ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
「ん……っ」
「起きたか」
リアスとの交渉から数時間後、イングヴィルドは目覚めた。
カチャカチャと手元で弄っているアルヴェムもそれに気付き、一度手を止めて振り向く。
一日目とは違い、イングヴィルドが寝ているのはベッドの上。
人間が眠るためにはベッドというものが必要だと知ったため、用意したものだった。
何もない部屋の中心に一つのベッド。
風景は異様だがイングヴィルドは気にした様子はないようで、起き上がると眠気眼で辺りを見渡し、
「あれから……どれくらい経ったの?」
「キミが眠ってから二十時間と三分、かつてに比べたら早起きだろう」
「……ふふ、そういうことも言えるのね」
「嫌味に聞こえたのなら謝罪する」
「いいえ、大丈夫。冗談に聞こえたから」
冗談を言ったつもりでもなかったが……と言い返すのは野暮だろう。
イングヴィルドはベッドから降りるとアルヴェムの隣へと座った。
「ずっと、傍にいてくれたの?」
「いや、一時間ほど離れた時間がある。この地域を縄張りとしている悪魔リアス・グレモリーと交渉しに行っていた」
「交渉……?」
「俺とキミはこの街にとって異分子。向こうが行動を起こす前に先手を打ったまでだ。結果だけを言えば、俺が彼女の下僕になることで俺とキミはリアス・グレモリーの庇護下に入った」
「私の、せい……?」
「いや、違う。無駄な戦闘を避け、この世界にいる勢力を知るためだ。キミが気にすることじゃない」
「……あなたは、優しいのね」
「事実を言っているだけだ」
最近、この手の誤解をされやすくなってきた気がする。
大切にしているだとか、優しいだとか、まるで人並みの感情を宿しているように言ってくる。
呆れて言葉も出てこないがイングヴィルドの視線がアルヴェムの手元へと移った。
「それは何?」
アルヴェムが作っていたのはリストバンド型の小型機械だった。
丁度イングヴィルドの手首に嵌まるほどの大きさで、彼女は小首を傾げる。
「これはキミの病を完全に治すためのものだ。簡単に説明すると、このバンドを嵌めていれば徐々に治していける。睡眠時間も平均時間になっていくだろう。一気に治そうとするとキミの身体に多大な負荷がかかるから、数年は我慢してくれ。別のアクセサリーに変えて欲しかったら希望は聞く」
二十時間もあったのだ。"眠りの病"の解明ぐらい終わらせられる。
悪魔の力……魔力は力の源であり、命と直結していると言っても良い。
その魔力が本来は一定間隔で肉体に巡っているにも関わらず、それが不規則に分散。結果として本人の体力を著しく奪い、悪魔の核の一つである脳を休眠状態へと追い込んでいたようだ。
治療としては、手製のリストバンドによって魔力を操っている脳に微弱な電気信号を送り続ける。
これで魔力の流れを安定化させ、脳の働きを補助し続けることで完治を目指す。
早速、完成したリストバンドをイングヴィルドの手首に装着する。
「着け心地はどうだ? 不具合があれば教えてくれ」
「ううん……大丈夫」
リストバンドを手でなぞったイングヴィルド。
すると、ポロポロと大粒の涙を流し始めてしまった。
アルヴェムもこの反応は予想外で目を丸くする。
「どうした? どこか痛む部分があったか?」
涙は痛みや悲しみによって引き起こされるもの。
理論上は完璧に作ったはずなのに、彼女に負荷を与えてしまったか。
そんなアルヴェムの心配に対し、イングヴィルドは首を横に振るって、
「違うの……治るんだって思ったら、つい安心して。ありがとう……どうお礼を言ったらいいか……」
「気にするな。キミの体調が良くなれば、俺も
「それでも嬉しいから……」
涙を拭ったイングヴィルドは笑みを見せる。
「アルヴェム、私にできることなら何でも協力する。これは……ストックホルム、じゃないよ?」
「そうか……だったら、改めてよろしく」
「うん。よろしく」
差し出された手にアルヴェムはその意図を測りかねる。
イングヴィルドは何かを待っているようで、アルヴェムも正解かわからないが手を差し出す。
すると差し出した手を握られ、
「悪魔みたいに言ったら……ふたりぼっちの契約、なのかな?」
「そうだな。これは契約だ。俺がキミを守って、キミのことを知る。互いに利がある契約だ」
リアスから教えられていた。
悪魔は対価を得ることで相手の願いを叶える生き物なのだと。
二人とも悪魔同士で、それが履行されるかはわからないが生物は感情で動く。
現にイングヴィルドもアルヴェムの言葉に満足しているようで、非協力的よりもはるかに良い。
「伝え損ねていたが明日の夜、キミにも一度リアス・グレモリーのところに来てもらわないといけない。庇護下に入る以上、向こうへの挨拶と聞きたいことがあるそうだ」
「うん、わかった」
「それまでの時間は好きにしてくれていい。俺は学校があるから朝からいないが、端末は置いていくから何かあればすぐに戻る。放課後になったら迎えに来るよ」
「えっ……家に、いないの?」
「今は駒王学園に身を置いているからな。すでに悪魔との接触を図れた以上、もう行く意味はないが……一つ、延滞しているものがあるんだ」
服の裾を掴んでくるイングヴィルドは如何にも不満そうな表情だが、こちらにも事情がある。
近くに置かれている学生鞄からDVDを取り出すと、それをイングヴィルドに見せ、
「学園で知り合った男子生徒から借りた"エロDVD"というものだ。これで男はテンションを上げるらしい……って、何故目元を隠しているんだ?」
「そ、そういうのは、ちょっと……困る、かな?」
イングヴィルドも初めて見るエロDVDに対して反応に困っていた。
だが、見なければ一誠たちの感情を理解することはできない。
すでに用意していたDVDレコーダーとテレビを玄関から持ってきて、簡単に取り付けていくと準備が完了。
パッケージからディスクを取り出すとレコーダーへと入れる。
「…………」
開始から数分。
始まったのは情事の映像ではなく、主演女優のインタビュー映像だった。
経験だとか意気込みだとか、女優のプライベートに関することを聞いている。
イングヴィルドも他にすることがないせいか、目元を微妙に手で隠しながら観ているようだ。
そんなインタビューが十数分程度進んで、場面が変わり男優が現れてようやく行為が始まる。
人間という生物が行う生殖行為。
こういったDVDが出ているということは子を成す以外に娯楽行為として盛んに行われるようだ。
しかも、それを代替に金銭の授与が行われる。業種の一種として成り立っていた。
「あながち無駄とも言い切れない、か……」
金銭の巡りが生まれている以上、人間の営みに必要とされている。
一誠たちが言いたいのはそんなことじゃない気がするが、しっかり見たところでアルヴェムにとっては娯楽になり得ないようだ。
激しくなる行為にイングヴィルドも目元を完全に隠し、「わぁ……わぁ……」しか言わなくなってしまった。
そんなに見たくないなら別室に移動すればいいはずだが、付き合いで見てくれているのだろうか。
結局、一時間半以上に及んだ作品を見終わったところで、アルヴェムには一誠たちの言う"エロス"というものは微塵も伝わってこなかった。
イングヴィルドの方を見ると映像が終わったにも関わらず顔が真っ赤のままだった。心拍数も上がっており、どうやら彼女にとっては刺激の強いものだったらしい。
時計を表示すれば、すでに朝七時頃になっており、学園へ行く時間が近づいていた。
ディスクをレコーダーから取り出し、パッケージにしまっているとちょんちょんと指で突かれる。
振り向くと、少し顔色がマシになったイングヴィルドがこちらを覗いて、
「あ……アルヴェム?」
「どうした?」
「アルヴェムは……こういうこと、したいの?」
どうやら、とんでもない誤解を与えてしまったようだ――
―○●○―
通学時間――
それぞれの生徒が正門を通っていく中、アルヴェムも学園に着いていた。
すると、知っている顔を見つける。
一誠、松田、元浜……そして、黒い髪を伸ばした見知らぬ少女。
その姿を見るとアルヴェムは片手を挙げ、
「おはよう、三人とも。昨日は休んですまなかった。これを返すよ」
「ちょっと待てーいっ! やめろやめろ! こんな場所でそれ見せるの!」
エロDVDを鞄の中から取り出し一誠に差し出すと、一誠は焦ってそれを遠くへ投げ捨ててしまった。
「やはり俺にはキミたちが言っていた"エロス"というものがわからなかった。同居人の女性も一緒に見ていたが、そちらも顔を赤くするだけで"エロス"を感じていたわけではなさそうだったが……」
「今は感想なんていいよ! 彼女の前だぞ! ていうか、エロDVDは女性と一緒に観るもんじゃねえ!!」
彼女……と言われて、ようやくアルヴェムは見知らぬ少女へと目を向ける。
どうやら一誠と親しそうにその腕に自らの腕を絡めていた。
それを見て、元浜と松田は大粒の涙を流して祝福……いや、めちゃくちゃ恨めしそうに見ている。
「何故……何故、あのドスケベザルのイッセーに彼女が……」
「神よ、俺たちとイッセー……何が違うって言うんだ!!」
「お前ら、遠慮なくめちゃくちゃ言うよな……」
肩を竦めるイッセーに隣の見知らぬ少女も「あはは……」と苦笑していた。
しかし、アルヴェムが気になったのは視界に表示された文字と数値。
堕天使――そして、数値こそリアスに及ばないが人間よりもはるかに高い戦闘能力。
悪魔、堕天使、天使は三すくみ、そこに人間は含まれていなかったが友好関係にあるのだろうか。
わからないが、とりあえず質問してみる。
「兵藤一誠、彼女……というのは交際しているということ、だよな?」
「おうっ! 天野夕麻ちゃんだ! 昨日、学校帰りに告白されてな。くっくっく、モテる男はつらいね……」
「よろしくお願いしますね」
律儀にも見知らぬ女性――夕麻は頭を下げてくる。
だが、アルヴェムは見逃さなかった。
その目に宿る僅かながらの敵意、殺意。向けられているのは当然アルヴェムだ。
それもそうだ。今のアルヴェムは疑問符が付くものの悪魔、堕天使とは敵対関係にある。
先手を打つか――とも考えたが、相手の狙いはわからない。
それに今は一誠の彼女だ。仮に狙いがアルヴェムなら接触にこんな回りくどい手を使わないだろう。
とりあえず、様子を見る。
一応リアスにも報告しようと決め、アルヴェムは一礼してその場を去った――