ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第二十八話『ヴァチカンからの使者』

 次の日の放課後。

 リアスを筆頭にオカルト研究部のメンバーは全員部室に集められていた。

 最近、姿を見せていなかった木場も聖剣が関わっているとなれば登校し、部室にいる。

 

 リアスの対面、ソファにはすでに少女二人が着席していた。

 例の聖剣持ちが二人。そして、その後ろに立って一人が控えている。

 座っている二人は白い外套を身に纏い、後ろの一人は黒い外套を纏っている。立場が違うのか、彼女からは聖剣の気配がしないあたり教会側にも事情があるのだろう。

 

「…………」

 

 ぎゅ……っと、傍に立っていたイングヴィルドが自らの腕でこちらの腕を抱いてくる。

 きっと、聖剣が放つ聖なる力に悪魔の本能が危険信号を放っているのだろう。アルヴェムは純粋な悪魔ではないためにあまり感じ取ることはできないが、イングヴィルドや他の面々にとっては聖剣は天敵でしかない。

 

 彼女が不安がるのも無理はない。

 その力の込め具合にも納得ができる……が、少しだけ問題があった。

 

 ものすごく、抱かれた腕が胸の谷間に食い込んでしまっている。

 そんなことを言っている場合ではないのは当然。しかし、これは一歩間違えれば……いや、すでにセクハラに値している。

 

 例えイングヴィルドが百年間眠っていて、貞操観念が成熟していないのであればアルヴェムが今は亡き両親の代わりに正してやらなくてはならない。

 ただ、ここで注意の仕方を誤ると彼女を傷つけてしまう危険性がある。

 無下に振り払えば拒絶を意味し、言葉を選ばなければそれもまた拒絶となってしまう。

 百年もの間があったとはいえ、イングヴィルドの精神は十七歳の思春期。多感な時期に強い言葉は使えない。

 

 聖剣に憎悪を込めた目で睨み続けている木場には悪いが、アルヴェムの思考は今も腕を襲っている柔らかな感触でいっぱいだった。

 選択を間違えると、これ以降の関係に支障をきたす。

 どうすれば――そう考えていると、イングヴィルドがまた身を寄せてきて、もう腕が胸に食われているのではないかと思う段階へ跳ね上がった。

 

 悩んだ結果、アルヴェムは静観を選んだ。

 意識しない。何も言わない。反応しない。それだけだ。

 

 それに無意識のうちに抱き癖があるのは、女性として可愛らしい面と言える。

 今思えばイングヴィルドは夜に眠る時、毎度アルヴェムに腕を借りたいと言ってきて、そのたびに片腕を外して渡していた。

 抱くものがあると眠りやすいと抱き枕にしているらしい。休眠状態を終えると返してくれるため、特に気にしていなかった。

 

 考えてみると、今回もそれと同じようなものだ。

 そうアルヴェムは無理にでも結論付けて、意識をリアスたちの話へと戻す。

 すると、切り出したのは栗毛の少女だった。

 

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側で保管されていた聖剣エクスカリバーが奪われました。奪ったのは堕天使アザゼルが率いる『神の子を見張る者』――通称、グリゴリの中でもコカビエルを筆頭にした少数です」

「コカビエル……古の戦いから生き残る聖書にも記載されている堕天使ね。まさか、こんなところでその名を聞くとは思ってもいなかったけど」

「カトリック教会にあるのが二本。プロテスタント側や正教会側にも二本ずつ。そして、大昔の戦いで行方知れずとなったのが一本……それらが各陣営から一本ずつ奪われた。コカビエルはこの町に潜伏し、何かをしようとしている。本部は目的を探るために神父をエージェントとして派遣していたが、見事に全滅。私たちが動く事態となったわけだ」

「つまり、正教会は残りの一本を死守して、残りの二本でコカビエルに対して攻勢に出るってことね?」

 

 リアスの問いに青い髪の少女が「ああ」と頷き、傍らに置いていた布の塊を手に持つ。

 外套を外された布の塊は剣。それもまた、青い髪の少女ほどの刀身を持ったものだ。

 

「『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』、カトリック側で保管されていたものだ」

「そして、私が持つのが『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。形状を好きに変えられるから、こういった形で携行ができるの」

 

 栗毛の少女も日本刀の形状をした聖剣を構えると、その形状が変わりベルトへと変形する。

 確かにあれならば敵に警戒される恐れもないだろう。元は一本の聖剣にも関わらず、その能力はそれぞれ全く別種のもののようだ。

 だが、能力を見せたことに青い髪の少女は栗毛の少女を半眼で睨む。

 

「イリナ……わざわざ能力を敵に教える必要はなかったのでは?」

「あら、ゼノヴィア。いくら相手が悪魔でも信頼関係を築かなければ任務に支障が出るわ。大丈夫、手の内を明かしたところで私たちは負けないわ」

 

 絶対の自信、それが彼女たちからは感じられた。

 確かに聖剣は本物で並大抵の悪魔ならば瞬殺できるだろう。彼女たちも様々な戦場を駆け抜けてきたともあって、自信と実力が比例している。

 

 ただ冷静ではない木場が聞けば、それは挑発でしかない。

 今にも襲い掛かろうとせんばかりに木場からは殺意が溢れ出ている。

 

 しかし、それほどまで自信があるならば何故悪魔に交渉をしにきたのか。

 彼女たちの態度からして協力を煽るものではない。だとすると――

 

「私たちの依頼――いや、注文はこの町で起こる堕天使と教会側の戦いに一切関わらないこと、それだけだ。上は悪魔と堕天使が手を組む可能性もあると言っていてね。もし、コカビエルと手を組めば例え魔王の妹であっても完全に消滅させる。これは忠告でもあるよ」

 

 そうなったら、三人どころか教会側は皆殺しだろう。

 サーゼクスの実力を知っているアルヴェムはそう思うも、彼女たちはそれでも神の命令を全うするつもりだ。

 

「堕天使の幹部相手に三人で? 例えエクスカリバーがあったとしても死ぬわよ」

「私もイリナも、そしてエイミィーも覚悟はしている。無論、ただで死ぬ気はないし秘密兵器もある――最低でもエクスカリバーを破壊して他陣営には渡さない。それが上層部の決定だ。私たちはそれに従うまで」

「そういうこと。だから、邪魔はしないでね?」

「相変わらず常軌を逸した信仰心ね……もはや、洗脳と言ってもいいんじゃないかしら?」

「好きに言えばいい。だが、神に対する侮辱をするならば容赦はしない」

 

 青い髪の少女――ゼノヴィアとリアスの間に一触即発の雰囲気が流れ、会話は途絶する。

 一瞬、大剣の柄に手をかけたゼノヴィアだが、イリナの視線に気付くと息を吐く。

 

「――ここで無駄に消耗するわけにもいかない。お暇させてもらうよ」

「あら、お茶くらいなら出すわよ?」

「ゴメンなさいね、それはまた今度ということで」

 

 と、後ろに控えていた一人も含めてゼノヴィアとイリナが立ち去ろうとした時、不意にその視線が一人に集まる。

 

「兵藤一誠の家で出会った時、まさかとは思ったが『魔女』アーシア・アルジェントか。このような地で出会うとはな」

「『魔女』……ああ、一時期話題になってた子よね。悪魔を治療して『聖女』から『魔女』になって、どこかへ流れたって聞いてたけど悪魔になってたのね」

「『聖女』の成れの果てが悪魔とはな……その様子だとまだ神を信じている様子だが、哀れなものだ」

「ずっと信じてきましたので、捨てきれないだけです……」

 

 ゼノヴィアやイリナの言葉にアーシアは小さな声で返す。

『魔女』――アーシアが悪魔になった後、一誠から聞いた話だがアーシアは治癒の神器によって人々を癒す『聖女』として崇められていた。

 救いを求める信仰者を治療する日々の中で、アーシアは負傷した悪魔と出会い、敵対関係であっても分け隔てなく助けた。だが、それは背信行為としてアーシアは『魔女』として追放され、その果てに流れ着いたのが堕天使の元だったという。

 

「だったら、私たちに斬られるといい。罪深き者でも神はきっと救いの手を差し伸べてくれるはずだ」

 

 言って、ゼノヴィアは大剣の切っ先をアーシアに向ける。

 今まで見ていた一誠は堪忍袋の緒が切れたように立ちはだかろうとするが、それよりも早くゼノヴィアの首元に刃が突きつけられる。

 

 刃、とは言っても、それは光の束が刃を形取ったもの。

 穂先の代わりに発射口がある槍を携えていたのは、今までゼノヴィアたちの後ろに控えていた少女だった。

 

「……エイミィー、何故邪魔をする?」

 

 エイミィー、そう呼ばれた少女は答えない。

 代わりに怒気を含んだ声で、

 

「アーシア・アルジェント様を殺そうとするなら、私はあなた様たちを今ここで始末します」

「どうして? その子は背信者、私たちにとって処分対象でしかないはずよ?」

「『聖女』として悪魔をも差別なく救済したにも関わらず排斥したのは教会側。事情も聞かず、勝手な持論で敵意のない者を斬り捨てると言うのなら、私も同様にするだけです。私は一人で本作戦を実行できますから、数が減ったところで気にはしません」

「エイミィー……」

 

 どうやらゼノヴィアとイリナ、エイミィーの間には思想の違いが大きくあるようだ。

 現に悪魔であるリアスたちを放ってゼノヴィアたちは剣呑な雰囲気となり、仲間割れを引き起こしそうな状況になっている。

 

 そこに介入したのは――木場だった。

 

「だったら、ちょうどいい。アーシアさんを守るための口実ができたわけだ」

 

 濃密な殺意を沸き立たせ、剣を携えた木場。

 すでに部室の中は木場が創り出した魔剣が次々と切っ先を露にし、ゼノヴィアたちへの殺意が形として具現化している。

 

「キミは?」

「先輩、とでも一応言っておこうか。何せ、僕は失敗作らしいからね」

「その殺気、剣を収める気はないようだね……まあいい。リアス・グレモリー眷属の力を見てみたかったところだ。『先輩』とやらの実力も気になる。わかった、その喧嘩を買おう」

 

 木場の暴走とも言える行動にリアスも困惑する中、ゼノヴィアは一度大剣をしまってそう言う。

 そして、ゼノヴィアたちとの私闘が決まったのだった――

 

 ―○●○―

 

 木場、一誠、アルヴェムは旧校舎の裏にある森の中でも少し開けた場所に立っていた。

 周囲にはリアスと朱乃が張った結界が巡らされており、これで騒ぎがあったところで外部に漏れることはないだろう。

 

 木場の前にはゼノヴィア、一誠の前にはイリナが立っている。

 本来ならば木場だけだったが、先ほどのアーシアの一件で一誠も黙ってられないと参戦し、アルヴェムはエイミィーのことが気になって参加を表明した。

 

 聖剣の使い手と戦うことになって、木場は薄気味悪いほど冷たい笑みを浮かべている。

『聖剣計画』の生き残りとして、彼の目は復讐に染まっていた。その仇を討つべき相手が現れれば、笑いたくもなってくるだろう。

 

 対するアルヴェムの前にいるのは、先ほどゼノヴィアたちと言い合っていたエイミィー。

 改めて彼女の容姿を見てみると目を惹かれるものがある。

 淡い金のウェーブが掛かった髪。そして、あまりにも豊満な胸だ。

 大きい胸に関してはリアスや朱乃で見慣れていると思っていたが、エイミィーはさらに上。一誠風に例えるのなら超次元おっぱいだ。

 まさかこんな短期間で新記録に出会うとは予想外。もはや常人の枠には収まっていない。

 

「アルヴェム……?」

 

 何やら冷たい視線が背中に突き刺さるが、観戦しているイングヴィルドだろう。気にしない。

 ともあれ、他にも注目すべき点はある。

 先ほども見えたが黒い外套から出る腕には分厚い装甲が纏われていた。垣間見える脚にも同様のものが見える。

 

 ゼノヴィアたちは身体のラインが浮き彫りになるほど身体に密着する黒い特別製のスーツを着ていたが、エイミィーの場合はその上に腕、脚と各所に分厚い装甲を身に着けている。

 さらに胸には男の夢という装甲が詰まっているため全身武装していると言っていいだろう。

 

 全身武装。それだけではただ自重を重くするだけで動けなくなるだろうが、彼女の身体の各所にはいくつかの筒状のパイプが装備されている。

 先ほど見た穂先のない槍と同じ構造だろう。関節の各所に装備し、光を噴出させることで高速移動を可能とする。理にかなった推進器だ。

 

 以上を見たところで、彼女が近接戦闘に特化した者だとわかる。

 ただ、肝心のエイミィーはバトルフィールドに立っているものの敵意はまるで感じられない。

 そういう相手にはアルヴェムも進んで戦おうとは思わず、代わりに礼を言う。

 

「さっきは仲間を守ってくれてありがとう」

「いえ、私はただ納得できなかっただけですから気にしないでください」

「――それはキミが天使と悪魔の混血だから、か?」

「っ!」

 

 その一言で彼女の身に纏う雰囲気が一変したのをアルヴェムは感じた――

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