ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第三十二話『ハプニング発生と躊躇いの果てに』

「どうしたんだ、そんなところで?」

 

 アルヴェムが自宅へと戻った時、玄関先の壁に背を預けて座るイングヴィルドがいた。

 表情は複雑で、アルヴェムの声が届くとゆっくりと顔を上げ、

 

「私、どうしたら良かったんだろう……」

 

 どうやら悩み事があるようだ。

 アルヴェムは靴を脱ぐと、イングヴィルドの隣に腰を下ろす。

 

「話してみたらいい。解決できるかはわからないが聞くことはできる」

「……うん、ありがとう。今日、エイミィーに会ったの。私が危ない時に、助けてくれて――」

 

 接触していたことは知っていたが、アルヴェムよりも早くイングヴィルドを助けてくれていたとは。

 礼を言わねばならないと思っていれば、イングヴィルドの言葉が続く。

 

 エイミィーの生い立ちは壮絶なものだった。

 天使と人間の間に生まれた『奇跡』、それが悪魔の血が隔世遺伝で覚醒したことから一変『災厄』となり、両親が目の前で無惨に殺されたこと。

 それからはずっと他者を処刑するしか生きる道がなく、付いた異名が『処刑人』であること。

 

「私には悲しんでいるように……見えたの。きっと、教会にいるからだと思うわ。だって、彼女の自由を奪っているのは教会だもの」

 

 両親を奪われ、処刑人としてのみ生きることを強いられている。

 エイミィー自身も諦めている様子だった。両親の死に対する自責の念がそうさせているのか、自分の生まれに責任を抱いているのか、恐らく両方だろう。

 

「アルヴェムと一緒にいようって誘ったけど、エイミィーは『したいこと』があるって、去っていく背中はとても寂しそうで……でも、私には何もできなくて」

「キミは彼女をどうしたいんだ?」

「……エイミィーはずっと取り繕った顔で笑うの。だから、心の底から笑って欲しいと思う。助けるとか救うとか、そういうことはできないけど……何か、力になれたらいいなって」

 

 少なからずイングヴィルドとエイミィーは似た境遇にある。

 突然目覚めた悪魔の力、それで世界が全て変わってしまった。

 イングヴィルドは眠っていて、直接家族が失う場面を見ていない。だからこそ、大きなショックを受けることはなかっただろうがエイミィーは今も心に残り続けているだろう。

 そんなエイミィーの気持ちを利用しているのは全ての元凶である神を信仰する教会側だ。

 

「力になる、か……」

 

 とは言っても、彼女が望まない以上、話し合ったところで平行線だろう。

 荒療治。もしかすると、エイミィーに必要なものはそれなのかもしれない。

 

「教会を全部潰していくのもありかもしれないな。だが、それをしてしまえば俺も『はぐれ』確定か」

 

 世界中を巡って、一軒ずつ教会を壊していく。

 宗教を一つ完全に消そうとすると途方もない時間が掛かりそうだが、エイミィーという恐らく無二の研究対象を得られるなら安いものだ。

 

 その代わり、アルヴェムははぐれ悪魔になってリアスのもとを離れなければならないが、必要な代償と考えれば致し方ないこと。

 問題はイングヴィルドのことだが――

 

「私はアルヴェムについていくから……二人で教会全部壊そう」

 

 意外とノリノリだった。

 

「随分と彼女を気に入ったんだな」

「お友達になりたいって思ったから、困っていることがあったら……助けてあげたいの」

「そうか。だったら、俺も全力を尽くす。まずは、目の前の問題を片付けてからだけどな」

 

 木場とエクスカリバーの因縁を断つための戦い。

 それがどのような決着を迎え、悪魔と天使、堕天使にどのような影響を与えるのか。

 全世界教会絶滅ツアーを行うのは、それからでも遅くはない――

 

 ―○●○―

 

 あれから数日後――

 連日、部活動を終えると一誠たちは公園に一度集まり、ゼノヴィアたちから与えられた神父服に着替え、偽の十字架を胸に人がいないところを中心に巡っていた。

 

 嬉々として神父狩りをしているだろうフリードならば、すぐに釣れると考えられていたがなかなか尻尾を見せない。

 計測器にも引っかからないのは、コカビエル側から魔法で気配を悟られないように小細工がされているのだろう。

 

 しかし、街中に漂う嫌な雰囲気。

 夜に行動するために危険を伴うため、早く眠るイングヴィルドの眠りを待ってアルヴェムは行動していた。

 すでにエクスカリバー捜索を始めている一誠たちと合流地点に向かって歩いているのだが――

 

「おやおやぁ? こんなところで神父さん一人で何してるんでござんすかぁ?」

 

 聞き覚えのある声。

 声がした方角を見ると、電柱の上にはかつてレイナーレと行動を共にしていたフリードが立っていた。

 その手に携えられているのは長大な剣。刀身に纏う聖なる気からして、聖剣エクスカリバーで間違いないだろう。ゼノヴィアやイリナが持っていた物とも一致している。

 

 一誠たちならともかく、アルヴェムはフリードとほぼ初対面。

 だからこそ、向こうも警戒していないのか聖剣を上段に構えて飛び降りてくる。

 

「神父ゲットだぜ! その命、ちょうだいしやす!!」

 

 その速度は人間にしてはあまりにも速すぎた。

 初速から加速もなしに最高速度に達する……恐らく、それがフリードの持つ聖剣の特性。

 木場や一誠と違って、直接聖剣と相対したわけではない。悪魔にどれだけ危険性を持つのか、それを知らずして直接受けるのはあまりにも愚策だ。

 

 だが、すでにフリードは眼前に迫っている。

 選択の余地はなかった。アルヴェムは右腕を前に出し、防御姿勢を取る。

 

「ハッハァ!! おバカさんめ、そんな腕バターみたいに斬れちまうぜオイオイオォイッ!!」

 

 高笑いしたフリードの斬撃がアルヴェムの腕を斬った。

 パキン……と、小さく砕ける音がして、二人の間に静寂が訪れる。

 

「…………」

「…………え?」

 

 素の声を上げたのはフリードだ。

 その視線の先はアルヴェムの腕に。腕は何の傷も受けていなかった。

 次にエクスカリバーへ。エクスカリバーは真ん中から切っ先にかけて無くなっていた。

 

 つまり――折れた。

 

 木場が手を下す前に、彼があれほど憎んでいた聖剣が、折れてしまった。

 これにはアルヴェムも二度見して――やがて、事態の重さに気付く。

 

「本当に、エクスカリバーなのか……?」

「見りゃわかんだろうが!! マジでマジの本物なんですけどォ!?」

 

 一瞬、別物に望みをかけたがそんなわけもない。

 折れてもらっては困る。本当に困る。こちらはただ腕を置いただけの防御しかしていないというのに、それほどまでにエクスカリバーは脆い物だったのか。

 

 ドーナシークからエクスカリバーは砕けた一本から七本へ修復したと聞いていた。

 オリジナルからここまで耐久力が下がるのか。元々ガラスのような刀身なのか。

 

 いや、アルヴェムが聖剣を警戒してバリアの出力を上げ過ぎたのが原因だ。

 消滅の力を再現したバリア。バターのように斬れたのはエクスカリバーの方だった。

 

 先ほどまで新しい玩具を与えられた子供のようにはしゃいでいたフリードだったが、今では唖然としてしまっている。

 これで終わってしまっては木場も納得できないだろう。

 フリードへと接近し、残った聖剣の刀身を手で掴めば――

 

Sword Recovery(ソード リカバリー)

 

 手で掴んだ瞬間にエクスカリバーの材質を解析、それを体内で再現して欠けてしまった部分を修復する。

 解析してみれば、正直残念なものだった。

 確かに一般的な悪魔にとっては脅威だろうが、やはりオリジナルのエクスカリバーを創ったものが修復していない分、今のエクスカリバーは出力が劣っている。

 

 材質もまたほんの一部分はオリジナルが使われているものの、ほとんどが悪魔や堕天使を祓うために強化されたありきたりな素材ばかり。あまり興味を惹かれないものだ。

 

「チッ……こいつぁやべぇ! 撤退させてもらうぜ!!」

 

 すぐさま危険を察知したフリードは懐から取り出した球体を地面へと叩きつけた。

 刹那、眩い閃光がアルヴェムの視界を覆い、晴れた頃にはフリードの姿はない。

 

 逃げた方角はわかっているため、追おうとすれば追える。

 しかし、エクスカリバーへの興味を失ったアルヴェムにとっては追う理由はない上、追って戦ってもアルヴェムがまたエクスカリバーを壊してしまう。

 

 どうしたものか……とアルヴェムはシンプルに悩んだ。

 一誠たちに連絡を入れるのが一番だろうが、思い返すと連絡先を知らない。

 魔法陣を使えばいいと思っていたが、生憎アルヴェムに魔力がない上に連絡先はフェニックス家しかなかった。イングヴィルドが傍にいれば話は変わっただろうが、彼女にも内緒にしていること故に協力を仰ぐことができない。

 諦めて後で報告しよう、そう結論付ける。

 

「アルヴェム様……?」

 

 と、不意に声が掛かる。

 振り向くとそこにはエイミィーが立っており、怪訝そうな目でアルヴェムを見ていた。

 悪魔が神父服を着ている、確かにエイミィーから見ると不審に思うだろう。

 

「何故、そのような恰好を……?」

「実は――」

 

 あれからゼノヴィアから事情を把握していなかったのか、アルヴェムはエイミィーに今までの経緯を説明する。

 一誠たちとゼノヴィアたちはエクスカリバー破壊に対する共同戦線を張ったこと。

 それは悪魔ではなく一誠の中にあるドラゴンの力を借りるという名目であること。

 そして、神父狩りを続けるフリードを釣るために神父の恰好をして夜道をうろついていたこと。

 説明を受けて、エイミィーは少し呆れたように笑って、

 

「ドラゴンでも悪魔だと思いますが……ゼノヴィアお姉様は相変わらず飛んだ理屈ですね」

「その様子だと、イングヴィルドと別れた後も合流していないみたいだな」

「はい。あまり顔を見ると、いざという時に迷ってしまいますから……」

「……? そういえば、フリードが先ほどまでここにいて、あちらへ走っていったが追いかけなくていいのか?」

 

 その問いにエイミィーは頷いて、

 

「確かにそれも目的のひとつではありますが、私が与えられた指示はゼノヴィアお姉様たちとは少し違うんです」

 

 苦し気に、彼女は笑みを作った。

 まるでそうしなければ心の均衡を保てないように。

 最後に残った砦を必死に崩さないように。取り繕った。

 

「私が上から受けた指示は『コカビエルが奪った聖剣全てとゼノヴィア及び紫藤イリナから聖剣を奪い始末すること』、ですから聖剣が一か所に集まるのを待っているんです」

「上は何故そのような指示を?」

「エクスカリバーは教会の中でも力の象徴、それをカトリックの一部が秘密裏に独占しようとしています。そのためならば同胞をも犠牲にする、それがあの方たちの神への信仰心なんです」

「キミは……それでいいのか? 仮にも姉と呼ぶ者を殺すことになるんだぞ」

「――私はずっとそうしてきました。神の名の下に命を乞う人も無抵抗な人さえも殺して、殺して……殺し続けてきました。ですから、今更躊躇うことなどありません」

 

 エイミィーは拳を握る力を強くする。

 それとは反比例して、弱々しい声音で、悲しい笑みで、言葉を続ける。

 

「私はあなた様が欲するほどの価値なんてない、ただの心のない『処刑人(バケモノ)』です。ですから、どうかイングヴィルド様を大切にされてください」

 

 踵を返して立ち去ろうとするエイミィー。

 その背中はイングヴィルドの言った通り、寂しそうなものだった。

 今にも重圧に押し潰されそうな、圧倒的な実力に反しての弱ったもの。

 

 見送っていいものなのか。

 きっと、言葉では彼女を救えない。確固たる意思が彼女にはある。

 だから、ここで何を言っても無駄で、荒療治の手段が明確化されていない今は徒労にしかならない。

 わかっている。わかっているのだが――

 

 アルヴェムの手は、立ち去ろうとするエイミィーの手首を掴んでいた。

 

「俺はキミを心のない化物とは思えない」

「え……?」

「本当に心がないのなら、俺に目的を言うことはなかったはずだ。淡々と時を待って、ゼノヴィアたちを殺せばいい。それをせず、俺に伝えたのは心のどこかで自分を止めて欲しいと思っているからだ」

 

 初めて出会い、戦った時にエイミィーもわかったのだろう。

 今まで相対してきた相手の中で唯一アルヴェムが自分に届きうる存在なのだと。

 彼女の孤独はその生まれと持ってしまった絶大な力にある。

 だからこそ、いくら妹扱いして家族と同等に想ってくれているゼノヴィアにも心を開けない。根本が違うと諦めてしまっているのだから――

 

「だったら、誓おう。キミがゼノヴィアたちを殺そうとした時、俺が必ず立ちはだかる。今までは誰も止められなかったキミを止めてみせるよ」

「……だから、契約しろ――とは言わないんですか?」

「それとこれとは話が別だ。イングヴィルドもキミの力になりたいと言っていたからね。合理的じゃないのはわかっているが……俺もそうしたいと思った」

「そう、ですか……」

 

 一瞬、何かを言いかけて、エイミィーは口を閉じた。

 何て言おうとしたかは彼女にしかわからない。

 やがて、言葉を変えたエイミィーが言葉を紡ぐ。

 

「イングヴィルド様にも言われました……『あなたは優しい人』なのだと。今が嫌なら変われると――でも、それでは駄目なんです。私は……」

 

 そこまで言って、光が瞬いたかと思えばエイミィーの姿は消えていた。

 転移用魔法陣。いつの間にか彼女が用意していた魔法陣によってエイミィーは転移し、計測器でサーチしたところで対策されているために後を追えない。

 

「一旦、イッセーたちと合流するか……」

 

 結果はわかっていたが、落胆の色を隠せなかった。

 気を紛らわすように一誠たちの居場所を見つけたアルヴェムは踵を返して歩き始める――

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