ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第十六話『開幕』

「動作も問題ない。出力は……相変わらずだな」

 

 レーティングゲーム当日――

 開始時間は零時ちょうど。その二十分前には部員全員が部室に待機していた。

 緊張が空気として伝わっており、それぞれ自らが一番リラックスできる方法で時間が来るのを待っている。

 

 シスター服のアーシアを除き、皆は駒王学園の制服に身を包んでいた。

 これはリアスの発案で、眷属のユニフォームは全員に馴染みのあるものにしようと決定したものだ。アーシアだけはシスター服の方が馴染みが深く、本人の希望もあってそうしている。

 

 周囲を見てみると、皆思い思いのリラックス法で緊張をほぐしているようだった。

 一番の懸念点だった一誠も思いのほか落ち着いている。

 鍛錬のおかげか、それともリアスのおかげか。その表情には少し自信さえも感じるほどだ。

 

 山篭もりの修行は一誠たちにとって、きちんと効果はあった。

 今まで一定以上、神器による強化を受けると倒れていた一誠だが、基礎体力を向上させることによって、前よりも遙かに高い水準の強化を行えるようになった。

 木場や小猫も、二日ほど遅れて鍛錬に参加したアルヴェムのリハビリテーションを兼ねての模擬戦闘を重ねて彼らの動きも良いものへと仕上がっている。

 

 戦闘能力にしてもライザー眷属に比べて遜色はない。

 これで後はライザーをどう仕留めるかだが、プランはふたつ。

 

 アルヴェムがリアスに進言したとおり、レイヴェルを捕まえて解析して必殺の一撃で仕留める。

 合宿で基礎能力を向上させた一誠を含め、残ったメンバーでライザーを磨り潰す。

 そのふたつ。片方に関しては心もとないものの、不死身の相手にやれることをやるしかない。

 

 そうこう考えているうちに開始十分前となった。

 部室の魔法陣が光り輝くと、その場に現れたのはグレイフィア。

 言っていたとおり、今回ゲームを取り仕切るのは彼女。出てくるのは当然だろう。

 

「皆様、準備はお済みになられましたか? まもなく開始十分前となります」

 

 その声と共に皆が立ち上がる。

 木場は手甲と脛当てを装備しており、小猫は格闘家が着けるグローブをそれぞれ装備していた。朱乃は特に防具を装備はしていないが、すでに戦闘態勢はできているようだ。

 それを見て、グレイフィアは言葉を続ける。

 

「開始時間になられましたら、魔法陣より戦闘用のバトルフィールドへと移送されます。そこは魔法でできた空間ですので、どれだけ破壊してもこちらに影響はございません。思うがまま戦ってください」

 

 戦闘用の別空間、悪魔にも空間に関与する力は持ち合わせているようだ。

 そこで、一誠がリアスへと問いかける。

 

「そういえば、アーシアの他にもうひとり『僧侶』がいるって聞いた気がするんですけど、今回のゲームには参加しないんですか?」

「ええ。ちょっと事情があってね。それについてもいずれ話すわ」

 

 アルヴェムも存在は知っている。確か、吸血鬼……と表示されていた男だ。

 一誠が口に出した途端に空気が張り詰めたあたり、もうひとりの『僧侶』はグレモリー眷属にとっては腫れ物らしい。

 このゲームの結果次第でリアスの人生が変わるというのに薄情かもしれないが、リアスが言う通り事情があるのだろう。察して、一誠もそれ以上は深く追及しない。

 

「今回のレーティングゲームは両家ともに別の場所から中継でご覧になられます。魔王ルシファー様も拝見されますので、それをお忘れなきよう」

「お兄様が……?」

「お、お兄様……って、俺の聞き間違いですかね……?」

「イッセーくん、部長のお兄様は魔王様だよ。聞き間違えじゃない」

 

 木場の言葉に驚く一誠。アルヴェムとしても、それは初耳だった。

 続けて、木場は言う。

 

「家名と違うから混乱しがちだけど、先の大戦で魔王様が亡くなってから継ぐ者にその名を継承するんだよ。だから、グレモリー家の生まれでも名前がルシファーに変わるんだ」

「要するに四大魔王……ルシファー、ベルゼブブ、レヴィアタン、アスモデウスという名は役職名になったというわけか。イッセーに馴染み深い言い方で言えば、社長、校長、理事長……そんなところだな」

「急にスケールを小さくするなよ……でも、わかりやすいのは確かだな」

「サーゼクス・ルシファー。『紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)』、それが『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』である部長のお兄様であり、本家魔王を失った今の冥界を支える歴代最強の魔王だよ」

 

 本来ならばグレモリー家を継いだのは長男であるサーゼクスだっただろう。

 それが家を出て魔王になったために、リアスが次期当主となった。その重圧はこちらには計り知れない。

 

「そろそろ、お時間となりました。皆様、魔法陣へとお集まりください」

 

 グレイフィアの言葉があり、皆が魔法陣へと集まっていく。

 アルヴェムも向かおうとした時、不意に服の裾を抓まれて振り向くと、イングヴィルドがそこにいた。

 

「私、応援してるから。がんばって」

「ああ。見ていてくれ」

 

 彼女の微笑みと応援を背に、アルヴェムも魔法陣へと向かう。

 その途中、グレイフィアと目が合った。そこで、一度アルヴェムは頭を下げる。

 

「この前は失礼しました。あの時は冷静さを欠いていました」

「いえ、謝られることではございません。あなたはあの時自分のすべきことを、私には私のすべきことをしようとしただけ。ただそれだけに過ぎません」

 

 それに、とグレイフィアは言葉を付け足す。

 

「守るべき大切な者がいることは良いことです。立場上、あなた方に肩入れをすることはできませんが今夜は健闘をお祈り申し上げます」

 

 少しだけ、アルヴェムにしか見えなかったがグレイフィアが微笑みを見せる。

 それはグレモリー家のメイドとしてではなく、グレイフィア個人としての感情を垣間見た気がした。

 だが、それ以上会話をしている暇はない。

 再度一礼してアルヴェムも魔法陣に乗ると、魔法陣がグレモリー家の紋様から変化し、どこかへと転送されていく――

 

 ―○●○―

 

 転移した先、それは先ほどと変わりがない旧校舎の部室の光景だった。

 しかし、部室から空を見てみると深夜にも関わらず、その色は白い。

 学園の先も街の光景ではなく異空間。どうやら今回のレーティングゲームが行われるフィールドはアルヴェムたちが通う駒王学園ということらしい。

 

『皆様。このたびのレーティングゲームにて審判役を務めさせていただきます、グレモリー家の使用人グレイフィアです。どうぞ、よろしくお願いいたします』

 

 どこからか、グレイフィアの声が聞こえてくる。

 

『此度のバトルフィールドは両者の意見をご参考にリアス様が通う学び舎「駒王学園」となりました。両者、転移された場所が「本陣」となります。リアス様の本陣は旧校舎、オカルト研究部。ライザー様は新校舎、生徒会室となります』

 

 本陣、それは『兵士』において最も重要な拠点を指す。

『兵士』の特性は『プロモーション』。相手の本陣に入ることによって『兵士』と『王』以外、全ての駒のうちからひとつの特性を得られる。

 

 今回の戦いは『兵士』の数は相手が圧倒的に上。

 もし、ライザー眷属『兵士』八人全員が『プロモーション』して『女王』になった場合、『王』であるリアスを守り切ることは難しくなるだろう。

 

 レーティングゲームでは『兵士』を先に動かして潰し合うのが定石。

 だが『兵士』の人数差から言って、今回はそのような定石からは外れるだろう。

 

「全員、この通信機を耳に着けてください。ゲーム中はこの通信機を介してやり取りを行います」

 

 朱乃からイヤホン型の通信機を受け取った部員たちはそれぞれ片耳に嵌めていく。

 確実にアルヴェムはこの通信機を使えなくするのだが、それを承知の上だろう。

 

『開始のお時間となりました。制限時間は人間界の夜明けまで。それでは、ゲームスタートとなります』

 

 いよいよ、リアスの運命を決めるレーティングゲームが始まりを告げた――

 

 ―○●○―

 

 レーティングゲームが始まって数分、リアスの作戦はすでに始まっていた。

 まずは新校舎まで繋がっていて、相手からも索敵しづらい体育館を取るために下準備が行われている。

 木場や小猫は本陣である旧校舎の周りにある森にトラップを、朱乃は空も含めて森と旧校舎周りに霧と幻術の仕掛けを施しライザー眷属の侵入を防ぐために出て行っている。

 

 アルヴェムもまた捕獲用カプセルの作成を体内で開始していた。

 やはり、今夜までに出力は戻り切らなかったために時間はかかるが、これで負けてしまってはイングヴィルドが自らを責めてしまう。

 気合いで処理速度は上がらないが、やるしかないのが現実だ。

 

 と、そこで一誠に目をやる。

 現状、序盤では全く役目がないのか少し暇そうにしていた。

 

「イッセー、少し話をしていいか?」

「ん、どうした?」

 

 もしかしたら止められるかと思ったが、リアスは何も言わない。

 なので、構わずに続ける。

 

「これから戦うわけだが……緊張しているか?」

「そりゃあしてるさ。だけど、今はそれよりやる気がみなぎってるって感じだ。何たって、部長の人生がかかってるんだからな!」

「そうか。だったらひとつ頼みたいことがある」

 

 今回、アルヴェムが持つ作戦はリアス、朱乃を除いたメンバーには伝えていない。

 もし伝えれば、それが余裕となって相手に何かあると伝わって警戒されてしまうかもしれないからだ。

 怪訝そうにする一誠の肩に手を置き、

 

「もし、ライザーと戦うことになったら勝てなくてもいい。ただ、死ぬ気で食らいつけ。それで必ず勝てる。俺には測定できない根性というものを見せてくれ」

「何だかわからねえけど任せとけ! どんだけ他が足りなくてもそれだけは誰にも負けねえからよ!」

「頼りにしてる――じゃあ、俺もそろそろ動く」

 

 アルヴェムも部室から出て、旧校舎から外へと出るのだった――

 

 ―○●○―

 

 一通りの罠も仕掛け終えた後、レーティングゲームは中盤戦へと突入していた。

 まだ両陣営とも脱落者は出ていない。両者ともここからが本番だと思っているのだろう。

 一誠は小猫と共に中間地点である体育館へ。木場は偵察に出た。

 

 アルヴェムはというと、本拠地周りの森に潜んでいた。

 序盤が少し長かったおかげで、カプセルもすでに外側は用意できている。あとはレイヴェルと対面して、そのサイズを合わせれば完了だ。

 まだこの場に踏みとどまっているのは――

 

「大したことのないトラップだと思ってたけど、本陣周囲に『戦車』を配置してたのね」

「どうせ来るだろうと思って待ってたんだ。新校舎に切り込む前に」

 

 目の前にはトラップや幻術を潜り抜けて本陣へと切り込もうとしていたライザーの『兵士』三人。

 二人はメイド服、一人は踊り子の衣装を纏い、何ともライザーの趣味を感じる面々。

 そのうち一人、メイド服を着た黒髪の女性が笑みを浮かべる。 

 

「いくら『戦車』でも一人でこの人数はキツいんじゃないの?」

「まあ、ライザー様に一撃当てたってのは油断できないかしら」

「あいにく今は機能不全でな。あの一撃は出せないし、俺にはそもそも魔力がない。良かったな、有利なのはそちらだ」

「それは……挑発のつもり?」

 

 ただ単に事実を言ったまでだが、どうやら相手はそう思ってはくれない様子。

 少しぐらい油断してくれても良かったが、アルヴェムの言葉には証拠がないために信じられる要素がない。

 

 途端にライザー眷属が手を構え、その手に炎が宿る。

 フェニックスの眷属ともあって共通して炎を扱えるようだ。その熱量もなかなかのもの。

 一斉に放たれた火球はアルヴェムの身体の各所を直撃し、爆発を引き起こす。

 

 黒煙が舞い上がる中、ライザー眷属は笑みを浮かべる。

 しかし、すぐ無傷のアルヴェムが煙を払って出てきたかと思えば自らの身体を見ていた。

 

「……なるほど、一応『戦車』の恩恵は受けられているようだな」

 

 悪魔に転生する際、エラーを吐いていたが一応は成功していたらしい。

 内部に変化はないものの『戦車』の頑丈さは手に入れられている。アルヴェムの場合は肉体そのものではなく、身に纏うバリアのさらなる強化のようだった。

 

「まだバリアのリソースもあったな。これを停止させれば兵器作成も早いか……」

「何独り言言ってんのよ!」

 

 ナイフや鞭、それぞれの武器を手に肉弾戦を仕掛けてくるライザー眷属たち。

 それをいなし、躱しながらアルヴェムは一度だけ問う。

 

「いくら機能不全でも、俺はキミたちより強い。ここで大人しくギブアップでもしてくれたら、こちらも手を出さなくて済むんだが――」

「そんなことできるわけないじゃない!」

「私たちは『兵士』でもライザー様の眷属! 逃げたとあったら、あの方に怒られてしまうわ!!」

「……なるほど、矜持のことを考慮していなかった。謝罪する。まだそういうのには疎いんだ」

 

 身を翻し、返しの蹴りがメイド服の一人を捉える。

 首の横から入り込んだ一撃。その蹴りで相手の身体は横に何回転もして地面を走る。

 木をなぎ倒して突き進み、数十メートル離れたところで停止した。

 見ずともわかる。受け身すら取れずに受けた一撃は気を失うには十分すぎるほどだ。

 

「ありがとう。最終調整にはちょうど良かった」

 

 決着はすぐに着いた。

 残る二人も同様に蹴り飛ばし、初戦は難なく勝利を収める。

 

『ライザー・フェニックス様の「兵士」三名、リタイアとなります』

 

 審判役であるグレイフィアの声と共に『兵士』三名の姿が消える。戦闘不能となった場合、治療を受けるためにフィールドから転移するようだ。

 

 まずは三名。幸先の良いスタートと言ってもいいだろう。

 だが、アルヴェムの役目はここから。気を抜かずに森を抜けていく――

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