ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
「皆、部室で待ってるからな!!」
リアスの奪還に成功した一誠は予めグレイフィアから受け取っていたであろう魔法陣を起動させてグリフォンを召喚していた。
二人はその背に乗って飛び去っていき、他のグレモリー眷属たちはそれに手を振って見送る。
グレモリー眷属として結果は良かっただろうが、上としては最悪の結果だろう。
そう思ったアルヴェムだったが、フェニックス現当主とグレモリー現当主へ目を向ければそうでもない様子だった。
互いに何かを話している。
しかし、それはこれから一誠たちをどう処分しようかなどと言う話ではない。
自らを反省し、ライザーに必要だったものが何か、リアスに必要なものは何か……至って普通の子を想う父親同士の会話だった。
と、そこで服の裾が引っ張られる。
どうにもこれが癖になっているようだが、振り向くとそこには案の定イングヴィルドがいた。
彼女にしては高ぶっているのか、拳を握って、
「アルヴェム、さっきの戦い見てた……?」
「いや、戻ってきたら誰もいなかったから待ってたよ。イッセーとライザーが戦っていたんだろ? どうやって勝ったかまではわからないが」
「すごかった……帰ったらアルヴェムにも教えるから」
「ああ、そうしてくれ」
イングヴィルドが常に着けているリストバンドには映像を記録する機能もある。
後で確認しようと思っていたが、話したそうにしているイングヴィルドにそれを伝えるのは野暮でしかない。
それに、話したいことがあるのはイングヴィルドだけではなく、
「俺も話したいことがあるんだ。だけど、その前に――お出ましのようだ」
会場は婚約破談によって場が荒れているが、グレモリー現当主及びフェニックス家現当主の説明と謝罪によって徐々に解散していた。
その中でもアルヴェムたちを見据える者が一人――紅色の髪をした男性だ。
どこかリアスの面影を感じさせるその容姿はどう見たって彼女の血縁。その傍らにはいつの間にか合流していたグレイフィアもいる。
「はじめまして、アルヴェム・オーヅァくん。私はサーゼクス・ルシファー、少し話をしたいのだが時間は大丈夫かい?」
「ええ、構いませんよ。俺としてもあなたにお話したいことがありますから――遅れた挨拶以外にも」
このタイミングで接触してきたということは、間違いなくイングヴィルドの正体にも気付いている。
相手からは敵意を感じないが、それはこれからいくらでも変わってくるため油断はできない。
「大丈夫、なの……?」
そう心配の声を上げるイングヴィルド。
アルヴェムとサーゼクス、両者の間に生まれる歪は他のグレモリー眷属までも不安にさせる。
それを見て、アルヴェムはイングヴィルドの肩に手を置き、
「大丈夫だよ。何もいきなり殴り合うわけじゃない。姫島先輩、木場、塔城、気を遣わず帰ってくれてもいい。俺はイングヴィルドと一緒に魔王様と話がある」
「いえ、私は『女王』として部長不在の場合は眷属の指揮を執る手筈となっていますから、同席させていただきますわ」
「……ただならぬ気配を感じますから」
「水臭いことを言わないでよ……とは言っても、僕たちが同席していい話なのかわからないけどね」
「いや、構わないよ。キミたちも無関係な話じゃないからね」
サーゼクスはあっさりと了承をした。
確かにグレモリーの保護対象となっている以上、彼らも関係はあるが現魔王が何を考えているかは読めない。
「少し場所を移そう。あまり周りに聞こえるところで話すことではないからね」
未だに会場に残っている悪魔も散見される。
そのことを考慮し、サーゼクスは踵を返して先に歩き出す。
三歩ほど遅れてグレイフィアも歩き出し、アルヴェムたちもその後を追った――
―○●○―
「さて、単刀直入に言おうか。その子……イングヴィルドくんはレヴィアタンの血筋の者だということはわかっている。いや、今日彼女が放つ魔力を見て確信したと言ってもいい」
部屋につき、少し経ってサーゼクスはそう切り出した。
案内されたのは客室。テーブルにはグレイフィアが用意した紅茶が淹れられたカップやお茶請けが並んでいた。
切り出された言葉に他の面々の表情が止まる。しかし、すでに知っているアルヴェムとイングヴィルドは別段驚くこともない。
代わりに質問を投げかける。
「それを知ってどうされるおつもりですか? 現魔王として、旧政府の象徴のひとつであるレヴィアタンの血……それも人間と混じっているイングヴィルドを消すと言うのなら黙ってはいられません」
「誤解しないで欲しい。結果として彼ら前魔王の血筋を表舞台から遠ざけてしまったのは事実だ。だが、他の道があったのではないかとも思っている。だからこそ、今は話し合いをしたいと思ったんだ。決して始末しようなどと考えてはいない」
信じてもらえるかはわからないが……とサーゼクスは苦笑する。
しかし、その目は真剣なものだ。本気でかつて袂を分かった旧魔王派の悪魔と話をしたいと思っている。無論、それで全てが上手くいくとは思っていないだろう。
「イングヴィルドくん、聞かせてくれ。もし旧魔王派の悪魔がキミに来て欲しいと言えば、どうする?」
イングヴィルドにレヴィアタンの自覚はない。
おそらく、サーゼクスは見定めようとしているのだろう。イングヴィルドが今の政府にとって薬となるか、毒になるのかを。
似たようなことはイングヴィルドを保護していた悪魔から聞いた。
その時、アルヴェムは拒否したが、彼女の意見はどうなのか。それはわからない。
イングヴィルドを見ると、会話を振られ、相手が初対面なことに加えて現魔王ともなると明らかに緊張していた。
だが、その答えはすぐに出る。
「わ、私は……行きません」
声は小さいが、イングヴィルドははっきりと否定した。
「アルヴェムも一緒に来てくれたら、考えるかもしれないですが……学校に行って、海に行って、歌って……今の生活は楽しい、です。私には血筋のことなんて、わからないけど……私の力はアルヴェムのために使いたいと、思っています……」
「……そうか、ありがとう。首都での保護も考えていたが、キミの意思を尊重したい。ただ、そうなると私も確かめなければならないことがある」
言って、サーゼクスの視線がアルヴェムへと移る。
「父も母も驚いていたよ。まるで若かりし頃の私を見ているようだとも言っていた。私自身そうだと思うが――キミが何なのかを知りたい。彼女を任せるにしても、キミという悪魔から逸脱した存在がどういうものか知らなければ我々も対処のしようがないからね」
サーゼクスが警戒心を見せる理由はわかる。
あの短時間でフェニックスを攻略し、他の生物とは根底から構造が違う者を見れば誰だって警戒する。それはアルヴェムも同じだ。
誰もが未知のものを恐れる。生物として当然のことだろう。
「だったら戦って試してみますか? ちょうど俺も魔王がどれほど強いのか知りたかったところです」
今、目の前には悪魔の中で最強の男がいる。
その実力を確かめられれば、悪魔の『基準』というものを知れるだろう。
これはまたとない好機だ。それを見ていた朱乃が止めに入ろうとするも、アルヴェムは手を軽く挙げて制止する。
一方、挑戦的な物言いを受けたサーゼクスは一度考え、やがて頷いた。
「わかった、一度手合わせをしよう。拳を合わせて理解できることもある――グレイフィア、すまないが新たな戦闘用の空間を作って欲しい。それも頑丈なものを」
サーゼクスの言葉にグレイフィアは一度頭を下げると退室していく。
悪魔になって日も浅いが、早くも魔王と戦える機会に恵まれた。
どれだけ本気を出すつもりかは知らないが引き出す。アルヴェムは自らの胸の内に高揚のようなものを覚えていた――
―○●○―
数分後、グレイフィアによって創り出された戦闘用空間にアルヴェムとサーゼクスは立っていた。
風景は人間界でも見てきたビル群。そして、街の風景。
どうやら再現したのは駒王町のようで、サーゼクスは周りに目をやる。
「先ほどの決闘とは違って急ごしらえだが特別頑丈に創られている。本気で戦ったところで十数秒は持つだろう。ただ、我々の本気は彼らには刺激が強いだろうから、私の関係者であるごく一部の者を除いて映像は切ってあるよ」
「お気遣いありがとうございます。それでは、何をもって始まりにしますか?」
「好きに撃つといい。それを合図としよう」
サーゼクスは身構えもしない。
魔王としての余裕か、それとも構えないのが彼の戦闘スタイルなのか。
定かではないが、今はどうだっていい。これからその底を見るのだから――
「それでは――よろしくお願いします」
【
直後、アルヴェムは左手を握り、それを右手の手のひらに合わせて突き出す。
その手のひらの中心から穴が開いて砲口が見えたかと思えば、突如として極大の奔流が飛び出した。
体内で緻密に創り上げられた数億をも超える光線の束。全力で放てば一つの次元すら容易く滅ぼす一撃がサーゼクスの全身を飲み込む。
だが、殺せた気はしない。
案の定、光が止んだ先には無傷のサーゼクスが立っていた。
先ほどと変わっているのはその周囲。背後にあった建築物はその先まで円形の穴を開けており、何よりサーゼクスの周りには赤黒い球体がいくつも舞っている。
消滅の魔力の塊。滅びそのもの。
リアスとは比べ物にならないほど濃密で、芸術的なほど緻密に制御されている。
この空間用に威力を落としていると言っても本来ならば【
強い。初撃でそれは理解できた。
間違いなく、この世界で初めて出会う
「いい一撃だ。こちらも行かせてもらおうか」
サーゼクスの声と共に彼の周囲にあった球体が一直線にアルヴェムへ向かう。
躱そうにも球体はありとあらゆる方向から攻めてくる。いずれジリ貧になるだろう。
触れれば消し飛ぶ、そのプレッシャーは凄まじく並の者ならばまず普通には戦えない。
だが、そんな恐怖心は機械の身体にはなかった。
迷いなくアルヴェムは自らの拳を球体へと叩き込む。
触れた途端、拳の皮膚が消し飛ぶ。バリアと装甲、表面を覆うものでは消滅は免れないらしい。
だが、中身である金属の骨はさらに厳重なバリアによって消滅を防ぐ。
バリアと消滅の魔力、その二つがぶつかり合った結果、爆ぜたのは消滅の魔力だった。
「――解析開始」
【あいあいさーっ!】
ユールーの返事が聞こえ、アルヴェムは拳の皮膚を修復して駆け出す。
現状、サーゼクスの魔力はこちらの身体を芯まで通さない。しかし、それは現状の話。
彼の出力が上がればまた話が変わってくる。受けた消滅の魔力を解析し、バリアへ消滅の魔力に対する耐性を付与するのが狙いだ。
そして、近接戦を選んだのはこれまでの分析結果だ。
リアス、朱乃、ライザー、ライザーの『女王』、一定の魔力を持った悪魔は皆遠距離を主にしている。それが悪魔としての戦い方なのだろう。
だったら、近付いて攻めに出る――
【
アルヴェムの両目から赤い螺旋状の光線が二条放たれる。
切断力に特化したそれらもサーゼクスの消滅の魔力によって阻まれた。
だが、一瞬サーゼクスの目が少しだけ見開かれる。
異常、それに気付いたのだ。先ほどは完全に遮断し消滅できたアルヴェムの光線が今回は消滅の魔力に触れた時、一欠片の光の粒子が舞った。
二撃目にして完全に消滅しきれていない――
気を取られたコンマ数秒だろうとも、アルヴェムは逃さない。
その一瞬でサーゼクスとの距離を詰めたアルヴェムの拳がサーゼクスの頭部を狙う。
しかし、サーゼクスは冷静だった。そして、体術の心得もあった。
サーゼクスの顔とアルヴェムの拳に手のひらが差し込まれる。
二人の手は触れ合わない。代わりに異音を奏でる。
サーゼクスが身に纏っている魔力とアルヴェムが纏うバリアが接触し、硬い金属同士が擦り合うような不快な音が響く。
「今までの相手ならすでに何度か殺せていた一撃ばかりだが対応してきますね」
「それは私もだよ。イレギュラーな存在、その危険性を身に染みているよ」
まだ戦いは始まったばかり。
互いの腹の探り合いはさらに苛烈なものへと化していく――