ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
沖田総司、マグレガー・メイザース。
その両者の名前は人間界にも名を残す、学生から言えば『歴史上の人物』だ。
沖田総司は有名な新撰組の一人で優れた剣士、マグレガー・メイザースは近代西洋魔術の使い手にして『
どうやらサーゼクスは自らの眷属に歴史上の人物を採用しているらしい。
長い年月を生きる悪魔にとっては、その時代の最先端だったかもしれないのでその表現が正しいかは不明だが、とにかく目の前にいるのは記録上の存在。魔王眷属ともあって警戒は怠れない。
「それで、こんな結界を張って部長に黙って接触してきたあたり、あまり良くない気がするのですが何用でしょう?」
「まずはコカビエルの撃退、ありがとうございました。我々では彼が仕掛けた破壊の術式が発動するまでに到着できませんでしたから」
「どうも。約束の『礼』に関しては今要望を言えばいいのでしょうか?」
「先に伺いましょう。こちらの要はそれからでも遅くはありませんから」
「それでは遠慮なく――」
恐らく、戦況を把握するために戦闘の一部始終は見られていた。
木場の禁手化、コカビエルとの戦闘、そしてアルヴェムとエイミィーの戦い、その全てがすでにサーゼクス側に伝わっている。そうなれば、勿論エイミィーのアスモデウスとしての覚醒や『神滅具』を創造する姿も見られているはずだ。
天使と悪魔の混血、魔王の力、規格外の神器、悪魔側の対処は予想するのは容易い。
だったら先手を打つ、そのためにアルヴェムは言った。
「俺の要望はエイミィーの力を一切封印することもなく、イングヴィルド同様にグレモリー家の保護下に置くことです」
「……やはり、そう来ましたか」
肝なのは一切封印させることなく、だ。これだけは妥協できない。
沖田もマグレガーもわかっていたのか、驚くことはなかった。
だが、冷静に、
「イングヴィルド様同様、前アスモデウスの後継者であるエイミィー様は保護するのに十分値します。しかし、地上を容易く葬り去る力と『神滅具』すら創り出せてしまう神器……それを野放しにする形で放置することは承諾できかねます」
一拍置いて、沖田は「まして」と付け足し、
「敵対勢力である天界に属していた者であり、堕天使に利用される可能性も否定できません。今回の一件で三大勢力全てが彼女の危険性を理解した……そうなれば、彼女を巡って新たな戦争が起きる可能性もまたあり得ます」
「確かにその可能性はありますが――俺は何があっても彼女を守ります。研究対象を他に奪わせません。これは今回の一件で一切の被害を出さずエイミィーを止め、コカビエルを倒した俺が言う言葉です」
そう、アルヴェムにはその実績がある。
先ほどの戦闘状況が天使、堕天使側に伝わったとしても、そんな存在がいるのを知っていて、しかもエイミィーがこちら側についたことを知っていて、すぐに手を出してくる者はいないだろう。
コカビエルが言っていた三大勢力の疲弊状態が本当で、さらに堕天使の長であるアザゼルが第二の戦争をするつもりがないのであれば尚更のことだ。
サーゼクスの眷属もそれはわかっているはずだ。
だが、エイミィーに関してはイングヴィルドとは危険性のレベルが違う。
遊びで創った『神滅具』でも、それひとつで十分すぎるほど兵器になるのだ。万が一、敵の手に渡ってしまえばそれだけで多大なる被害を齎す。
必要なのは、エイミィーの力を放置した方がマシという状況を作ること。
そのために悪役になる必要があればアルヴェムは迷わずにする。
何より
「誰が来ようとも俺がエイミィーを守ります。反対にエイミィーが何かしようとすれば、俺はまた止めます。それに彼女にその戦意はありません。ですが、危険性がある限りあなたたちはリスクを消そうとする。それもまたわかります」
だから――と、アルヴェムは言葉を続けた。
「俺がその気になれば一撃で冥界や天界がある次元ごと滅ぼせる。どれだけ危険な神器でもエイミィーにとって、あの『神滅具』は数少ない両親との繋がりなんだ。もう彼女から何も奪わせやしない――だから、撃たせないでくれ」
【
右腕の各部が高速で音を立てて各所をスライドさせると砲身へと変形する。
砲口は髑髏の口を模しており、それ以外にも各所に髑髏の装飾が成されており、それ自体が生き物の死を彷彿とさせていた。
魔力がなくとも、前の婚約パーティで冥界の座標はわかっている。
人間界からでも撃ち抜くことが可能で、この一発で冥界にいる悪魔や堕天使の種族存続を終わらせるだろう。それぞれの髑髏が眼窟を赤く、妖しく輝かせる。
サーゼクスとの一戦を見ていたかは不明だが、アルヴェムの言葉が冗談ではないことが伝わったのだろう。相手の二人にも緊張が走っているようだ。
「……どうか、矛をお収めください。もし、実力行使に出ようとした場合にサーゼクス様よりお言葉を預かっておりますので」
「……?」
一度相対して、アルヴェムの人となりを見抜かれていたのか。
聞くだけの価値があると思ったアルヴェムは装填はそのままに空いた左手で促す。
促すと、マクレガーの方が話し始める。
「『彼が迷わずこちらを討とうとするならば、私の名を使って彼の条件を呑め。危害を加えない限り、彼は悪魔側について責任を果たしてくれる。そういう男だ』と。ですから、悪魔の種を守るためにもその条件を呑みましょう。責任は我が王が取ってくれるそうですしね」
目が鋭く、不気味な雰囲気を身に纏っているようだが、その言葉に敵意はない。
一瞬、腰に帯刀していた柄頭に手を置いた沖田もまたその手を外し、
「容姿が似ていることもあって情愛深いのもまた似ていますね。自分の大切な者のためならば世界をも滅ぼし、敵に回す……それを可能とする力があるあたり羨ましいとも思います」
言って、少し微笑んで、最後に一礼した。
「我が主、サーゼクス・ルシファーの名において、エイミィー・クァルタ……いえ、エイミィー・アスモデウス様の保護をグレモリー家に一任し、その身柄をあなたへと預けます」
「ご理解いただきありがとうございます。サーゼクス様にも感謝をお伝えください」
アルヴェムも一度頭を下げ、沖田達も頷くと転移魔法陣が起動して帰っていく。
コカビエルや危険が無くなった以上、他の者に任せるのだろう。結界も解け、解放されたエイミィーやイングヴィルドは胸を撫で下ろすように息を吐いた。
「一瞬、どうなるのかと思いました……」
「私も……アルヴェム、本当に撃つかと思った」
「必要なら撃ったさ。でも、向こうが賢明な判断をしてくれたから助かった。まあ、これから先どうなるかはわからないが一旦は安心して良いはずだよ」
アルヴェムもまた右腕の変形を解除し、戦闘態勢を取る。
しかし、気になったのは――
「エイミィー・アスモデウスか……」
「良いんです。シスターグリゼルダとはもう会えませんし、会うつもりもありません。クァルタの名を捨てて、これから私はエイミィー・アスモデウスとして生きていくつもりですから」
「そうだ……私も、イングヴィルド・レヴィアタンになるん、だよね?」
「確かにそうだな、また部長に名義変更をお願いしよう。今は校舎の修復だ」
「それなら私にお任せください。生命には使えませんが物体の時間を戻す神器を知っていますので、それを創って修復をしましょう」
何とも頼りある言葉と共にアルヴェムたちは自分たちがほぼ壊した校舎の修復を始めるのだった――
―○●○―
「そうか、報告ありがとう。元の仕事に戻ってくれ」
サーゼクスは自らの執務室で沖田とマクレガーからの報告が終わり、労いの言葉を掛けた。
通信用の魔法陣が消えるとサーゼクスは一息吐く。
脅しではない冥界がある次元ごと滅ぼすほどの力を持つアルヴェムはもちろんのこと、現れてしまったアスモデウスの血――特性を覚醒させたエイミィー・アスモデウスもまた頭を悩ませる存在だった。
こちらの陣営に来てくれたことは正直ありがたい。アルヴェムの管理下にあるものの、彼が悪魔側にメリットを感じてくれている限り、彼を慕うエイミィーもまた敵とはならないだろう。
それに、その身に持つ神器を創造する神器は危険ながらも悪魔にとって絶大な意味となり得る。むしろ、絶大過ぎて手に余る可能性は十分にある。
ただ、旧魔王派の悪魔たちにとってはイングヴィルドに次いでこの上ない腫れ物となるだろう。
現に戦闘記録を見る限り、彼女の『星与刻』は旧アスモデウスの血を引く悪魔、クルゼレイ・アスモデウスを遙かに凌いでいる。その魔力量、攻撃特化の能力、次元がまるで違うと言ってもいいだろう。
エイミィーに関する情報統制、旧魔王派への牽制、また一つすべき職務が発生したようだ。
かねてより、旧魔王の血筋についてはどの勢力も徹底的に調べ上げていた。
それが今回のアスモデウスの発見により、全ての存在が確認されていることになる。
旧ルシファーの血を引くラゼヴァン・ルシファーの息子は、所有する神器から堕天使側で幼少期に保護され、所属していると情報は得ている。堕天使側としては政治的な問題を避けるために秘匿にしている以上、こちらも無闇に突こうとは思わない。
それに堕天使側にいる分、その動きは追いやすいため危険性は現状低いと考えられる。
だが、ルシファーの血を引くもう一人の娘、そして旧ベルゼブブの力が隔世遺伝によって覚醒した赤子は、一度は観測されたがすぐに行方を眩ませて現在も見つかっていない。常に調査団を派遣し、足取りを追っているのだが巧妙に姿を消しているのだ。
「アルヴェムくんに持ち掛ければ嬉々として見つけに行くかもしれないな」
より強い個体の研究をしたがっているアルヴェムにとっては、あの二人は研究対象として十分だろう。それに収集癖があるならば、前四大魔王をコンプリートしたがるかもしれない。
そう考えていると、机に一つの魔法陣が輝き始める。
その紋様はベルゼブブのもの、やがて魔法陣は一人の男性を映し出す。
妖麗な雰囲気を漂わせる、サーゼクスと最も近い男性であり、現ベルゼブブ――アジュカ・ベルゼブブだった。
『約束がないが急用だ。サーゼクス、例の件のことだが解析が終わったぞ』
「それで、どうだった?」
例の件、それはアルヴェムとの対戦で得た彼の肉片――細胞のことだった。
あの後すぐにアジュカへと解析のために渡したが、その結果が出たらしい。
促すと、アジュカもすぐに話し始める。
『興味深い、とお前に言って良いのかは知らんが……俺としても不可解なことが起きている』
「何?」
『まず、遺伝子情報だが類似するとすればキミの妹――リアス・グレモリーだ。そして、複数のドラゴンの遺伝子も持っている。悪魔でありながらドラゴン、二つの性質を兼ね備えているんだよ』
その言い方はまるでアルヴェムがリアスの『子』であるかのようだった。
あり得ない、サーゼクスの心にはそんな言葉が浮かぶ。
リアスはまだ未成年でアルヴェムの見た目からして年齢の差はないはずだ。しかし、魔力は持たないが好きに見た目を変えられるアルヴェムにその理屈は通用しないのかもしれない。
一方、ドラゴンというのはおそらく――しかし、それでは複数という表現が成り立たない。
そこまで考えたところで、サーゼクスの考えを見越しているアジュカははっきりとした口調で告げた。
『間違いなく、アルヴェム・オーヅァはリアス・グレモリーの息子だ。相手の男は不明だが、ドラゴンで彼女と親しい者など限られるだろう。良かったな、どういうわけか叔父というわけだ』
「やめてくれ。それどころではないんだ」
からかわれるも、理解が追いつかない。
アルヴェム本人には記憶がないと言っていた。つまり、アジュカの言う通り過程は不明ではあるものの可能性としては存在するが、その体内にある機械の全てが悪魔とは別種の存在であると否定してくる。
『そんな顔をするとは、調べた甲斐があったというものだ……と、冷やかすのも一興だが、もうひとつ――これが一番不可解な点だ。彼には魔力はないが、その因子はある』
「魔力を全く持たない者なら因子すら存在しないはず……それがどうして?」
『その因子を抽出し調べたところ消滅の因子であると判明した。それ自体は不思議なものではない。悪魔は親から因子を継ぐのだから……しかし、その因子の形状はサーゼクス、お前と完全に一致しているのだよ。だからこそ、彼は消滅の魔力に対して元々高い耐性を持っている』
サーゼクスの困惑を他所に、アジュカは淡々と事実を告げる。
『アルヴェム・オーヅァは後天的に今の肉体となったか、されたのだろう。その改造の過程でお前の因子を入れられたからこそ、成長の過程で容姿が変わった。そのままではなく、似ているで収まっているということは幼少期にでも改造を受けたのだろうな』
「だが、あれほどの技術はどの神話系にもないはずだ。神器を研究する『神を見張る者』ですら、その段階には至っていない」
『あくまで推測の域を出ないが……全く別の勢力が関わっている。それもこちらとまるで理の違う何かが。まあ、あれこれ考えたところで答えは出ないものだ。時を待つしかあるまい』
「アジュカ、この件についてはこの場限りの話としよう。口外すれば余計な困惑を生み、アルヴェムくんが今以上に何をするかわからなくなってしまう」
『わかっている。それではな、また何かわかれば連絡する』
魔法陣による通信を終え、サーゼクスは顎に手をやる。
堕天使、天使との情勢、旧魔王派、そして未知の勢力、あまりにも問題は山積みだ。
だが、今の情報を得て、アルヴェムに関しては腹が決まった。
サーゼクスは新たに小さな魔法陣を展開すると、ある人物へと通信を繋げる。
「グレイフィア、話したいことがあるんだ……あぁ、妻としての意見を聞くことになる」
彼女にもまた事情を詳しくは話せないが、サーゼクスはゆっくりと切り出した――