ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第四十五話『プール開きと無限の龍神』

「あなたたち、今日は私たち限定のプール開きよ! まずはピッカピカにして、気分良くプールに入りましょう!」

 

 リアスの言葉が駒王学園のプールにて響く。

 アルヴェムたちオカルト研究部の面々の眼前には夏季を越えて、汚れが蓄積されたプールは水が抜かれ、どこもかしこも苔だらけとなっている。

 

 プールは学生にとって夏場の体育において必須科目らしく、生徒会との交渉で最初に遊びで使う権利と引き換えに掃除をリアスが快諾した。

 そういうわけで、休日にオカルト研究部が駆り出されている。エイミィーも付き合いで来てくれており、イングヴィルドと話しながらもその手には掃除用の長い柄をしたブラシを携えていた。

 

 そこでアルヴェムが小さく挙手し、

 

「ひとつ良いか? 掃除するだけなら一瞬で終わらせることができるぞ」

「それはダメよ。ヒトは過程を経て成長するもの。結果だけ取っていたらそればかりに囚われて大事なことを見失うわ。何かに行き詰った時、努力の仕方もわからなくなるものよ。だから、今回は魔法も禁止ね」

 

 文明の利器も含めて、魔法すら禁止になってしまえば手作業で綺麗にしていくしかない。

 もう少し反発があるかと思ったが、他の部員たちは納得しているようでこれ以上の言葉は野暮なのだろう。

 正直なところ、雑事など早くすれば、それだけ遊べる時間も増えるというのに無駄なことをと思わなくもないが主であるリアスが決めた以上、誰も文句は言えない。

 

「さあ、早速始めていきましょう!」

 

 リアスの号令と共に部員たちがそれぞれ散って掃除を始めていく。

 仕方なくアルヴェムも水道に繋いだホースを片手に頑固な苔汚れを水圧で弾き飛ばしていると、イングヴィルドが鼻歌交じりにブラシで床を擦っている姿が見える。

 

「そんなに掃除が楽しいか?」

「……? 違うよ。この後、遊ぶのが楽しみなの」

「そうか。でも、それならさっきも言ったが早く終わらせた方が良いんじゃないか?」

「うーん……何て言ったらいいのかな。今は……楽しみの準備期間って、言うのかな。こうして、遊ぶ前にがんばると何して遊ぼうかななんて考えて……」

「胸が躍ると言いますか、私は今でも十分楽しいですよ?」

 

 どこから持ってきたのか、運動場の整地を行うT字型のグラウンドレーキのような大型ブラシで床を滑るようにして掃除しているエイミィーが前を通りすがる。

 意外とお茶目な部分があるのか、その表情は楽しそうなものだ。今まで平穏な暮らしとは程遠い環境で生きてきたエイミィーにとって、このような日常的なことでも楽しさを感じられるのだろう。

 機械仕込みの自分では理解には遠い、そんなことを思いながらアルヴェムも水を撒き続ける。

 

「それに……この日のために水着、も用意したから」

「前にエイミィーと買いに行ったんだったな」

 

 ショッピングモールでの一件はすでにエイミィーから報告を受けていた。

 組織的な犯行のように思えるが、もしかすると前にあったレイナーレ一派のような小規模な組織がまたも暗躍しているのかもしれない。

 

 そう考えていると、アルヴェムの計測器に一つの反応が生まれる。

 強い悪魔……しかし、この反応には覚えがあった。コカビエルとの戦いで出会った白龍皇のものだ。

 何故、再びこの地にやってきているのか。考えるとすれば、三大会談への前入りだが侵入してきている以上は対処しなければならないだろう。

 

「アルヴェム?」

 

 イングヴィルドが怪訝そうな目をアルヴェムへと向ける。

 せっかくプール開きを楽しみにしているのだ。他の面々も同様で、騒ぎ立てて中止にするのは申し訳ない。

 それに白龍皇が相手ならばアルヴェム一人でも十分すぎるほど事足りる上、アルヴェムはプール遊びに興味がない。

 アルヴェムは手に持っていたホースをイングヴィルドへと差し出し、

 

「すまない、少し急用ができた。時間が掛かるだろうから俺のことは気にせずにキミたちは掃除を続けていてくれ」

「え、あ……う、うん」

 

 何か言いたげな様子だが、今は少々イングヴィルドに構ってやれない。

 自分がいなくともエイミィーがいればショッピングモール同様に大丈夫なはず。何かあればすぐに戻ってくればいい。そう思い、アルヴェムは踵を返して一度プールから外へと出て行った――

 

 ―○●○―

 

「やあ、いい学校だね」

「他の校舎は知らないが、ここは比較的綺麗なところだろうな」

 

 プールから出て校門へとたどり着けば、迎えたのは一人の少年だった。

 一誠のような日本人の容貌ではない。ダークカラーが強い銀色の髪で端正な顔立ちをしている。

 身分を明かさずとも、その正体には気付いている。

 

「――白龍皇、そんな雑談をしにきたのか?」

「ああ、もう正体に気付いていたのか。じゃあ、改めて名乗ろうか。俺はヴァーリ、今日は赤龍帝の兵藤一誠に挨拶しにきたんだが気取られるのが早かったな」

「今、イッセーたちはプールで遊んでるよ。部長の水着や他の面々の水着を楽しみにしているんだ。帰れとは言わないが、後にしてやってくれ」

「まさかライバルがここまで色情魔とは先が思いやられるよ……まあいい。その間に少しキミとも話したいと思っていたんだ。赤龍帝が来るまで退屈しのぎに話に付き合ってくれよ」

「まあ、構わないさ。俺はアルヴェム・オーヅァ、アルヴェムでいい」

 

 下手な真似をされるよりかは会話をしてこの場に留めておくのが賢明だろう。

 促すと、白龍皇――ヴァーリが話し出す。

 

「ところでアルヴェム、キミは世界で何番目に強いと思う?」

「一番。俺を殺せる生物はこの世界にはいないよ」

「その自信が羨ましいな。俺でさえ、そんなことを思えたことがない」

「それは良いことなんじゃないか? 自分の実力を見誤らず、驕らず、まだまだ成長性もある。唯一俺に足りないものと言えば、イッセーやキミが当たり前に持っている成長性なんだろうな」

 

 この世界に来て、今までの検証で確信したことがある。

 それはヴァーリに言ったように成長性だ。一誠は今まで立ちはだかる壁に持っている煩悩や想いで神器を成長させてきた。その宿敵であるヴァーリもまた恵まれた才能や魔力で今まで成長してきたのだろう。

 

 しかし、アルヴェムは実力だけで言うとすでに完成されている。

 いくらこの世界にいる強者から情報を集め、自らに再現したところでそれは成長ではない。ただの機能拡張であり、潜在的な能力を引き上げるものではなかった。

 

「そういえば、サーゼクス・ルシファーはどのくらいの位置なんだ?」

「この世界には強い者が多い。現魔王であるサーゼクス・ルシファーでさえ、十位にも入らないよ」

 

 サーゼクス・ルシファーは唯一この世界にて本気を見ている実力者。

 あれほどのレベル以上がまだいるあたり、ヴァーリの言う通りこの世界にはまだまだ強者がいるようだ。

 

「中でも一位は不動だ。無から生まれし無限の力を有する龍神……『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス。キミでも彼女を殺すことは不可能だろうね」

「無限、か……」

 

 限りが無い力、それをこの世界で『無限』と称するのならば理が大きく違うようだ。詳細な記憶はロックが掛かっているにせよ、アルヴェムの認識では元いた世界に『無限』と称される存在はない。

 

「興味が出てきたな。この世界で一番強い生物、会えるなら一度会ってみたいほどだ」

「だったら、会ってみるか?」

 

 突然のヴァーリからの提案、これにはアルヴェムも驚きを隠せない。

 そこまで気軽に会える存在なのか、そんな疑問を待たずにヴァーリは答える。

 いや、言葉ではなく正確には指を差した。アルヴェムの背後に向かって――

 

「これは……」

 

 計測器にも反応がなかった。しかし、それは当然のこと。

 相手は『無』から生まれた存在、別世界の理では捉えきれないのも無理はなかった。

 アルヴェムの背後に立っていたのは――

 

「子供?」

 

 どこからどう見ても齢十を少し過ぎた程度の幼女だった。

 黒い髪を腰下ほどまで伸ばし、目は虚ろ。ゴシック調のドレスに身を包み、露になっている平らな胸にはそれぞれバツ字の黒いテープのようなものが貼られており、奇抜な様相を見せている。

 

 だが、一瞬判断を迷ったがヴァーリに偽りはない。

 その身に宿す力、それは計測しきれないほどであり、悪魔の長であるサーゼクスですら比較対象にならなかった。何より身に纏うオーラは見えないにせよ、計測器は測定不能を叩き出している。それが幼女が無限の力を有していることを如実に証明していた。

 

「…………」

 

 アルヴェムの視線を受けて、オーフィスは何か切り出すかと思ったが何も言わない。

 ただじっとアルヴェムを見つめ、延々と無言を貫く。

 気まずさは感じない。だが、このまま放置していても話が進まない。

 相手の実年齢は定かではないが見た目は子供。アルヴェムはオーフィスの前まで進むと一度しゃがみ、視線を合わせる。

 

「キミがオーフィス……で、良いんだな?」

 

 その問いにオーフィスはこくりと頷く。

 そして、次は小首を傾げてアルヴェムの瞳をじっと見つめてきた。

 

「不思議。全くわからない生き物、我はじめて見た」

「俺もだ。この世界に来て、キミのような生物は初めて見る。興味が湧くが……ここに居続けると人目につくな。少し場所を移動しないか?」

「わかった」

「ヴァーリもついてくるか? キミとオーフィスの関係は知らないが、キミにもここに滞在されるとこちらとしても迷惑だし、イッセーたちなら後二時間以上は来ないはずだ」

「それなら俺も同行しよう。もう少し、キミと話すのも悪くない」

 

 言って、アルヴェムが先行して歩き始めるとオーフィスやヴァーリもついてくる。

 俗に言うイケメン外国人とゴスロリ幼女を連れている様は何とも異様だが、ここに居続けて生徒会のメンバーに見つかるよりはマシだろう。

 

 そんなことを思いつつ、アルヴェムは歩を進めるのだった――

 

 ―○●○―

 

「アルヴェム、遅いね……」

 

 水着に着替え終わり、上にラッシュガードを羽織っているイングヴィルドはプールサイドから水面を覗きながら、ため息交じりに呟く。

 すでにプールの掃除は終わり、綺麗な水が流し込まれていつでも泳げるようになっている。

 イングヴィルドたちも着替え終わり、今は各自自由にプールを楽しんでいた。一誠を見ると今は小猫に泳ぎ方を教えているようで、リアスも綺麗なフォームで泳いでいる。

 

 しかし、アルヴェムが一向に帰って来ない。

 せっかく水着を着て、アルヴェムに初めて見せるためにラッシュガードで隠しているというのに、一番見て欲しい存在がいないとなるとため息も吐きたくなってしまう。

 

「エイミィーは気を遣わないで泳いでも、いいのよ?」

「いえ、私も待ちますよ。せっかく作った水着ですから、お披露目はアルヴェム様が来てからしたいですもの。後は……前にも言ったかもしれませんが、泳いだことがないので少し怖いんです」

 

 そういえば、ショッピングモールでそんなことを言っていた気がする。またもや、エイミィーの意外な弱点が発覚した。

 それを聞いて、イングヴィルドはクスクスと笑んで、

 

「じゃあ……このまま練習してみよう。この羽織、水に濡れても平気みたい……だから」

「わ、わかりました……でも、泳いでいる時は絶対手を放さないでくださいね?」

「何かあっても、大丈夫。私、何度か溺れた人を助けたこと、あるから……安心して」

 

 不安そうなエイミィーに少しでも安心感を与えようと、先にプールへと静かに入水する。

 少し冷たいが問題はないだろう。イングヴィルドはエイミィーに向けて手招きをし、

 

「ほら、エイミィーも入って、みて?」

「は、はい……」

 

 拳をきゅっと握って、エイミィーも意を決したようだった。

 恐る恐る、本当に恐る恐る足を進めて、水面を何度か足先でちょんちょんと触れる。

 やがて、ゆっくりと足をつけて、そのまま――

 

「えっ?」

 

 どぼん、と大きな音を立てて空に向かって巨大な水柱が舞い上がり、飛沫が大きく散る。

 何が起こったのか、まるでわからないがエイミィーの姿がない。

 だが、水中を見てみると床すれすれにエイミィーの身体が沈んでいて、イングヴィルドは慌てて自らも水中に潜ってその身体を引き上げようとする。

 

 しかし、どれだけ力んだところで、その細身とは思えないほどの重量によって持ち上げられない。

 あの巨乳にそこまでの重量が……などと馬鹿な考えが頭を過ぎりそうになるも、それどころではなかった。

 

「エイミィーっ!」

 

 一度水面に上がると、異常事態に気付いたゼノヴィアがすぐさまプールに飛び込んでいた。

 イングヴィルドと同様に腕力で持ち上げようとするが持ち上がらず、それでも捻り出した魔力で身体を強化してエイミィーの身体を水面上まで持ち上げた。

 

「大丈夫か! 息は出来ているか!?」

「えっと、あ……は、はい……ありがとう、ございます……」

 

 顔を間近まで近付けてエイミィーを案ずるゼノヴィア。一方、なりふり構わず助けられたエイミィーはきょとんとした様子でゼノヴィアを一度見るも、ス……っと離れてしまい、

 

「だ、大丈夫……っ?」

「こ……怖かったです……何がなんだかわからなくて」

 

 こちらに抱きついてくるので、よしよしと頭を撫でていると見ていたリアスたちも慌てて駆けつける。

 

「二人とも大丈夫!? とんでもない音がしたけど……」

「怪我はしてない、ですけど、何だかすごく重たくて……」

「えっ!? そ、それ……私がものすごく太っているって言うことですか……?」

「そ、そういうわけじゃなくて……こう、そんなレベルじゃなくて……」

 

 女子高生の体重増加程度でプールから水柱が上がることもいきなり水位を減らすこともないだろう。

 現に持ち上げようとしたところでエイミィーの身体はびくともしない。まるで巨大な岩石、出会った当時はそんなことはなかったはずなのに一体どうなっているのか。

 

 少しパニックに陥っていたエイミィーもようやく自分の身に何か異常が起きていることを察したようで、

 

「わ、私……どうしてしまったんでしょう……?」

「えっと……えっと……」

 

 アルヴェムがいてくれれば、すぐに何かしらの解決策が浮かんだのだろうが、何せイングヴィルドにはそれ。

 

「アルヴェム、どこに行ったの……?」

 

 名前を呼んだところで、どこからも反応が返ってこない。

 とにかく、今は一度エイミィーの身体を魔力でプールサイドに引っ張り上げたのだった――

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