ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第四十四話『イングヴィルド&エイミィーVS謎の魔獣たち』

「きゃああっ!!」

 

 のどかだったはずのショッピングモールに女性の悲鳴が響く。

 その声に視線を向けると、女性が獣に今にも襲われそうになっていた。動物園から逃げ出した類のものではない。冥界に生息しているような魔獣の類だ。

 

 一見して虎のようだが、その顎は人間界のものよりも遙かに大きく牙も鋭い。

 放置しておけば数秒後には女性は襲われるだろう。グレモリー家の縄張りだが、緊急事態である以上、エイミィーは動いた。

 

「……禁手化(バランス・ブレイク)

 

 エスカレーターから飛び降りると天使の翼のみを展開し、急降下する。

 手には聖槍を顕現。飛び掛かった魔獣の上顎から下顎にかけて突き刺し、魔獣は光に呑まれて霧散する。

 助けはしたが、女性は腰を抜かしており目の前の光景が信じられないようだ。口を何度も開閉し、言葉にならない言葉を口にしている。

 

 この戦闘が終わればショッピングモールにいる人間全ての記憶は消す。

 とは言っても、記憶を消した後でもぼんやりとその当時の感情は残るらしい。だからこそ、悪魔の翼で恐怖心を与えないように天使の翼だけで行動しているのだ。

 

「エイミィー……っ!」

「イングヴィルド様はそのまま待機を! この場の対処はお任せください!」

 

 騒がれて余計な混乱を生み出せば、相手の思う壺となる。

 指をぱちん、と鳴らせば魔法陣が人々の眼前に現れ、やがてどの人も目が虚ろなものへと変化していく。暗示、先ほど言っていたことをもう実行するとは思っていなかった。

 

 掛けた暗示は『一階広場に集まる』こと、バラバラに行動されてはエイミィーでも対処しきれない可能性があった。

 だからこそ感知範囲を上げて、目の星々を輝かせると離れた場所にいる魔獣たちに小規模な隕石をぶつけていき、人々は防護魔法陣で覆う。

 それだけで魔獣に防護魔法陣を突破する手段はない。これで安全に人々を避難させられる――そう思った瞬間、ショッピングモールに変化が起こった。

 

「これは……煙?」

 

 各天井に取り付けられたスプリンクラーから煙が溢れ出る。

 通常、防災用のスプリンクラーが出すのは水のはず。それが変わっている時点で敵の仕組みだ。

 転移用の魔法陣を出すと同時に、対毒ガス用のマスク型神器を創り出す。

 ――『防災仮面(バリア・オブ・マスクス)』。あらゆる場所での呼吸を可能にし、外部からの毒素を完全に遮断する装着型の神器だ。

 

 それを夥しい数創り出し、転移用魔法陣でそれぞれの口元へと転移させる。

 当然、最も優先順位が高いイングヴィルドを優先し、他の人々も同様のものを装着させ一安心だと思ったが、煙が肌に触れたエイミィーは自らの判断が誤っていたことに気付く。

 

 着ていた服が煙に触れた傍から溶けたのだ。人外の生物ならば、そこまでだが一般人は違う。

 触れた箇所から皮膚が溶け、骨へと到達する。幸い、すでに意識が朧げになっているためにパニックは起こらないが放置していれば確実に死者を出してしまう。

 

 エイミィーは瞬間的に新たな神器を創り出す。

防災被膜(バリアブルズ・メイル)』、今度は『防災仮面』と同様に装着した者を空気中にある危険物から守る装着型の神器だ。

 それをイングヴィルドも含めて一般市民に纏わせ、今度こそ煙の被害を抑える。

 

 一般人たちをショッピングモールから出したいが、魔力による妨害行為をされているのか店内には繋げるものの外部へ一切魔法陣を繋げない。

 持っていた携帯電話も圏外、連絡用の魔法陣も繋がらない状態だ。完全に孤立させられている。

 

 上手い、そう素直に思った。

 生半可な結界ならばエイミィーの力ずくで突破できるが、この結界を作っているのは魔力の扱いに長けた手練れだ。複雑に絡み合った魔力がエイミィーの介入を許さない。

 本気で結界を破ろうとしたところで難しいだろう。何より、余波で周りの人々が巻き添えを受けて死んでしまう。

 

 相手は少なくともエイミィーの実力をおおよそ知っている。だからこそ、考えられていた。

 だが、不思議とエイミィーやイングヴィルドを本気で殺そうとしているとは思えない。

 この感覚、まるで普段アルヴェムと戦っている時と同じものだ。

 研究するためにどう出るかを試している。敵の狙いは威力偵察なのだろうか。

 ともあれ、エイミィーの防護魔法陣、そして『防災仮面』と『防災被膜』がある以上、相手に有効打はない。

 

 敵本体の姿を捉えなければ、この拮抗状態が続く。

 結界を張っている者と魔獣を指揮している者、それが同一人物かは不明だが後手に回るだけ今回の相手には不利を強いられ続ける。

 

 先に動いたのはエイミィーだった。

 一度、エスカレーターまで戻ると、イングヴィルドと目を合わせる。

 

「イングヴィルド様、ひとつお願いがあるんですが……」

「うん。何でも言って」

「敵が姿を見せない以上、炙り出す必要があります。幸い私が今、皆に施している装着型の神器は水中での呼吸も可能ですし水圧にも耐えられますので……イングヴィルド様、私も協力しますから店内を全て水で沈めてください」

 

 その提案にイングヴィルドは驚いた様子を見せる。

 対処すべきなのはまだ見ぬ敵とショッピングモールに充満している煙。その二つを一度に解決するにはこの方法が一番早い。

 エイミィーの言葉にイングヴィルドは少し考えるもすぐに頷き、

 

「わかったわ。やってみる」

「ありがとうございます。それでは気取られないうちに行動を開始しましょう」

 

 イングヴィルドが魔法陣を展開し、魔力を集中している間に『赤龍帝の籠手』をイングヴィルドの左手、エイミィーの手に顕現される。

 力の倍加とその譲渡、それを同時に行えば飛躍的にイングヴィルドの身に纏う魔力が質量を上げる。

 

 そして放たれるは絶大な水龍の一撃。ショッピングモールを駆けまわり、巻き散らされる水の塊がフロアを満たして水没させていく――

 

 ―○●○―

 

 先兵の悪魔――ファグノリアはその行動に驚愕した。

 最上階から各フロアに仕込んだ魔法陣で映像を見ていたが、魔獣全てが水の龍に飲み込まれ、ショッピングモールが水に飲み込まれていく。

 

 自らの姿は透明化することができる小型魔獣を利用して消していたが、これでは意味がない。

 話には聞いていたが、その膨大な魔力量はやはり桁違いだ。現状、自分の魔力量は良く言って中級の中でも上級に近いレベル。それではあまりにも程遠い。

 

「ここは撤退だな……」

 

 今回は直接指示された威力偵察だったが、神器を創る神器、そしてレヴィアタンの血を引く者の力、それらを記録しただけでも十分と言える。

 すぐに転移用の魔法陣を展開し、この空間から逃れようとするが――

 

『ダメよ、まだ足りてないから』

 

 パリン、と小さな破砕音を奏でて魔法陣が砕け散る。

 すでに水の龍は最上階にまで迫ろうとしている中、ファグノリアは焦りを含んだ声音で、

 

「あ、アイシェル様! お言葉ですが、これ以上戦っても勝ち目はありません!」

『そういう返事は聞いてない。もっと二人の実力が見たいのよ』

 

 幼い少女の声――アイシェルは今回ショッピングモールを囲う結界を作った者であり、ファグノリアには絶対に逆らえない存在。威力偵察もアイシェルに指示されたものだった。

 

「し、しかし! このままでは――」

『おいおい、先兵が命惜しんでんじゃねぇよ。大体、ドーピングもしてやった上に店ん中いる連中全員人質取ったシャバ行為も含めて有利取ってたのに一瞬で返されたお前が悪いんだよ』

 

 ついで聞こえるいくつもの男の声、これはアイシェルが持つ神器に封じられたドラゴンの声だ。

 好き勝手言うも、こちらに手を貸すという考えは全くない。

 あまりに無茶を言われている。あちらは魔王の血筋が二名もいる状況で、魔獣を扱うことができる程度のファグノリアに敵う要素はほぼない。

 

 それに神器を創る速度があまりにも速すぎる。

 あれさえなければ、もっと時間を稼げていたが今となってはどうしようもない。迫る水の龍にファグノリアの身体は成す術もなく飲み込まれてしまう。

 

 骨が軋み、肉体が悲鳴を上げて圧倒的な水圧に押し潰されそうになる。現に透明化するのに必要だった小型魔物は潰され、ファグノリアの透明状態も解除されてしまった。

 逃げる術も奪われ、それならば破れかぶれでも戦う以外に道はない。

 

 頭部を魔力で覆えば呼吸口を確保し、水に適応する魚型の魔物を召喚していく。

 地力で劣るファグノリアにできることは距離を取り、今度は魚型の魔物で攻撃し続ける。そして、一瞬の隙を作り出すか、アイシェルが満足すれば勝利だ。

 

 だが――

 

『姿を現した時点で、あなた様は詰んでいましたよ』

 

 少女の声が流れる水に紛れて聞こえてきた。

 気付いて振り向いた時には、すでに遅い。ファグノリアの眼前、数メートルほど離れた位置に全身ゴム製の鎧のようなものに身を包んだエイミィー・アスモデウスが天使の翼を羽ばたかせて浮かび上がって来ている。

 

 その手には、いくつもの光り輝く輪があり、それには見覚えがあった。

 天使が拘束のために使う天輪だ。上級相当の悪魔でない限り、それは絶大な拘束力を誇っている。

 焦ったファグノリアは手元に魔法陣を出して幾重にも防護魔法陣を築くも、エイミィーが投擲した二つの天輪はまるで意にも介さず防護魔法陣を砕き割る。

 

 両者間にある絶対的な壁、実力があまりにも違い過ぎた――

 

 ―○●○―

 

「お話、聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」

 

 ショッピングモールを満たしていた全ての水が消えた頃、一連の騒動を起こしたと思われる悪魔を捕らえたエイミィーは、拘束用の天輪で雁字搦めにした相手を見下ろしながら問いかける。

 傷だらけではあるものの、相手の悪魔は生きている。魔法陣で動けないため、目だけは動いていたがその目にはエイミィーたちに対する恐れにも近いものを感じていた。

 

 念のため、背に『白龍皇の翼』を装備し、悪魔に触れておく。

 これで十秒につき相手の力を半減させることができ、相手の力もすぐに人間以下のものとなるだろう。

 

「…………」

「やはり、話してくれませんか……その時点で、ただのはぐれ悪魔ではなく組織的な行動だということがわかりました。目的は私とイングヴィルド様の力を確かめるあたりでしょうか?」

 

 問いかけたところで、先ほどと同じように返答はない。

 対面してわかったのは、ショッピングモールを囲んでいる結界を作っているのは捕まえた悪魔ではないということ。魔力量、そしてこの実力から言って、候補からすぐに外れる。

 

 聞きたいことは次々と出てくるが、このままでは答えてくれないだろう。

 尋問は好きではないエイミィーにとって素直に話してくれるのが一番だが――

 

「話してくれないなら、こちらも対応を考えねばなりません。尋問用の神器はいくつか知っているのでひとつずつ試しましょう」

「待って、エイミィー。この人の口、見て……」

 

 何かに気付いたのか、イングヴィルドが指を差す。

 指しているのは悪魔の口元。エイミィーは促され、目を凝らしてみるとその様相に驚いた。

 

「縫い付けられていますね……」

 

 悪魔の口元は硬質な糸で縫いつけられており、あまりにも細かく綺麗に縫い付けられているために一目では気付けなかった。

 文字通り、物理的な口封じを受けている。これを行ったのは間違いなく結界を張った実力者だ。

 試しに解いてみようとした瞬間、悪魔とは別の声が聞こえてくる。

 

『グックック、聞いてた話よりもずっと強ぇじゃねえか。こりゃ先兵なんざ使わずに俺が直接()りゃ良かったなぁ』

 

 愉快そうに男の声が響いた。

 どこからかは不明。しかし、エイミィーの能力を見てなお崩れない余裕。楽し気な声音は先ほどまで戦っていた悪魔など歯牙にもかけないほどの実力者であることを示している。

 間違いなく、このショッピングモールを覆っている高度な結界を作り出している者だろう。

 

「一度だけ問いましょうか――あなたは何者ですか?」

『答えてやりてぇところだが……残念、まだその時じゃねぇんだわ。次の機会がありゃ答えてやるよ。まあ、その時は戦うってなってるかもしんねぇけどな』

「その言葉からして友好的ではなさそうですね。正体はわかりませんが、今捕まえている悪魔から記憶を探ればあなた様へすぐにでも繋がるでしょう」

『あー、介錯は必要ねぇぜ? たかが魔獣一匹操れる程度の悪魔を魔獣軍団の指揮者に変えてやったんだ。相応の代償は来るってわけだ』

 

 男の声、それと同時に倒れている悪魔が目を見開く。

 しまった、とエイミィーが気付いた時には、すでに手遅れだった。

 内側から肌が橙色へと変化し、膨らむ。それはまるで起爆する寸前の爆弾であり、破れた皮膚から緋色の炎が直線状に漏れ出す。

 

「くっ……!」

 

 起爆すればショッピングモールを吹き飛ばすほどの魔力量。判断を躊躇う暇はない。

 苦虫を嚙み潰したように、エイミィーは表情を変えると即座に聖槍を顕現して横に薙いだ。

 悪魔に穂先が触れた途端にその姿は塵一つも残さず消滅し、難を逃れる。

 

『やっぱ躊躇いはないわな。まっ、そう長いこと待たせねぇよ。そんじゃあな』

 

 その言葉を最後に一瞬の浮遊感を覚える。

 今まで肌で感じていた魔力の波がなくなり、ショッピングモールを囲んでいた結界もなくなった。

 すでに敵の気配もなく、魔獣も全て駆除を終えた。ショッピングモール内にいた人々に装着されていた神器を消し、自らにも装備していたものも消して天使の翼もしまう。

 

「エイミィー、大丈夫?」

「はい。イングヴィルド様こそ、お怪我はありませんか?」

「うん。エイミィーが守ってくれたから」

 

 念のため、イングヴィルドの全身を見て確認しておく。

 何かあればアルヴェムに顔向けができない。一通り確認すると、エイミィーも胸を撫で下ろす。

 

「本当に大丈夫そうですね。しかし、敵が現れた以上、アルヴェム様が来ると思っていましたが……どうしたのでしょう?」

「今日は女の子同士だからプライベートを配慮するって、言ってた。だから、エイミィー以上の実力者じゃないと反応しないようにしてるって。それに、エイミィーなら何かあっても私を守ってくれるって、頼りにしてたよ?」

「アルヴェム様からの信頼……お任せください! 邪魔は入りましたが、水着を見終えてお家に帰るまで何があろうとも私がイングヴィルド様を守り抜きますから!」

「ふふ、ありがとう。でも、それはやりすぎ、かな……?」

 

『龍の手』が四本の腕となり、全ての手に『赤龍帝の籠手』を装備して『黄昏の聖槍』を携え、背中の翼は全て『白龍皇の翼』を装着。今、出せる全ての装備を披露するエイミィーにイングヴィルドも苦笑を隠せない。

 

 と、ここでイングヴィルドは何かを思い出したのか、突然両手を前に出す。

 それも下から支えるような、手を受け皿にする形で。

 

「……?」

 

 エイミィーが疑問を口にする前に、イングヴィルドの手はエイミィーの胸を下から押し上げる。

 ふよふよと何度か持ち上げ、エイミィーにはその行動の意味がまるでわからなかった。

 

「えっと……どうかされましたか?」

「嫌じゃ、ない?」

「特に不快感はありませんが……」

「それなら良かった」

 

 微笑んで、何やら嬉しそうにするイングヴィルド。

 その真意がわからず、エイミィーはただただ小首を傾げて怪訝そうにすることしかできなかった――

 

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