ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
陽が沈み、夜の闇が辺りを支配する頃――アルヴェムは駒王学園へと足を踏み入れていた。
今も眠っているイングヴィルドは拠点に用意したベッドに寝かせ、警備用の端末を作っておいたため異常事態に陥ろうともすぐに察知し、駆け付けられるようにしている。
問題は駒王学園を包む異様な雰囲気。
暗くなり不気味に映る光景、それだけならばまだ良いが別種の力を感じる。
悪魔の力、なのだろう。結界が張られている。
リアスを含め、他の悪魔はこの学園を拠点にしているようだ。
そして恐らく、アルヴェムの侵入はすでに察知されている。
学園に入ってからすでに二回ほど、偵察を受けた。
一匹は蝙蝠、次は猫、この世界に存在する動物のようだが、その体内には悪魔と同じような力を感じる。使役しているのだろう。
こちらの出方を窺っているのか、攻撃してくる様子はない。
それに相手はどうやら隠れるつもりもないらしい。
旧校舎――一般生徒が立ち入らない校舎からいくつもの気配を察知する。
数は四、いや五人。一人は少し離れた場所にいるが、他は一か所に集まっている。
「……そちらがそのつもりなら都合が良い」
招かれるようにして、アルヴェムは校舎の裏手を進み旧校舎へと入っていく。
外装は古びたものだが内装は手入れされているのか、綺麗なものだった。
すでに相手の気配は察知しているため迷うことはない。
階段を上がり、二階の奥へ突き進んでいくと扉に掛けられたプレートが目に入る。
――『オカルト研究部』。
オカルト……現実味のない現象のことを指すが、存在自体がオカルトの悪魔がそれを研究しているとは些か滑稽な話だ。
コン、コン、コン……と扉をノックする。
この行為に意味を見出せないが、礼儀と言うらしい。
ノックに対し、すぐに「どうぞ」と返答があった。
「……失礼する」
これも礼儀の一つ。
扉を開け、中に入ればそこはまさに異質な空間だった。
壁、床、天井、そのどれにも夥しいほどの文字が書かれている。
その文字は一見ただの落書きにしか見えないが解析すると全てに意味が込められていた。
アルヴェムの視線は奥の一席、紅髪の美少女へと向けられる。
視線に気付いた紅髪の美少女は机に肘をつき、両指を絡め、
「はじめまして、アルヴェム・オーヅァくん。私はリアス・グレモリー、今夜は何の用かしら?」
昨日の公園での戦闘はこちらに漏れていないのか、リアスの声は穏やかなものだ。
だが、ソファに座っている小柄な少女、扉の近くに立っている美少年、そしてリアスの傍らにいる黒髪の美少女――その全員がこちらの一挙一動に警戒している。
「そんなに警戒しなくてもこちらに戦う意思はない……そちらの返答次第、だが」
「私たちもあなたの正体がわからない以上、下手な真似はできないわ。だからこそ、質問をどうぞ。答えられるものなら答えるわ。その代わり、こちらの質問にも答えてもらうけど」
タネは不明だが、どうやら公園での戦闘は見られていたらしい。
恐らくイングヴィルドの存在もリアスには筒抜けだろう。
「話が早くて助かる。俺からの質問は二つあるが……まずはひとつ。昨日の悪魔はそちらの仕込みか?」
二つめの質問はこちらの弱みを見せることになる。
もし昨日の悪魔がリアスの配下だった場合、この時点で話は終わりだ。
どんな返答であれ、声音、筋肉の動き、脈拍、その全てから真偽は分かる。
問いに対し、リアスは即答する。
「いいえ、どの派閥の悪魔かもわからないわ」
どこを取っても偽りはない。
昨日の悪魔たちは本当にリアスとは無縁のようだ。
信用するにはまだ足りないが、本題に――
「じゃあ、次はこちらの質問でいいかしら? そちらが質問を終えて、こちらの質問に答えてくれない可能性があるから」
「……どうぞ」
「あなたは――何者なの?」
「それは俺にもわからない。悪魔でも、堕天使でも、ましてや妖怪にも見えないだろう?」
今見えた全ての種族で例えてみればリアスの傍にいた者たちも驚いた表情を見せる。
嘘は吐いていない。本当に自分が何なのかは知らない。
それ以上の追及はないため、次はアルヴェムの番だ。
「そちらも知っているだろうが、俺が保護している悪魔の少女……百年以上眠っていたそうだ。この病的な眠りに対する治療法はないのか?」
「そう……あの子は"眠りの病"に罹っていたのね。残念だけど治療法はないわ。どうしてそうなるのか、それすらも解明されていないのだから」
「なるほど……だったら自分で解明した方が早いか」
「ふふっ……あの子が大切なのね」
くすくすと笑むリアスに理解ができなかった。
怪訝そうにするアルヴェムにリアスはすぐに訂正する。
「ごめんなさい、バカにするつもりはないの。昨日の夜、強い魔力を感じたから使い魔を使ってあなたたちのことを見ていたの。何を話していたのかまではわからなかったけど、二人で海に行っていたのも知っているわ」
どうやら生物の気配を察知するセンサーに調整が必要なようだ。
細かく察知しようとすれば飛んでいる鳥や微生物まで入ってしまうため、強い力を持った者にしか範囲に入れていなかった。
だが、それよりも気になったのは――
「俺が大切にしてる……?」
「襲ってきた悪魔たちから守って、彼女の願いを聞いて海に行って、今は彼女のために危険を顧みずにここに来て治療法を探している……これを大切にしていると言わないで何と言うのかしら?」
「この世界で生きていくために、ただ知りたいだけだ。人間、悪魔、堕天使、妖怪……その生態を知り、脅威レベルを測る。彼女を守るのはそのためでしかない」
「調べ終わった後はどうするつもりなのかしら?」
「わからない。何せ、俺には目的がないからな。生きるために必要な情報を揃えているだけだ」
「正体不明のあなたに、強大な魔力を持つあの子……問題は山積みね」
「そちらが手出ししてこない限りはこちらも戦うことはしない」
「その言葉を信じたいけど……私としてはグレモリー家の縄張りに現れたあなたたちという異分子を放ってはおけないわ」
縄張り……どうやら悪魔はこの世界を分割して治めているようだ。
確かにどこの勢力にも所属していない自分とイングヴィルドは善悪問わずリアスにとって脅威となり得る。
それに縄張りを持っているあたり、リアスには地位がある。こちらが下手な真似をすれば悪魔の勢力そのものを敵に回すことになるだろう。
だが――
「降りかかるつもりなら、俺はその火の粉を払うまでだ」
【
アルヴェムの右手が熱を帯びる。
どうせこの世界に自分の味方はいない。
非効率だが、来るならば片っ端から潰していくのみだ。
見ていた美少年もどこからか剣を取り出し、他の面々もそれぞれ戦闘態勢を取る。
一触即発の雰囲気。しかし、リアスが片手を挙げて、それを制止する。
「――取引をしましょう」
「取引……?」
「アルヴェム・オーヅァ、私の下僕になるつもりはないかしら?」
下僕……つまり、リアスはアルヴェムに従属することを求めてきた。
これには周りの悪魔たちも驚いているようで、アルヴェムは右手を一度下ろす。
「私の下僕になれば、あなたとあの少女は悪魔の……グレモリーの庇護が受けられるわ。グレモリー家は悪魔の中でも七十二柱に名を連ねる者――私が言うのもなんだけど、相当な権力者よ。天使、堕天使もそう簡単には手を出せなくなるわ」
「天使……また新しい種族か。その言い方だと天使と堕天使とは対立しているのか?」
「ええ、太古の昔からね。堕天使とは冥界……人間界で言う『地獄』の覇権を巡って。天界に住まう天使は主である神の命に従って悪魔、堕天使を滅しようとする三すくみ。それをずっと繰り広げているのよ」
「……俺のメリットはわかったが、そちらのメリットは何だ? わざわざ厄介者の異分子を取り込んでリスクを抱え込むほど俺はあなたに提示できるものはないぞ」
「こう見えて私は
権力者がそんな考えでいいのか……アルヴェムはそう思うもリアスは本気のようだ。
傍らにいる黒髪の美少女もこれには思わず微笑んでしまっている。
「それに事情を抱えているのはあなただけじゃないわ。ここにいる誰もが事情を抱えている……申し訳ないけど、今ここで決めてちょうだい。すでにソーナ……他の悪魔からもあなたたちのことを上に報告するように打診されているの。今は私の方で抑えているけど、それも限界が近いわ」
「わかった。それなら俺を下僕にしてくれ」
「私が言ったけど……随分あっさり承諾してくれるのね」
「戦わずに済むなら越したことはない。それにこの世界を知るには三勢力のどこかに所属するのが手早いと思ったからな」
「賢明な判断ね。それなら話は早いわ」
リアスが引き出しから取り出したのは紅く小さな置物。
見るとそれはチェスの駒を模しているようで、その中でも『戦車』の駒だった。
「それは?」
「『
リアスは立ち上がるとアルヴェムの側面へ立つ。
「さあ、跪いて」と促され、アルヴェムが床に片膝をつけるとその床に文字の陣――魔法陣が展開される。
「――我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、アルヴェム・オーヅァよ。我が『戦車』として、新たな生に歓喜せよ!」
リアスの手元から離れた『戦車』の駒がアルヴェムの身体へ溶けるように入っていく。
しかし――アルヴェムの視界には『Error!!』の文字が飛び出す。
夥しいほどの量……これは完全に拒絶反応を示している。
【これちょっと難しいかも! 出しちゃった方がいいんじゃない!?】
飛び出してきたユールーも『Error』を消そうとするもそのたびに増えていく。
このままでは身体にどんな支障をきたすかわからない。ユールーの言う通り、排出してしまった方が安全だが――過ぎったのはイングヴィルドの顔だった。
何故、彼女の顔が浮かんだのか。
理由を探している暇はない。すでにリアスが怪訝そうな表情を浮かべている。
これ以上、時間を掛ければ相手の気が変わってしまうかもしれない。
これからの活動にリアスの後ろ盾は必要だ。そのためには――
(駒を解析、そして俺に合うように性質を変化させる……)
体内にある『悪魔の駒』に手が加えられていく。
材質、成分は冥界由来で初めてのものばかりで――
『――ノイン、あなたの名前はノイン――よ』
不意に、頭に浮かんだのは一つの記録。
顔は……何一つ認識できない。だが、優しい笑みを浮かべているのはわかる。
自分の記憶……なのだろうか。いや、名前が違う。
気になるがすでに『Error』の文字は全て消えており、記録も見えなくなっていた。
立ち上がると、アルヴェムの背にはいくつもの翼が生えている。
機械混じりの悪魔の翼――それが八枚。
「あなたは一体……」
前代未聞の出来事にリアスも驚きを隠せないでいた。
これで悪魔にはなれた……のか不明だが、第一関門は突破した――