ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
聖剣エクスカリバーを破壊する許可を得るため、ゼノヴィアたちの行方を追っていた一誠たちだが、彼女たちを見つけるのはそう苦労しなかった。
「迷える子羊の私たちに天の恵みを~」
「天の父に代わり、哀れな私たちにお慈悲をーっ!!」
路頭で祈りを捧げるのはゼノヴィアとイリナ。
あまりにも簡単に見つかって、一誠もどう言ったらいいかわからない表情だ。
道行く人々から奇異な目を向けられているが、それもそうだ。
信仰心の高い国ならいざ知らず、そういう観念があまり強くない日本において白いローブを身に纏い、路上で祈りを捧げている非日常的な姿を見れば誰だってそんな目になる。
「何てことだ。これだけ祈っても慈悲ひとつないとは……だから信仰心の薄い国は嫌なんだ」
「毒づかないでよ、ゼノヴィア。私たちは今無一文……異教徒の恵みなしじゃパンにもありつけないんだから!」
どうやら金銭に困っているらしい。
だが、それよりも気になったのはエイミィーの姿がないことだ。
先ほど街に出てきていたイングヴィルドに危険が及び消滅弾を放ったが、その前にはすでに男性たちは制圧されていた。
イングヴィルドは現在、その場にいた誰かと移動しカフェに入っている。
種族、戦闘能力がわからないということは反対にエイミィーであることを示していると言ってもいいだろう。
介入してもいいが、彼女たちは今頃『ガールズトーク』でもしているはずだ。
それを邪魔することはイングヴィルドの友好関係の構築も邪魔することになる。
静観、アルヴェムは即座にそう決めてゼノヴィアたちへと視線を戻す。
見ると、ゼノヴィアとイリナが顔をぶつけながら口論に発展していた。
空腹は判断能力を鈍らせ、神経を摩耗させる。喧嘩に発展しても不思議ではない。
「そもそも、お前がその詐欺紛いな珍妙の絵を買ったことが全ての始まりじゃないか!」
「聖なるお方になんてこと言うのよ! 確かにちょっと奇抜だけど、抽象画って大体こんなものじゃない!」
「芸術の欠片も知らないくせに大体なんて適当な言葉を使うな! それで滞在費の全てをつぎ込んで、エイミィーすらいなくなってしまったじゃないか!」
「それはゼノヴィアのせいでしょ! お姉さんぶりたいのはわかるけど、あれこれ細かく口出しして鬱陶しがられて別行動になったんだから!」
「わかっている! だから探しに行きたいんだ! 今頃、私に言い過ぎたとエイミィーは反省して泣いているはずだ!! 迎えに行かないと!!」
「それこそ欠片の可能性もないわよ! いっそ清々しいみたいな感じで出て行ったんだから!!」
この口論で大体の事情は把握した。
やがて、とうとう喧嘩する体力もなくなって膝から崩れ落ちる二人。
それを見かねた一誠は近付いて、ひもじい視線を受けながら食事に誘えば二人は躊躇いもなく頷いた――
―○●○―
「そう、ですか……百年もの長い間、眠りについていたんですね」
感慨深く頷いて、エイミィーはコーヒーが入ったカップに口をつける。
あれからイングヴィルドはエイミィーに連れられ、一軒のカフェへとやってきていた。
そこで身の上話となり、イングヴィルドは助けてもらった礼も兼ねて全てを話した。
自分が人間として至って普通に生活していたところ、血筋に悪魔が紛れていてその力が覚醒し"眠りの病"で百年以上眠っていたこと。その血筋が旧魔王のレヴィアタンのものであること。
全てを聞いて、エイミィーの目に同情の色が見えるがイングヴィルドは首を横に振って、その同情を否定する。
「でも、目覚めてアルヴェムと出会って、今は幸せ……かな。他の人たちも優しい人ばかりだから。エイミィーさんは、どうだったの、ですか……?」
「エイミィーで構いませんよ。それに普段通りに話してもらって構いませんから」
「だったら、私も……イングヴィルドって、呼び捨てでいい、よ? 敬語もいらないから……」
「いえ、私はこのままで。どのような間柄でも『様』付けと敬語を強いられてきましたので、癖……みたいなものですから」
そう言うエイミィーの笑みを浮かべる。しかし、それは出会った時の微笑みとは違って、乾いたものだった。無理矢理取り繕ったもの、と言うべきか。
どこか他者と一線を引いている。いや、引かなければならない境遇に今もいるのだろう。
やがて、改めて「それでは次は私の番ですね……」と、エイミィーは静かに語り始めた。
「私は天使の母と人間……だと思っていた父の間に生まれました――」
四大
本来、天使にとって性交は邪な感情を孕む。それによって堕天するケースがほとんどだが、母は違う。真実の愛があったからこそ、堕天使とはならず無事に天使の子を出産できたと言われた。
「奇跡、そう持て囃されました。ガブリエル様にも祝福され、間違いなく幸せでしたよ――私が六歳になるまでは」
六歳の時、エイミィーに異変が起こった。
背中に天使の翼と共に――悪魔の翼が生えたのだ。
光の力に加えて強大な魔力が満ち、その姿に誰もが驚いた。そして、恐れた。
「父も知らなかったことですが、父の家系には悪魔の血が混ざっていたんです。名までは聞けませんでしたが、高名な悪魔の力が隔世遺伝して私に受け継がれました。天使と悪魔、本来共存するはずもない相反する力を持った化物――奇跡から一転して私は『災厄の子』と呼ばれました」
「そんな……」
「すぐに上層部は私たちの処分を決めました。母と父は私を守るために天界から離反し、逃げましたが……追跡を逃れることはできません。母も父も、私の目の前で殺されました」
血の海を作る両親だったもの、それがどれだけ残酷なものだったか。
イングヴィルドには想像もできない光景だった。
「私が殺されなかったのは母が逃走する前に『神の失敗作』と称された神器を天界から奪い、それを私に託してくれていたからです。無尽蔵に武器を創り出すこの力が私を守ってくれました」
言って、エイミィーは一瞬だけ様々な武器を創り出す。
どれもカフェで広げるものではないため、すぐに消して言葉を続ける。
「その後、事態に気付いたガブリエル様の尽力によって神は私に慈悲を与えて、生きることを許されました。一切の自由と引き換えに、一番死ぬべきだった私だけが助かったんです」
「それは……違う、と思う。あなたは優しい人。初めて会った時もアーシアさんを助けてくれたもの。だから、死ぬべきなんてないわ」
「彼女の境遇は私と似たものがありましたから、同情したんでしょう。勝手に周りが期待して、自己犠牲を強要して、その道から少しでも外れれば無慈悲に殺される……それを神への信仰と言うのなら、必要なのは祈りではなく流れ落ちる血なのでしょうね」
それに、とエイミィーは付け足す。
「私は優しくありません。この手はずっと誰かを殺めてきたのですから。そして付いた名が『処刑人』、天使にも悪魔にもなれない歪な存在にそんな言葉は似合いません」
「嫌なら……変われるわ。アルヴェムはあなたに、その選択肢をくれているはずよ」
「……信頼しているんですね、あの方のことを」
最初にエイミィーを研究対象にしたいと聞いた時、正直嫌だと思った。
だが、彼女の身の上は自分よりも遙かに酷い。それなのに、先ほどエイミィーは自分を救ってくれた。話してみて、エイミィーも心のどこかで救いを求めているようにも見える。
アルヴェムに救われた自分だからこそ、イングヴィルドはその後押しをできると感じたのだ。
「研究対象って言っても、酷いことはされないわ。学校にだって通わせてくれる。楽しいこと、いっぱいある……アルヴェムは誰が来たって彼は負けないから。だから――」
「アルヴェム様にも伝えましたが、私にはしたいことがあるんです。それをもし成せば、私たちは……同じ契約関係になって、友達になれるかもしれませんね」
また、だ。そうイングヴィルドは感じた。
本心じゃない、その場を取り繕うだけの悲しい笑み。
エイミィーの瞳はどこか自ら死に向かおうとする彼女の心情を表していた――
―○●○―
ゼノヴィアたちとの接触を終えたアルヴェムたちは一定の成果を得ていた。
悪魔ではなくドラゴンの力を借りるという名目でエクスカリバー破壊の許可を得て、木場も呼び出して情報の共有を行った。
今、この町にはかつて一誠たちとも戦ったはぐれ悪魔祓いのフリードが聖剣を使って教会側の神父を殺害しているそうだ。木場も一度交戦し、取り逃したらしい。
その背後にいるのが堕天使の幹部コカビエル及び、かつて木場が被検体となっていた『聖剣計画』の責任者――『皆殺しの大司教』バルパー・ガリレイ。
ゼノヴィアたちの情報によって、木場が倒すべき敵も見つかり、彼も冷静さを取り戻した。
そして、彼の口から語られた『聖剣計画』の真実は想像を絶したもの。
剣の才能や神器を持つ子供たちが集められ、毎日行われる非人道的な実験の数々。それでも同胞は神を信じ、神の寵愛があると信じ込まされ、それだけを支えに耐えていた。
その先に待っていたのは『処分』。聖剣に適応できなかったという、たったひとつの理由で毒ガスを撒かれ、多くの命が散った。
木場も本来ならその場で死んでいたが、偶然にもリアスの眷属となり命を救われる。
聖剣打倒以外にも生きる道を探して欲しい、そんなリアスの想いが感じられた。
と、そこまで聞いて、すすり泣く声が聞こえてくる。
匙だ。鼻水まで垂らして号泣してしまっていて、見ているこちらが少し引いてしまうほどだ。
「木場、お前にそんなつらい過去があったなんてな……最初はいけ好かないイケメンだと思っていたが、そんなのはもうやめだ! 俺も協力する!! 会長のお仕置きもあえて受けよう!!」
などと言って、困惑する木場と猛烈な握手を交わす匙。
やがて握手を終えるなり、拳を強く握って、
「共同戦線を張るなら皆にも俺のことを知ってもらわないとな! 俺の目標は――ソーナ会長とデキちゃった結婚することだ!!」
まさか……とは思ったが、本当に一誠と同レベルの夢が出てくるとは思わなかった。
ライザー然り、一誠然り、匙然り、男性悪魔の目標には必ず女性の存在がある。木場も復讐を遂げた先では女性に走るのだろうか。
いや、木場は少し女性に走った方がいいのかもしれない。何せ学校では一誠と木場の濃密な絡みを描いた創作漫画が裏で出回り、噂も広がっているのだから。
そう思っていると、一方で匙の告白に今度は一誠が泣いた。
何故か木場の悲痛な過去を聞いた時よりも涙を流し、匙の手を取る。
「聞け、匙! 俺の目標は――この手で部長のおっぱいを揉み……そして、この口で吸うことだ!!」
「そ、そんなことできるのか……? 主の、しかも上級悪魔様のおっぱいなんだぞ!?」
「無理なことじゃない。現に俺は部長の生乳を見たことがあるし、揉んだこともある! 不可能じゃないんだ!!」
「なん、だと……諦めなければ、俺にもチャンスは来るっていうのか……?」
「道は遠いかもしれない。でも、不可能じゃないはずだ! この手におっぱいを掴むまで諦めるんじゃない!! そして、その先には吸う道だってあるはずだッ!!」
「……付き合ってられませんね」
熱く抱擁までし始める一誠と匙を半眼で睨む小猫。
木場もこれには苦笑し、どう反応したらいいかわからない様子だった。
「アルヴェム、お前もイングヴィルドのおっぱいを揉みたいとは思わないか!?」
突然舞い込んできた火の粉。
今まで静観を貫いていたアルヴェムに一誠の熱い視線が刺さる。
しかし――
「俺は揉んだことあるぞ」
「「「え……っ?」」」
予想していなかったのか、一誠と匙、小猫までも声が重なる。
呆気に取られて続く言葉はないため、代わりにアルヴェムが言う。
「レーティングゲーム前の特訓で、勝利の女神からのおまじないだ。おかげで不調でも活躍できたから、実際に効果があったんだろう。いや、あれは正確に言うと押し当てられた、か……」
「も、もしかして、お前らって結構関係進んじゃってたりする……?」
「関係は変わらないよ。研究対象で庇護対象、それだけだ」
「やっぱイングヴィルドさんとデキてるってマジだったのか……」
何故か匙まで同意してしまう始末。
どこからそういう話になるのか、さっぱりわからなかったアルヴェムだった――