ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第三十七話『アルヴェムVSエイミィー③』

「だったら、最後に答えてください!」

 

 隕石の嵐と光の雨が降り注ぐ中、エイミィーから声を上がる。

 今は大地となっている隕石の上を駆けながら躱すアルヴェムは目だけをエイミィーへと向けた。

 

「人が生きるために必要な光明、その全てを奪われ、亡き神への信仰を絶やさないために私の人生は捧げられてきました!!」

 

 十四枚もの星の翼が光輝けば、それぞれ先端が一条の槍の如く鋭くなり、追撃する。

 手に持つ聖槍に必殺の一撃が込められるまで徹底的に近付けさせない気だ。

 

「今、この時も第二、第三の化物(わたし)のような存在が欲に塗れた者たちに利用され、闇の中に葬られています!! 暴力では何も変えられないと言う者もいるでしょう! しかし、自浄作用のない今の教会は上層部を殺さねば、その教えが根付いたこの世界を壊さねば変えられません!! それ故に私には復讐と虐殺という道しかないんです!!」

 

 猛攻撃にアルヴェムの身体が飲み込まれる。

 何度も何度も、執拗に攻撃を受けるもアルヴェムはそれでもエイミィーを見据えていた。

 

「私を止めると言うのなら、神亡き今、闇の中でしか生きることを許されない化物(わたし)にどのような光明を与えるつもりですか!?」

 

 それはエイミィーがずっと考えてきたことなのだろう。

 他の道を許されない、そう自分に言い聞かせてきたが本当にそうなのだろうか。思い浮かばないだけで何か良い道が他にあったのかもしれないのではないか。

 両親を殺されてもすぐに復讐へ走らなかったのは、その答えを見つけるか、誰かが提示してくれるのを心のどこかで期待していたからこそのはずだ。

 

 そんな積年の問いかけに、アルヴェムは迷わず答える――

 

「――俺がキミの神になる。だから、信じてついてこい」

 

 アルヴェムはエイミィーを必要としている。

 だからこそ、彼女が神からの光を望んでいるならば、自分がそのものになるしかない。

 待ち受ける如何なる苦難をも跳ね除け、エイミィーが真に幸福を感じられるようにあらゆる光を用意する。

 それが彼女に契約を持ちかけたアルヴェム自身が負うべき責任だ。

 

「躊躇いなく答えるんですね……もしかしたら、あなたと出会った時から私は――」

 

 迷いのない言葉を受けたエイミィーは言葉を途中で区切った。

 代わりに正面から夥しいほどの光の槍を放つ。その一つ一つが聖槍を内蔵しており、全てが実態を持った絶大な威力を持つ必殺の一撃と化していた。

 

 その一本一本を、手、腕、上体を使って捌いていく。

 皮膚が削げようとも構わない。硬度を上げた骨で直接受け、流してアルヴェムの歩みは確実に進む。

 

 最後の一撃。

 エイミィーが自身で手にしていた聖槍の突きが真正面から放たれる。

 間違いなく全力を込めたもの。積年の想いに対し、アルヴェムは避けることも受け流すこともしなかった。

 

「っ!」

 

 何の防御もなく、聖槍を上体で受けた。

 その行動にエイミィーも驚くも、手にさらなる力を込める。

 普通の悪魔ならば見ただけで消滅するほどの光量を受けてなお、アルヴェムはその場に留まり続けた。

 

「――キミの間違い、それは両親の死を受け入れられなかったことだ。理不尽に殺されたのはわかる。だが、死者は寄り添ってはくれない。どれだけ大義を並べて他者から尊厳を奪ったところで、キミの心は一生救われないんだ」

「だったら、どうすれば……私はどうすれば良かったんですか……?」

「まずは目一杯泣いて、それから逃げれば良かった。逃げて、逃げて……その先で、俺がキミを見つけた。それは必ずだ」

 

 聖槍の穂先が音を立てて崩れ去る。

 アルヴェムも無傷とはいかなかったが、構わず両腕を広げ――エイミィーを抱きしめた。

 

「もう止まれ。これ以上、傷つく必要はないんだ。こんな戦いはやめにしよう」

 

 エイミィーの実力を知りたかった。それは事実だ。

 しかし、こんな形ではない。抱きしめる力を少しだけ強くする。

 徐々に空から魔法陣や足場となっていた巨大隕石が消えていく。その光景はエイミィーから戦意がなくなるのを如実に表していた。

 

 足場がなくなったため彼女を抱きかかえたまま、アルヴェムはゆっくりと降下していく。

 その途中、エイミィーから弱々しい声が聞こえてくる。

 

「傷ついたのはあなた様だけではありませんか……私は、あなた様にどれだけ酷い八つ当たりをしたか……」

「気にしないでいい、すぐに直るから。でも、心の傷は外傷のようにすぐ治るものじゃない。キミが受け続けた痛みに比べたら何てことないよ」

 

 その言葉を最後にすすり泣く声と嗚咽が聞こえてきた。

 エイミィーもアルヴェムの背中へと腕を回し、その顔を胸へと預ける。

 ようやく、彼女がずっと押し殺し続けていた涙が解放されていく。

 

 これにてエイミィーとの戦いは終わった。

 後は学園に残っているエクスカリバーとコカビエルを残すのみ――

 

 ―○●○―

 

「ほう、あの者……アスモデウスの後継者を倒したのか」

 

 コカビエルが天を見上げれば、夜空に不自然なほど神々しく輝いていた星々が消えて、今まで隕石が降り注いでいた魔法陣も全て消失していた。

 アルヴェムがエイミィーを止めてくれたのだ。イングヴィルドは心の中で安堵する。

 

 しかし、学園に残されたメンバーの状況は芳しくないものだった。

 アルヴェムがエイミィーと共に学園を飛び出してから、四本が一つに統合されたエクスカリバーをフリードが使用し、木場とゼノヴィアが戦い、制した。

 

 木場はバルパーの研究成果でもある聖剣に適応するための因子――かつて共に『聖剣計画』の実験体とされていた同胞の魂が込められた結晶を手にしたことで救われる。

 同胞たちは木場に復讐を望んでいなかった。生き残った木場が幸福に生きられることを望んでいたのだ。

 

 そして――木場は『禁手』へと至った。

 神の不在によって実現した聖と魔が融合した聖魔剣――『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。

 その力と神を失っても戦うことを決意したゼノヴィアが隠し持っていたエクスカリバーにも並ぶ伝説の剣――デュランダルを解放したことによって、フリードが持つ四本ものエクスカリバーは核を残して砕かれた。

 

 バルパーはエクスカリバーを四本統合した際の光で用意されてた破壊の術式の起動を確認した後、コカビエルの手によって処分され、今ではフリード共々地に伏している。

 

 後はコカビエルだけだが、聖書に名を残す存在は伊達ではなかった。

 聖魔剣を持つ木場も、デュランダルを持つゼノヴィアでも全く相手にならず遊ばれるだけ。

 猶予を与えられ、コカビエルを倒せば褒美にリアスの乳首を吸えると言われた一誠は今までのない張り切りを見せて倍加を行い、リアスへ力を譲渡して反撃に出たがそれすらも防がれてしまった。

 

 手立てもなく、すでにリアスもグレモリー眷属も満身創痍だ。

 アルヴェムからイングヴィルドは自分の身だけを守れと言われている。リアスたちもそれを知っていて、彼女に助力を求めることはなかった。

 

 傷つけばアルヴェムとの契約は終わってしまう。だから、戦うなと暗に言われたのだ。

 しかし、リアスたちは普段イングヴィルドに優しくしてくれる。

『女王』の駒を得た今ならアルヴェムがこちらに戻ってくるまでの時間は稼げるだろう。

 

「ん? 何だ、今度は貴様が戦うつもりか?」

「おやめなさい、イングヴィルド! あなたは――」

 

 リアスが言い切る前にコカビエルが光の槍を横に薙ぐ。

 その衝撃波によってリアスたちは吹き飛ばされ、地面へと転がった。

 すでに立ち上がる余力も残っていない。現にすぐ立ち上がれる者は誰もいなかった。

 

「先ほどのガキ……アルヴェムと言ったか。その情婦だと思っていたが、その魔力の質……もしや、前レヴィアタンの血筋の者か? くっくっく、今夜は良い。新たな戦争を引き起こす火種がこんなにも集まるとは因果なものだ」

「これ以上、皆を傷つけさせないわ……っ!」

 

 イングヴィルドは手を前に翳して魔法陣が起動すれば、そこから数メートル以上の全長を持った水の龍が飛び出す。

 何体もの水の龍がコカビエルを襲い、対するコカビエルは力を倍加させたリアスの一撃と同様に自らの両手を前に突き出した。

 

「っ! この威力は――」

 

 言って、コカビエルはリアスの時とは違って光の槍を出すと、受けていた水の龍を槍の一撃で弾き飛ばす。

 だが、その表情は不愉快そうなものでコカビエルは一度片手に目をやった。

 その手は血が滲んでおり、明らかな外傷を作っている。戦いが始まって初めてまともなダメージを与えたと言ってもいい。

 

「『掉尾の海蛇龍』ではないが、そのオーラ……すでに魔王クラスか。あのアスモデウスと同じく放置するのは危険だな。ならば――」

 

 コカビエルの判断、そして動きは速かった。

 極大まで高められた光の槍を振りかぶると、それをイングヴィルドへと投擲する。

 反応すらできなかった。気付いた時には光の槍が眼前に迫っていた。

 

 ――避けられない。

 イングヴィルドはすぐに察した、己の死を。

 今からでは誰も間に合わない。それでも恐怖より思うところがあった。

 

 アルヴェムは自分が死んだら怒ってくれるだろうか――と。

 

 ただの乙女心だ。

 好意を持った異性に心配してもらいたい。大事に想ってもらいたい。

 何かあった時、本気で怒って欲しい。自分のことを好きでいて欲しい。

 そんな恋する女子が当たり前のように抱くような小さな願いだ。

 

 死を覚悟した――だが、その光の槍はいつまでもイングヴィルドには到達しなかった。

 

 閉じてしまっていた瞼を開けると、イングヴィルドの眼前にあるのは誰かの手。

 その手の持ち主はすぐにでもわかった。

 

「アルヴェム……っ!」

 

 イングヴィルドを庇うように立っていたのは、アルヴェムだ。

 制服はすでにボロボロで、上半身はほぼ裸になってしまっているがその身体に負傷箇所は見られない。次いでエイミィーも近くへ着地して、二人とも無事だった。

 

「ふっ……殺さず連れ帰ってきたか。そんな者、生きていたところで――」

「黙れよ」

 

 コカビエルの言葉を遮って、アルヴェムは言った。

 その声音は今まで聞いたこともないほど低く、怒気を含んだもの。

 声を掛けようとしたイングヴィルドでさえ止まるほど恐怖を感じさせるものだった。

 

 ふと見えたアルヴェムの横顔はいつもと違う。

 無表情に近い表情なのは相変わらずだ。しかし、纏う雰囲気はいつも温厚な彼から考えられないほどの冷たさを有している。

 

「自分の欲に従い行動するのは生物としての性質(さが)だ。それを咎めようとは思わない。だが、人間界の言葉に『逆鱗に触れる』という言葉がある。ドラゴンにある逆さの鱗に触れてならない。怒りを買うから……ヒトには同様に触れてはいけない部分がある、そんな言葉だ」

 

 嫌に冷静な口調で、アルヴェムは一歩、また一歩と歩みを進める。

 握る拳は皮膚が裂け、肉に隙間から金属性の骨格が垣間見えるほど強く握り締められていた。

 

「イングヴィルドに……俺の逆鱗に触れたな」

「だから何だと言うのだ! 本気で俺に勝てるとでも言うつもりか!!」

 

 コカビエルが哄笑し、再び右手を構えて光の槍を創り出す。

 それは先ほどとは別種、別次元の威力。今までがほんの児戯だと言わんばかりに濃密な光が巨大な槍と化していた。

 

 それが放たれれば学園ごと消し飛ばされる――そう思った刹那、光の槍は容易く弾かれた。

 学園を覆う結界を貫き、夜空の雲を裂いて天へと消える。

 

 直後、呆気に取られるコカビエルの顔面に拳が突き刺さった。

 肉を、歯を、骨を砕きながら深々と抉り込んでいく拳。アルヴェムが一歩踏み出したことで、さらに力が込められ、振り切った瞬間からコカビエルの身体は縦に大きく回転する。

 

 自動車に取り付けられたタイヤのように高速回転したコカビエルは、そのまま校舎へ激突。それだけに終わらず、校舎の壁を回転して突き上がっていった。

 

 勢いはそれだけでは止まらない。舞い上がったコカビエルの回転が何故か逆転したのだ。

 今度は上がっていた経路を再び戻ってくる形で壁を抉り、地面をさらに抉り、上半身が土に埋まりながら前進してアルヴェムの靴裏を受けてようやく制止した。

 

 根野菜を抜く形でコカビエルの足首を掴んで土から抜き出すと、乱雑に放る。

 一方、コカビエルは困惑の色とダメージを全く隠せない。顔面は土埃に塗れながら血を噴き出しており、たった一発で全身が震えて呼吸も困難に陥っていた。

 

「確か、三発殴って殺すと言ったな。あれはお前に殺された堕天使三人分だったが……やめだ」

 

 冷静な口調だが、アルヴェムの怒りは留まることを知らなかった。

 跪くコカビエルを見下ろし、再びその拳を深く握り締める。

 

「――回数制限はない。お前が死ぬまで一発ずつ殴り続ける。それがイングヴィルド(俺の逆鱗)に触れたお前の末路だ」

 

 あれだけコカビエルを止められなかった状況が一変する。

 先ほど感じた恐怖はもうない。自分のために初めて怒りを見せるアルヴェムの姿に、イングヴィルドは嬉しさを感じてしまっていた――

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