ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
「嫌だぁあああ!! 俺は帰る!! 帰らせてくれぇえええええ!!」
駅前の広場で悲痛な匙の叫びが轟いていた。
今にも逃げ出そうとする匙を容易く止めているのが小猫。
一誠とアルヴェムはそんな二人のやり取りを見ている状況だった。
何故こうなったかと言うと、遡ること木場がはぐれ悪魔となって少しして――一誠が誘ってきたのだ。
少し話したいことがあるから休日、イングヴィルドなしで駅前の広場に来てくれ、と。
そして匙も同様にリアスの伝手を借りて連絡を取り、呼び出した。
そこまでは良かったのだが、偶然にも小猫に出会って一誠がわかりやすく逃げてしまったので捕まり、監視役も含めてついてきてしまっていた。
諦めて匙と合流し、全員が揃ったところで集まった趣旨が話される。
聖剣エクスカリバーの破壊をゼノヴィアと紫藤イリナ、エイミィー・クァルタに許可してもらおう――と。
匙の行動は早かった。
その言葉を聞くなり脱兎の如く逃げ出そうとしたが、反応の早い小猫に捕まり現在に至る。
小猫はすぐに木場のことだと察して手伝ってくれると言ったが、問題は匙だ。
「俺はシトリー眷属だぞ!? お前らグレモリー眷属の問題には関係ねえだろ! そんなことしたら俺は会長に殺される! リアス先輩は厳しくても優しいだろうよ! でもな、会長は厳しいに厳しいを重ね捲くったお方なんだぞ!!」
「その割には慕っているようだが……」
「そ、そりゃあ、お前……あれだ。たまにほんのりと優しい時があるんだよ!」
「スイカに塩をかけたみたいな感じなんだな……」
あってないような甘さ。
アルヴェムも一誠も妙なところでシトリー眷属の事情を知りながらも、今はそこが問題点ではない。
改めて、一誠は今いるメンバーに真意を説明する。
「ゼノヴィアやイリナの口振りからしてエクスカリバーは破壊しても問題ないみたいだから、木場に勝ってもらってまた部長のもとで一緒に悪魔稼業やってこうぜって話だ。唯一の難点が彼女たちが話に耳を傾けてくれるかだが……」
「話を聞いてくれないなら、二人はその場で殺して彼女たちのエクスカリバーを奪えばいい。今なら俺の手駒に堕天使がいるから、上手くやれば教会側もコカビエルの仕業だと思うだろう」
「いきなり物騒にするなよ! もしかして、何も言わず来てくれたのって……」
「エイミィー・クァルタのスカウトと、第二目的でエクスカリバーだな。その二つが手に入れば僥倖だけど、優先順位はエイミィーの方が高い」
「……スカウト?」
これには小猫も訝しげに首を傾げる。
一誠たちはエイミィーが天使と悪魔の混血であることは知らない。彼女の心境を考慮すると無闇に口外するわけにもいかず、嘘は吐かない程度に事実を言っておく。
「イングヴィルドの友達になれば、と思ってな。そろそろ、俺以外にも固定の友達ができてもいいだろうから。契約を持ちかけているところだ」
「それ、イングヴィルドは知ってるのか?」
「いや、言っていない。何せゼノヴィアたちが部室に来てから、ずっと不機嫌みたいでな。今日出て行く時も不満そうだった。土産でも買って帰って機嫌を取ることにするよ」
「……先が思いやられます」
何かを察した小猫は半眼でアルヴェムを睨むも、その意図が伝わってこない。
だが、今は置いておいていいだろう。
「とりあえず、接触しないことには始まらないからな。サーチしてみる」
「えっ、俺の返事は!? 俺の意思は尊重されないのか!?」
未だに抵抗する匙は無視一択。
アルヴェムは計測器で周辺をサーチすると、休日ともあって生体反応が多い。三人の中でも一番わかりやすいエイミィーの反応を探すが――
「前に言ったから対策されたな。三人とも全く見つからない」
手段は不明だが、エイミィーの反応を捉えることができない。
そうなると結局、徒歩で探すこととなった――
―○●○―
「…………」
街行く人々の中、一人重い空気を背負いながら歩く少女がいた。
イングヴィルドだ。
前に一度、リアスたちと出かける機会があり、その時に購入してもらった衣服を身に着けている。
夏も近付いてきているため、清涼感を意識したワンピース。その美しい容姿、幻想的な雰囲気から、周りの目を引くがイングヴィルドはそのどれにも気付いていない。
考えているのは――アルヴェムのことだった。
今日、彼は出かけると言っていたので、いつものようにイングヴィルドもついていこうとしたのだが、はっきりと「ダメだ」と言われたのだ。
いつもならば二つ返事で許可してくれるはず。
一緒にいるのが当たり前で、彼は自分の願いなら何でも聞いてくれていた。だから、今回もきっと了承してくれるはずだと思ったが、そうはいかない。
理由を聞いても、はっきりとは教えてくれなかった。はぐらかして、時間がないと言って、それで終わりだ。
アルヴェムから初めてされた拒絶にショックを受けている自分がいる。
アルヴェムと出会って駒王学園に通い始めてから、ほとんどの時間を彼と共に過ごしていて、一緒にいるのが当たり前になっていた。
その前提が壊されて、イングヴィルドの中で二度目の人生の基盤がどこか揺らぐ。
木場がリアスのもとを去ってから……いや、あのゼノヴィアたちが来てからだ。
エイミィー・クァルタ。アルヴェムから聞いたが、彼女は本当に特別な存在。聞くと天使と悪魔の混血らしい。しかも神器を持っていると教えてくれた。
アルヴェムは色んなものに興味を持ちやすい。
だから、彼女に興味を持っても仕方がないのだ。今までだって、堕天使やフェニックス、魔王など様々なものを調べてきた。
それらと同じ、はずなのに断続的な小さな痛みが心の中で続く。
前にも同じような感覚はあった。
ライザー・フェニックスとのレーティングゲーム前にあった特訓で、アルヴェムがレイヴェル・フェニックスを見ていた時だ。
きっと、この感情が嫉妬というものなのだろう。
彼が自分の知らない女性に興味を持つのも、自分に嬉々として話をするのも、何より自分を見てくれないのが――嫌。
自分はこんなにも嫉妬深いとは思ってもいなかった。
百年前、故郷で生きていた頃にもなかった感情。
きっとこの感情の先にあるのは――そう思ったところで、イングヴィルドの思考は止まる。
それは、ひとつの疑問が浮かんだからだ。
彼は、自分のことをどう思っているのだろうか。
研究対象であるために他の者よりかは大切にされているのはわかる。
何かあった時、きっと全力で自分を守ってくれる。
自分が寂しい時、悲しい時、必ず寄り添ってくれていた。契約と言いながらアルヴェムはイングヴィルドの身体も、心も、守ろうとしてくれる。
それでも、彼が激情に任せて怒ったところをまだ見たことがない。
もし、自分が傷つけられそうになったら――彼は本気で怒ってくれるだろうか。
そうあって欲しい。
もし、本気で怒ってくれたなら、きっと自分は彼にとって『特別な存在』の証明になるのだから。
そんな自分勝手な想像ばかりしてしまう。
何より、こうして街に出てきたのも彼のことを追ってのことだった。
アルヴェムが秘密にしていること、実は大体予想ができている。
きっと、出て行ってしまった木場のことだ。あれから一誠がそわそわしていたのを知っており、今回の一件で何かしでかそうとしているのだろう。
アルヴェムの興味はエイミィーと、少しはエクスカリバーにありそうだ。
どこかで接触を図っているはずだと、アルヴェムの傾向を考えれば予想ができる。
後は一誠たちのうち誰かを見つけるだけでいいのだが――
「ちょっとそこのお姉さん? お時間イ~イ?」
急に声を掛けられた。
振り向くと、そこには如何にも風体が軽そうな男性が二人。
イングヴィルドは小首を傾げる。周りを見ても、男性たちの視線を追っても、他に誰もいない。
もしかして自分に話しかけているのだろうか。そう思い、イングヴィルドは自らを指で差す。
「わ、私……でしょう、か?」
「そうそうそう! いやぁ~キミ可愛いねぇ? その髪の色、外国の人かな?」
「あ、あの……私、い……急いでいます、ので……」
本能が直感的に彼らとの関わりを拒んだ。
イングヴィルドはすぐにでも踵を返して立ち去ろうとするも、もう一人の男性が回り込んでくる。
「そう逃げないでよ。俺ら、暇しててさ。お茶でもしない? 何ならカラオケでもどう?」
魔力を使えば、こんな状況すぐに打破できるだろう。
しかし――怖い。
何よりも恐怖心が優ってしまった。
突然の出来事に声が震えて魔力が上手く扱えない。
周囲の人間は誰も助けてはくれない。
誰もが見て見ぬふりをして通り過ぎていくだけだ。
まるで品定めでもするように、下卑な目線でイングヴィルドの身体を舐め回すように見てくる。
それだけでこれから何をしようとしているのか、わかってしまう。
「助けて、アルヴェム……っ」
ふり絞った小さな声。目尻には涙が溜まる。
男性のうち一人の手がイングヴィルドに触れる、寸前――
「――下賤な輩の末路は地獄だと相場が決まっていますよ」
不意に男性たちの背後から手が伸びてきた。
その手が二人の頭を鷲掴みにして間髪入れず、頭を掴んだままコンクリートの地面へと叩きつけられる。
何とも鈍く、そして肉を潰したような不快な音が響いた。
地面がひび割れ、凹みが生まれた中心で男性二人は痙攣しており、虫の息と化している。
「あ、あなたは……」
「イングヴィルド様、ですよね。もう大丈夫です」
そこに立っていたのは、一人の少女。
淡い金色の髪にあり余るほど主張された豊満な胸。それを包む黒い外套。
――エイミィー・クァルタ。
アルヴェムが興味を持っていた少女だ。
イングヴィルドが言葉を返そうとした時、エイミィーは突然一歩だけ下がる。
直後、降り注いだのは光。どこからか飛んできた赤い光が倒れている男性たちを穿った。
途端に塵も残さず消える男性たち。まるで最初から存在していなかったように、一瞬周囲が静寂に包まれた。
エイミィーは光が飛んできた方角を見て、納得したように頷く。
「あなたがアルヴェム様に守られているのは本当のようですね」
微笑んで、エイミィーは手元に魔法陣を出し、横に薙ぐ。
それだけで周囲にいた、今まで黙っていた人々が携帯電話を触る手を止め、「あれ、何してたんだっけ……?」と口々に言いながら立ち去っていく。
「この力のことは秘密にしていただけると幸いです」
「わ、わかり、ました……ありがとう。助けてくれて」
「いえ、ただ偶然通りがかったものですから。気にしないでください。少し違いますが、敵同士であれど悪魔との混血の
イングヴィルドから見て、彼女はゼノヴィアやイリナと雰囲気が違って見えた。
信仰に染まっていない、とでも言えばいいのだろうか。彼女には、それよりも『芯』があるように思える。
と、そこでイングヴィルドは思い出し、
「前に一緒にいた二人は……一緒じゃないの?」
「はい。あれから考えが合わず、少々口論となって今は別行動中です。正直、単独行動に慣れていますから気楽になったと言えますね」
「そう、なの……」
悪魔との混血、という意味では共通点を持つ二人。
だが、悪魔側と天使側、所属する勢力は対照的。共通の話題など欠片もない。
それどころか今目の前でいきなり殺し合ってもおかしくはないのだ。
エイミィーはその点自重しているのか、アルヴェムに配慮しているのか、手を出してくる気配はない。いや、イングヴィルドから見るにエイミィーは戦闘をあまり好んでいない気がする。
会話が終わってしまった二人。
立ち去るべきかと思ったが、エイミィーがやけにイングヴィルドの顔を見てくる。
「えっと……何、ですか?」
「自分以外で悪魔の混血で生まれた方と出会うのは初めてで……よろしければ少しお話できないかなと思いまして。もちろん、そちらがよろしければの話ですが」
その言葉に一瞬、イングヴィルドは考えた。
アルヴェムが探しているのはエイミィーで間違いない。ということは、エイミィーの近くにいればアルヴェムと遭遇する確率が高くなる。
それに、イングヴィルド自身も興味があった。
自分と同じ悪魔との混血、そしてその成り立ちを――
「はい……わかり、ました。お願いします」
「それでは、あちらのカフェに入りましょう。私の姿はどうにも目立ってしまうようで気が散ると思いますから」
エイミィーは笑んで黒い外套を手で少々パタパタと薙ぐが、イングヴィルドから見ると絶対にそこではないと思う。
胸にそんな大きなものがあれば誰だって目をやる。現に通りすがるほとんどの人間が彼女の胸元を二度見してしまっているのだから。
とにかく、イングヴィルドは「はい」と了承してエイミィーの後を追っていった――