ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第二十一話『婚約パーティ』

「それで父上と母上は貴様に『女王』の駒の譲渡を了承したわけか……」

 

 ひとしきり眷属との再会を喜ばれたライザーは使用人が作ったカップのスープに一口つけていた。

 不死身である性質は相変わらずのため心配はないだろうが、アフターケアのためにアルヴェムはライザーの検査を行っている。

 

「しかし、まさか不死身であるフェニックスが死にかけるとはな……笑えない冗談だ」

「両親と妹に感謝するんだな。俺がその気になれば、安価でこの弾を流通させてフェニックス殺しをそこら中に生み出せるんだから」

「……それを使って脅しをかけないのか? リアスとの婚約を破棄しろ、と。お前も内心では彼女の結婚には反対なんだろう?」

 

 流石に病み上がりのせいかライザーからは出会った時ほどの高慢さを感じない。

 どちらかと言えば無敵だと思っていた不死身に弱点が生まれ、頭の整理が追い付いていないようだ。

 相手に敵意がないなら、アルヴェムとしても敵意はない。

 

「そちらの両親にも言ったが、何か不正でもしてたら俺も容赦はしなかった。交渉の余地を与えたのはキミが対等に勝負しようとした誠実さを買った結果……とでも思えばいい。仲間が何かする時は手助けぐらいはするが、俺が婚約をどうこうするつもりはないよ」

 

 現にライザーが言った『眷属の一撃がリアスの一撃になる』は、一誠に大きな影響を与えた。

 だからこそ、彼は懸命に強くなろうし、敗北したものの大いに活躍したのだ。

 その強さを得るきっかけはライザーが与えた十日の猶予だった。

 

「勝てば全てを得る。負ければ全てを奪われる――それが世界の常だ。だから今回勝ったキミは部長と結婚するなり子供を作るなりすればいい。悪いのは負けた部長で、俺たちだ」

 

 たらればを語ればキリがない。

 全て飲み込んで、負けを認めている。

 負けて奪われる者に唯一残されるのは、要因による反省のみだ。

 次があれば繋げるし、それで死ぬのならば仕方がないこと。

 

「ただ、他のグレモリー眷属は俺のように割り切らない者もいる。彼が何をするかはわからないが、婚約が破談になった時は励ましぐらいしてやる」

「あの赤龍帝の小僧か……誰が破談にするものか! リアスの処女は俺がもらい受ける!!」

「もう、お兄様ったら……」

 

 いきなり調子を取り戻したライザーは拳を握り締めて炎を溢れさせる。

 その様子に先ほどまで心配する様子を見せていたレイヴェルは呆れる様子を見せ、手を額に当てた。

 

 しかし、アルヴェムはそれとは別に何か既視感のようなものを感じていた。

 その正体にはすぐに気付く――一誠だ。

 ライザーと一誠は立場は違えど、何か……こう、女性に求めるものが似ている気がする。

 今の発言もそのまま一誠が言ったところでおかしくない。

 

「……何だ、その目は?」

「いや、イッセーと似ているなと思っただけだ。思考回路が」

「何ィイっ!? 俺とあの下劣な小僧が似ているだと!? ふざけるな! 誰があんなハーレム志望のエロガキと同列に語るんじゃない!!」

 

 後ろからも「そうよそうよ!」とライザー眷属の擁護が飛んでくるが、似ていると感じたものは正直な感想だ。偽る必要もない。レイヴェルも気付いているようだ。

 

「お兄様は氷結が解けた直後なのですから、声を張り上げず大人しくしていてください。結婚を控えた大切な身なのですから」

「すでに影響はないと思うが一日ぐらいは様子を見たらいい。何かあれば……どうにかして俺に連絡しろ。言っておくが魔力がない俺には魔法での通話は不可能だぞ」

「だったら、こいつをくれてやる」

 

 言って、ライザーは宙を指でなぞって魔力で魔法陣を描く。

 それがアルヴェムに触れると身体に溶けるように入っていき、

 

「それはフェニックス用の連絡魔法陣だ。人間界で言う……通信機器か。とにかく、魔力を持たずとも念じればそれが起動してフェニックス家の者と連絡が取れる。こっちからも連絡できる代物だ」

「ほう……聞こえるか?」

「目の前にいる状態でつけるな! 声が二重で聞こえて気味が悪い!」

 

 試しにライザーに使ってみると自分の声とライザーの声が二重に響く。

 これ以降使うかはわからないが、検証したくなるのがアルヴェムの性分。

 ライザーとの連絡は切らず、今度はレイヴェルにも繋げ、

 

「これでレイヴェル・フェニックスにも聞こえているのか?」

「きゃっ! 私にも掛けないでください!」

「渡した相手が悪かったか……」

 

 一度に何人の相手と通話できるか気になったアルヴェムは次々とライザーの眷属にも通信を飛ばしていく。そのたびに声が増えていき、ライザーも軽く後悔していた――

 

 そんな遊びをしていると扉がノックされる。

 入ってきたのはフェニックス現当主とフェニックス夫人、フェニックス夫人の手には『女王』の駒が握られていた。

 

「お待たせした――ライザー、もう治してもらったのか!」

 

 部屋に入ってくるなり、フェニックス現当主は驚いてライザーへと早足で傍へ近付く。

 ライザーも先ほどの様子から一変、すぐに身なりを整えて立つとフェニックス現当主へと頭を下げる。

 

「父上、申し訳ございません。フェニックス家の者として不甲斐ない姿を見せました」

「いや、いい。今はゆっくりと休め。婚約パーティの段取りはこちらで組んでおく」

 

 そう言って、フェニックス現当主はライザーの肩に手を置く。

 父と子の関係……初めて見るものだが、あのライザーでも父親は尊敬しているようだ。

 家族がいないアルヴェムにとって、その感覚を知る術はないだろうが良いものなのだろう。

 ともあれ、こちらとしては請求しなければならないものがある。

 

「フェニックス卿、対価の件はどうなりましたか?」

「ああ、すまない。そのことだがアジュカ・ベルゼブブ様からの許可が下りた。前例のないことだが、キミに妻が持つ『女王』の駒を譲渡できるようにしてもらった」

 

 フェニックス現当主が言うと、夫人が『女王』の駒をアルヴェムへと差し出す。

 

「私の名義を削除していますので、転生したとしても私の眷属ということにはなりませんわ。ただ、現状下級悪魔であるあなたの眷属になるということもできません。言わばフリーの『女王』になります」

「それでも構いません。ありがとうございます、夫人」

「礼を言うのは、こちらの方です。原則レーティングゲームで死者が出た場合、それは事故となり相手には何の責任も発生しません。それを助けていただいたのですから、感謝すべきなのは私たちですわ」

 

 そう言って、頭を下げるフェニックス夫人とフェニックス現当主。

 悪魔の中でも上位種である彼らがたかが転生悪魔一人にそこまでするとはよほど深刻に考えていた証拠だ。レイヴェルも両親に次いで頭を下げる。

 

「頭を上げてください。取引を終えた以上、もう対等……いえ、こちらは下級故に立場上あなたたちの方が上です。礼には及びません」

「そういうわけにもいかない。キミとは懇意にしたいと思っている。立場は関係なく対等といこう」

 

 フェニックス家は未知なる力を見せ、自分たちを殺せる力を持ったアルヴェムを警戒してのことだろう。

 合理的……まさにそう言える。現にこの言葉に対してライザーも反対するような真似はしない。

 しかし、せっかくの申し出だ。フェニックス家に関しては不死身性だけではなく、あの傷を治す『フェニックスの涙』にも興味がある。

 

 仲良くしていて互いに損はない。

 アルヴェムは頭を上げたフェニックス現当主に手を差し出し、

 

「こういう時は握手、というものをするのでしょうか? 冥界の作法に疎いものですから、間違えていれば無礼をお詫びします」

「いや、悪魔も友好の意を示すのに握手をする。何も間違ってはいまい」

 

 言って、フェニックス現当主も手を差し出して握手が成立する。

 奇妙な縁。一誠たちには申し訳ないが、アルヴェムに新たな縁が出来ていた。

 手を放すと、途端にフェニックス現当主が怪訝そうにアルヴェムの顔を見てくる。

 

「……? どうかしましたか?」

「失礼を承知で聞くが、キミはもしかしてグレモリー家の生まれなのか? レーティングゲーム中にも思ったが、その紅い髪……そしてその瞳。何よりキミは本当に若かりし頃のサーゼクス様に似ている。グレモリー卿もサーゼクス様も、そのことには触れなかったが……」

「俺がサーゼクス様に……?」

「恐らく彼を知る者は誰もが思っただろう。それほどまでによく似ている。一瞬、サーゼクス様が婚約を破談にしようと眷属に紛れ込んだのかさえ思ったよ。本物が隣にいるにも関わらずにね」

 

 そこまで言われるほどなのか。

 怪訝な目をライザーやレイヴェルにも向けると二人とも頷く。

 今まで言われたことがなかったために意識したことがなかった。リアスもこのことを分かっていて、自分を眷属にしたのだろうか。

 だが、自分として言うことは変わらない。

 

「俺は自分の生まれも育ちも知りませんから何とも言えませんが、今の俺はアルヴェム・オーヅァ以外の何者でもありません。なので、アルヴェムでよろしくお願いします」

「わかった。これからもよろしく頼むよ、アルヴェムくん」

 

 とりあえず、この場は一礼して収める。

 何より最優先事項はイングヴィルドと関わりがあるレヴィアタンと関わりのある悪魔を探すこと。

 様々な思惑がある婚約パーティにアルヴェムもまた思惑を抱えて参加するのだった――

 

 ―○●○―

 

「皆、体調は大丈夫か?」

「……はい。もう万全です」

「レーティングゲーム用のお医者さんがいるからね。もう傷ひとつ残っていないよ」

 

 二日後、グレモリー家の城にてリアス・グレモリーとライザー・フェニックスの婚約パーティが行われていた。

 そこでアルヴェムは久しぶりに他のメンバーと再会する。

 何せ彼らはリタイアした後、治療のために一日かかり、経過観察でもう一日。

 婚約パーティの設営を手伝っていたため、アルヴェムと会うタイミングがなかったのだ。

 

 その結果、婚約パーティ当日になって再会を果たした。

 アルヴェムと木場はスーツを、小猫と朱乃はドレスを着ている。流石に上級悪魔が多く訪れるパーティに駒王学園ではドレスコードに反していたため、グレモリー家が用意したものだ。

 

 後ろにいるイングヴィルドは彼女と初めて出会った時と同じ純白のドレス。これは旧政府側の悪魔、特にレヴィアタンに関係する者が見れば必ず何かしらの反応を見せるために着てもらっている。

 

 リアスは会場の奥にいた。隣にはライザーがいる。

 彼女の表情は取り繕ってはいるものの、どこか暗い雰囲気を醸し出していた。

 それもそうだろう。本人は望んでいない結婚なのだから。

 望んでいないものであれど、客人の対応には笑顔で応えている。

 見ていて痛々しいものを感じるが、それも勝負に負けた結果。現状は受け入れるしかない。

 

 だが、もう一人。

 悲しそうな表情で見ている者がいる。

 

「姫島先輩、浮かない顔だな」

「えぇ……私は部長と一番古い付き合いですから。今、彼女がどんな思いであの場に立っているのか……それを考えると胸が苦しくなりますわ」

「――だったら、どうしてレーティングゲームで手を抜いたんだ?」

「私が、手を抜いた……?」

 

 心底驚いた表情を浮かべる朱乃。

 本人は気付いていないのか定かではないが、アルヴェムはずっと気になっていたことがある。

 

「嫌味でも皮肉でもないんだけど、あなたは堕天使と悪魔……その両方が混ざった存在。悪魔の力だけじゃなくて堕天使の力を使えば――」

「お願い、やめて……」

 

 酷く弱々しい声。

 いつもの余裕を含んだ年上の女性とは思えないほど、朱乃は狼狽していた。

 触れてはいけない部分だったらしい。言って、アルヴェムはレイヴェルの言葉を思い出す。

 

 悪魔は血統を重んじる。

 どちらが先かは不明だが、宿敵の堕天使と悪魔が混ざった存在は悪魔から特に忌避されるはずだ。

 

「……すまない、気が回らなかった。心から謝罪する」

「アルヴェムくんが謝ることはありませんわ……結局、私はリアスの人生と自分のプライドを天秤にかけて自分を取ってしまったのですから」

 

 切ない声で朱乃はそう言う。

 聞いていた小猫も思うところがあるのか、その表情は暗い。

 再会を喜んだのも束の間、余計なことを言って空気を悪くしてしまったとアルヴェムは少し後悔する。

 

 だが、悪くなった空気だ。

 このまま続きを言ったところで、これ以上悪くはならないと構わず言葉を返す。

 

「――自分のため以外に戦える者はいないと俺は考えている」

「え……?」

「戦うという手段を選んだ以上、誰もが内に秘めるものがある。倒す、守る、欲しい、叶える、どんな想いで戦おうともその根底にあるのは必ず『自分』だ。そうしなければ気が済まないのだから。誰だって物事の中心に『自分』を置いている」

 

 ライザーとのレーティングゲームもそうだった。

 リアスは自分の人生を守るため。一誠はライザーとの結婚が認められなかっため。アルヴェムはリアスを守ることが眷属であり続けるのに必要だと思ったため。敵であるライザーもまた一族のプライドを守り、リアスと結婚するため。

 他はどんな想いで戦っていたかは知り得ないが、誰もが『自分』を中心としていた。

 

「『自分』すら無い者は戦っても勝てない。天秤にかけるのも姫島先輩の自由だ。だから、悪いことじゃない――が、負けた以上は結果を受け入れなければならないのも事実。ただ、その負けはあなただけのものじゃない。グレモリー眷属全員のものだ」

 

 悔しさを忘れず次に活かす、それもいいだろう。

 だが、そのためにはまず無くすことを受け入れなければならない。

 

「俺の予測では婚約パーティは荒れるだろうが……それまでは見ているしかないよ」

「アルヴェムくんは本当に優しいのですね……」

 

 目尻に涙を溜めていた朱乃はそれを指で拭うと、いつもの表情に戻っていた。

 

「俺は事実しか言っていない。優しいのはきっと――」

「部長ォオオオオオオオオオ――ッ!! 兵藤一誠、ただいま到着しましたァ!!」

「――イッセーのようなヒトだよ」

 

 とんでもなく良いタイミングで扉が開け放たれ、そこに現れたのは一誠だった。

 そして、目一杯空気を吸い、肺に溜め込んだ一誠はさらに叫ぶ。

 

「部長――リアス・グレモリー様の処女は俺のモンだァアアアーー!!」

 

 それを聞いて、やはり一誠とライザーは似た者同士だと確信させられるアルヴェムだった――

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