、すぐに視線を外す。

 代わりにイングヴィルドが見たのはタブレット画面で、

 

「また、その子見てる……」

「俺が描く勝利にはこの子が必要だからな。正確なカプセルを作るには、より細かい情報を得ようとするのは当然だよ」

「ねぇ、アルヴェム」

 

 と、そこまで言ってイングヴィルドは言葉を一旦止めた。

 側頭部をアルヴェムの肩へと預け、手をそっとこちらの手に重ねてくる。

 

「私じゃ、あなたの勝利の女神になれない……?」

 

 その言葉の意図が一瞬わからなかった。

 記憶を探って考えてみると、レイヴェルのことを総称したことがある。

 そこでも不満そうにしていたが、どうやら『勝利の女神』という表現に問題があるらしい。

 

「あれはただの比喩表現だ。その要素のひとつを彼女が持っているに過ぎない」

「だ、だったら……私は二つ、出そうかな」

 

 何の対抗心だろうか。

 そもそも勝利の女神という表現自体、願掛けに近い。

 深く考える必要もないはずだが、イングヴィルドにはそうもいかない問題のようだ。

 

 やがて、意を決したイングヴィルドが一度だけ深く呼吸をする。

 目を大きく開き、勢いのまま言う。

 

「手を……ま、前に出して……」

「こうか?」

 

 と、出した手をイングヴィルドに調整される。

 高さは彼女の胸の位置ぐらいで、手のひらがイングヴィルドへと向く。

 何がしたいのか、イングヴィルドの考えが全くわからない。

 

 様子を見ていると恐る恐るイングヴィルドはアルヴェムの両手首を掴む。

 緊張しているのだろう。暗闇でも見ただけで動悸が激しくなっているのがわかる。

 

「何がしたいのかわからないが……無茶はしないでくれ」

「大丈夫……ちょっと、緊張しているだけ。うん、大丈夫」

 

 言って、いきなり両手を引かれる。

 その先にあるのは――イングヴィルドの豊かな胸のみ。

 

 アルヴェムが何か言う前にその両手は彼女の胸に触れてしまう。

 完全に理解不能だった。あまりの突然の行動にアルヴェムもその思考がまるで読めない。

 

「アルヴェムはその、胸……が好きみたいだから。景気づけ……って、言うのかな?」

 

 しかも、とんでもない誤解を受けている始末。

 確かに知らなかったもののイングヴィルドの胸は触ったが、誰も好きとは言っていない。

 これ以上の誤解を受ける前に弁明を――と、思ったところで、手が胸に触れたままイングヴィルドがアルヴェムの後ろへ手を回して抱き寄せる。

 

 ちゅっ……と、小さな水音。

 イングヴィルドの唇がアルヴェムの額へと触れたのだ。

 キス、確かコミュニケーションの一種。額への意味は――

 

「レーティングゲーム、勝てるようにおまじない。お……お、おやすみっ」

 

 今までにないほど顔を紅潮させたイングヴィルドは離れるなりベッドに飛び込んでしまう。

 これが共感性羞恥というものか。何故かこちらまで恥ずかしいものを感じる。

 

「……恥ずかしくなるならしなきゃいいのに」

 

 せいぜい、こんな言葉をかけるのが精一杯なアルヴェムは自分の判断能力が落ちていることを察した――

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