ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第三十三話『戦争を求む堕天使』

「ふぅ……これで清掃も終わり! 今日は上がれるわねぇ~」

 

 深夜、ゴスロリ衣装に身を包んだ堕天使ミッテルトは身体を伸ばしてリラックスさせる。

 レイナーレがこの街、駒王町で行っていた計画が失敗してからというものの、協力者であったミッテルト、カラワーナ、ドーナシークはアルヴェムに身柄を拘束され、昼は学園の用務員とチラシ配り、夜は学園の清掃を行っていた。

 

「最初は何で人間なんかのためにって思ったけど、毎日繰り返していると愛着ってものが湧いてくるよね~」

「そうだな。身体に爆弾は付けられているものの、基本的には仕事さえしていれば自由だ。人間界で遊ぶ金もいただいている分、充実しているとも言えるな」

 

 合流していた黒髪の堕天使カラワーナも同意する。

 最近は掃除に意欲が湧いたのか、人間界にある掃除のコツを探しては知識として蓄えているらしい。現に雑な仕事をすれば生徒会にいるシトリー家の次期当主にかなり叱責されるので、この仕事をする上では必須の技術だろう。

 

「思えば、我々も随分と丸くなったものだ。かつての野心などどこへ消え去ったものか……」

「仕方ないでしょ。成り上がるためにレイナーレ様の計画に乗って、失敗しちゃったんだから」

 

 ドーナシークが遠い目をして言うも本当に仕方のないことだ。

 確かにレイナーレのことは慕っていた。もし、計画が成功していれば自分たちもその恩恵を受けて堕天使の中でもそこそこの地位を貰えたかもしれないが、失敗してしまった以上は『神を見張る者』に帰ることはできない。

 

 口ではそう言うもドーナシークもそこそこに今の生活を楽しんでいる。

 カラワーナは掃除に目覚めたが、ドーナシークは学園の花壇で色とりどりの花を育て、学生たちが部活動で作った畑の整備を手伝っていた。

 

 ミッテルトもチラシ配りの腕が上がった気がする。

 何せ外面が良いものだから男受けが良く、会話のテクニックによって確実にアルヴェムの契約件数を増やす手助けとなっていた。おかげで支給される金額も増えた。

 

「何やかんや私たち、今の生活を楽しんでるわね……」

「この後、酒でもどうだ? たまには飲みに行くのも悪くないだろう」

「ドーナシークの奢りなら行くぞ。どうせ何も予定はないのだからな」

「くっくっく……割り勘に決まっているだろう、アバズレ共が」

 

 なんて言いながら三人で飲みに行くのもいつものパターンだ。

 一日を酒で締めくくる。それで今日も終わり――のはずだった。

 

「――堕天使の気配がすると思ったら、お前ら何故こんなところにいる?」

 

 男性の声。

 あまりにも果てしない重圧を受け、振り向いた先にいたのは一人の男性だった。

 細緻な装飾が成された外套に身を包み、背には十枚もの黒い翼。赤い眼が三人を捉える。

 それだけで心臓を握り潰されそうなほど、一瞬呼吸を忘れ窒息しかけてしまう。

 

「こ……コカビエル様」

 

 ゆっくりと、その名を呼んだ。

 コカビエル、太古の戦から生き延びる聖書にも載っている真なる堕天使の一人。

 そんな大物が何故こんな場所に……その疑問の前にコカビエルの口が動いた。

 

「どうした、早く答えろ」

 

 静かな殺気が三人を襲う。

 二度はない、そう言わんばかりな問いかけに答えたのはドーナシークだった。

 跪き、頭を下げる。ミッテルトとカラワーナも、それに続いた。

 

「わ、我々はレイナーレ様の計画でこの地にいました……」

「レイナーレ……あぁ、確か下級の堕天使にそんなのがいたな。それで、そのレイナーレは?」

「リアス・グレモリーによって消滅させられました……」

「まあ、あのレベルだと当然か」

 

 最高幹部の堕天使であるコカビエルから見れば、下級の堕天使など全て屑に等しい。

 だからこそ、問いかけてはいるものの三人が眼中にある気配はなかった。

 

「コカビエル様こそ……ど、どうしてこのような場所に?」

「この学園は魔王の妹であるリアス・グレモリーの根城。すでに各教会から奪ったエクスカリバーは四本、それを使ってミカエルを誘き出したかったが寄越したのが雑魚ばかりでな。この学園を中心に町を破壊し続ければ、サーゼクス・ルシファーも出てくるだろう」

「そ、そんなことをすれば再び三大勢力による戦争が――」

「それの何が問題ある?」

 

 カラワーナの言葉を一蹴するコカビエル。

 改めて思い出した。コカビエルは生粋の戦闘主義者。三大勢力の戦争が終わったことに不満を隠さず、現トップのアザゼルやシェムハザとも度々衝突を起こしていた。

 そんなコカビエルが動いたということは、そういうこと以外にあり得ない。

 

「ここは戦場にちょうどいい。神器などというクソの役にも立たないものを集めているアザゼルやシェムハザも戦火が広がれば消極的などと黙ってはいないだろう。だから俺が火蓋を落とすのだ! はははは!!」

 

 高笑いをするコカビエル。

 対して三人は何も言えなかった。意見をすれば間違いなく殺される。

 いや、きっと意見をしなくとも悪魔に屈した自分たちに明日はないだろう。

 現にコカビエルは高笑いをやめると、冷徹な視線を三人へと向けた。

 

「お前らもやる気があるなら参加させてやろうと思ったが……お前たちの目は負け犬のものだ。そんな者は邪魔でしかない」

 

 負け犬……確かにそうだ。

 捕まって、一度は解剖されて調べられて、今では悪魔のために働いている。

 それで悪くないと思っていたあたり、コカビエルから見れば負け犬そのものだろう。

 

 だが、三人はほぼ同時に光の槍を出していた。

 戦闘になれば、せっかく自分たちが綺麗にしてきた校舎が破壊される。懸命に世話をしてきた花壇も、生徒たちが作った畑も、全て更地に変えられるだろう。

 

 どうせ死ぬならば、少しでも足掻いてやる。

 その意思で光の槍を創り出し、切っ先をコカビエルへと向けた――

 

「ほう、抗うだけの気力は残っていたか」

 

 愉快そうに笑って、コカビエルは手を天へ掲げた。

 そこに現れるは三人がどれだけ足しても足りないほどの極大な光の槍。

 恐怖から震えて歯が何度もかち合う。一瞬でも気を抜けば足から崩れ落ちて二度と立てなくなりそうだ。

 それでも、三人は折れそうな心を奮い立たせて立ち向かっていった。

 

 刹那、大量の黒い羽根が夜空を舞う――

 

 ―○●○―

 

「リアス、学園を結界で覆いました。しかし、これは被害を最小限に抑えるもの。コカビエルがその気になればこの学園はおろか地方都市は全て消滅するでしょう。すでにコカビエルはその準備に入っていると、眷属から連絡を受けています」

 

 深夜、駒王学園から少し離れた公園でリアス率いる木場を除いた眷属とソーナ及び眷属の一部、そしてアルヴェムについてきたイングヴィルドが集まっていた。

 皆が寝静まった夜に一誠の家へコカビエルが宣戦布告をしに来たらしい。その前にはフリードとバルパーとも接触して木場、ゼノヴィアとイリナはそれを追った。その結果、イリナは負傷して戦線離脱し、他は行方知れずだと言う。

 

 コカビエルの目的は再び三大勢力の戦争を引き起こすこと。

 現魔王であるサーゼクスの妹であるリアスの縄張りで、教会から奪ったエクスカリバーを使って破壊行動を行う……まさに悪魔、天使勢力への喧嘩を吹っ掛けようとしているのだ。

 

「攻撃を少しでも抑えるために私と眷属たちで結界を張り続けます。学園が傷つくのは耐えがたいものですが、堕天使の幹部が動いている以上、堪えなければなりませんね」

「ありがとう、ソーナ。なら、私たちはオフェンスね。学園に入って、コカビエルたちと直接戦うわ」

「……相手は桁違いの化物、挑めば確実に負けるわ。今からでもサーゼクス様に打診すべきでは?」

「あなただって、お姉様に言わなかったじゃない」

「――すでに私からサーゼクス様に打診させていただきましたわ」

 

 割り込んだのは朱乃だった。

 いつもの温和な雰囲気とは違う真剣な表情で、非難しようとするリアスの言葉を封殺する。

 

「リアス、あなたがサーゼクス様にご迷惑をかけたくないのは御家事情を考慮しているものでもあるとわかります。しかし、これはあなた個人の範疇を遙かに超えている……堕天使の幹部が出てきた以上、相応の対応が必要よ」

 

 それでも何か言いたげなリアスだが、やがて不満を押し殺すと朱乃もまたいつもの雰囲気に戻り、「ご理解ありがとうございます」と礼を言った。

 

「サーゼクス様の加勢が到着するのは一時間後とのことでしたわ。そして――アルヴェムくん、あなたにサーゼクス様から手紙が届いております」

「俺に……?」

 

 嫌な予感がするものの、朱乃から手紙を受け取ると封を切る。

 そこには一枚の手紙があり、目を通すと――

 

『キミの実力ならばコカビエルなど相手にならないだろう。妹と他の皆のことを守ってやってくれ。成功の暁には、相応の礼を約束しよう』

 

 どうやら現魔王に気に入られてしまったようだ。

 面倒ごとを押し付けられてしまったと言ってもいいが、アルヴェムもコカビエルの実力が知りたかったところだった。おまけが付いてくる程度の認識でいいだろう。

 

 このタイミングでの手紙に他の面々も内容が気になるようだが、アルヴェムは言質として手紙を懐にしまいつつ、

 

「応援メッセージだ。婚約破談の一件から仲良くなったんだよ」

「何だか怪しいけど……まあいいわ。これはフェニックスのレーティングゲームとは違って死線、必ず生きてまた学園に通うわよ!!」

 

 リアスの言葉に眷属全員が頷く。

 その後、作戦開始まで少し時間ができたため一誠が匙と話している中、アルヴェムは肩を叩かれる。

 振り向くとそこにいたのはソーナで、

 

「アルヴェムくん、あなたに従っていた堕天使たちですが……」

 

 手元の魔法陣からひとつの場面を見せられる。

 そこに映っていたのは――ミッテルト、カラワーナ、ドーナシークの三人の無惨な遺体だった。

 残っているのも身体の一部だが反応は間違いなく三人のもの。恐らく、学園の清掃に残っていたところをコカビエルに始末されたのだろう。

 最高幹部相手に勝てるはずもない。当然の話だ。

 

「アルヴェム……」

 

 傍で見ていたイングヴィルドが心配そうな声を上げる。

 確かに三人はアルヴェムにとって部下のようだった。しかし、それは悪魔で言う使い魔のような存在だ。チラシを配り、掃除を任せ、雑事をさせていただけに過ぎない。

 

 ただそれだけの関係。

 割り切っていたはずだが、この心に感じる小さな靄は何なのか。

 

「……少し、気合いが入ったな」

 

 ―○●○―

 

 リアスとグレモリー眷属は正面から堂々と学園に入っていった。

 入った瞬間からわかる、異様な雰囲気。その先、校庭の中央では宙に浮かんだ四本のエクスカリバーを中心に魔法陣が展開されている。

 

 魔法陣に立っている初老の男性――バルパー・ガリレイはリアスたちに気付くと口を開く。

 

「ようこそ諸君。もうすぐエクスカリバーの統合が成されるのだ。少し待っているといい」

「バルパー、あとどれくらいで完成する?」

「五分もいらんよ」

 

 さらに聞こえた男性の声。

 月の光を背に受け、空に浮かんでいるのは――コカビエルだった。

 浮かべた椅子に座り、余裕気な笑みを浮かべてエクスカリバーの統合を見ていた。

 

「五分か、余興をするには十分な時間だ。地獄から連れてきた俺のペットとでも遊んでもらうとするか」

 

 指をパチンと鳴らせば、地面に巨大な魔法陣が展開される。

 そこから現れたのは獰猛な獣だった。

 三つの首を持ち、闇夜に鈍く輝く鋭利な牙の数々。人間界では犬に似ているものの、その本質はまるで違う――地獄の番犬。それがケルベロス。

 

 大地を轟かすほどの咆哮を上げたケルベロスにリアスたちは戦闘態勢を取るも、それよりも前に出たのはアルヴェムだった。

 三つの巨大な顎が襲い来るも、その牙を掴むなり上弦の弧を描いて地面へと叩きつける。

 それだけでケルベロスは動かなくなった。

 生まれたクレーターの中心で白目を剥いて、ピクリとも動かない。

 

 すでに絶命している。

 普段ならばもう少し実力を見るところだったが、今日に限ってはそんな気分になれなかった。

 

 見上げた先、まだ余裕が崩れないコカビエルにアルヴェムは問いかける。

 

「堕天使の幹部コカビエル、一度だけ問うが……この学園にいた堕天使三人を殺したのはお前か?」

「ああ、そうだ。腑抜けたあいつらは余興にすらならなかったぞ」

 

 哄笑するコカビエルに反して、アルヴェムは胸に冷えるものを感じた。

 これが不愉快と思う感情……ここに来てひとつ学びを得てしまったようだ。

 アルヴェムは「そうか」と一度だけ頷いて、

 

「――お前は三発殴って殺す。それで今回の騒動は終わりだ」

 

 変形もせず、ただ拳を握り締めた――

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