ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第十七話『レイヴェル・ハンマー』

『ライザー・フェニックス様の「兵士」三名、「戦車」一名、リタイアとなります』

 

 森を抜けて少々経った頃、グレイフィアの声が再び響く。

 中間地点である体育館からの黒煙。それは朱乃の雷が炸裂したことを意味する。

 

 今回、こちら側の作戦として重要な地点である体育館を放棄するつもりでいた。

 そのため、一誠と小猫が赴いたのも罠。ライザーの眷属をおびき寄せ、ある程度戦ったところで外にいる朱乃が一気に撃破(テイク)する。

 今のところ、ライザーの眷属は『兵士』を六名、『戦車』を一名討ち取った。序盤としては上々の出だしと言っていい。

 だが――

 

『リアス・グレモリー様の「戦車」一名、リタイアとなります』

 

 無情なグレイフィアからの通告。

 戦車……つまり、小猫がやられたということになる。

 このタイミング、相手は待っていたのだろう。こちらの作戦が功を奏し、一瞬気が抜けるのを。

 あちらの持ち駒は最大数。多少犠牲にしたところで、その有利は崩れない。

 小猫もその瞬間を狙われ、倒されてしまったに違いない。しかも、頑丈な戦車を瞬殺できるのはライザー眷属の中でも『女王』クラス。

 

 ライザー側の作戦がわかった気がする。

 相手はそもそも『女王』しか頼りにしていない。その他はリアス眷属の体力を消耗させるか、上手く行って倒せれば御の字だと考えているのだろう。

 ――『女王』による敵を倒した瞬間を狙った不意打ちで撃破する、これがライザー側の基本戦略。

 人数差を考えれば両陣営で一人あたりの損失はまるで違う。それを理解した上でのゴリ押しだ。

 

 ただ、それは相手の『女王』が残っていればの話。

 小猫がやられて黙っているほどリアスの『女王』は甘くはない。

 遠くの空では爆発と雷が轟き、入り乱れている。すでに戦闘中のようだ。

 

 一方で、アルヴェムは今運動場の中心を堂々と歩いていた。

 どっちにしろ、中盤戦になった以上このルールでは大体が総力戦となる。

 それなら目立って、面白がったレイヴェルをおびき寄せた方が賢明な手段だろう。

 

「まさか、こんなにも堂々とおひとりで出てくるなんて……何か考えがあるのかしら?」

 

 ひとつ聞こえた少女の声。

 それはアルヴェムが待ち望んでいた声だった。

 レイヴェル・フェニックス。頭の両側で金色の髪を縦ロールにし、ドレスに身を包んだ他の者とは明らかに違う雰囲気を出す美少女だ。

 

 やはり、物珍しさに顔を出してきた。

 周りには当然護衛のようにライザーの眷属たちがいる。

 剣を携えた甲冑の女騎士、仮面を着けた女性、身の丈ほどある大剣を背にした女性、獣耳の女性が二人、和服姿の女性……レイヴェルも含めれば『騎士』二名、『戦車』一名、『僧侶』二名、『兵士』二名となる。

 というより、ライザーを除く全戦力が今目の前にいる。

 

「こちらは『戦車』一人だというのに随分と戦力を用意したものだな」

「あなたたちの『王』はすでに本陣にはいませんもの。中間地点も吹き飛ばされましたし、こちらは本陣へと直通できる運動場に眷属を配置すれば自動であなたたちを迎え撃てる……特にお兄様にあんな一撃を入れたあなたと『赤龍帝の籠手』を持つあの殿方には警戒していますし」

「お褒めに預かりどうも。だが、あの後で機能不全に陥ってな。今の俺はちょっと強いだけの一般市民みたいなもんだ」

「あら、それは残念。お兄様はあなたにも注目されていましたのに。まあ、全力を出されてもこちらは困りますけれど」

 

 向こうは余裕なのか、会話に付き合ってくれる。

 周りの眷属もレイヴェルからの指示を待っているのだろう。手を出してくる様子はない。

 何なら『騎士』の一人、甲冑を着た女性に至ってはこの多対一の状況に不満があるように見える。

 

「身長は百五十三センチくらいか……」

 

 対面して、ようやく必要なデータは出揃った。

 いつでもレイヴェル専用のカプセルは出来上がる。ただ、レイヴェルを捕まえるにしては人数が多い。一人でも逃そうならば、こちらの狙いに気付かれる可能性がある。

 と、そこでレイヴェルは不意にアルヴェムを見据え、

 

「あなたなら、ここに来る前からこうなることはわかるはず。何か狙いがおありで?」

「今の状態でもこれぐらいならどうにかなるって思ってるのさ。それにこの状況で俺に負けたらピンチになるのはそっちだ。俺らはキミの『王』を集団リンチして終わりだ」

「そう上手く事は運びませんわよ。だって、あなたの『王』はすでにお兄様と戦っていますもの」

 

 瞬間、破砕音が響く。

 場所は新校舎の屋上付近。視線をやるとそこには炎の翼を背にするライザーと、それを追いかけ悪魔の翼を羽ばたかせるリアスの姿があった。

 

「お兄様ったら、あなたたちが意外に善戦するものですから高揚したみたい。リアス・グレモリー様に一騎打ちを申し込んで、あちら側も了承したみたいですわ」

「…………」

「あら、ご不満な様子。あなたにはわかっているようですわね――リアス様では絶対に勝てないということは」

 

 こちらの考えを見透かされたようだ。

 数えるほどしか見ていないが、リアスは悪魔の中でもパワーでゴリ押すタイプ。

 消滅の魔力は威力も強大だがその分、魔力の消費も激しいように見える。ましてやライザーのような不死身性によって長期戦闘を可能としているスタミナタイプ相手では不利もいいところ。

 

 さらに言えば、パワータイプでもライザーを一撃で消せる術はない。

 本人が自らの人生を決めるために受けた一騎打ちかもしれないが、アルヴェムから見ると自ら敗北に向かっているようなものだ。

 

 思った以上に事は急がなくてはならないようだ。

 アルヴェムの目の色が変わる。

 戦意。それを察して、レイヴェルも片腕を挙げると、獣耳の『兵士』二人と和服の『僧侶』が前に出てきた。

 

「思った以上に時間がないみたいだ。急がしてもらう」

「賢いお人ですこと。見たところあなたは私と同じように相手を分析し、その上で対処する戦略型。となれば、フェニックスを倒す術をもう見つけているかもしれませんわ。ですから、ここで確実に撃破させていただきます!」

 

 レイヴェルが手を振り下げると獣耳の女性たちが前に飛び出す。

 獣人ともあって、二人とも素の身体能力が高いのか。数メートルの距離でも一瞬で詰めてくる。

 拳、蹴り、二人とも肉弾戦を主としていて、その一発は最初に出くわした『兵士』たちよりも遙かに重い。

 元々の強さではない。どうやら、これは――

 

「少し時間がありましたからね。その二人はすでに『女王』へと『プロモーション』を果たしていますの。さあ、どう対処されるおつもりでしょうか?」

「まずはこうする」

Jamming Pod(ジャミング ポッド)

 

 アルヴェムの肩甲骨あたりから制服を突き破って飛び出したのはパイプ状の部位(パーツ)

 それが二本あり、レイヴェルが何か言うなり一部が赤く光り輝く。

 瞬間、ライザー眷属たちは一斉に一瞬表情が強張って、片耳を手で押さえる。

 

「こちらの通信機器を封じてきましたか……」

「言っておくが魔法での通話も不可能だ。俺を倒すまで、だがな」

「ニィ、リィ! その背にあるパイプを壊しなさい。何を狙っているかはわかりませんが、お兄様と通信できない状況が彼の狙いのようですわ!!」

 

 思っていた以上にレイヴェルの頭は切れる。そして判断も早い。

 彼女の指示でニィ、リィと呼ばれた獣耳の女性たちはすぐさまアルヴェムの背後を狙う。

 ニィが正面でアルヴェムの両手首を掴み、リィが背後へと回ってくる。ニィが被弾しようとも、そのうちにリィの手がポッドを壊す。そういう算段だろう。

 

 ただ、それは普通の身体構造の話。

 その点ではアルヴェムの身体は常軌を逸している。

 

 上半身と下半身が腰のあたりで指先一つ分の隙間ができ、その瞬間にアルヴェムの上半身は百八十度回転する。

 突然の動きにニィの反応も遅れ、アルヴェムの両手首を掴んだまま回転。真っ直ぐ伸びた身体は遠心力も加わってリィへと叩きつけられた。

 

「な……何ですって!?」

「不思議な身体なんだ。こういうこともできる」

 

 軽口を言って、上半身を戻して怯んだニィとリィへと向く。

 相手も反応して拳を振るうもアルヴェムは全身から排熱を行い、蒸気が舞い上がる。

 その煙は戦いを見ていたレイヴェルのところまで及び、その視界を悪くしていく。

 目眩まし。本来なら真っ向から叩き潰すのだが、今はそれよりも――

 

「この煙、無駄に熱いですわね……もうっ!」

 

 ライザー眷属、その誰もが目元を手で覆う。

 時間にして数刻。敵の誰もが目を開いておらず、行動が止まった状況ができた。

 その隙を逃さず、アルヴェムはレイヴェルへと肉薄し、

 

Capsule Capture(カプセル キャプチャー)

 

 身体から飛び出た扉が開いた状態のカプセル型捕獲機を出す。

 レイヴェルが状況を把握する前に横薙ぎで振るい、強引に捕まえる。

 その衝撃でレイヴェルの懐から何か液体の入った小瓶が宙を舞った。

 

 こんなところで持っている物に普通の嗜好品などないはず。アルヴェムはその小瓶を掴み、自らの懐へと入れる。

 捕獲した後、すぐさま扉を閉じて施錠。そして、カプセル内は煙で満たされて彼女が言葉を吐く前に眠らせる。

 

「このっ!」

 

 煙の鬱陶しさに耐えかねた大剣を持った『騎士』が動く。

 鞘から大剣を抜き、それを力任せに振るう。その衝撃波によって爆発的な風が生まれ、アルヴェムが排出した蒸気を全て取り払われてしまった。

 

 だが、すでにこちらの狙いは済んでいる。

 煙が明けるなり、レイヴェルが入ったカプセルが否が応でもライザー眷属たちの目に入った。

 しかし、その意図は伝わらない。現に――

 

「貴様、レイヴェル様を人質にするつもりか?」

 

 甲冑の『騎士』は盛大な勘違いをしているようだ。

 元々正義感が強いのか、悪魔にも関わらずアルヴェムへと憤慨している。

 勘違いしてくれているなら、それでいい。その間にこちらの勝機が見えてくる。

 

 どうせなら悪魔らしく、非道に行く。

 戦闘用に耐久性を上げて作ったカプセルなので無茶は利く。

 先端にある持ち手を掴むとアルヴェムは『騎士』の質問に答えた。

 

「いや、武器だ。名付けて――レイヴェル・ハンマー」

「何て卑怯な! よりにもよってそのお方を武器にするとは!!」

 

 大剣を携えた女性がアルヴェムへと突貫する。

 勢いのまま上段から振り下ろされた大剣に下側からレイヴェル・ハンマーとなったカプセル捕獲機を振り上げてぶつけると、衝撃によって運動場の地面にヒビが入っていく。

 

 大剣とレイヴェル・ハンマーの拮抗。

 だが、すぐに相手の力が弱まる。

 理由は明白。大剣が接触している箇所は眠っているレイヴェルの姿が見えたガラス部分。耐久性に優れている分、本気で斬りかかったところで砕けはしないが、相手にとってはもしものことがある。

 

 ライザーの眷属である以上、もしレイヴェルを傷つけたら――

 そんな思考が彼女の頭の中で巡ったことだろう。

 戦闘では判断を躊躇った瞬間、敗北に繋がる。

 

 アルヴェムはすぐさましゃがみ込み、女性の足を自らの足で引っかける。

 思わぬ不意打ちに体勢を崩した彼女は天を仰ぎ、その隙にレイヴェル・ハンマーを身体ごと横に回転させてぶつける。

 

「――――ッ!?」

 

 横腹を捉えた一撃によって、女性の身体は飛び、新校舎をも貫いて星となった。

 

『ライザー・フェニックス様の「騎士」一名、リタイアとなります』

 

「やったな、アルヴェム! さっきも『兵士』三人を倒してたみたいだし、すげえ活躍じゃねえか!」

「お待たせ、加勢に来たよ」

 

 そこで一誠と木場も運動場に合流する。

 二人とも見た目には傷もない。余力を残した状態で来てくれたようだ。

 だが、アルヴェムが振り向くなりその表情は怪訝そうなものとなる。

 二人の視線の先は無論、レイヴェル・ハンマー。その視線に気付いたアルヴェムはレイヴェル・ハンマーを縦に置き、一誠たちへと向ける。

 

「ああ、これか? これはライザー・フェニックスの妹を捕まえて、ハンマーにしたものだ」

「女の子にそれは良くないと思うぞ……?」

 

 アルヴェムはまだ知らないが、これより非道な技を開発した一誠が言う言葉ではなかった――

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