ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第三十九話『エイミィーとの契約』

「全員分は……残っているな」

 

 校舎の修繕前、アルヴェムは戦闘が起こっていた地域から離れた体育館の裏まで来ていた。

 そこにあるのはミッテルト、カラワーナ、ドーナシークだったもの。無惨に転がっている人体の部位だ。

 

 どれも顔や上半身は吹き飛ばされているが、一人ずつ何かしらは残っている。

 腕、手の一部、脚、それだけ見るとアルヴェムは右手から三つほどカプセル捕獲機を作り出す。

 

Capsule Capture(カプセル キャプチャー)

 

 いつもよりも小型、中身は液体に満ちた小型カプセル捕獲機がその部位をそれぞれのネームプレートに分けて取り込んでいく。

 それを見ていたエイミィーは怪訝そうにその様子で問いかけてくる。

 

「埋葬する……とは違いますね。どうするつもりなんですか?」

「悪魔の駒は死者だろうと蘇らせて悪魔にする。バラバラになって、時間が経っても有効かは知らないが、俺がもし上級悪魔になって駒を得た時、こいつらを蘇らせるのも悪くないと思ってな。試しに使うために置いておく」

「この人たち、元は悪い堕天使だったけど……頑張ってくれてたものね」

 

 イングヴィルドも彼らが仕事に励んでいたのを知っていた。

 無論、毎日報告を受けているアルヴェムもその仕事ぶりは知っている。用務員として生徒との関わりも上手くやっていたようで、おかげで契約も楽に取れていた。

 堕天使に一度殺されている一誠やアーシアは良い顔をしないだろうが、アルヴェムにとっては必要な存在とも言える。

 本人たちが望んでいるかは知らないが機会が訪れれば復活させようと思うくらいには評価していた。

 

「『女王』の駒を得た今、上級悪魔の立場に興味はなかったが……目的がない以上は上級悪魔を目指すのもいいな」

 

 できるかどうかはわからないが、言って踵を返すと、改めて校舎修繕のために歩き出す。

 その途中、アルヴェムは左手に持ったままの青い宝玉を一度見ると懐へしまい、エイミィーへと顔を向ける。

 

「さっき、白龍皇から神器について能力を開示させたが……それを再現することは可能なのか?」

「はい。能力と形状さえわかれば神器を創造することはできます。ただ『白龍皇の翼』は白い龍の魂が宿っているものなので『禁手』は代替物がない限りは不可能ですね」

 

 言って、エイミィーの背に新たな翼が生えた。

 それは天使のものでも悪魔のものでもない。先刻、白龍皇が見せていた『白龍皇の翼』だ。

 再現不可能な『禁手』もあるが、全く同じ能力を持った神器を創り出せる時点であまりにも規格外。神が失敗作と称するのも当然だろう。

 

 エイミィーがその気になれば『禁手』なしだが雑兵であれ『赤龍帝の籠手』も『白龍皇の翼』も装備し放題で、さらには武器として『黄昏の聖槍』を携えられる。

 そんなもので戦争を仕掛ければ天界は圧勝していただろうが、神はあまりにも手軽に神器を創り出せることに畏怖したのか。それはわからない。

 だが現教会側がエイミィーを殺さなかったのは暴走せずに宿せる器を持ち、尚且つ監視下に置ける状況にあったのも要因の一つなのだろう。下手に殺せば神器は世界を巡り、見つけるのも困難になる。

 

「さっきも見たけど……綺麗ね」

「イングヴィルド様も付けてみますか? きっと似合うと思いますよ?」

 

 女子のアクセサリー感覚で『白龍皇の翼』がイングヴィルドにも装着される。

 お揃いの翼にイングヴィルドもエイミィーも笑うが、これを他の面々が見たら全く笑い事ではないのだろうとアルヴェムは言わずとも思う。

 

「ど、どう? 似合ってる……かな?」

「ああ、とても。これからは積極的に『神滅具』を探して全て見ていくのも悪くないかもしれないな。そうすればエイミィーの強化にも繋がるし、俺の方も知識を得やすい」

「ふふっ……私たちだけで世界と戦えてしまいますね」

「キミだけで十分だろう。隕石を降らせれば地上なんてすぐに終わりだ。イングヴィルドだって、神器を使えば地球なんて軽く海に沈む」

 

 と、そこまで言って思ってしまった。

 エイミィーはイングヴィルドの神器を創ることができるのではないか、と。

 ひとしきり光の翼を堪能したイングヴィルドにエイミィーは自らの背にもあった『白龍皇の翼』を消すと、イングヴィルドからの疑問を受ける。

 

「そういえば、私の神器も創ること……できるの?」

「イングヴィルド様も神器持ちだったんですか? 能力を教えていただければ創ることは可能だと思いますが……」

「私の神器……名前はまだわからないけど、歌うと海が操れたり、ドラゴンを操れたりするの……多分、だけど」

 

 歌、その単語でエイミィーの顔が青ざめていくような気がした。

 急に喋らなくなったエイミィーにイングヴィルドも心配して、

 

「ど……どうしたの?」

「実は私、歌が物凄く下手でして。創り出せても私には使用不可能ですね……」

「意外なところに不得手なものがあるんだな」

 

 イングヴィルドが持つ神器に歌の上手い下手が関連しているかは後ほど確かめるとして、イングヴィルドは胸を撫で下ろしているようだった。

 

「どうした?」

「もし、エイミィーが私と同じ神器を使えたら……私、いらなくなるのかなって思ったから」

「そんなわけないよ。例え使えたとしても、キミにはエイミィーにない魔王の『特性』がある」

「『特性』……?」

「アスモデウスにもあるなら、レヴィアタンにもあるだろう。正直どんな能力か楽しみにしているんだ」

 

 エイミィーが持つアスモデウスの特性『星与刻』があれだけの規模、威力のものだったため、自然とレヴィアタンの特性にも期待してしまう。

 しかも、イングヴィルドは海を操る力も有している。そのあたりの相乗作用も十分に期待できるだろう。

 アルヴェムの期待を受けたイングヴィルドは一瞬目を見開いて、やがて顔を赤らめて拳を握った。

 

「わ、私……頑張る。エイミィーと同じくらい破壊力があったら……いいな」

「私を基準にされると困ってしまいますね……」

 

 苦笑するエイミィーだが彼女が初めて見た魔王の『特性』なのだから仕方がない。

 流石に戦闘能力まではエイミィーを基準にすると、今まで実戦経験皆無なイングヴィルドにとっては厳しいものがあるだろうが心構えとするのは良いことだ。

 

 そう結論付いたところで改めて、アルヴェムはエイミィーに問う。

 

「正式な返答を貰ってなかったが……俺との契約の件、答えをもらえないか? 力を研究する代わりにキミの保護を一生約束する、それがこちら側から提示した条件だ」

 

 すでに雰囲気で言うと承諾してもらっている気がするも、その点を何となくで済ませてしまえば後ほどトラブルに発展してしまうかもしれない。

 アルヴェムの問いにエイミィーは一瞬考える素振りを見せて、やがて答えた。

 

「その件なのですが……条件を少し、その……変更していただけませんか?」

「……? どんな条件にもよるが人生の一部をもらう以上は相応の対価を払うつもりだ。何でも言ってみてくれ」

 

 そうですか……と、エイミィーは頷く。

 どうにも歯切れが悪い。何か問題でもあるのか。

 そう勘繰ってしまうも、エイミィーは両手の指先を合わせながら、やがて重い口を開いた。

 

「わ、私の保護は、必要ありません……ですから、その……神になってくれるとも、言ってくれましたし……」

「ああ、それで求めるものは?」

 

 一向に話が進まないようなので、催促してみる。

 促されたエイミィーは赤面しながらも、意を決したのかようやく――

 

「……甘え、させてください。たまにで……いいんで」

 

 一瞬、アルヴェムも呆気に取られた。

 そんなことでいいのか、と正直思ってしまったが彼女の生きてきた環境を考えるとあり得ない話ではない。

 何せ幼少期に両親を失い、それ以降は自分を押し殺して戦い続けてきた。

 その精神的ストレスは計り知れるものではなく、甘えられる相手など皆無だっただろう。

 だから、その相手にアルヴェムを求めている。しかし――

 

「言葉を返すようだが俺でいいのか? キミには一応姉を名乗るゼノヴィアがいるようだが……」

「あの人は……ない、ですから。い、嫌であれば全然構わないんです。わ、私は何を言っているんでしょうか……突然、こんなこと言われても……困り、ますよね」

 

 焦った様子で言葉を取り消そうとするエイミィー。

 だが、今の願いは紛れもなく本心から来ているもので、それを否定する理由はない。

 それにエイミィーは今まで散々我慢を強いられてきて、己の心の声も抑えてきたに違いない。今の願いを言うのにどれほどの勇気が必要だったか、アルヴェムには計り知れないだろう。

 だったら、返答は一つだ。

 

「いや、構わない。俺で良いと言うなら、存分に甘えてくれ。逃げも隠れもしない」

「ほ、本当ですか……? わ……わかりました。あなたとの契約を、受けます」

 

 差し出されるエイミィーの手。

 そこには魔法陣が展開されており、契約の証とでも言うのだろうか。

 とにかく拒否する理由はない。その手に自らの手を重ねて握手を行った。

 

「加えて保護も行うよ。そうでなければ、これから事情を知る悪魔たちにキミを取られる可能性もあるからね。外敵からの保護はキミの戦闘能力を加味して重点を置かないが、こういう面では動くさ」

「ありがとう、ございます……」

 

 手を放すと一礼してエイミィーは口元に拳を当てて、こちらから視線を外してくる。その顔は心なしか赤くなっている。

 握手するのが、そんなに恥ずかしいなら別案でも良かったのだが口に出す必要はないだろう。

 

 これでエイミィーとの契約は完了した。

 次いでは――

 

「イングヴィルド」

「ん、えっ……な、何?」

 

 何とも微妙な表情をして様子を見ていたイングヴィルド。

 急に声を掛けられて驚いたようだが、彼女のメンタル面でのサポートもまたアルヴェムの務めだ。

 

「ここのところ、エイミィーのスカウトでキミへの対応を蔑ろにしてしまっていた部分があった。すまない。そこでお詫びと言っては何だが……何かして欲しいことはあるか?」

「えっと……そ、それじゃあ、だ、だ……抱きしめて、欲しい、かな……?」

 

 抱擁(ハグ)はストレス緩和の際に求められるコミュニケーション。

 そこまでストレスを与えていたとは予想外だった。やはりエイミィー捜索の際、危険性のある場所でも守れる以上はイングヴィルドを連れて行くべきだったか。

 

 そんな後悔が芽生えるも今ならまだ挽回できるはずだ。

 アルヴェムは両手をイングヴィルドの肩に置き、自らへと引き寄せた。ぽすん、と彼女の身体がアルヴェムの上体に預けられると、その背中に腕を回して抱きしめる。

 

 不思議と、アルヴェムも気分は悪くない。むしろ、良いものだ。

 言われた通り、ストレス軽減に一役買っているのだろう。アルヴェムにストレスがあるのかはわからないが、堕天使三人が殺された不快感は消えていくような気がする。

 

「ありがとう、今回もキミのおまじないが効いたよ。願掛け程度にしか思っていなかったが、どうやら認識を改める必要があるらしい。次もあれば頼む」

「うん……任せて」

 

 アルヴェムの鎖骨辺りに頭を預けたイングヴィルドは微笑みを浮かべる。

 その様子を見ていたエイミィーは気になったことがあるのか、恐る恐る挙手して、

 

「無粋な質問なんですが……お二人はその、交際関係にあるんですか?」

「えっ……それは――」

「いや、キミと同じように契約で繋がっている関係だよ。それ以上でも、それ以下でもない」

「むぅ……」

 

 これも最近聞かれるようになったが、アルヴェムの中ではその関係に何ら変化はない。

 しかし、返答が気に食わなかったのか頬を膨らませたイングヴィルドが小さな頭突きを連続してくる。頭突きは確か、不満の意を示す行為と言っていたが、アルヴェムにとってはこれ以上にないはずの返答だったというのに。

 

 どう機嫌を取ったものか、そう考えようとした途端、アルヴェムの計測器に反応が出る。

 イングヴィルドを放して背に隠れさせると、エイミィーも気付いていたのか聖槍を右手に出現させた。

 

「ど、どうしたの……?」

「少し、反応が遅かったな」

 

 言った傍からアルヴェムたちの足元に魔法陣が展開される。

 それはグレモリーのものでもなく、悪魔のものとは少し構造が違ったもので、光り輝くとアルヴェムたちを中心に魔力が半球状に広がって結界を作り出した。

 見たところ耐久性はそれほどのものではないため、閉じ込めるものとはまた違う。強いて言うならば音を外部に漏らさないためのものに見える。

 

「いきなりの無礼をお許しください。姫様……リアス・グレモリー様とは内密にあなた方と話したかったもので」

 

 音もなく現れたのは男性二人。

 羽織を着た者と紅色のローブを纏った者だ。どちらも身に纏う雰囲気から只者ではないことも明らか。特に羽織を着た男性に関しては魔力以外の気配も感じる。

 警戒の色を強めるアルヴェムとエイミィーに羽織の男性は一礼をし、

 

「はじめまして、私はサーゼクス・ルシファー様の『騎士』を務めております沖田総司と申します。そしてこちらはマグレガー・メイザース……サーゼクス様の『僧侶』となります」

 

 サーゼクスの加勢があるとは聞いていたが、グレイフィア以外の眷属がわざわざこんな大仰強い真似をして接触してきた時点で、約束の『礼』の話だけではないだろう。

 現に二人の目もまたエイミィーへの警戒の色が見える。アルヴェム同様に見定めるつもりだ。

 どうやら面倒ごとは続くらしい……そうアルヴェムは内心で息を吐いた――

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