ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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フェーズⅢ.Revenger『月光校庭のエクスカリバー』
第二十六話『聖剣と戦士たち』


「これが全裸で海に飛び込むイッセーよ」

「母さん!? 変な写真を見せないでくれよ!!」

 

 放課後、オカルト研究部の会議が行われるようだったが指定されたのは旧校舎ではなく、一誠の自宅だった。

 部室が使えないのは旧校舎が年に一度の点検を受けているためであり、その代替として一誠の自宅が選ばれたのだが今は会議どころではない。

 会議を始めようとしたところで、一誠の母親が持ってきたアルバムによって崩壊した。

 

 リアスを始めとしたオカルト研究部の女性メンバーは興味津々で写真を見ており、アルヴェムと木場は適当なアルバムを開いて見ていた。若干手持ち無沙汰なイングヴィルドはアルヴェムの隣で同じアルバムを見ている。

 

 全裸で海に飛び込む一誠。全裸で牛乳を飲む一誠。全裸でプール遊びをする一誠。

 何故か基本的にどの写真も全裸ばかりだ。子供の頃には露出癖でもあったのか、そんなことを思うがこれほどまでに写真が残されているのは一誠が愛されている証拠だろう。

 

 ふとアルヴェムは一誠の母親に目をやる。

 リアスたちオカルト研究部の女性陣と盛り上がっているようで、とても楽しそうに話していた。

 母親、アルヴェムには縁遠いものだ。そう考えると、不意に一誠の母親と目が合う。

 

 やがて、一誠の母親は不思議そうな顔でアルヴェムを見て、

 

「あら、あなた……リアスさんに似てるわね。もしかして、ご姉弟なのかしら?」

 

 ライザー・フェニックスの一件以降、リアスは一誠の家に同居することとなった。きっとあの婚約破談によって彼女の中で一誠の存在が大きくなった証拠だろう。

 だからこそ、リアスと接する機会が多くなった一誠の母親には自分がリアスと似ているように見えた。それもそうだ。何せ、自覚はないがアルヴェムはサーゼクスに似ていると言われるのだから、妹のリアスに似ていると言われても不思議ではない。

 

 否定するのは簡単だが、それではコミュニケーションの幅は広がらない。

 なので、少し冗談を言ってみることにする。

 

「ご挨拶が遅れました。俺はアルヴェムと申します。いつも妹がお世話になっています」

「あらあら、お兄さんだったの? まあ、リアスさんも美人だけどお兄さんもイケメンねぇ~。眼福だわ~」

「こら、アルヴェム。変なことを吹き込まないの。ごめんなさい、お母さま。この子は私に似ているかもしれませんが血の繋がりはありませんわ」

「あらそうなの~。でも、本当にそっくりねぇ……」

「実は腹違いの弟でして――」

「もう、嘘に嘘を重ねないの!」

 

 頭に軽く手刀を落とされたアルヴェムはもう少しだけからかってやろうと考えたが、アルバムを見ていた木場の目の色が変わったのを見てやめにする。

 最初は純粋に小さな頃の一誠を楽しんでいたようだが、今は予想外のものを見つけたように驚いた表情。アルヴェムもそちらへ視線を移す。

 

「木場、何かあったのか?」

 

 覗き込むと、木場が注目していたのは一枚の写真。

 幼い一誠が同じ年頃の子供……男子か女子かは不明だが、とりあえずその二人が写っているもの。壁には盾と剣が飾られており、家の風景もどこか洋風を思わせる。

 一誠も気になったのか、その写真を見ると思い出すような素振りを見せた。

 

「ああ、その子は幼稚園の時に一緒だった子だよ。小学校に上がる前に親の転勤……だったかな。とにかく、それで外国の方に行っちゃってそれ以来会ってないけど」

「この剣、見覚えはあるかい?」

 

 いつも爽やかな木場とは思えないほど低い声音。

 一誠もその違和感を覚えながら、少し考え、

 

「うーん……模造品だと思ってたから特に意識してなかったな。ガキの頃過ぎて覚えてないってのもあるけど……」

「こんなこともあるんだね……これは――聖剣だよ」

 

 木場の目に宿った憎しみの炎。

 それが今回の一件、全ての始まりだった――

 

 ―○●○―

 

「アルヴェムさん、本日分のチラシ配り終えました」

「お疲れ様」

 

 数日後、放課後となり悪魔としての契約取りが終わった後、アルヴェムは屋上にて今日のチラシ当番だった堕天使ドーナシークから報告を受けていた。

 

 ミッテルトとカラワーナは用務員として夜の学園で清掃活動にあたっている。生徒の掃除では普段されないような部分も彼女たちに任せていた。成果としても十分に挙げてくれている。

 報告が終わればドーナシークは一礼し、

 

「それでは私はこれで……」

「少し待て。聞きたいことがある――お前は聖剣を知っているか?」

「え……ええ、それがどうしたというのです?」

「人間から転生した悪魔が聖剣に恨みを持つ理由、思い当たるものはあるか? 今、それで眷属の『騎士』がおかしくなっているんだ」

 

 木場は一誠の家で聖剣が写った写真を見てから様子が変わった。

 常に何かを考えていて呆然としており、昨日ははぐれ悪魔の討伐があったのだが、その時も木場のせいで小猫が負傷する事態に陥った。

 

 そのことに対し、リアスは当然木場のことを叱責したが、それでも木場は謝るだけで無表情。その思考は別のところにあったのだ。

 

 そして、現在木場は学校を休んでいる。

 リアスは木場の事情を知っていることもあって、今は静観を貫いているがただごとではないのは確かだ。

 

「レイナーレ様からこの町での暗躍を持ちかけられた時、リアス・グレモリー及びその眷属のデータをいただきましたが……確か『騎士』のデータに興味深いものがありましたね」

「興味深いもの?」

「はい、どうやら彼は『聖剣計画』に関わっていたようでして。数年前まで存在した聖剣エクスカリバーの使い手を人為的に作り出す計画です」

「聖剣エクスカリバー……」

 

 聞き覚えのない名前。

 それを察してか、ドーナシークは言葉を続ける。

 

「聖剣は様々な種類がありますが、伝承の中で一番有名なのはエクスカリバーでしょう。神の領域に達した者によって創られし聖剣に斬られると大抵の悪魔は成す術もなく消滅させられる……オリジナルのエクスカリバーは一度砕け、七つの聖剣として再生しましたが、それでもその絶大な力は健在です」

「聖剣は神器とは別に存在するのか?」

「はい。神器には神をも屠った『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』を筆頭に聖なる武器はありますが、そのどれもが『神滅具』クラス。通常の神器では聖剣を超えられません。だからこそ、悪魔や魔物に対抗するために聖剣エクスカリバーが必要だったのです。しかし、難点として聖剣は使い手を選びます」

「それで人為的にも生み出さなければならなかったのか」

「天然ものは数十年に一人生まれればいい方でしたから、悪魔や堕天使と拮抗状態である以上、教会側も早い対処を望んでいた。だからこそ、子供を使って聖剣に適応できるように実験をしていたそうです。木場裕斗も実験体の一人でした――失敗作でしたが」

 

 何となく、話は見えてきた。

 木場が被検体とされていた『聖剣計画』、恐らく天使側にとってグレー……いや、完全に黒の実験だ。もし、それが失敗したとなれば――

 

「失敗作は……処分したか」

「木場裕斗も含めて皆殺しでした。やがて、天界に『聖剣計画』がバレ、当時の責任者は追放処分。計画はお蔵入りとなりました。恐らく、木場裕斗がリアス・グレモリーに出会ったのはそのあたりでしょう」

 

 研究する立場からすれば情報漏洩を防ぐために始末する理由はわかる。

 死体一つが残れば、そこから技術は盗まれてしまう。それに表立ってできない実験ならばなおさらのことだ。

 しかし、被検体の木場にとってそんなことは関係ない。

 他の被検体は友達だったか、仲間か、それはわからないが適応できなかったという理由だけで皆殺しにされれば元凶たる教会側にも聖剣にも憎しみは募る。

 

「ありがとう。参考になった。後の時間は好きにしてくれたらいい」

 

 そう言うと、ドーナシークは一礼して黒羽の翼を羽ばたかせて飛び去っていく。

 その背が遠くなり、やがて消えていくとアルヴェムは屋上のフェンスに手をかける。

 やがて、ポツポツと雨が降り始めた。小雨から徐々に強まっていく雨の中、アルヴェムの視線は学園よりも先の方へ向けられる。

 

「聖剣……そして、この反応。穏便には済まないだろうな」

 

 街中に張り巡らせている偵察機の計測器には四つの反応があった。

 一つはレイナーレの元にいたはぐれ悪魔祓いフリード・セルゼン。

 そして、二つは人間でありながら超常の戦闘能力を持つ存在。

 最後に、これが一番厄介な存在とも言えるだろう。

 

「天使と悪魔の混血……やっぱり、世界は広いな」

 

 他とは比較にならないほどの戦闘能力を秘めた存在――決して交わるはずのない存在がこの駒王町に入り込んでいた。

 

 ―○●○―

 

 廃れた教会。

 そこに二人の少女がいた。二人とも白いローブに身を包み、胸には十字架のペンダント。

 被っていたフードを後ろへ下げると、二人の容貌が天井に開いた穴から月明りによって照らされる。

 一人は青い髪に緑のメッシュを入れた目つきの悪い少女、もう一人は栗毛の長髪を二つに括ったツインテールの少女。

 薄暗い教会を見渡して、青い髪の少女は怪訝そうに声を上げる。

 

「イリナ、本当にここが集合場所なのか? 随分と荒れ果てているようだが――」

「何でも最近、堕天使と悪魔がここで戦ったらしいわよ。ゼノヴィアの方にも報告挙がってたでしょ?」

「いや、見ていないな。この教会はプロテスタント(そちら)側のものだ。情報が流れてこなくとも不思議じゃない」

「うーん、それもそうね。でも、私が間違えるはずないわ!」

 

 イリナ、そう呼ばれた少女は懐から一枚の写真を取り出す。

 

「ここは私と両親が過ごした街なんだから!」

 

 それは幼い頃に仲が良かった少年と家の中で一緒に撮ったものだった。

 小学校に上がる前まではこの町で過ごし、父親の事情によって外国へと行かなければならなくなったが、それまでの町の光景ならば完璧に覚えている。

 

 自信満々に回答をしたイリナに対し、青い髪の少女――ゼノヴィアはそれがむしろ不安要素のように少々顔を顰める。

 それもあって、少し落ち着きのなさを見せるがイリナにはわかっていた。

 

「そんな焦らなくてもすぐに来るわよ。久しぶりなんだっけ、妹さんと会うの?」

「ああ、半年ぶりくらいになる。同じ戦士で互いに多忙だからね。会うのが楽しみで仕方がない」

「ふふっ、もしかしたら最後になるかもしれないしね」

 

 他の人間よりもゼノヴィアという人間と関わってきたイリナにはわかる。

 普段、神の剣として行動する彼女は割り切っているため、あまり感情を表に出そうとはしない。

 それでもゼノヴィアには神以外にも心の支えになっている存在はいる。

 

 妹――血は繋がっていない。ゼノヴィアが勝手にそう言っているだけらしいが。

 何でも同じ施設で、同じシスターから教育を受けているうちにゼノヴィアが大層その子のことを気に入り、押し切って妹にしたと言う。

 

 今まで独自の理屈と力押しで決めてきただけあって、昔もその姿は十二分にあったようだ。まだ対面したことのないイリアだが、その苦労が垣間見える気がする。

 

 と、そこに後方から一つ人影が伸びてきた。

 ゼノヴィアが一瞬、背に携えている大剣の柄に手をかけるも、すぐに手を放す。

 当然だろう。入ってきたのは、彼女が誰よりも待ちわびた少女なのだから。

 

「お待たせしました。エイミィー・クァルタ、合流します」

 

 ――エイミィー・クァルタ。

 女性悪魔祓いの中でも五指に入る実力者とも呼ばれるシスター――グリゼルダ・クァルタとは血は繋がっていないものの、訳があって彼女の姓を名乗っているらしい。

 ヴァチカンの戦士として行動しているが、ゼノヴィアやイリナのようにコンビを組んでいるわけではない。悪魔、堕天使、魔物、裏切者、全ての討伐任務を単独で行い、そして全てにおいて成功を収めている。

 

 付いた異名が『処刑人』、同じ教会の人間でも恐れを成すほどの実力者。

 今回の任務に彼女が参加すると決まった時点でゼノヴィアやイリナにとって、どれほど死線なのか思い知らされる。

 

 いつも明るいイリナだが少し緊張していた。

 存在こそ知っていたが、イリナは初対面で、相手は相当な実力者だ。どんな反応をされるかわからない。

 面と向かって、その容姿を初めて見た感想は――

 

「おっきい……」

 

 思わず息を呑んで、出てきてしまったのがその言葉だった。

 体格が……などではない。完全に女性的な部分に関しての感想だった。

 

 毛先にかけてグラデーションが掛かった淡い金色の髪を途中からウェーブにして流し肩より下まで伸ばしている。

 容貌も丸めの瞳が特徴的で、身長はイリナより少しだけ高い。あのゼノヴィアが妹扱いするのも理由がわかる。何とも可愛らしい。

 

 ただ――胸のサイズがすごい。

 

 それで思わず声を上げてしまった。

 単純にゼノヴィアやイリナを足しても勝てない、というより人生の全ての成長要素を加味した上でも勝てないのではと思うほど豊満な胸が育っている。

 本当に同い年なのかと疑ってしまうレベルでの差に、イリナは戦慄してしまう。

 

「……? 何かありましたか?」

「えっ、い、いや……何でも、ナイヨ?」

 

 思わず片言の返事になってしまったが、エイミィーは気にも留めない。

 様子がおかしいイリナを放置し、ゼノヴィアは両腕を大きく広げて彼女の元へと寄っていく。

 

「久しぶりだな、エイミィー。元気にしていた――んぶっ……」

 

 抱き締めようとしたゼノヴィアがエイミィーに近付いたところで急にしゃがみ込む。

 それによって、ゼノヴィアで隠れていたエイミィーが右肘を突き出していた。

 恐らく、抱き着いてこようとするゼノヴィアを防御しようと肘を置いていたら、勝手にカウンターになったのだろう。ゼノヴィアは鼻を手で押さえて悶えている。

 

「それでこれからどう行動されるつもりですか? 私はそちらの指示に従います」

 

 一瞥もせず、エイミィーはイリナに問う。

 もう彼女の中にゼノヴィアが映っておらず、イリナはリアクションに困りながら返答する。

 

「とりあえず、この街を牛耳っている悪魔と話をつけるわ。じゃないと、悪魔は利己的で狡猾だから後から邪魔してくるかもしれないしね」

「……わかりました。それでは朝まで私はこの教会で待機しておきます。行動の際は一声おかけください」

 

 淡々と作業をこなすようにエイミィーは会話を終えると、聖堂の方へと向かって歩き出す。

 復活したゼノヴィアはその後を追いかけても何の反応も示さず、ひとり歩いて行ってしまった。

 

「ゼノヴィア、結構嫌われてないかしら……」

 

 そんな疑問を抱えながら、イリナは二人の背を見送る――

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