ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第三十五話『アルヴェムVSエイミィー①』

 両親とはよく星を見に行った。

 人間界の中でも空気が綺麗で、澄み渡った夜空を見せる自然豊かな場所に。

 そこは両親と自分だけの秘密の場所で、誰も知らない秘境らしい。何でもその場所は父が身分を越えて母にプロポーズした思い出の地でもあるとこっそり教えてくれた。

 

 エイミィーは星を見るのが好きだった。

 いつも忙しい両親が唯一安らげる時で、色んな星座を教えてくれる。

 優しい笑みで、安らぐ声音で。エイミィーからの質問には何でも答えてくれた。

 今でも嫌なことがあっても、星を見ればその思い出が蘇って少しだけ心が軽くなる気がした。

 

 父は人間だが、母はそうではない。

 見上げても見ることが叶わないほど遠い空の中にある天界、その最上階にいる神に仕える天使……それが母だった。

 中でも一番地位のある天使――四大熾天使の一人であるガブリエル様に仕えていた上級天使らしい。綺麗な白い翼を八枚羽ばたかせ、見せてくれたことがある。

 

 一方で父は人間だ。

 それも神を信仰する教会で悪魔や堕天使、魔物や幽霊と戦う戦士だった。

 幼きながらにかっこいいとエイミィーも尊敬したものだ。人を怖がらせる化物たちを倒すヒーローなのだと父を尊敬して、よくその真似をしていた。

 

 そんな父に戦士としての力を祝福として与えたのが母だ。

 身分も違う。種族も違う。本来ならば触れることすら許されない相手。

 それでも二人は惹かれ合った。聞いたところ、父がぎこちないアプローチを一生懸命続けてくるので、いつしか母が根負けしたらしい。

 

 人と天使では寿命があまりにも違う。

 それでも二人は共に生きることを選んだ。その選択によって、エイミィーがこの世に生を受けた。

 

 天使と人間の子、それは奇跡の具現化とも言われているらしい。

 周りの大人は気味が悪いほどエイミィーに良くしてくれる。きっと、上級天使の子供ともあって何か見返りを求めるような優しさだったのかもしれない。

 

 それでもエイミィーは幸福を感じていた。

 優しい母、勇ましい父、それだけで彼女の世界は良かったのだ。

 人とは友達になれないけれど、両親が仕事で忙しくて帰って来られない日があったとしても寂しくはない。

 三人揃って、星空を眺められれば――それだけで。

 

 それに両親がいない間はたまにガブリエルが遊びに来ていた。

 金色の翼を背に生やし、天界一の美女、天界最強の女性天使とも称される四大熾天使の一人。

 ガブリエルは色々な場所に連れて行ってくれて、中でも天界に連れて行ってもらったのが一番の思い出だ。

 

「これは誰にも内緒ですよー。他の方が知ったら嫉妬しちゃいますからね~」

 

 自分を抱きかかえたまま、ガブリエルは悪戯っぽい笑みを浮かべ、天界にある壮大な自然を見せてくれた。

 高貴な存在のガブリエルでも、そんな表情をするのだと幼きながらに思ったのを覚えている。

 

「どうして、ガブリエル様は私によくしてくれるんですか?」

「それはですね。あなたの母が私にとって妹のような存在だから、彼女の子であるエイミィーは私にとっても娘も同然。ですから、ちょっと依怙贔屓してしまっているのですよ~」

 

 あ、これも内緒ですよー、なんて付け足して、ガブリエルは柔和な笑みを作った。

 それだけで自分は幸せ者なのだと、エイミィーは思う。

 

 両親と一緒に星を見て、たまにガブリエルと世界を巡って――ずっと、こんな日々が続くのだろう。

 大きくなれば自分も母やガブリエルのように天界を支える存在になりたい、そんなことも夢見て過ごしていた。

 

 しかし、六歳になった頃、エイミィーの世界は一変した。

 祈りを捧げている最中だった。いつも最後にエイミィーが祈りを捧げて、天使の翼を見せる。それだけで周りの人間は喜び、神とエイミィーに己への祝福を込めて祈るのだ。

 その日は両親も訪れていた。だから、役目をいつものように果たそうとした――しかし、周りの反応が違ったのだ。

 

 歓喜に満ちた声ではない。悲鳴にも似た、恐れる声の数々。

 翼の先を前にやり見てみると、そこにいつもの天使の翼はなかった。

 いや、あった。だが、それに混じって蝙蝠のような黒い翼が生えていたのだ。

 

「悪魔……」

 

 誰かがそう言った。

 悪魔、それは父がいつも倒してくれている悪い存在。

 どうして? そんな疑問も浮かばぬほど、エイミィーは混乱した。

 理解する間もなく、周囲の目が一斉に侮蔑を込めた視線へと変化するのを肌で感じる。

 信じていた者が悪魔混じりの異物――糾弾するには十分過ぎた。

 

 母はすぐにエイミィーを守ろうと抱き寄せたが、それでも信者たちの言葉は耳に届く。

 騙したな。醜い悪魔め。神聖な場所に何と汚らわしい。

 そんな罵詈雑言と共に、あれだけ優しくしてくれた皆が態度を豹変させた。それが何よりもつらいものだった。

 

 すぐに両親共々エイミィーは天使たちによって捕まり、天界にて審判を受けた。

 天使の調査により、父は知らなかったが父の家系は高等な悪魔と交わっていたことがあり、それが時を経てエイミィーの中でその魔力が覚醒したのだ。

 

 悪魔の血を引く者と交わった母。存在が人間ではなかった父。

 そして――その両者の交わりによって生まれたエイミィー。

 天界にとって、どの存在も許されない。追放よりも遥かに重い、粛清が言い渡された。

 

 だが、母と父は天界から離反してまでエイミィーを守ろうとした。

 審判の場からエイミィーを連れて逃げ出し、その途中で天界に保管されていた『神の失敗作』と称された神器を盗み出して下界に下りたのだ。

 

「エイミィー、あなたには人間の血が宿っているわ。きっとこの神器が守ってくれる。だから、あなただけは生き延びて……」

 

 いつも三人で来ていた秘密の場所でエイミィーは母と父に深く抱き締められた。

 まるでこれが今生の別れのように。最後の温もりであるかのように――エイミィーの身体に母の手から離れた神器が触れ、中へと溶け込んだ。

 

「本当にごめんな。俺が悪魔の血を引いていたばかりに……それを知らずに、生きていたばかりに……」

 

 父は何度も謝っていた。

 何を謝ることがあるのだろうか。父はただ純粋に母を愛しただけだ。

 天使と悪魔の対立、そんなことは当時のエイミィーにはわからない。だが、二人が抱いた愛を何故否定されなければならないのか。何故、殺されなければならないのか。わからなかった。

 

 だが、誰も助けてはくれない。

 逃げた先の秘境もすぐに天使、戦士の軍勢が押し寄せた。

 今思えば魔王アスモデウスの血を引く者がいたと知れば天使も躍起になるのは当然のこと。

 例え上級天使でも、歴戦の戦士でも多勢に無勢ではどうにもならない。

 

 自然豊かだった秘境は血に塗れた。

 綺麗に咲いていた花々も散り、後に残るのは変わった地形と無惨に横たわる両親だったもの。

 この世界で唯一エイミィーを愛してくれていた。それなのに――

 

「あ……あぁ……」

 

 声にもならない悲鳴がエイミィーの中で行き場のない怒りへと変化していく。

 内側を突き破ってでも飛び出そうとする激情が溢れ出た魔力と共に全てを吹き飛ばす。

 

「――――――――ッ!!!!!!」

 

 制御できない神器が彼女を守るために次々と武器を創り出し、暴れ出す。

 いや、それらはただの武器ではなかった。

 この時、すでにエイミィーが身に宿す神器は――

 

 ―○●○―

 

 両親が好きだった星は殺意を持って今もなお人間界に降り注いでいる。

 徐々に馴染んでいくアスモデウスの力が、さらに範囲を広げていくもアルヴェムが放った小型機は自ら分解、増殖を繰り返して隕石に対抗していた。

 

 本来ならば駒王町などとっくに更地になっている。

 それを防いでいるのがアルヴェムだ。小型機の防御だけではなく、今では建築物、道路、その全てがまた別種のポッドから発せられるバリアで防がれている。

 

 彼がいる以上、隕石は防がれ続けるだろう。

 何も壊させない。誰も壊させない。

 それらを本当に実現しようとしているのだ。

 

 思わず、エイミィーは奥歯を噛み締める。

 どれだけ絶大な力を有していようとも、そんなことは叶わない。自分がそうだったのだ。

 上級天使の光とアスモデウスの魔力と特性、そして神器を持ちながらも両親すら守れなかった。

 憤りが槍の柄を握る力を強くする。それを感情と共に力任せでアルヴェムへ連続して叩きつける。

 

「命、物、今まで私に『奪う』ことを強いてきたのは上層部です! 神の名を騙り己の私腹を肥やすだけの怪物たち! だったら、望み通り奪うだけです!! その薄汚い命を! 信仰心を!! 私から両親を奪った不条理な世界の全てをッ!!」

 

 身を焦がすほどの破壊衝動が溢れ、それが力へと直結していく。

 こんなものはただの八つ当たりだ。

 わかっている。頭ではわかっているが、一度制御を失った心は止まらない。

 世界を滅ぼしたところで、きっと――

 

「…………」

 

 アルヴェムは何も言わない。

 ただその目ははっきりとエイミィーを見据えていた。

 何かを狙っている。いや、冷静にエイミィーの力を分析しているのか。

 

 だったら――と、星の翼が七枚で一つの束になって重なり合う。

 絡み合って、折り畳まれ、形状を変化させれば翼は収束し、一条の剣と化した。

 ――『七星の邪聖剣(イヴィ・ル・グラン・シャリオ)』。

 横薙ぎに放たれた一閃は初速から光をも超える速度に達する。天使の力も加わったことで、アルヴェムが両腕で防御しようとした一瞬の隙間から、その上半身に星の翼が叩き込まれた。

 

 各所の建築物を守っている障壁にも衝撃が伝って震えるほどの威力。

 切断するほどの手応えを感じたが、アルヴェムの身体は両断されてはいない。

 それでも初めて戦った時にはなかった手応え。彼を守る防御の先に行ったことは間違いなかった。

 

 上半身で留まる星の翼を振り切って、アルヴェムの身体を弾き飛ばす。

 曲がった彼の身体は勢いを殺しきれず、背後にある高層マンションへと突っ込んでいった――

 

 

 ―○●○―

 

【うわうわうわっ! ちょ、ちょっとまずいんじゃない!? これ、内骨格まで到達しちゃってんじゃないの!?】

「うるさい。黙っていろ」

 

 吹き飛んだ先、高層マンションを守っていたバリアに衝突し、そのままの勢いで屋上のバリア上まで到達していた。

 アルヴェムは上体を起こすと、その上半身からは火花が散っている。言わずともわかる明確なダメージだ。

 

 ユールーの焦る声とは反比例してアルヴェムの思考は至って冷静なもの。

 魔王クラスに至ったエイミィーと戦ってダメージを受ける想定はしていた。ただその事象が起こったに過ぎない。

 

 先ほどの一撃、ただの力押しではなかった。

 サーゼクスの消滅さえ崩せなかった内骨格のバリアをすり抜けたのだ。

 中和、ではない。単純になかったもののように通り抜けた。

 

 独自の理を持った攻撃、あの星の翼に何かタネがある。それが判明しない限り、正面から受け続けるのは愚策だろう。

 だが、原理は不明だが受けた傷痕を見る限り、攻撃はバリアをすり抜けたこと以外物理的なものだ。正面から服、皮膚、そして内骨格の順番で削れているために特殊な現象は起きていない。

 

 だったら、必要なものは物理的な攻撃に対する装甲。

 次いで飛んでくる光の槍を後転しながら躱しつつ、制服の上着を脱ぎ捨ててエイミィーから一瞬自らの身を隠した。

 

「白兵戦闘形態――」

Assault Mode(アサルト モード)

 

 現状の容姿を全て消し去り、その身は内側から生成された装甲に覆われる。

 黒を基調としたボディの各所に赤いラインが走った体躯。バイザー型の目元からは紅き眼光が輝く。

 その変化にエイミィーも驚いた反応を見せるが、すぐさま肉薄し、その星の翼を再び束ねる。

 

 叩きつけられた一撃、だが今回は先ほどのようにアルヴェムの身体が吹き飛ばされることはなかった。

 受けた箇所から星の翼は進んでいない。

 一方で、破砕音は鳴り続けている。見ると、アルヴェムの装甲は削れるも削れた傍から内側から新たな装甲がひとつ前に進み、内側では一瞬で新たな装甲を生成、壊されればまた内側から装甲が進む。それを延々と繰り返して相手の勢いを殺していた。

 

 サーゼクスとの戦闘でも、この装甲の効果は遺憾なく発揮された。

 いくら削られようとも生成され続けるバリア付きの装甲で、アルヴェムはサーゼクスへ白兵戦を強いて十五秒間戦闘を有利にしたのだ。

 結果的に決着はつかなかったが、それでも強者に対して効果は得られる。

 

 白兵戦闘形態は近距離だろうが遠距離だろうが、その圧倒的な防御力と戦闘継続能力で押し切るための形態。どのような相手でも内側に入り込み、近距離戦を強いるものだ。

 

 現に星の翼による一撃を弾き、エイミィーとの距離は縮まった。

 あの大技は星の翼を束ねる、そして翼の稼働範囲から考えて中遠距離タイプの技。完全な近距離戦に持ち込めば使えない。

 

 徒手空拳による制圧を狙う。しかし、エイミィーはサーゼクスとは違った強さを持っている。

 アルヴェムの拳を捌きながら挙動なしで放たれる光の槍。幾条もの光の槍が多方面から装甲へと突き刺さった。

 

 サーゼクスは消滅の魔力を極限まで鍛え上げ、様々な戦闘に対応できるようにしたテクニックタイプ。

 一方でエイミィーは己に使える全ての能力によって、どんな相手にも対応できるようにした……テクニックタイプの中でもアルヴェムと同じバランスに寄ったものだ。

 しかも、バランスと言っても火力が控えめなことはない。全てが高水準だ。

 

 だが、押し切れないことはない。

 光の槍がどれほどの出力であっても、今のアルヴェムを貫くことはない。せいぜい勢いを落とす程度で、エイミィーが距離を取れるほどの隙はなかった。

 

 柄を短くし、剣と変えた光でエイミィーはアルヴェムの拳に対抗する。

 やはり戦闘に慣れていることがあって、対応が早い。当たれば一発で気絶するような威力でも臆さずに軌道を逸らしてくる。

 

 拮抗状態に入るか――そう思った瞬間。

 エイミィーの瞳にある星々が再び輝きを見せたのだ。

 すでに隕石は降り続いている。他に何があるというのか――

 

Boost(ブースト)!』

 

 今、この場において聞こえるはずのない音声によって、判断が一瞬遅れる。

 刹那、アルヴェムの眼前に魔法陣が現れた。

 そこから飛び出した火球を纏う隕石が眼前に迫り、大きく爆ぜた――

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