ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第二十九話『天使と悪魔の混血』

「どうして、それを……?」

 

 動揺したエイミィーは心のうちに芽生えた疑問をそのまま口に出していた。

 自分が天使と悪魔の混血だということは教会の上層部も含め、天界でもごく一部の者のみ。他は命を落としたか始末されたトップシークレットとも言える情報を何故知っているのか。

 

 問うも相手は悪魔、そう簡単に答えてくれるはずもない。

 そう思っていたが――

 

「俺も同じような"異物"なんだ。こんな風に」

 

 言って、彼が腕を軽く挙げると機械音を鳴らして分解、変形する。

 義手……と、一瞬思ったがまるで違う。

 今まで悪魔、堕天使、魔物、悪霊、はぐれ悪魔祓い……挙げればキリがないほど様々なものと戦ってきたが、同類に思えるものはどこにもなかった。

 

 機械的で、されど生命反応が完全にないわけでもない。

 身に纏うオーラがないようだが、ある。何とも矛盾を体現したような存在だ。

 警戒するエイミィーに対し、少年は言葉を続ける。

 

「だから、この町に入ってきた時点でキミたちのことは捕捉していた。俺の計測器は種族と実力がわかるからキミの種族はそれでわかったんだ」

「他の方には言ったんですか?」

「いや、言う必要がないと思ったから言っていない」

「だったら、どうして私に接触を? 何か目的があるのではないでしょうか?」

 

 エイミィーの問いに「そうだな……」と頷きつつ、少年は言った。

 

「俺はあらゆる種族に興味があるんだ。だから、天使の力を持つキミにも興味があって、研究したいと思っている」

「研究……私をホルマリン漬けにでもするおつもりですか?」

 

 今まで命を狙われるということは何度もあった。

 だが、正面きって研究したいなどと言われたのは初めてだ。

 

「いや、キミの場合は経過観察を続けた方が良い結果が出ると思うから、イングヴィルドと同じように経過観察を中心とした研究になるな」

「イングヴィルド……?」

「あそこで観戦している紫色の髪をしたのがイングヴィルドだ。彼女は少し特別だが悪魔と人間の混血……今では俺が保護して完全な悪魔として転生しているよ」

「あの方も……」

 

 思わずエイミィーも観戦している少女――イングヴィルドに目をやる。

 その身に纏う魔力の質は高く、すでに上級悪魔をも上回っている魔力量に見える。

 間違いなく名のある悪魔との血縁……もしかすると、自分と同じような生い立ちかもしれない。

 少しばかり感じる親近感だが、それと研究されるのはまた話は別だ。

 

「それで頷くわけにはいきません。私には神のために戦う以外に道がありませんから」

「選択肢がないから、相反する思想でも留まることにしているのか?」

 

 率直な問いだった。

 真っ直ぐな目。その目に悪意は感じられない。

 彼は本当にただ興味があるだけで、悪魔らしからぬほど純粋なものだ。

 

 いいえ、そう否定してもいい。しかし、彼の目はこちらの心を見透かしているようにも見えた。

 動かそうとした口が開いて、止まる。代わりに一瞬、ゼノヴィアやイリナへと視線を向けた。

 二人とも自分の相手に集中しているようだ。

 こちらの話は耳に届かないだろう。だったら――

 

「そうですね。いくら考えが合わずとも、天使でも悪魔でもない化物(わたし)という歪な存在は神からの恩赦で成り立っています。この道以外の生き方はありませんし、居場所もありませんから」

「――俺が居場所になると言ったら、どうする?」

「え……?」

「悪魔は契約を遵守する。俺はキミの力を研究する、キミは俺を居場所とする……天使だろうが何だろうがキミを狙う者の始末は俺に任せればいい。一生の保護を約束するよ」

「随分と破格の条件を言うのですね……」

「キミにはそれほどの価値があると思ったからだ」

 

 そこまではっきり言われると、顔に少し熱を帯びてしまう。

 しかし、それをすぐに振り払う。あくまで立場上、彼とは敵同士だ。一時的に休戦していると言っても、その事実は変わることはない。

 

 ただ、彼が自分に興味を持ったようにエイミィーもまた彼に興味が出てきた。

 未知数の敵。少し試したくなってしまった。

 

「私も立場上、少しは戦った方が良さそうですね。もしかしたら、あなた様の買い被りなだけかもしれませんし」

「わかった。俺も後で友人に恨まれそうだから、そうしてもらえるとありがたいな」

 

 友人……恐らく、今ゼノヴィアと戦っている人だろう。

 聖剣に対する強い憎しみ、そして『先輩』という言葉、その二つからどういった生い立ちなのか語らずともわかる。

 

 反対にゼノヴィアは恵まれている。

 彼女には才能があった。ただ、それだけの――埋まらない差だ。

 もし立場が違えば彼女はどうしていただろうか、と一瞬だけ思考を巡らせるがゼノヴィアの信仰心ならば喜んで殺処分も受けていただろう。

 

 馬鹿馬鹿しい、なんて思う自分に嫌気が差す。

 自分の姉を名乗るゼノヴィアと同じ思考ならば、こんなにも息苦しさなど感じないというのに。

 だが、そんな考えはすぐに捨てる。

 

 今は目の前に立つ、まだ名も知らない彼との手合わせだ。

 天を見上げれば夕暮れも近い。周りから見て、決着はすぐにつくだろう。

 ふと、エイミィーから言葉が漏れる。

 

「……先ほどあなた様は私を天使と悪魔の混血と言いましたが、厳密に言えば少し違うんです」

 

 そう、そこだけ彼は間違えている。

 訝し気な表情を浮かべる彼に、エイミィーはまず言葉ではなく行動で返した。

 

 途端に宙から様々な武器が現れて、地面に突き刺さる。

 剣、槍、刀、銃、形状が一つとして同じ物がない武器の数々に彼も驚く様子を見せた。

 魔法で創り上げたものでも、別次元から転移させたものでもない。

 

「私は天使と――悪魔の血を宿した人間から生まれました。だからこそ、神器を持ち合わせています。もちろん、私の身に纏う鎧も武器も全て神器の力で創られたものですよ」

 

 穂先として光を短く噴出させながら、手にする槍の切っ先を彼へと向ける。

 

「『無尽の(イニクゾウスビリ)武器(ティ・ウェポ)製造庫(ンズ・アーモリィ)』――自分が思い描いた武器を創り出し、顕現する。それが私の神器です」

 

 それを見た瞬間、彼の目が輝いた気がする。

 表情にあまり変化はないが、どうやらわかりやすいタイプのようだ。

 実力差など考えず、気分を高揚させている。初めて見る、面白いと思える相手だ。

 

「まずは自己紹介を。私はエイミィー・クァルタと申します。あなた様は?」

「アルヴェム・オーヅァだ。キミの都合上、全力は出せないだろうができる限り全力で来てくれても問題ないよ」

「わかりました。それでは参ります……っ!」

 

 各所に取り付けられた推進器が光を噴出し、エイミィーはアルヴェムへと突貫した――

 

 ―○●○―

 

 エイミィー・クァルタという人物はアルヴェムの予想を遙かに上回った存在だった。

 天使と悪魔の混血だけでも研究対象としては二重丸の中、神器まで持っている。

 最初はイングヴィルドに境遇が似ている可能性があることから、固定の友達にでもなってくれたら良いな程度から始まったが、これはスカウトに力を入れなければならないようだ。

 

 突貫したエイミィーは横薙ぎに光の槍を振るう。

 それに追随するように光の束は側面からアルヴェムのバリアへと触れ、その接触によって金切り音を奏でた。

 

 消滅のバリアは使わない。何故なら知らぬ彼女に使えば、その大事な身体を消し飛ばしてしまう可能性があるからだ。

 

 それにこれはただの小競り合い。一誠や木場の決着がつけば終わる戦いだ。

 わかっているからこそ、向こうも全力は出していない。光の槍の出力もあくまで天使の加護を受けて出せそうな程度の出力に過ぎないのだから。

 

Drill finger(ドリル フィンガー)

 

 両手の指先を全てドリル刃へと変形させれば高速回転、これだけで鋭い貫き手が完成する。

 指を伸ばして突きを放つも、エイミィーは腕の装甲で真正面に貫き手を受けた。

 否、そのまま直線の勢いを利用して掠らせ続ける形でいなす。

 

 実戦慣れしている。

 そう感想を抱いた時には彼女の両腕がアルヴェムに向けて構えられていた。

 その意味はすぐにわかる。爆発と共に。

 

「武器の数に比例して手数も増えるか……」

 

 舞い上がる黒煙を裂いて、アルヴェムは飛び出す。

 腕の装甲に隠された発射口からの砲撃。派手だったが、アルヴェムのバリアを貫くほどの威力ではない。

 

「やはり、他の悪魔とは構造が違いますね」

「俺は魔力を持っていないから自前のエネルギーで防御しているんだ。どうしたら貫通するかは……考えてくれ」

 

 ヒントだけを出して、対応を見る。これは一種のテストに近い。

 恐らく彼女の戦闘能力から言って、天使の光と悪魔の魔力を使えば皮膚のバリアぐらいならば破られるだろう。

 

 だが、今は使用できる力が制限されている状況。

 推測でしかないが、エイミィーはゼノヴィアとイリナに自分の本当の力を見せたくない。その理由としてはやはり天使と悪魔の混血であることを秘密にしているからだろう。

 

 その状況下でどうするのか。

 答えはすぐに出た。エイミィーは一度、光の槍を消すと新たな武器を創造する。

 腕に拳銃のリボルバー部分のような弾倉が装着され、指先にある発射口からは鋭い先端を持った太く長大な金属針が姿を見せた。

 

 特殊な形状の杭打機、またはネイルガンとも言えよう武器を突き出すも、アルヴェムは一歩下がって空振りさせる。

 刹那、アルヴェムは右足に引っかかる感覚を覚えた。

 見ると右足首に刃のないトラバサミが挟み込まれており、地中と短い鎖で繋がれているためにアルヴェムはその場で体勢を崩す。

 

 それを見逃すエイミィーではなかった。

 杭打機をアルヴェムの腹部に押し当てると音が炸裂する。

 一度や二度ではない。一秒に数十、数百、数千は撃ち込まれており、一発の上を裂いて次の一発……それを夥しいほどの回数繰り返されている。

 弾速は光を付与されているため初速から目にも留まらぬ速さ、そして弾倉はエイミィーの神器で創られたものであるために無限にも等しい。

 

 アルヴェムは素直に感心した。

 これならば皮膚のバリアがあったところで一点を集中で攻撃され続ければ突破される。

 

「すごいな、キミは。とても戦い慣れている」

「この程度では褒められたものではありませんよ」

 

 皮膚のバリアが突破される寸前、アルヴェムは弾倉に指先を突っ込んだ。

 そうするだけで嚙み合わない歯車のように弾倉は削れ、音を立てて破壊される。

 止めた。だが、すでにエイミィーから次弾が放たれていた。

 

 壊れた杭打機から再び光の槍が出現する。

 その穂先はすでにバリアの少し先に触れており、間髪入れずに光が放出された。

 勢いのまま後方に下げられるアルヴェム。その腹部は制服が吹き飛び、煙を上げる。

 皮膚には到達していないが制服が破れた。それはつまり一瞬だが皮膚のバリアが破られたことになる。

 

「硬いですね」

「並大抵の相手なら、この段階にすら行かないよ。もう少しキミの手を見たいが――時間切れのようだな」

 

 アルヴェムが目をやると、視線の先では木場が吐瀉物を吐いて倒れており、一誠も聖剣の一撃を受けたのか腹部を手で押さえて跪いていた。

 一方、ゼノヴィアとイリナにダメージはない。完敗だろう。

 成長途中の一誠はともかく、木場はもっと冷静になれば良い勝負ができたはずだが私情が優ったようだ。

 激情は力を与えるが同時に判断能力を奪う。

 これで少しは感情との付き合い方を見直して欲しいが復讐心は御しきれない。

 ゼノヴィアは去り際に言う。

 

「『先輩』、次は冷静になって挑んでくるといい。それと――『赤龍帝の籠手』を持つ兵藤一誠、すでに『白い龍(バニシング・ドラゴン)』は目覚めている。その調子だと絶対に勝てないだろうがね」

「それじゃあ、イッセーくんバイバイ! 裁いて欲しかったら、いつでも言ってね! アーメン♪」

 

 去っていくゼノヴィアに、イリナも胸の前で十字を切ってついていく。

 その姿を見て、エイミィーもアルヴェムへ一礼し、

 

「私もこれで失礼します。決着はまたいつの日か、どこかで――」

「契約の件、どうか考えてみてくれ」

 

 アルヴェムの言葉にエイミィーは目を丸める。

 やがて、一度だけ微笑みを作って、

 

「私が()()()()()()()()を終えた時、あなた様の気が変わっていなければ考えておきます」

「本当にしたいこと……?」

「内緒です」

 

 人差し指を口元に当てて、エイミィーは踵を返して立ち去っていく。

 その後ろ姿はどこか寂し気なもので、何とか声を掛けようとするもリアスたちの雰囲気からして、それどころではない。

 完敗、その文字が相応しい状況だった――

 

 ―○●○―

 

「待ちなさい、裕斗! 私のもとを離れるなんて許さないわ! ましてや『はぐれ』になるなんて……あなたはグレモリー眷属の『騎士』なのよ!?」

 

 ゼノヴィアたちとの戦闘が終わった後、一誠がアーシアからの治療を受けている最中にリアスの怒号が部室に響く。

 制止の言葉も聞かず、立ち去ろうとする木場に一誠も立ち上がる。

 

「おい待てよ、木場! 仲間全員で立ち向かえば、次は絶対勝てるって! だから行くなよ!!」

「仲間、か。それじゃあダメなんだ……僕は同志のおかげであの場所から逃げ出せた。だから、彼らの恨みを魔剣に込めて、何より一人で聖剣エクスカリバーを破壊しなければならないんだよ。それが僕の……復讐のために生きる僕の戦う意味なんだ」

 

 そう言い残して、木場は部室から去って行ってしまう。

 

「裕斗、どうして……」

 

 追いかけることもできず、悲痛な表情を浮かべるリアスを見てはいられなかった。

 それは部員全員が思うことで、その場では言葉はもう出てこない――

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