ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第二十五話『女王への転生』

「それでね、イッセーが『禁手化(バランス・ブレイク)』して赤い鎧を纏って――」

 

 サーゼクスとの一戦が終わり、帰宅して少し経った頃。

 別件で離れていた時に行われていた一誠とライザーとの決闘を見ていたイングヴィルドが一生懸命説明を行ってくれていた。

 

 イングヴィルドが着けているリストバンドの記録映像を見れば、確実で早いのだが今の彼女を見てそんな野暮なことは言えない。

 きっと、アルヴェムの役に立てるのを嬉しく思ってくれているのだろう。

 それに動きも交えて実演してくれているので、意外と見応えがある。

 

 やがて、その実演も終わりライザーが倒れたところで解説は終わった。

 軽く息を切らせるイングヴィルドに飲み物が入ったペットボトルを手渡し、アルヴェムは顎に手をやる。

 

「『禁手化(バランス・ブレイク)』か。神器にもまだまだ謎はありそうだな……」

「わ、私も片腕を使ったらできるかな……?」

「絶対にしないでくれ。というより、そのやり方は時限式だったんだろう? だったら、正規の至り方があるはずだ」

 

 片腕を握り締めるイングヴィルドを止めつつ、アルヴェムは考える。

 レーティングゲームの時、一誠の『赤龍帝の籠手』は彼の想いに応えるようにして進化した。

 神器は宿主の想いによってその力を向上させる――ならば『禁手』はそれ以上、何かしら爆発的な変化が宿主に起こった時に訪れるものではないだろうか。

 

「まだキミは神器をまともに扱えない。今『禁手』に至ったとしても暴走する危険性がある。それで怪我でもされたら契約は終了だから気をつけてくれ」

「っ! うん、ごめんなさい……そこまで考えられていなかったわ」

「謝ることじゃないよ。ゆっくりと確実にやっていこう。先は長いんだからさ」

「…………」

 

 その言葉に、何故かイングヴィルドは目を丸める。

 呆気に取られていて、アルヴェム自身そんな妙なことを言ったつもりはなかったが、何かしらイングヴィルドの琴線に触れてしまったらしい。

 

「……? どうした?」

「先は長いって、ずっと一緒にいてくれるの……? 研究が終わっても?」

「研究は簡単に終わるものじゃないから何年、何十年とかかっていく。それに一度終わっても、そこから改良したり派生したり……一から始まるなんてザラにある。『ふたりぼっちの契約』が続くか、キミが嫌にならない限りは言う通りずっと一緒だ」

「ふふっ、そっか……それなら、良かった」

 

 安堵したのか、にまぁ……と笑みを浮かべるイングヴィルド。

 何が嬉しかったのか。アルヴェムの知るところではないが、問いかける代わりに胸部を開く。

 

「アルヴェム……?」

「これはキミの両親が遺したものだ」

 

 自身の中でも一番厳重な核の傍に入れていたのは、旧魔王派の悪魔から預かっていた便箋。

 そこにはイングヴィルドへの想いが綴られた手紙が封で収まらないほどあり、それを手渡す。

 

「キミを助けた悪魔が持っていたんだ。中身は見ていないが、キミは愛されていたようだ」

「読んでも、いい?」

 

 許可など必要ない。アルヴェムは頷くと、イングヴィルドは恐る恐る手紙を取り出す。

 イングヴィルドの両親が彼女に残した物を見るのは無粋だろう。

 そう思い、アルヴェムは立ち上がろうとするもイングヴィルドがその服を抓む。

 

「一緒に見よ。ちょっと、不安だから……」

 

 不安になるような罵詈雑言など彼女の両親が書いているはずがない。

 イングヴィルド自身、それはわかっているのだろうが不安はあるようだ。

 立ち上がるのをやめて、アルヴェムはイングヴィルドの傍に再び腰を下ろして座る。

 

 改めて、イングヴィルドは手紙を開いた。

 そこにはかつて彼女が住んでいた故郷の文字が所狭しと書き綴られている。

 元気にしているか、目覚めて身体の不調はないかと体調を心配する言葉。傍にいてあげられないことを悔いて謝罪する言葉。他には故郷の料理をレシピにまとめられていたり、魚の捌き方まで載せていたり、どれも天涯孤独となってしまう彼女を気遣ったものばかりだった。

 

 さらに両親からの手紙が終われば、次は別の人間が書いたであろう手紙が続く。

 女性の特徴的な丸めの字、子供が書いたような拙い字、そのどれもが彼女の身を案じ、もう一度会いたいと書き綴られたものばかり。

 きっと、イングヴィルドと関わりが深かった者たちばかりなのだろう。

 

 イングヴィルドの頬には静かに涙が伝っていた。

 もう届かないと思っていた故郷の人たちの言葉は胸に響いている。彼女の中にあった暗い影は少しでも薄れていくはずだ。

 

 この手紙を見て、アルヴェムは少々考えを改めなければならなかった。

 しかし、契約にも関係するためイングヴィルドへと問いかける。

 

「イングヴィルド、キミには新たな選択肢がある。このまま悪魔として生きるか、それとも悪魔のことなど忘れて人間に戻って生きるか――そのふたつだ」

「え……?」

 

 テーブルの上に置いたのはフェニックス家から譲渡された『女王』の駒。

 すぐにイングヴィルドを転生させなかったのは、こういう可能性があることを考慮していたためだった。

 目を丸くするイングヴィルドにアルヴェムは言葉を続ける。

 

「今すぐに、とは言えない。だが、悪魔を解析していく中でキミから悪魔の血を消し去り人間に戻す方法は必ず見つける。そうすればキミの記憶を消し、生涯生きていくのに困らない金を用意して人間界へ返そう。そして、その生涯が終わるまで俺が全ての危機からキミを守る」

 

 何故、今こんな話をするのか。

 それはイングヴィルドが目覚めてから、あまりにも自由に選べる選択肢がなかったことにある。

 だが今は、アルヴェムにも配慮する余裕ができた。

 すでに何体もの悪魔に出会っている。流石に『神滅具』を持つ悪魔には出会えていないが、悪魔と神器持ちに研究対象を分割すれば済むだけのこと。必ずしもイングヴィルドである意味はない。

 

「悪魔として生きる道を選ぶなら『女王』の駒を受け取るといい。そうすれば『ふたりぼっちの契約』はこれからも続いていく。だが、もう人間の道へは戻れない。ゆっくりと答えを出してくれて構わないから、キミの決断を俺は尊重するよ」

 

 その言葉にイングヴィルドは――すぐに『女王』の駒を取った。

 決断の早さにアルヴェムも驚くが、彼女にとっては何も驚くことではなかったようで、

 

「アルヴェムは優しいから、聞いてくれたんだと思う。でも、私はもうアルヴェムと……悪魔として生きていくって決めていたわ。迷惑、かな……?」

「いや、キミがそうしたいと望むなら俺は否定しない」

 

 自らの意思で選んだことを否定するはずもない。

 すると、イングヴィルドの意思を感じてか『女王』の駒が淡く光を放ち、ひとりでに宙へと浮き上がる。

 突然の現象にイングヴィルドも頭に疑問符を浮かべるが、疑問を解決する前に『女王』の駒はイングヴィルドの身体に触れて溶け込んでいく。

 そして、その背中からは悪魔の翼が出現する。八枚、その数がイングヴィルドの持つ潜在能力の高さを窺わせていた。

 

「これで、成功……なの?」

「ああ、そのようだ」

 

 イングヴィルドが纏う魔力が前とは比較にならないほど安定している。

 これでアルヴェムの目的がひとつ叶えられた。ようやく、イングヴィルドの悪魔としての研究を始められるだろう。

 と、そこでイングヴィルドが固まってしまう。何かに困惑しているようだ。

 

「えっと……これ、どうやってしまうの?」

「念じればどうにかならないか?」

 

 試しにアルヴェムも八枚の翼を出す。

 この翼は機械が混じったもので純粋な悪魔の翼とは違うが、思い浮かべるだけで出せるので、しまうのもまた同様だ。

 アルヴェムの翼を見て「あっ、同じ枚数……」とイングヴィルドがほのかに喜んでいるが、そんな場合ではない。しまうことができなければ日常生活にも支障をきたす。

 

「意外と押し込んだら中に入っていくかもしれないか」

「ひゃっ!?」

 

 翼に触ると、イングヴィルドの身体は跳ね上がる。

 そうか……と、己の配慮の無さにアルヴェムは苛まれた。機械と違って、悪魔の翼は生身。それを不躾に触るのはセクハラに相違ない。

 

「すまない。配慮が足りなかった」

「う、ううん……ちょっと、びっくりしただけ」

 

 見ると、驚いた拍子に悪魔の翼は全てイングヴィルドの中へと収納されていた。

 問題は解決。少しばかり気まずい雰囲気が流れるも、アルヴェムとしてはまだすることがある。

 

「それなら良かった。『女王』の駒が体調に異常をきたしていないか確かめるから、少しじっとしていてくれ」

「うん……」

 

 了承を得るとアルヴェムの右腕が細かな線へと変形していく。

 それはそれぞれ身体検査をするための器具であり、イングヴィルドの身体へと触れる。

 少し顔は赤いが体温、心拍数、各種身体機能に問題はない。無事に『女王』の駒に適応できたようだ。

 

 これで第一条件はクリア……そう思った瞬間、変形していた右腕が肘から外れて床に落ちる。

 いきなりの出来事にイングヴィルドも驚き、慌てて腕を拾う。

 

「だ、大丈夫?」

「……ああ、どうやらサーゼクス様は思った以上に強かったようだ」

 

 イングヴィルドから腕を受け取ると肘に接続し、自らの修復を始める。

 十五秒ほどだがサーゼクスの全力は常軌を逸していた。こちらも相応に対処したものの、今回に制限時間内に限っては向こうの方が上手だったとも言える。

 心配そうな表情を浮かべる彼女にアルヴェムは軽く手を振り、

 

「心配には及ばないよ。少しダメージが残っていただけだ。これぐらいならすぐに直せる」

「サーゼクス様って、そんなに強かったの? 映像が切られてわからなかったけど……」

「間違いなく魔王に相応しい実力の持ち主だった。もう少し解析したかったが時間制限のある中では有意義なデータが取れたよ。おかげで新たな武装もできた」

 

 左手にバリアを纏わせる。

 そのバリアは守るものではなく攻撃性を持ったもの。テーブルの角に触れると触れた箇所から手の形に削り取られる。

 

「わっ……すごい。リアスさんの魔法みたい」

「ああ。サーゼクス様から受けた『滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクスティンクト)』を解析して、それをバリアとして再現できるようにしたんだ。少し時間はかかったが出力としては十分戦闘でも使える」

「ものすごく強くなったってことだよね。うん、おめでとう。私も嬉しいと思う」

「ありがとう。これで悪魔側の上限はわかった。次は堕天使か、天使の最大値が見られるといいが……そう簡単には見られないだろう。気長に待つしかないな」

 

 腕の修復も終わり、軽く握って感覚を確かめる。

 問題はない。念のため他の部分も確認するが、特筆すべき点は見られない。

 

「次はどうするの?」

「そうだな……『女王』の駒を得たキミに魔力の使い方を覚えてもらいつつ、俺は俺で新たに得た力を他の武装に合わせられるようにアップデートしていく。それと……天使の研究材料が欲しいな。堕天使には一応サンプルがあるからいいとして、純粋な光の力を見てみたい」

「やっぱり研究材料は女の子がいいの……?」

「強ければ性別はどっちだっていい。より強い個体であればあるほど解析する価値がある。キミのように神器を持っていると尚更いいが……天使と人間の子は悪魔よりも遙かに少ないだろうな」

 

 天使は邪な心を持つと堕天し、その結果が堕天使。

 邪な心と言っても多様にある。それは人間界で七つの大罪として傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲……と悪しき感情や欲望の象徴ともされていた。

 人間と子を作ろうとすれば色欲に引っかかり、堕天する可能性が高い。だからこそ数も少ないと思うが、そういった貴重なサンプルほど欲しくなるものだ。

 

「ただ満足できる個体はいつ現れるかわからない。これに関しては気長に待つよ。だから、頭突きするのはやめてくれ。何なんだ一体……」

「むぅ……」

 

 執拗に肩へ頭突きしてくるイングヴィルドを手で制止し、その気持ちがわからないまま夜が明けていくのだった――

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