ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
「アルヴェム・オーヅァ、こんなところに呼び出してどういうつもりだ?」
コカビエル襲撃事件から少しして、アルヴェムはゼノヴィアを旧校舎の屋上に呼び出していた。
怪訝そうに言うゼノヴィアだが初対面の時のような悪魔に対する敵意は見られない。
何せ、彼女も悪魔へと転生したからだ。
本人曰く、神の死を知りやぶれかぶれでリアスと交渉して『騎士』の駒を得て転生した。
後で知ったことだがゼノヴィアは先天的に聖剣の才能を持ち合わせており、そのため伝説の聖剣であるデュランダルを扱える。しかし、それは転生させるにあたってのステータスにはならなかったようで、彼女の転生は駒一つで済んだらしい。
「キミは俺に言っただろう? エイミィーを助ける代わりに何でも差し出すと」
「わかっている……キミには多大な恩を感じている。それで、目的は?」
イリナは学園での戦いの前にコカビエルたちによって負傷し、戦線を離脱していた。
その負傷はアーシアの治療により完治し、本日本部があるヴァチカンへと帰還する予定だ。
一方、ゼノヴィアは神の死を知ったことでデュランダルを使えようとも、教会から追放という形を受けた。彼らにとっては戦力よりも体裁が大事で、既得権益を優先する思考は一貫されていると言っていい。
怪訝を示すゼノヴィアに、アルヴェムは右手を差し出す。
開いた手のひらには三センチほどの小さな基盤のようなものが乗せられており、それを見るとゼノヴィアはさらなる怪訝そうな表情を見せる。
「これは?」
「エイミィーを守るためのチップさ。キミならこれを向こうに行く荷物に紛れさせることができるだろう? 入れてくれさえすれば、勝手に擬態して見えなくなる仕組みだから細かなことはしなくていい」
砕けたエクスカリバーの核である欠片をゼノヴィアが今所持しており、それを今日イリナを見送ると同時に引き渡す。仕込む機会は十分すぎるほどあるだろう。
ゼノヴィアは何をするかをあえて聞かず、アルヴェムからチップを受け取った。
「エイミィーを守る……わかった。彼女の身の上も知らず、今まで何もしてやれなかったんだ。姉としての務めをこれから果たすためにも、やってやるさ」
彼女の好感度はエイミィーの中でかなりマイナスの部類に入るが、それがどう動くかはこれからのゼノヴィア次第だろう。
もし、エイミィーに排除してくれと言われれば、ストレス軽減のために動くしかないだろうが現状は心の底から嫌っている素振りもなさそうなので十分機会はある。
「あと、キミに求めるのはデュランダルの解析をさせてもらうことだな。正直、折れたエクスカリバーは大したものではなかったから、今度こそ本物の聖剣を解析したい。それで、今回の契約は終わりだ。キミに求めることはもうなくなる」
「わかった。イリナの見送りが終わって時間が空き次第、キミに一度デュランダルを渡そう。だが、あれは私でも持て余すものだ……大丈夫なのか?」
「だったら、一度出してみてくれ。どれほどか確かめてみる」
促すと、ゼノヴィアは専用の異空間よりデュランダルを引き抜く。
青い刀身に金色の細緻な装飾。そして、エクスカリバーとは比較にならないほどの聖なる力がオーラとして全体に纏われている。
地面にデュランダルを突き刺したゼノヴィアが、その場から少し離れて手で促してくる。
「言っておくが、聖剣に対する因子を持っていないとまともに持てないぞ?」
「そこは力押しで何とかするさ」
デュランダルの柄を握ると、その聖なる力が棘となって突き刺さろうとしてくる。
拒絶反応。どうやら、アルヴェムはデュランダルに祝福されていないらしい。
だが、どれだけ抵抗しようともデュランダルの聖なる力はアルヴェムのバリアを突破する気配がなく、これぐらいならばどうにでもなる。
「大丈夫だな。解析するのも問題ないから返すよ」
「まるで意にも介さず簡単そうに扱うんだな……」
「エイミィーと仲良くしたいなら、これでどうこう言っている限り無理だ。彼女の力はこれを超えてくるんだから」
戦ったアルヴェムならわかるが、エイミィーの出力は素でデュランダルを軽く上回る。それに加えて『星与刻』や神器を考えなければならないのだから、今のゼノヴィアではデュランダル込みでも相手にならない。
結局のところ、エイミィーがゼノヴィアと距離を置いているのは実力差による部分が多いと思われる。ゼノヴィア自身がその差を埋めていかない限り、エイミィーが心を開くことはないだろう。
そこまで教えるほど世話焼きではないため、言わないでおく。
アルヴェムが返すとゼノヴィアは「精進する」と言って、デュランダルを再び異空間にしまうと、ちょうどその時に屋上の扉が開いた。
「アルヴェム、朝の部活が……」
イングヴィルドが姿を見せるも、そこで言葉が止まった。
屋上に少しだけ沈黙が流れるが、その隣をゼノヴィアが過ぎ去って行き、
「それじゃあ、私はイリナの見送りに行ってくるよ。例の件、必ず果たすさ」
「ああ、頼んだ」
軽く手を振ってゼノヴィアを見送ると、次に目に入るのは当然イングヴィルドだ。
何だか、複雑な心境でもあるのか微妙な表情でアルヴェムを見ている。
最近、イングヴィルドの様子がどうにもおかしい。
エイミィーは同じ研究対象ということで特別なのかそんなことはないのだが、他の女性陣と話しているとどこか不満そうに見える。そして、何か一定のラインを越えると頭突きをされてしまう。
間はあったものの、イングヴィルドは多感な時期だ。
それに女心は男には計り知れないもの。考えたところでわからない。
ただ、傾向が見えてくれば対策しようもある。
近づいて、両腕を広げて、抱擁する――ストレス軽減策のひとつだが、イングヴィルドには効果絶大のようだ。
現に今も抱きしめると複雑な表情がなくなり、いきなりの行動に驚いて顔が少し紅潮している。
「え、えっと……何かあった?」
「いや、ただこうしたかっただけだよ」
あまり多用すると効果を失いそうな気もするが……と、思うもそんな思考を読んでか機嫌が戻ったイングヴィルドは言う。
「私ね……アルヴェムにこうされるの、好き。アルヴェムは、どう?」
「好き嫌いか……正直、その基準はまだ明確な定義はないんだ。だけど、悪くはないと思う。誰かの温もりを感じるなんてそうないだろうから」
「ふふっ……そっか。それなら良かった。それじゃあ、部室に行こ?」
アルヴェムから離れて、すっかり上機嫌になったイングヴィルドはその場でくるりと回って踵を返す。
その姿にアルヴェムも「ああ」と頷いて、その後を追った――
―○●○―
「エイミィーめ……離反して悪魔側につくとは、やはりガブリエル様の意に反してでも殺処分すべきだったのだ。あまりにも特例だったが、あんな化物は生きているだけで規律が乱れる」
日も沈み、各所にある角灯の中で揺らめく蝋燭の火が照らす執務室。
そこでしわがれた声の老人――元はエイミィーに指示を出していた司教が恨めがましく言葉を紡ぐ。
司教の言葉に、室内にいた他の司祭たちが同意する。
「あの時、我々の誘導によって決まった処分をガブリエル様が覆さなければ、こんなことにならなかったというのに……」
「仕方ないでしょう。熾天使の座を捨ててでも守ると言ったのです。その後にミカエル様の介入もあって、すでに我々の口を挟める状況ではなかったのですから」
「エイミィーも大人しく従順に従っていれば良かったものを。化物が一丁前に反抗しよって」
彼らは神の死を知っている。そして、それを隠しながら自らの地位をのし上げるために、天界にいるガブリエルへエイミィーの情報を巧みに隠しつつ、裏で自らの邪魔者をエイミィーに処刑させ続けていた。
上手く行けば今回、奪われたエクスカリバーを秘密裏にカトリック教会へ集中させることができたが、エイミィーの離反によって遠回りしなければならなくなった。
幸い、回収されたエクスカリバーの欠片は一度全てカトリック教会に預けられる。この状況を上手く利用すれば、エクスカリバーの過半数をカトリック教会が手に入れ、ゼノヴィアやエイミィーが抜けた穴も埋まるだろう。
こちらにとって使い勝手の悪いゼノヴィアからデュランダルを奪えればさらに僥倖だったが、これでも成果としては十分だ。
元々、聖剣の使い手を量産するための『聖剣計画』の素案を作ったのも司教で、カトリック教会の戦力を増強させ、権力の一極集中を狙ったものだ。
当時、地位が上でも聖剣に夢見がちなバルパー・ガリレイを唆し、その責任者として祀り上げ、結果的にバルパーは追放。自分は研究成果を横から奪ってミカエルに献上し、後は天界任せとなったが生きたまま因子だけを抽出する技術に進化して人道的なものとなったため功績だけを奪った形となった。司教にとって一番良い形で収まったと言える。
そして、エクスカリバーの占有と戦力の増強、その二つの功績を基に司教はさらに上の地位を狙っている。他の司祭たちはそのおこぼれを預かろうとしていた。
司教たちは教会に所属し、亡き神へ祈りながらも、その中に蠢く私利私欲は一切揺るがない――そんな連中だ。
「下手な真似をされる前にミカエル様に進言し、エイミィー・クァルタだけは確実に始末させる。その準備に取り掛か――」
『良かったよ、お前らが実は善良な人間とかじゃなくて』
不意に声が聞こえた。若い、男性のものだ。
それはこの執務室にいるどの人間の声でもない。
だったら、一体――そんな司教の疑問はすぐに解決する。
床には三センチほどの虫、なのだろうか。
出入口である扉前の床下に、機械の基盤に細い触手のような足が生えたものが、その表面から立体映像を作り出しながら立っている。
映し出されているのは、少年。
赤い髪、青い瞳、その容姿は現魔王サーゼクス・ルシファーを思わせるようなもの。
「な、何者だ!? まさか、本当にサーゼクス・ルシファーとでも言うつもりか?」
声を荒げる司教に反して、少年の声は冷静だった。
『そのそっくりさんだ。何、後始末をしようと思ってな』
「後始末、だと……?」
『ああ。散々エイミィーを利用して、今もまだ危害を加えようとしている……そんなことを俺が許すわけないだろう?』
途端、機械の虫がその身を長大なものにして、扉の隙間を縫い合わせるように留めた。
何のつもりか、この場にいる誰もが一瞬理解できなかったが――小さな破砕音がいくつか響く。
機械の虫の側面から伸びた触手が角灯を次々と倒したのだ。
『考えたんだ、自浄作用のない教会をどう変えるか。潰すのは簡単だけど、それじゃあ同じような組織ができて終わりだ。だから、こうやって局所的に一つ一つ、監視して地道に潰し続けることにした。そうすれば、お前らのような人間たちは淘汰されて少しは教会もマシになるだろう』
執務室の中には古びた聖書や書類など大量の紙が置かれている。
それに燃え移ればどうなるか、想像に容易かった。急いで消火しようとするも火は消えないどころか、新たな酸素を受けて燃え移っていく。
『出火した時、人間は火に焼かれるよりも煙で死ぬ方が多いらしい。安心しろ。しっかり焼けるように人体に有害な煙だけはこのチップで処理してやるから』
唯一の出入口である扉は機械の虫に塞がれ、窓は執務室が上階にあることから面格子が取り付けられており、例え窓ガラス壊せたところで逃げ道とはなり得ない。
司教たちに明確な焦りが浮かべ、それが声音に飛び出る。
「ま、待て! 何者かは知らんが、今ならまだ間に合う。約束しよう! エイミィー・クァルタに一切の手を出すことはしない! それでどうだ!?」
『俺とお前の間で、そんな口約束が通じると思うか? 今まで私利私欲で動いてきて、これからもそうしようとしていた人間を生かしておいてメリットはないよ』
酷く冷淡な口調で少年は言い切った。
映像を切らないのは見届けるつもりなのだ、司教たちの死を。
逃げ場のない炎が迫る中、我先にと他者を押しのけて扉を叩くも微動だにしない。
この騒ぎを聞きつけて他の者がやってきても良いというのに、声を上げようとも誰も来なかった。
『助けは来ないぞ。これを固定した際にバリアを張った。どれだけ叫ぼうが誰も気付かない。お前らにはお似合いの死に方さ』
「た、頼む。話し合おう! まだ、し、死にたくない……っ!」
『散々エイミィーに人殺しをさせておいてよく言うな。お前らが殺してきた者たちもそう思っていただろうよ。良かったな、最後の最後で他者の気持ちがわかったわけだ。覚えておけ、他者の命に刃を向けるということは自らもまた命を晒すことになる。覚悟が足りなかったな』
駄目だ、この者はまるで話を聞くつもりはない……その事実に司教は絶望する。
何か言おうにも、少年は最後に言い放った。
『エイミィーには両親がいれば良かったんだ。それを奪い、従属を強いてきたお前らの道は死以外にない。言い訳なら、地獄の先でしろ。向こうでは途方もない時間があるんだからな』
やがて、部屋全てが炎に包まれ、司教たちの身体にも炎が燃え移っていく。
醜い野心は煌々と燃え盛る火炎と共に消え去っていく――