ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第二十四話『アルヴェムVSサーゼクス②』

 ――今まで様々な相手と戦ってきたが……これほどまでに異質とは。

 

 両者間の戦いは近接格闘戦となり、その最中サーゼクスは心中でそう思う。

 拳、蹴りが交差するたびに互いの肌には直接触れず、互いにある魔力、バリアが接触を許さない。

 一種の拮抗状態。しかし、サーゼクスは動く。

 

 格闘戦をこなしながらサーゼクスは指を軽く振るった。

 瞬間、サーゼクスの周囲に漂っていた黒い球体、消滅の魔力の塊が各方向からアルヴェムを襲う。

 どれもが必殺の一撃。一度触れれば骨すら残さないほどの威力だ。

 

 万が一、そう思い初撃は威力を絞って放ったが何度か拳を合わせてわかった。

 間違いなく――彼に手加減は必要ない。それどころか、そんな手心を加える余裕もない。

 現に魔力を込めた一撃であってもアルヴェムに避ける気配はなかった。

 その身体を消滅の魔力が伝う。軌道に沿ってアルヴェムは削り取られるが、それは皮膚のみ。彼の全身を構成しているだろう金属の骨に至っては何の消耗もしていない。

 

 サーゼクスの"消滅"にとって、相手の材質は関係ない。

 どれも等しく一度でも触れれば消し飛ぶ……だが、それは同じ理に生きていたらの話。

 すぐに皮膚を修復し、アルヴェムの拳が防御に出たサーゼクスの手へ幾度目かの衝突を引き起こす。

 

 その目にまるで恐れがない。

 ただ真っ直ぐ。機械的にこちらを解析し、対処してくる。

 衝突もまたこれまでとは違った結果を齎す。

 

 パシッ……そう音を立てたのだ。

 今までは拮抗した金属音のような異音だったが、それが変化した。

 事実はサーゼクスの手に伝わる感触と共に伝わり、驚愕を作り出す。

 

 手が触れた――つまり、サーゼクスが身に纏う消滅の魔力を貫通したことになる。

 返す刀でサーゼクスの魔力がアルヴェムの身体へと接触し、その身を後方へと吹き飛ばす。

 しかし、今のは派手なだけで有効打とは成り得ない。遠くへ飛んだ今でもアルヴェムのオーラらしきものが微塵も衰えていないのがはっきりとわかる。

 

 ビルの一角に突っ込んだアルヴェムはすぐに戻ってくることはしなかった。

 恐らくサーゼクスを待っている。または、解析の時間を稼いでいるか。

 

「軽い手合わせのつもりだったが、どうにもそうはいかないようだ」

 

 サーゼクスは己の片手に目をやる。

 手のひらからは煙が上がっていた。先ほどの一撃で久方ぶりに受けた実戦でのダメージ。

 

 不思議とサーゼクスも気分が高揚しているのを感じていた。

 サーゼクスを含め、前魔王の名を継いで新たな魔王になった者たちは悪魔の中でも異端の存在。

 その中でもサーゼクスと現ベルゼブブ――アジュカ・ベルゼブブは前魔王をも容易く上回るほどの絶対的な力を持っている。

 そのおかげで現状悪魔は三大勢力の中でも最大の戦力を誇っていると言ってもいいだろう。

 

 そんな自分と対等に戦えている……それがどれほど異常なことか。

 二人ともまだ本気は出していない。だが、それを踏まえても底はまるで見えない。

 

 今回の手合わせは悪魔の未来にとって思った以上に重要なもののようだ。

 サーゼクスは魔力によって、その場から浮遊しアルヴェムを飛ばしたビルまで向かう――

 

 ―○●○―

 

「流石は魔王か……身に纏う魔力が違うな。近付くだけで削れられる」

 

 見える範囲で見てみれば、先ほどの攻防で拳以外にもサーゼクスに触れていない胴部、脚の一部の皮膚が削げている。

 だが、攻略の糸口が見えてきた。

 解析は完全に終わってはいないものの、これである程度戦えるだろう。

 そう考えていると、追ってきたサーゼクスがアルヴェムを通して開けた穴からビル内部へと入って来る。

 

「さて、答え合わせといくか……」

 

 アルヴェムの拳にバリアが纏われる。しかし、それは耐衝撃性のものではない。

 淡い光を纏うアルヴェムの拳にサーゼクスも訝し気に見ている。

 

「……気になりますか?」

「何せこんなに早く私の身に届くとは思っていなかったからね。悪魔同士の戦闘は基本的に魔法による遠距離が主流だからより一層そう思うよ」

「これに関してはそう難しいものではありません。今、サーゼクス様の魔力に合わせてバリアの性質を変え、消滅の魔力を中和しているんです」

「他者の魔力に合わせる、か……例え血縁関係でも自らが持つ魔力に全く同じはない。だが、確かに私の魔力に合わせることができれば、この身を守る防御も突破可能だろう。わかってもなかなか実戦できるものではないよ」

 

 サーゼクスの一撃は全てが必殺。

 普通ならば試すこともできずに散るだろうが、アルヴェムも耐久力には自信があった。

 時間をかけるほど解析が進み、アルヴェムが有利となる。それはサーゼクスも理解していた。

 

「それでは続きといこうか」

 

 サーゼクスが言って、互いに地を蹴る。

 だが、進んだのはサーゼクスのみ。アルヴェムは後方に向かって飛び退く。

 直後に床から飛び出したのは黒い球体。それによって、一歩で遅れた。

 皮膚を削ぎ、骨まで届かずとも接触はする。球体が軸足を掠め、アルヴェムは体勢を崩すとサーゼクスの拳がその顔を捉える。

 

 顔の皮膚が消し飛び、赤い眼光が輝く。

 その顔を次いで放たれた消滅の魔力が捉え、アルヴェムの身体は後ろへと仰け反る。

 だが、サーゼクスの追撃はそこで止まる。

 

Breast Burst(ブレスト バースト)

 

 アルヴェムの胸部が炸裂し、夥しい数の金属片が飛び出す。

 ただ、それに特別な能力はない。気を逸らすためだけの一発だ。

 サーゼクスも漂う黒い球体がその全てを消し去るも、その時にはすでにアルヴェムの両拳が放たれていた。

 

「っ!」

 

 しかし、先ほどと違ってサーゼクスの身を触れることはなかった。

 サーゼクスが身に纏う魔力。その性質は消滅のままだが、波長が変わっている。

 そうなればアルヴェムは突破できない。その拳が大きく弾かれてしまう。

 

「――『滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクスティンクト)』」

 

 周囲を漂っていた消滅の球体が円を描きながら一か所に集まり、ノーガード状態のアルヴェムへ次々と撃ち込まれる。

 アルヴェムの耐久性を考慮した連続攻撃の数々。先ほどよりも威力は段違いに上がっており、例え上級悪魔だろうがこの一撃を耐えられる者など数えられるほどだろう。

 そもそも小さな球体でまとまってはいるが、中身はそんな可愛らしいものではない。リアスなど比べ物にならないほど消滅の魔力を凝縮させた至高のもの。サーゼクスの有り余る魔力、才能、技術が揃ってこその代物だ。

 

 拳が弾かれた理由、それはすぐにわかった。

 こちらが魔力の性質を理解して中和しているところを性質を変えて対抗してきたのだ。

 魔力の波長を変える……恐らく今までしてこなかっただろう芸当を容易くやってのける。

 

「やはり、そう簡単じゃないか……」

 

 悪魔の中でも最強と呼ばれる者相手に小手先では通用しない。

 再び中和しようにも対応される。繰り返しても良いが、それでは決定打になり得ないだろう。

 何か他の手段が必要となる――そこで視界の端からユールーがひょこっと顔を出す。

 

【ねぇ、あれ現地生物だとほぼトップなんじゃないの? だって、あの魔王さん。全身が魔力でできてるというか……今まで見てきた悪魔と根本的に身体の構造が違うんだけど?】

「だろうな。特別変異種、その一種だろう」

 

 アルヴェム自身、計測していたがサーゼクスは悪魔というカテゴリーから逸脱している。

 全身が消滅の魔力でできている。今はヒトの形を保っているが、解放すれば今いる結界など容易く消滅するだろう。

 だが、その姿に興味がある。そのために戦いを挑んだとも言って良い。

 ならば、取るべき選択肢は一つ――

 

「本気が見たくなってきた。白兵戦闘形態――」

Assault Mode(アサルト モード)

 

 幸いイングヴィルドには映像が切られている。

 そうなると少しばかりこの姿を捨てて戦ってもいいだろう。

 機械音声の直後、アルヴェムの身体を覆っていた皮膚が一度全て消されていき、デフォルトの形態から変化していく――

 

 ―○●○―

 

 変身……いや、変形をした。

 アルヴェムの変化を間近で見たサーゼクスはその姿に驚いた。

 先ほどまで自身と似ていた容姿は全て捨て去られている。そこにいるのは全身が金属で作られた生命体――と言っていいものなのか。

 

 生命と表したが、生物としての温かみは感じない酷く曖昧な存在だ。

 代わりに感じるのは悍ましいほど濃密なオーラに似た何か。今まで悪魔として長い年月を生きてきたサーゼクスでさえ目の前にいる相手が何なのか例えようがなかった。

 

 剥き出しになった頭蓋、骨の数々。それらを繋ぐのは全身に繋がっているコードが絡み合い、まるで筋肉のように蠢いていた。

 やがて内側から皮膚の代わりに金属の外殻が創り出され、一枚一枚身体へと貼り付く。

 

 その姿はサーゼクスの知るところで言うと、全身に鎧を身につけた騎士……とでも言うべきか。

 黒を基調としたボディには深紅のラインが走り、体長は二メートルほど。人間と大差のない身長だが、その身体から放たれるプレッシャーは周囲にある床、物を無意識に押し潰す。

 

「その姿は――」

【接近戦用形態です。今は対サーゼクス様専用と言っても過言ではありません。そろそろ、そちらも本気を出さなければ――】

 

 赤い眼が光り輝いたかと思えば、その姿が消える。

 次の瞬間には変形した腕の刃がサーゼクスへと迫っていた――

 

【解析、終わりますよ】

 

 寸前で上体を反らせて躱すも、過ぎ去った刃が背後の建築物を一刀両断する。

 それも一つや二つではない。風景が続く限り、その斬撃は留まることを知らなかった。

 何より、掠ったのかサーゼクスの頬に少量の血が伝う。

 

「また仕込みが変わったようだね」

 

 先ほどの中和はすでに対策している。魔力の性質を変え続け、流動させているためにバリアの性質を変えるのは少々手こずるだろう。

 だが、今のは中和とはまるで違う。身に纏う魔力を最初からなかったもののように貫通してきたのだ。

 

【今回は教えられませんよ。ただひとつ言うならば、本気のあなたでしか対抗できない……ということです】

 

 消滅の魔力を直撃させようとも、今度はその外殻すらも破れない。

 アルヴェムの口振りからして、タネと仕込みは十分にあるのだろう。解析が終わったのもブラフではない。

 

 本気――

 彼がどこまでサーゼクスを知っているかは不明だが、今の姿では手に余るのは事実。

 すでにサーゼクスの中でアルヴェムの脅威度は主神以上のもの。この世界には敵意さえ向けなければ手を出してこない絶対的な強者が何人かいるが、彼もその部類だろう。

 

 相手はどこまでも得体の知れない超越者とも言っていい存在。

 この映像はグレイフィアを含めたサーゼクスの眷属、そして他の魔王しか見ていない。本気を見せたところで問題はなく、何より時間制限もあって今のアルヴェムを消し去れるとも思っていなかった。

 

「十五秒、それ以上はこの空間が持たないからね。その間だけ――キミが見たがっている本気を見せよう」

 

 上着を脱ぎ捨てたサーゼクスは己の持つ魔力を完全に解放する――

 

 ―○●○―

 

 手合わせから少し経ち、サーゼクスとグレイフィアはアルヴェムたちが帰っていくのを見送る。

 結果的に言えば決着はつかず、空間の方が先に限界を迎えてしまった。両者ともに満足のいく成果が得られたことで戦いは終了となり、この場は解散となったのだ。

 サーゼクスは客室のソファに身体を預けるようにして座ると、一息つく。

 

「お疲れ様でした、サーゼクス様。実際に手合わせしていかがでしたか?」

「正直、二度と戦いたくない相手だと思ったよ。あのまま続けていれば、私と言えど危なかった。結界が壊れて助かったとも言える」

「サーゼクス様にそこまで言わせるとは……彼は一体、何者なのでしょうか?」

「相対したところで全くわからなかった。ただ、確実にこちらの手に対応して有利を取ってくる……言わば『無限の後出し』と言ったところだろう。グレイフィア、使用人としてではなくキミ自身として意見を聞いてみたい。キミから見て彼はどうだった?」

 

 サーゼクスがグレイフィアの顔を見上げると、彼女は一瞬考え、やがて問いに答える。

 それは使用人としてではなく、サーゼクス・ルシファーの妻としての率直な意見だった。

 

「……全力のあなたとまともに戦える時点で明らかな脅威よ。はじめて対面した時、私も一瞬あなたと勘違いしたわ。でも、あの子からはヒトとしての温かみを感じなかった。だから別人だとわかったけど……とにかく曖昧な存在ね。ただ、邪悪かと言われたらそうでもないわ。守ろうとしているものが明確にあるもの」

「イングヴィルドくん……あのレヴィアタンの血を継ぐ彼女に固執していた。何かあるのか?」

「契約、そう言っていたわ。だから彼女が傷つけられそうになった時、彼は悪魔全体を敵に回すつもりで戦おうとした。私には契約以上の感情が見えたわ」

「そうなると鍵はイングヴィルドくんが握っているということか」

 

 はっきり言って、イングヴィルドはあまりにも微妙な立場にある。

 サーゼクスが魔王になって以降、若さや生い立ちを理由に他の上層部である重鎮を上手く御しきれていない部分があり、現在も手を焼いていた。

 その状況でイングヴィルドの存在が上層部へ明らかになれば、何らかの強硬手段を用いるかもしれない。それがアルヴェムの逆鱗に触れれば、ただでさえ少ない悪魔がさらに減るだろう。

 

「私もまだまだ苦労が絶えないな……」

「険しい道であることは、あなたが魔王になる道を選んだ時には決まっていたじゃない。そのために私はあなたの傍にいることを選んだ――今更の話よ」

「ふっ、そうだな。キミにはいつも励ましてもらってばかりだ」

 

 グレイフィアの迷いない瞳にサーゼクスも微笑する。

 今までも数多の困難があった。旧政府との内乱、魔王になってからの日々、それでも数々の協力があって現在までたどり着いている。

 

 きっと、アルヴェムとも手を取り合える。

 そう信じて、サーゼクスは魔王として突き進むしかない。

 改めて、覚悟を決めたサーゼクスは懐からひとつの小瓶を取り出す。

 

「それは?」

「戦っている最中にアルヴェムくんからいただいたものだよ。これで少しは彼のことが解明されればいいのだが……」

 

 小瓶の中にあるのは戦闘形態に入る前、アルヴェムから飛び散った肉片を回収していたのだ。

 その小瓶をグレイフィアへと差し出し、

 

「アジュカに頼んで解析させてくれ。きっと、成果を挙げてくれるはずさ」

「ええ、わかったわ。医者もすぐに手配するから、それまでは大人しくしていてくださいね」

 

 言って、グレイフィアは客席から一度退室する。

 彼女の姿が見えなくなると、サーゼクスは天井を仰ぎ見て、

 

「どうやらいつまでもキミには敵わないようだ」

 

 笑って、羽織っていた上着を脱いで隣へと置いた。

 その右腕には斬り傷があり、着ていた衣服が血で滲んでいる。

 最後の最後、アルヴェムの刃はサーゼクスの身体へと届いていた――

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