ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第二十二話『レヴィアタンの末裔と決着』

「何だ、貴様は……ここをどこだと心得る!?」

 

 一誠のとんでもない発言に一瞬呆気に取られたパーティ会場。

 だが衛兵はすぐに自らの役目を思い出し、不審者である一誠を捕らえようとするもアルヴェムたちグレモリー眷属がその前に立ちはだかる。

 

「遅かったじゃないか、イッセーくん」

「……ここは私たちが抑えます」

「部長のこと、イッセーくんにお任せしますわ」

「みんな……!」

「イッセー、これを持っていけ」

 

 通り過ぎようとする一誠にアルヴェムは懐から取り出した銃弾のようなものを一発、投げ渡す。

 一誠は何度か手の上で躍らせながら弾を受け取ると訝し気に、

 

「これは?」

「お守りだ。前のレーティングゲームで間に合わなかった詫びと思えばいいよ」

「わかった、ありがとう!」

 

 礼を言った一誠は笑顔で拳を向け、その後で弾を胸ポケットへとしまう。

 対照的にライザーは先ほどの一誠が言った「部長の処女は俺のもんだ!」発言によって、何とも言えない表情をしていた。口元も引き攣ってしまっている。

 

 ライザーやリアス関連の悪魔たちが困惑した表情で口々に「どういうことだ?」「あれは一体……?」と口にする中、アルヴェムの肩が小さく叩かれる。

 背後に背を向けるとそこにはドレスアップしているレイヴェルだった。

 レイヴェルは小声で、

 

「あれはあなたの仕込みですの?」

「違うよ。イッセーならそうすると思っていたが、俺は特に関与していない。それより、旧魔王側の悪魔は来ているのか?」

「ええ、あの壁際にいる方々がそうですわ」

 

 会場の扉付近。相手が感づかないように横目で見ると、そこには二人組の男性悪魔がいた。

 ひそひそと何かを話しているようだが口の動きでわかる。

 一誠の話はしていない。話の中心は――イングヴィルドだった。

 

 何故、こんな場所に。どうしてあの男と共に……とどうやら、アルヴェムのことを知っているようだ。つまり、公園で襲ってきた悪魔とアルヴェムの戦闘を知っているということ。

 確信はほぼ得ているものの、アルヴェムはイングヴィルドに耳打ちする。

 

「イングヴィルド、あの中に見たことがある悪魔はいるか?」

「あの人……」

 

 イングヴィルドが徐に指を差してしまった。

 先ほどの悪魔のうち、どうやら一人が該当しているようで指を差された途端に悪魔たちはそそくさと扉を開けて会場から出て行ってしまう。

 

「キミは木場たちの傍にいろ。すぐに戻る――」

「アルヴェム――」

 

 イングヴィルドの言葉を最後まで聞かず、アルヴェムも会場を飛び出す。

 

 逃げた悪魔たちの背中はすぐに見えた。

 魔力に頼っている分、走り慣れていないのか素の身体能力が低い。

 これなら変形せずとも走るだけで追いつく。

 

 悪魔たちは一度止まって魔法陣を起動しようとするも、アルヴェムはその転移よりも早く二人の悪魔の首を掴み、壁へと押し当てる。

 

「貴様、何を――」

「状況を考えろ。俺は今、すぐにでもお前らを殺せる」

Drill finger(ドリル フィンガー)

 

 掴んだ首から数センチ離すと、全ての指がドリル刃に変形。

 キュイイイン……と嫌な音を立てて回転する。少しでも抵抗するならば、悪魔たちの首は数秒もしないうちに肉塊と化す。

 アルヴェムの殺意に当てられ、悪魔たちの額には汗が滲む。

 

「今から質問する。正直に答えろ。俺に嘘は通じないから下手な返答はしない方がいい。死にたくなければ、の話だがな」

 

 純粋な殺意。悪魔たちもアルヴェムの言葉が全て真実だと本能が察したようだ。

 アルヴェムには権力も通用しない。本当に殺す気なのだと――

 悪魔たちは静かに手を挙げ、降伏の意を示す。

 それを見て、アルヴェムは質問を開始する。

 

「まずはお前たちは旧魔王派の悪魔……そう見ていいのか?」

「あ、あぁ……その中でも我々はレヴィアタン様を信奉していると言っていい」

 

 一人が答え、もう一人もコクコクと頷く。

 体温、脈拍、魔力の乱れ、全てを取っても嘘はついていない。

 

「イングヴィルドを助けた理由は?」

「彼女の両親が偶然私を召喚したのだ……眠り続ける病、人間にはどうしようもない病を治療して欲しいと。おそらく、レヴィアタン様の家系だったからこそ近しい悪魔が召喚されたんだろう。だが、私にもどうしようもできない。だからこそ、彼女を我が領土で保護したのだ……」

「何故? すでにお前らにはレヴィアタンの血を引くカテレア・レヴィアタンがいる。純血ではない悪魔を嫌うお前らがわざわざ人間の血が混じったイングヴィルドを庇った?」

 

 問題なのはそこだ。

 何故始末もせずにイングヴィルドを百年もの間、匿ったのか。

 その意図が全く見えてこない。だが、旧魔王派の悪魔は静かに答える。

 

「旧魔王派も一枚岩ではないということだ……我々はレヴィアタン様を信奉しているがカテレア様を信奉しているわけではない。それに、彼女の両親とはひとつ契約をしている。その契約を果たすまでは彼女に死なれては困るのだ」

「契約?」

 

 怪訝を示すと悪魔は手のひらから魔法陣を出す。

 一瞬、警戒するも出てきたのは一枚の便箋で、害のないものだった。

 

「両親には全てを伝えた……人間と悪魔の血が交わっていること。両親が死ぬまでに目覚める可能性はほぼないということを。事実を知った両親は彼女に手紙を残した。これがそうだ」

 

 封筒の蓋が閉まっていないほどの厚みをした便箋。

 イングヴィルドの両親は存命中二度と会えないと娘への想いを綴ったものだろう。

 それだけで彼女がどれだけ愛されていたか理解できる。

 

 変形させていた指を元に戻すと差し出された手紙を受け取って胸部を開けると一番厳重な場所へと保管する。

 敵意がないことは伝わった。だが、まだ聞かなければならないことがある。

 

「イングヴィルドは一度悪魔たちに襲われた。あれはカテレア・レヴィアタンの差し金か?」

「いや、気付いたのは旧魔王派でも末端だ。彼女が私から逃げた際に気付かれてしまった。恐らく、報告する前に捕らえてカテレア様に差し出すつもりだったのだろう。貴様が皆殺しにして事なきを得たようだが……」

「現ルシファーたちは、イングヴィルドの出自を知っているのか?」

「現魔王には話していない……だが、彼女をここに連れてきてしまった以上、気付く者が出てくるだろう。特にレヴィアタン様の魔力の質を知る者は必ず気付く」

 

 どうやら、この婚約パーティでは思った以上に苦労が重なるらしい。

 サーゼクス・ルシファー。リアスの実兄であり、歴代最強の魔王という。

 どれくらい話が出来る相手かはわからないが事情によっては交渉しなければならないらしい。

 

「ひとつ提案だが、イングヴィルド様をこちらに預けないか?」

「……何?」

「我々ならば現政府にも口添えをし、厳重な警護態勢を敷いてカテレア様に気付かれたとしても彼女を守り続けられる。貴様一人ではいずれ限界が来るはずだ。その時、彼女の身に何か起こればどう責任を取る……?」

「そちらがイングヴィルドの両親との契約があったように、俺と彼女にも契約がある。その契約がある限り、何があろうとも彼女を傷つけさせはしない。それが俺の果たすべき責任だ」

 

 イングヴィルドと出会って、長い間、同じ時間を共にしたわけではない。

 だが、彼女がそれを望まないことぐらいはわかる。それに旧魔王派を信用できる要素など今はどこにもない。

 もし離れることがあるとすれば、それはイングヴィルドが傷つけられた時だろう。

 彼女との『ふたりぼっちの契約』は反故となり、二人の関係は終わりを迎える。

 

 それよりも今はイングヴィルドの身が最優先だ。すでに感づかれている可能性が高いが、今はそれよりも一誠の件を片付けているだろう。

 早急にイングヴィルドの元に戻らなければ――と、アルヴェムは二人の悪魔を置いてパーティ会場へと戻っていく。

 

 ―○●○―

 

 イングヴィルドを含めた会場にいた面々は急遽作られた空間に移動していた。

 その光景は太古に人間同士が戦っていた闘技場に類似しており、一誠とライザーが立つ中心の広場の周囲には観客として、それぞれの悪魔たちが座って見ている。

 

 その視線の先では赤い鎧を身に纏った一誠とライザーによる空中での殴り合い。

 何故、そんなことになっているのか。それは遡ること、少し前――

 

 アルヴェムがイングヴィルドを置いて走り去ってきた後、会場の混乱を収めるために現ルシファーであるサーゼクス・ルシファーが現れたのだ。

 彼曰く、ドラゴンの力を改めて見たくなりグレイフィアに頼んで一誠を呼んだらしい。

 

 別の思惑を感じるが、苦言を呈す他の悪魔たちを宥めながらサーゼクスの言葉で一誠とライザーは再度一対一を行うこととなった。

 一誠が勝てば婚約は破談。リアス・グレモリーを連れて行くという条件で。

 ライザーにとっては意味のない対戦。しかし、サーゼクスの名は絶大なようで快諾していた。

 

 そうして決定した戦いが始まって数秒。

 一誠の姿が大きく変化する。今まで籠手だけだった赤龍帝の力が全身に及び、鎧と化していた。

 神器の力を高め、宿主が一定の領域まで達した時に神器は『禁手化(バランス・ブレイク)』する。

 その状態を『禁手(バランス・ブレイカー)』と言うらしい。戦いを見ていた朱乃がそう教えてくれた。

 

 しかし、今回の一誠は厳密に言うと『禁手』に至ってはいないらしい。

 自身の一部をドラゴンに渡す代償によって一時的に得たもの。今も彼の身体からはカウントする声が聞こえており、それは『Ⅹ』から始まり、今は『Ⅵ』。つまり、一誠は自分の片腕を犠牲にして手に入れたのは十秒の『禁手化』ということ。

 

 それでも、その強さは今までとは比較にならないほど。

 さらに悪魔の弱点でもある十字架を交えることで、ライザーと同等に戦っている。

 いくら上級悪魔でも赤龍帝の力で強化された十字架はダメージを受ける代物。レーティングゲームでの余裕はどこにもなく、ライザーも必死になって一誠を倒そうとしていた。

 

 拳のラッシュが重なり、互いから飛び散った血が宙を彩る。

 消耗戦。その末に先に膝をついたのはライザーだった。

 背部のブースターを噴かせ、深く拳を握り締めた一誠が勝負を決めにかかる。

 

 だが――突如として、一誠の身体を包んでいた鎧が解除されてしまった。

 急に止まろうとしたところで、一誠は勢いに負けてその場で転んでしまう。

 その光景に一誠もライザーも呆気に取られる。

 何せ、刻まれていたカウントはゼロに達する途中で解除されたのだから。

 

「いくら代償を払おうが宿主のスペックが足りなければそうなる……認めるよ、お前は強かった。一年後にでもなれば俺を超えるかもしれない。だが、今日は俺の勝ちだ。このまま決めさせてもらうッ!!」

 

 一誠の胸倉を掴み上げ、勝利を確信した笑みを浮かべるライザー。

 その右手には炎が渦巻く。あれを当てられてしまえば今の一誠ではひとたまりもない。

 だが、一誠は不敵にも笑みを浮かべた。

 

「火を消すには……水、だよな?」

 

 懐から取り出したのは小瓶。

 その中には透き通った液体が入っており、ライザーもそれを見て顔が青ざめる。

 

「あれは……?」

「聖水、十字架と並んで悪魔への有効なものです。それ単体では上級悪魔相手に意味を成しませんが――」

「『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』!!」

Transfer(トランスファー)!!』

 

 籠手の宝玉に残されていた力が聖水の効力を倍加させる。

 振りかけられた聖水を躱しきれず、顔中に浴びるライザーは悲鳴を上げて炎を噴き出す。

 いくら上級悪魔でも効力を倍加させた聖水は防ぎきれない。現に不死身のフェニックスであっても、精神を大きく削られたのかライザーが放つ火球は威力を格段に落としていた。

 

 それでも直撃すれば相当なダメージになってしまう。

 上半身で爆発した火球に一誠の身体は地面を転がって倒れる。

 例えライザーの火力が落ちていたとしても、素の状態で受ければ十分灰になる一撃。

 見ていた観客は終わったと感じていただろう。だが、一誠は原型を留めたまま、ゆっくりと立ち上がった。

 これには会場にいる他の悪魔たちも、ライザーも驚いて声を上げる。

 

「何故だ……何故、お前はそこまで戦える!? 自らの腕を犠牲にしてまで、しかも何度倒されても立ち上がるなんて正気じゃないッ!!」

「アルヴェムが言っていた……諦めない心がある限り、真の敗北はないと。勝利は意地を貫き通した者にのみ訪れるんだと……マジでその通りだよな。俺は今お前に勝つなら腕でも何でも安いもんだ。勝つまで絶対に諦めねぇ!!」

 

 そう叫ぶ一誠の身体の前で氷に包まれていた。

 それはアルヴェムがレーティングゲームで最後に見せた氷結弾と同じ氷。

 一誠が会場に乗り込んできた時、アルヴェムが弾を一発渡していたのを見た。恐らく、その弾が炎に反応して炸裂したのだろう。

 

 ただ、前のと違い攻撃性はない。アルヴェムは一誠を補助するためだけに、あの弾を作り変えていたようだ。

 その理由はイングヴィルドにもわかる。

 一誠自身の手で決着をつけさせて、リアスを救わせようとしているのだ。

 

 しかし、それでも勢いは殺しきれなかった。

 今までのダメージが蓄積して、一誠の足は震えている。放っておいても倒れそうだ。

 それでも拳で震える脚を叩き倒れるのを拒否する。根性とリアスを救いたい想いが彼を限界以上まで動かしていた。

 

 氷を振り払っているうちに次いで襲い来る火球を寸前で跳んで躱し、一誠は十字架を握り締めた左拳にもう一本あった聖水の小瓶を振りかける。

 

「アーシアが言っていた。悪魔は十字架と聖水が苦手だって。それを強化すれば、お前が上級悪魔で不死身だろうが相当なダメージだよな!!」

 

 闇雲に放たれる炎を一誠は次々と躱していく。

 

「木場が言っていた。視野を広げて相手を見ろと。派手に炎をばら撒いたって、ダメージがあるお前の攻撃なんて俺でも躱しきれる!!」

 

 一誠の魔力が拳の一点へと集中していく。

 無駄もなく綺麗に、そして流れるようにして手に持っている十字架や振りかけられた聖水へと巡っていく。

 

Transfer(トランスファー)!!』

 

「朱乃さんが言っていた。魔力は意識を集中させて、身体を覆うオーラから魔力の波動を感じればいいと!」

 

 左拳に力を込め、その拳はライザーへと向けられる。

 すでにその場から飛び立つ余力さえ残されていないライザーは戦々恐々とする以外に道はなかった。

 

「小猫ちゃんが言っていた。打撃は身体の中心を狙って、的確に抉り込むようにして打つのだと!!」

「ま、待て……! この結婚がどれだけ悪魔の未来に必要なことかわかっているのか!? お前のようなただのガキがどうこうする話じゃないんだぞ!!」

「難しいことはわかんねぇよ。でもな、俺がお前に負けた時――部長が泣いてたんだよッ!! てめぇを殴る理由はそれで十分だァアアア――ッ!!」

 

 一誠が放った拳はライザーの腹部へ深々と突き刺さる。

 拳、十字架、聖水、高められた全てのダメージによってライザーはその場に膝をつき、崩れ倒れる。

 

「お兄様っ!!」

 

 フェニックスの親族席で見ていたレイヴェルが兄のもとへと飛び出す。

 一誠と倒れたライザーの間に立ち、一誠へと何か言いたげな目で彼を見つめる。

 しかし、臆することなく一誠は左拳をレイヴェルへと突き出し、

 

「文句があるならいつでもかかってこい! 俺は逃げねえからよ!!」

 

 それだけ言って、一誠は踵を返してリアスがいる方へと歩き出す。

 足取りは覚束なく、倒れてしまいそうになるも駆けつけたリアスがそれを支える。

 

「良かったね、リアスさん」

 

 そう小さく呟いて、イングヴィルドは視界が光に包まれていく。

 どうやらこの空間は役目を終えたために消されるようだ。

 きっと元の会場ではアルヴェムが待ってくれているだろう。

 彼にも『禁手』という土産話が出来たことで、イングヴィルドは少し気分が高揚しているのを感じていた――

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