ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第三十六話『アルヴェムVSエイミィー②』

 空から降り注ぐ隕石の威力が全て変化を遂げた。

 体感の威力にしてちょうど二倍、そしてその原因はすでに判明している。

 

 黒煙を裂いて、飛び出したアルヴェムは身体から煙を上げながらも背部の推進器を噴かす。

 無論、向かう先にいるのはエイミィー。

 エイミィーの左腕には変化が起こっていた。表面は赤く、甲に宝玉が埋め込まれた籠手……見間違えるはずもない。それは『赤龍帝の籠手』だ。

 

 神器……その中でも『神滅具』は特別なもの。

 世界に一つしかないはずだが、一誠が死んでそれが偶然にもエイミィーに宿ったのか。否、計測器は一誠の存命を捉えている。その可能性はない。

 だったら、どうやって『赤龍帝の籠手』を所持しているのか。計測したところで、その性能は本物。偽物でもないようだ。

 思考は巡り、一つの結論に達する。

 

 神器を――創造した。

 彼女の神器は武器を創造するもの、もし『禁手』に至っているのであれば可能性はゼロではない。

 

 その答え合わせはすぐに行われる。

 再度鳴る『Boost!』という音声と共にエイミィーが身に纏う力の質量が跳ね上がった。さらにそれだけではない。手に持っていた光の槍を消すと、新たな槍を形成する。

 

 細緻な装飾で飾られた絶大な光量を持つ槍。

 間違いない、あれも『神滅具』だ。

 聞いたことのある名の中で考えられるとすれば――『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』。

『赤龍帝の籠手』と『黄昏の聖槍』二つの『神滅具』が一人の使い手の元にある。

 

 アルヴェムは、よく教会側はこんな規格外の少女を今まで御しきれていたと素直に感心した。

 上級天使の光、アスモデウスの力、そして『神滅具』まで創造する神器。

 超越者、まさにその言葉が相応しいだろう。

 

 一誠の場合、本体の性能が低いからこそ倍加しても超常する存在に到達するには相応の時間がかかる、または莫大な力に本体が耐えられないが、エイミィーは違う。

 忌むほど恵まれた本体の性能は神すらも凌ぐもの。倍加され続ければ、いつしかアルヴェムをも超える存在となるかもしれない。

 

 アルヴェムもまた理から超越した存在であれど、敗北がないわけではない。生きていれば、いつかアルヴェムを上回る敵が現れる可能性だって十分にある。

 

 だが――今日ではない。

 

 白兵戦闘形態では決め手に欠けるようだった。だったら、手段を変えるだけだ。

 隕石の威力に合わせて街中に張り巡らせているバリアの出力をさらに上げる――自らの一撃で壊してしまわないように。

 

「本当にキミは強い。だから、俺ももう少し力を見せよう――爆撃戦闘形態」

Air Raid Mode(エアレイド モード)

 

 本気で撃てば地球どころか次元そのものすら容易く消し去ってしまう。

 流石に今回はそこまではしないが、それに近しいものを見せるのにエイミィーの実力は十分だった。

 だからこそ、アルヴェムは自らの肉体をさらに変形させていく――

 

 ―○●○―

 

 さらに形態が変わった――エイミィーは率直な感想を抱いた。

 先ほどまでは二メートルほどで、人の体躯に収まっていたが今は違う。全長にして二十メートルほどの飛行物体へと変形した。

 

 宙に浮かぶ小型戦艦、そう称すればいいのか。

 全体は前回同様に黒い装甲を纏い、各種機部には砲撃のためと思われる発射口、そして全身を稼働させるための巨大な推進器が背部に二つ、小型のものが各所に数多く見える。

 アルヴェムは下半身を結合させる形で船首から上半身を露にしていた。つまり、男性相手にこの表現は違うかもしれないが、腰下からドレスのスカート部分のように小型戦艦が展開されている。

 

 武装は他にもあった。

 戦艦の周囲には障壁を発生させている分厚い盾が十枚ほど。さらには一撃でこの町をも両断しそうなほどの出力で刃を形成している大剣が戦艦から伸びるアームで構えられている。

 アルヴェムの両手には上半身をも超える長大な砲身が二丁構えられており、その巨躯から放たれる重圧がさらに上がった。

 

 先ほどまでの形態が近接特化の対人想定のものならば、これは対軍用の殲滅特化形態。

 本気、なのだろうか。未だにその力の底は見えない。

 だが、相対するエイミィーとしてはすることに変わりなかった。

 倒す……それだけだ。

 

 現在、エイミィーの武装は左手に装着された『赤龍帝の籠手』、そして右手に構えられた『黄昏の聖槍』だ。どちらもエイミィーによって創造されたもの。

 

 ――『神聖宿りし無垢なる神器(ピュアーモリメイト・ビーニング・ギア)』。

『無尽の武器製造庫』の『禁手』であり、神器を創造することができる神器……その能力こそが『神の失敗作』と称されるようになった最大の要因だ。

 例え『神滅具』だろうとも、いくらでも創り出すことができる故、存在するだけで容易く勢力図を塗り替えられる禁忌の神器。だからこそ、神の手によって天界に封印されていた。

 

 しかし、神器を創造できると言ってもいくつかの制約がある。

 創造と言っても、禁手前の『無尽の武器製造庫』と違って、すでに世界に存在する神器しか創ることができない。また創造に対し、綿密なイメージが必要なためにエイミィーが知っている、または見たことがある神器しか創ることができない。実際、遭遇したことのある『神滅具』は二種しか創れなかった。

 さらに『黄昏の聖槍』や『赤龍帝の籠手』のように何かしらの生物を封印、意志を宿すことで創られている神器は、その魂を再現できないために代替物がない限り『禁手化』もできず、全体的に見れば『禁手』がないことで出力はやや劣る。

 

『黄昏の聖槍』を持つ者――自らを英雄の魂を継ぐ者と名乗った青年とは戦ったことがあった。

 決着こそつかなかったが、この槍の威力は身をもって知っている。信仰心のある者はその穂先を見るだけで心を奪われ、最悪の場合は廃人と化す。信仰心の薄いエイミィーだったからこそ、まともに戦えたとも言える。

 

 だが、『禁手化』できずともエイミィーには手数がある。

龍の手(トゥワイス・クリティカル)』を四つ創造し、自らの腕を六本とすることで力を一気に倍加させ、その手全てに『赤龍帝の籠手』及び『黄昏の聖槍』を装備。一本で神すらをも屠る槍、そして力、その全てを集約させる。

 

 不意に建築物の窓辺に映る自分の姿が見えた。

 星の翼、六つの腕、その人外な姿に思わず自嘲してしまう。

 そうだ。これでいい。自分という化物にはこんな姿がお似合いなのだから。

 これから世界を滅ぼす存在にしては上等なもの、そう思い、その場から飛び出す。

 

 アルヴェムの装甲は確かに分厚くなっただろうが、その分、機動力は落ちているはず。

 決める。母から授けられたこの力を以って――

 

「ッ!!」

 

 小型戦艦の砲口が輝いたかと思えば、手に持っていた全ての聖槍と『龍の手』、その手に装着されていた『赤龍帝の籠手』が弾け飛んだ。時を同じくして、倍加されていた力も元に戻ってしまう。

 

 何をされたのか――全くわからない。

 耐久性は現存している本物と何ら変わらないもの。それを一瞬で壊された。

 再度創造したところで結果は同じ。破壊される光景が続くだけだ。

 

 砲撃を受けている、恐らくそうなのだろう。

 ただ、その一発一発が全く見えない。それに聖槍を容易く砕くほどの一撃にも関わらず、その余波をエイミィーは受けていなかった。

 

 タネがある、そう思ったのと同時に手加減をされている――エイミィーは確信した。

 傷つけないように、最大限の配慮をもってアルヴェムは戦っている。

 屈辱的、とは思えなかった。

 天使の力、魔王の力、神滅具の力、それを足したところで届かない存在がいる。

 もし一発でもエイミィーに放たれていれば、すでにこの命も無くなっていただろう。

 対策を考える間もなく、戦いは終わっていた。

 

 だが、すでにエイミィーには退路がない。

 アルヴェムが自らを助けてくれたとしても、その後に待つのは粛清と死だけだ。

 だったら、両親の無念を何が何でも晴らす――自らの力は全てそのために持ち得たもの。この日のために生きてきたのだ。だから、その信念を曲げるわけにはいかない。

 

 アルヴェムに殺意はない。だったら、何度でも繰り返す。

 どれほど壊されようとも神器は己の想いでその能力を向上させる。

 自らに宿った憤りを、憎しみを、全て吸い上げて神器は強化されていく。

 

 それでも結果は変わらない。

 多方面から光の槍、隕石をぶつけようともアルヴェムは怯みもしない。

 ただ淡々とこちらの動きを先行して潰してくる。

 勝負はすでについている――そんな言葉が頭を過ぎるが、

 

「う、ぁ……あぁあああああ――ッ!!!!」

 

 認められない。

 それを認めてしまえば終わってしまう。

 心の拠り所が無くなってしまう。

 生きる意味、生き残った意味がなくなってしまう。

 

 轟く叫びに呼応して、瞳に宿る星が極大の光を放つ。

 刹那、エイミィーとアルヴェム、両者を繋ぐようにして巨大な魔法陣が展開されていった。

 

 下方から上空に向かって撃ち出されたのは、そのまま大気圏に突入していれば地上の大半を滅ぼしていたほど巨大な隕石。それを自らの身ごとアルヴェムへとぶつけた。

 伝う痛み、衝撃、空気の抵抗によってへばりつくように隕石へ身体を押し当てられながらも、二人は上空へと舞い上がる。

 

 アルヴェムも小型戦艦ごと空気抵抗、重力に押され続け、その場にへばりついていた。

 それでいい。これで厄介な砲撃も封じられるはずだ。

 だが、きっとアルヴェムならばこの状況でも反撃しようと思えば何事もなかったようにしてくるのだろう。

 

 そんなことを思いながら星の翼を隕石の表面に突き刺して、エイミィーは起き上がった。

 勝負の決め所だと判断したからだ。最後の聖槍を創造し、その穂先をアルヴェムへ向ける。

 

「最後の立ち合いです――初めてお会いした時の続きをしましょう。決着をつける時です」

 

 自分は悪い者だ、エイミィーは心の内で思う。

 何故ならば、そう言えばアルヴェムは必ず――

 

「ああ、そうだな」

 

 エイミィーとの真っ向勝負で戦うことをわかっていたのだから。

 現にアルヴェムは小型戦艦の兵装を捨て、元の姿に戻って重力に抗いながら立ち上がった。

 

 光も、隕石も、神をも殺す槍でさえ、アルヴェムへの決定打とはなり得ない。

 ならば、全てを限界まで研ぎ澄ませて一点突破する。

 初めて戦った時、彼の障壁を打ち破ろうとした手段と全く同じだ。新たな力を得て、回り道をしてしまったが結局は原点へと戻ってきた。

 

「ある意味、初心に戻ったのかもしれませんね……」

「……?」

 

 不意に言葉が口端から零れた。

 対し、アルヴェムも怪訝の意を示すも構わない。当然だ。

 だから、エイミィーは勝手に言葉を続けた。

 

「どれだけ殺しても、どれだけ奪われようとも、心はいつだってどこかに感情を残している。死のうと思えばいつでもできたというのに、私にはできませんでした。ずっと怒りが、憎しみが……今も心を蝕んで止まりません。だから、意地汚くとも今まで生きてきたんです。そして、復讐のために殉ずる……それが私なんです。そうでなければ、いけないんです」

 

 そう、それはもう変えられない。

 もっと早くに出会っていれば、きっとアルヴェムの言った契約に希望を見出せたかもしれない。イングヴィルドの言葉に頷いて、彼女と本当に友達になれたかもしれない。

 だが、どれも遅すぎた。受け入れるにはエイミィーの心はすでに戻れないところまで来ていた。

 

「――どうか、私を殺してください。あなた様に殺されるなら私も本望です」

 

 紛れもない本音だった。

 ずっと『災厄の子』として化物扱いされ、生きてきた自分を化物であると知りながら受け入れてくれたのはアルヴェムとイングヴィルドしかいない。

 だったら、その二人のうちどちらかに殺されるのならば本望だ。例え、両親の仇が討てずとも勝てない相手がいたのだからと諦めもつく。

 

 それでもアルヴェムは首を横に振るった。

 一度目を伏せ、もう一度開いた時、その瞳はエイミィーを正面から捉えていた。

 

「キミは一歩目の踏み出しを間違えたんだ。その間違いに気付かない限り、ずっと感情は死に向かって行く。だから、俺はキミに何も壊させないし殺させないと言った――それはキミ自身も含めてだ」

 

 言って、身構えてアルヴェムはその場から駆け出した。

 最後の攻防が今、火蓋を落とす――

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