ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第十九話『必殺の一撃』

「ほらほら、大した口振りだったけど何もできないのかしら!?」

 

 哄笑するライザーの『女王』――ユーベルーナ。

 遙か空中から下界を眺める彼女の視界には一面の爆発が映り込んでいた。

 ユーベルーナから放たれた魔力の粒が降り注ぎ、地面に触れるたびに大きな爆発を引き起こす。

 

 その一発は頑丈な肉体を誇る『戦車』でも一撃で撃破するほどの威力。

 現に不意打ちではあったものの、リアス・グレモリー眷属の『戦車』塔城小猫は一撃で葬れた。

 ライザーの『女王』として、常に多くの敵を打倒してここにいる。

 

 ――『爆弾王妃(ボム・クイーン)』。

 その名は好きではないが、実力の象徴とも言える異名。

 

 それを何発も受けて無事なはずはない。

 だが、今相手にしている『戦車』は少し様相が違う。

 どれだけ撃っても倒れる気配がないのだ。

 

 魔力耐性の低い者であれば肉体がバラバラになるほどの威力。

 どんな頑丈なものであっても無傷はあり得ない。

 それなのに、相手は魔力の低い……いや、全くない上に下級の悪魔にも関わらず、服が少し破れている程度でその鋭い目はユーベルーナを捉え続けている。

 

 確実に何かを狙っている。

 それもその牙は自分の主であるライザーにも届く代物。

 だったら、さらに爆撃の数を増やす。

 一呼吸もさせない起爆の連続。周囲の酸素は焼け、身体は無事でもいずれは窒息してリタイアする。それがユーベルーナの狙いだった。

 

 だが、『戦車』にも動きがあった。

 明確な反撃ではない。しかし、合わせた両手がカチャカチャと音を立て、各所がスライドして形を変化させていっている。

 

「何なの、あのボウヤは……?」

 

 哄笑から一変。ユーベルーナの表情は怪訝なものへと変化する。

 ユーベルーナには見たことのない種族、なのだろうか。

 自らの肉体以上に形状を機械的に変化させていく『戦車』に、畏怖する心が芽生え始めているのをユーベルーナは感じていた。

 

 ―○●○―

 

 いつもならば一瞬で決着をつけられる。

 だが、今は不調。さらにレイヴェルの解析と変形を同時に行えば、リソースは一瞬で尽きる。

 現に変形も動作が遅くなっており、それにつられて解析も遅れていた。

 

 屋上ではすでに一誠とリアスがライザーに向けて最後の戦いを挑んでいる。

 戦いは――一方的なものだった。

 リアスの魔力はライザーに当たっても、すぐにライザーの身体は蘇る。反対にライザーの拳が当たれば一誠は血を吐き、深く倒れ込む。

 それでも一誠は立ち上がって、また挑んで、返り討ちに遭い……それの繰り返しだ。

 

 勝負はすでについている。

 リアスもわかっている。自分たちでは勝ち目がないことを。

 目の前で何度も倒れ、それでも戦う一誠を見て、いつ降参してもおかしくはない。

 いや、きっと数秒もすれば彼女は降参する。リアスは非情にはなれない優しい『王』なのだから。

 

「ユールー、バリアを切れ。各所防御も全て捨てて解析と兵器作成に当てろ」

【えぇっ!? そんなことしたら装甲やわやわな今のアンタだと最悪死んじゃうわよ!? 命懸けるのはあのイングヴィルドって子のためだけじゃなかったの!?】

「どうやら、俺はあいつらを放っておけないらしい。早くやれ」

【うぅ~……どうなっても知らないわよ!!】

 

 一誠は覚悟を見せた。

 ならば、次に覚悟を見せるのはアルヴェムの方だ。

 今まで倒された小猫、朱乃、木場、三人ともこのゲームに勝ち、リアスを守ることを第一に考えていたはず。その意思は残った者が受け継がなくてはならない。

 

 ユールーとの会話を切り上げた刹那、全身に衝撃が襲う。

 今は皮膚となっている装甲も切ったために、どの一撃も直接身体の中に響く。

 確かにこの状態が後数秒でも続けばアルヴェムもリタイアレベルのダメージを受けるだろう。

 現に完全ノーガードで受けた一発でさえ、一瞬意識が飛びかけたのだから。

 

 だが、バリアと装甲を捨てた先に活路がある。

 

 顔の皮膚が剥がれ、金属の頭蓋が露わとなっても怯みはしない。

 各所が煙を上げながらも赤い光を覗かせる眼窟にライザーの『女王』は優勢にも関わらず、その顔には恐れが生まれていた。

 

「――お前の敗因は、イングヴィルド(勝利の女神)が俺に微笑んだからだ」

 

 刹那、頭の中に流れ込むレイヴェル・フェニックスの解析結果。不死身の攻略法が出来上がった。

 そして次にアルヴェムの両腕が変形し終え、巨大な砲身を創り出す。

 

Explode Cannon(エクスプロード キャノン)

 

 百二十ミリを超える口径に全長は六メートル、如何なる砲弾をも放つために分厚い装甲を重ねて作られた砲身。

 その砲口をライザーの『女王』へ向け、一気に火を噴かせる。

 

 大地が震えるほど炸裂する轟音。

 衝撃でアルヴェムの身体も後方へ下げられるほど。砲弾は『女王』に向かって一直線に突き進む。

 

「こんな派手なもの!!」

 

 ライザーの『女王』は手を横薙ぎにする。

 幾重にも重ねられた爆撃が砲弾を襲い、その身に届く前に爆散する。

 意味のない攻撃、彼女にはそう見えただろう。

 だが、これは『女王』を討ち取るためだけの一撃。その程度で終わるはずはなかった。

 

「――ッ!?」

 

 驚愕するライザーの『女王』。

 その視線の先、爆散した砲弾から夥しい数の金属が飛び出したのだ。

 十五センチ程度の長さをした金属の筒。それらが砲弾を中心にして弾け飛び、無数の金属の筒がライザーの『女王』を狙う。

 

 咄嗟にライザーの『女王』は魔法陣を繰り出す。

 恐らく防御用の魔法だろう。しかし、それでは止められない。

 

「嘘……っ!」

 

 金属の筒は全て魔法陣をすり抜けた。

 躱す暇もなくライザーの『女王』の身体を無数の筒が捉え、その身は宙で血を巻き散らしながら踊らされる。

 

 アルヴェムが放った砲弾はアンチ魔力を組み込まれたもの。

 魔力を介したものをすり抜け、悪魔のあらゆる防御を貫通する。

 その効果は絶大でライザーの『女王』はそのまま受け身もなく地面へと落ちていく。

 

『ライザー・フェニックス様の「女王」、リタイアとなります』

 

 三人の仇は討てた。

 あとは解析結果を利用して勝つだけだった。

 

Ice Extinguishing(アイス エクスティングィッシング)

 

 即座に砲弾を変更し、砲身を屋上へと向ける。

 今、ライザーは全く警戒をしていない。アルヴェムの最後の一撃が放たれる。

 砲弾は先ほどと見た目こそ同じだが、効果はまるで違う。当たればフェニックスでさえ致命傷となる代物だ。

 

 だが、アルヴェムは見た。

 意識も途切れている一誠が覚束ない足取りでライザーに向かうのを。

 

 フェニックスの涙で一度は回復したにも関わらず、顔は晴れ上がり、震える足が今もまだライザーへと向かっている。

 あれではライザーに一撃を与えることはできない。むしろ返しの一撃で――一誠は死ぬだろう。

 

 瞬間、ライザーの拳が一誠へと迫った。

 このままでは確実に一誠が死ぬ。その瞬間、側面からアルヴェムの砲弾がライザーの横腹を捉えた。

 

 砲弾がライザーに触れた瞬間、砲弾の中身が炸裂する。

 一瞬だ。一瞬でライザーの全身が氷漬けと化した。

 中でライザーが炎を巻き上げようとするが、その炎を吸収してなおも氷が層を重ねていく。

 

 レイヴェル・フェニックスを解析して完成した対フェニックス用武器。

 相手の炎を無尽蔵に吸収し、熱を奪って氷結する。抵抗しようと炎を出せば出すほど氷結は強まっていく一方で、ライザーはこの砲弾を受けた時点で詰んでいいた。

 

 これでリアスの勝利――とは、ならなかった。

 

 アルヴェムには見えていた。

 ライザーが拳を返し、その横腹を砲弾が捉える寸前。リアスがライザーと一誠の間に割って入り、一誠の身体を抱き留めていた。

 それを見て、ライザーもこちらへの反応が遅れたのだ。

 

『リアス・グレモリー様の投了を確認いたしました。此度のレーティングゲーム、勝者はライザー・フェニックス様となります』

 

 嫌に響くグレイフィアの声にアルヴェムは天を仰いだ。

 初の敗北。それは思った以上に呆気ないものだった。

 不思議と悔しさは感じていない。誰もがすべきことをして、その結果がそうだったのだから。

 

 そして、何より――

 

「イングヴィルドが気にするだろうな……」

 

 勝利の女神になろうと自分に胸を揉ませ、額にもキスしてくれたというのに結果はこの有様。

 この機能不全のことも振り返るだろうし、今からどう励ますか。

 負けた直後だというのに、アルヴェムの頭は意外にも冷静だった――

 

 ―○●○―

 

「アルヴェム、おかえり……」

 

 レーティングゲームが終了し、アルヴェムは部室へと戻ってきていた。

 出迎えてくれるイングヴィルドだが、その表情は案の定暗い。きっと、自らのことを責めているのだろう。

 

 他の脱落したメンバーは専用の施設で治療を受けるらしい。

 唯一、無傷のアーシアは一番の重傷となった一誠の治療をするために付き添いとしてついていった。

 ゲームに敗北したリアスは冥界へと一度帰って、ライザーとの結婚式の準備を行うらしい。

 

「ごめんなさい。やっぱり、私の――」

 

 イングヴィルドが言い切る前に、その身体を自らへと抱き寄せる。

 突然の行動にイングヴィルドは驚くも構わずアルヴェムは言う。

 

「最後、俺が相手の『女王』を倒せたのはキミのおかげだ――ありがとう。どうやら、イングヴィルドは本当に勝利の女神だったようだ」

「でも、リアスさんは……」

「大丈夫。ようやく俺の不調も元通りになったし、これからのことはどうにだってなる」

「どうするの……? 結婚を止めるにしても、難しいんじゃ……」

「いや、それは止めない」

 

 突然のアルヴェムの言葉にイングヴィルドはさらに驚かされる。

 きっと、今すぐにでもアルヴェムがどうにかすると思っていたのだろう。

 だが、現状それをするつもりはない。

 

「この後、フェニックス家に呼ばれているんだ。どうにも俺が撃った氷結弾が溶けないらしくてな。まあ、フェニックス専用に作った対策兵器(アンチ・ウェポン)だから当然なんだけど。その解除をする代わりに破格の条件でも呑むと言ってきた」

 

 レーティングゲームが終わった後、救護班がライザーの身体を溶かそうとするもそのたびに氷の層が厚みを増していく。

 いくら不死身であろうともあの弾は炎を吸収し殺し続ける。やがてライザーの心も折れて、死に至るだろう。どこまで持つかはアルヴェム自身にもわからない。

 ただ言えるのは相手が不死身のフェニックスだろうが確実に殺せるということ。

 それを察してか、ゲーム終了後にフェニックス家はリアスを通じてアルヴェムに交渉を申し出てきた。

 

 ――どんな条件でも構わない。息子を元に戻してくれ、と。

 それもそうだ。悪魔の未来のために結婚するはずが、大事な婿を失いそうになっているのだから向こうも公平な取引をしている場合などではない。

 

「時間は稼ぐつもりだが、部長を助けるのはイッセーの役目だ。きっと彼ならどうにかなる」

「じゃあ、フェニックス家に何を願うの?」

 

 アルヴェムの胸から顔を上げ、小首を傾げるイングヴィルド。

 その頭に手を置き、アルヴェムは言葉を続ける。

 

「知りたいなら一緒に来たらいい。どうせキミにも来てもらいたいと思っていたんだ。その方が俺も都合が良い」

 

 その言葉にイングヴィルドの疑問符は深まるばかり。

 だが、アルヴェムのことを疑うこともなくイングヴィルドは「うん」と首を縦に振った――

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