ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
「それで無限の龍神はこんなところに何をしに来たんだ?」
やってきたのは駒王学園から少し離れた繁華街にあるファミレス。
奇怪な恰好をしたオーフィスに店員から少々怪しまれそうになったが、アルヴェムが武装を出すよりも早くヴァーリが魔法で上手くやり、席へと無事についた。
「…………」
アルヴェムの問いかけに対し、オーフィスは何も答えなかった。
その視線はアルヴェムよりもずっと側面にずれており、視線を追うとあるのはファミレスのメニュー表。どうやら龍神は食べ物に興味があるらしい。
店に入って何も頼まないのも、それはそれで怪しいもの。
なので、メニュー表を抜き取ると開いてオーフィスの前に差し出す。
「好きなものを頼むといい。ヴァーリも」
「わかった」
「俺はコーヒーでいいよ」
呼びベルのボタンを押して店員と呼び、ヴァーリの要望通りコーヒーを一つ頼んで、次はオーフィスに促す。すると、オーフィスは食べたいものを次々と指差していき、店員がメモをしていく。
それを見ていたが、最初の三つほどで成人男性の一日におけるカロリー摂取量を超えており、それでも次々と頼んで最後に甘いデザート類を頼んでいく。どうやらしっかり食事をとるつもりらしい。
「デザート系は食事の後でお願いします」
アルヴェムの言葉に店員も頷いて、去っていく。
これでようやく本題に入れるわけだが、ここまでの行動で気付いたことがある。
オーフィスからはまるで敵意や戦意を感じない。というよりも、感情の起伏があまりないようだ。
最初からないのか、生きている途中で失ったか。定かではないが、無限の果てにあるものが限りない虚無だとするならば皮肉が効いているとも言える。
「改めてだが、何をしにきた?」
「我、始まりを見に来た」
「始まり……?」
「悪魔、天使、堕天使たち、風向きが変わった。世界が変わる」
端的な言葉の数々、その真意は読めないが恐らく三大勢力による会談のことを指しているのだろうか。
悪魔側は間違いなくこの機会にどこかのタイミングで和平を申し込むはずだ。天使、堕天使側の考えはわからないものの、コカビエルの一件でいきなり戦争を挑んでくることはないはずだ。
しかし、世界で一番強い存在が気にすることなのか。
所詮、彼女……と言っていいのか性別は不明だが、無限の力を持つオーフィスからすれば三大勢力が和平を結ぼうとも烏合の衆。羽虫に等しいだろう。
もう少し深堀しようとしたが、そこで「お待たせしました」と店員の声が耳に届く。
この店は思った以上に提供が早いようで、オーフィスが頼んだものが次々と並んでいき、目は虚ろながらにその手にはすでにフォークとスプーンが握られていた。
龍神にもフォークとスプーンを使う文化があったのか。妙なところで感心させられつつも、食事を始めてしまったオーフィスにこれ以上の追及は不可能らしい。
「不思議だろう? 世界で一番強い者であっても、その力をむやみやたらに振るわない。好戦的なドラゴンの強さの果てが戦いではなく平穏を望むなんて、俺には考えられないな」
オーフィスの様子を見ていると、彼女の隣に座っているヴァーリが不意に言葉を零す。
初めて会った時から感じていたが、白龍皇であるヴァーリは赤龍帝の一誠とは違ってかなり好戦的な性格をしている。きっと、どこまでも果てなく力と闘争を求めているのだろう。
それはアルヴェムでも持っていない、一誠とはまた違った『熱量』だった。
「そんなに戦いが好きなのか?」
「ああ、相手が強ければ強いほど心が満たされる。俺が生きていると実感できるのはそういった戦場の中だけさ。だから、俺は永遠に戦い続けるんだ」
「……羨ましいよ。皮肉でも何でもなく、熱中できる何かがあることはな」
「キミには生きているうちにしたいこと、願うことはないのか?」
「ないな」
どちらかと言えば、アルヴェムの性質はオーフィスに近いのかもしれない。この世界に自分と同じような存在がおらず、力だけがあってその先にある目的がなかった。
短いアルヴェムの返答にヴァーリは少し考え、やがて――
「だったら、俺と来ないか?」
「…………何?」
あまりにも突拍子のない誘いに、アルヴェムも聞き返してしまった。
「先に教えておくが堕天使の総督アザゼルは今回の会談で和平を提案するつもりだ。俺は平和になんて価値を感じない。だから、堕天使側から離れて世界を巡って強者を探そうと思うんだ。それに同行する者を加えても悪くないと思ってね」
それに、とヴァーリは付け足し、
「したいこと、願うことがないと言ったが、キミの目は現状に満足できずに何かを渇望している。世界を巡れば、それが何なのかを見つけられるかもしれない。だが、リアス・グレモリーの支配下にいるうちは叶わないだろうな」
「確かに名目上は彼女の下僕だが、部長のおかげで今俺やイングヴィルドたちが保護下にある。それに、そこまで不自由を感じていないよ」
「窮屈な話だ。キミの実力があれば
「不自由、か……」
自由、不自由、それらを考えたことは今までなかった。
目の前で起こる出来事への対処、研究対象の確保、今のところ成したことと言えばその程度しかなく、そこに自由など入り込む余地がなかったからだ。
「何ならイングヴィルド・レヴィアタンやエイミィー・アスモデウスを連れてくるといい。ある意味、俺たちは似た者同士だからな」
「彼女たちと何か共通点でもあるのか?」
「じゃあ、改めて名乗ろうか――俺の名はヴァーリ・ルシファー。旧魔王の孫である父と人間の母の間に生まれた混血児、というものだ。二人とは少し異なるが、旧魔王の血筋としては十分な共通点があるよ」
その言葉にアルヴェムは納得した。
一般的な悪魔から考えられないような魔力量、そして『白龍皇の鎧』を十全に使いこなす才能。
一誠とは対極的に恵まれていた素質の裏には確かな生まれがあったようだ。しかし、それは隔世遺伝ではなく、元より持っていたことから計測器にはヴァーリの種族は悪魔と人間と表記されている。
「運命、奇跡……それらの言葉は俺のためにあるのかもしれない、なんて思ったこともあったさ。まあ、そんなのは妹がいるのを知って砕け散ったけどね」
コーヒーカップを置いて、ヴァーリは肘をついた。
その視線は窓へ向けられており、少し考え込むような、そんな表情だ。
「悪魔の世界じゃ珍しいことじゃない、異母兄妹ってわけだ」
「今は一緒にいないのか?」
「ああ、会ったこともないし存在を知ったのもつい最近でね。父が一夜遊んだ名家のお嬢様が孕んでいた子らしい。『神の子を見張る者』が捕捉した時には魔王たる魔力にも俺と同じようにドラゴンの魂を宿す神器にも目覚めていて、実の母を殺して逃走した後だった。今や危険度SS級のはぐれ悪魔だよ」
「なるほど。世界を巡るのは、その妹にも会いたいからなんだな」
その言葉を聞いて、ヴァーリが目を丸くした。
出会って初めてかもしれない。戦闘狂とも思えた白龍皇、ヴァーリ・ルシファーに人間味を感じたのは。
「違ったか?」
「……いや、そうなのかもしれないな。そうか、俺は会ってみたいと思っていたのか」
納得したように言って、ヴァーリは「話が逸れたな」と前置きして軌道修正を行う。
「返事は会談終わりにでも聞こう。俺はどちらでも構わないよ。どの道を選ぼうがキミの自由だ」
「考えておくよ。白龍皇の成長を観察しながら世界を巡るのも悪くない」
純粋に力を求めて突き進むヴァーリもまたどのような成長を遂げるか楽しみではある。
そう思っていた時、ちょんちょんとアルヴェムの袖が引かれ、見るとオーフィスが何か言いたげな目をしていた。
「ああ、デザートの催促か」
話しているうちにテーブルいっぱいにあったはずの料理全てが綺麗に無くなっており、アルヴェムは軽く挙手して店員を呼ぶのだった――
―○●○―
「エイミィー……身体は、大丈夫?」
「自分では重さを感じないのですが……やっぱり、重い……ですよね……」
あれからイングヴィルドはリアスたちの邪魔にならないようにエイミィーを連れて、水着から着替えるとプールから旧校舎へ向かっていた。
エイミィーが通った箇所を見てみるとコンクリート製の地面に関わらず、陥没した足跡が次々と続いている。本人は重量を感じていないと言うが、このままでは意図せずとも破壊行動が続いてしまうだろう。
一刻も早くアルヴェムと合流したいが、彼には魔力がないために感知することができない。
リアスたちの使い魔も借りて現在も捜索中だが、駒王町だけでも捜査範囲は膨大だ。
どうしたら良いか、イングヴィルドも頭を悩ませるが――
「あら、何かお悩み?」
不意に、声が聞こえる。
それは幼い声で、声がした方へ顔を向けるとそこに立っていたのは幼女だった。
見た目は十歳ほど。暗色の強い銀の髪をボブほどに伸ばしている。黒いウサギの耳を模したフードがある紺色のジャケットを羽織り、黒色のフリルが付いたワンピースを身に纏っていた。
それだけで言ったら、少し風体は変わっているもののただの幼女だ。
しかし、その身に纏う異様な雰囲気が全てを否定する。エイミィーもその雰囲気を見た途端に目を鋭くし、明らかに警戒の色を見せていた。
「……あなたは何者でしょうか?」
「名を聞くなら、まず自分が名乗ったら? エイミィー・アスモデウスさん?」
「私を知っている上にその魔力……ショッピングモールで結界を作っていた方、ですよね?」
「ええ、そうよ」
あっさりと軽く返事をして、幼女はその場で一度くるりと足の爪先を軸にターンを決める。
その軌跡に沿って耀きを見せると、その手には一条の杖が見えた。
黒を基調に金色の装飾が施されており、杖の先が三叉に分かれている。さらにそれぞれの杖先は龍の頭部を模した形状で、その口にはさらに黒い宝玉が咥えられており、宝玉は見れば吸い込まれてしまいそうなほど邪悪で妖しい光で満ちていた。
明らかにただの武器ではない。イングヴィルドもその杖が神器であることはすぐに分かった。それもかなり高位の力を秘めた代物だ。
「ああ、警戒しなくていいわ。今日はただ話をしに来ただけだから。神器を出したのも話をするのに必要なだけよ」
『そういうこった。随分と早い再会だが一応言っておこうか――久しぶりだな、お前ら』
宝玉が光り輝き、ショッピングモールで聞いた男の声が聞こえてきた。
声の発生源は三叉杖にある真ん中の龍を模した頭部が咥えている宝玉、それが声に合わせて輝いている。一誠が持つ『赤龍帝の籠手』のように明らかに意思を持った神器だった。
幼女の魔力、そして杖が持つ魔力、二つが合わさったことで、その場にいるだけで校舎の壁に亀裂が入ってしまう。
「や、やめて……学校が、壊れてしまうわ」
「……そうね。お話をしたいっていうのに壊したら意味ないわ」
イングヴィルドの言葉を素直に聞いて、幼女は自らの魔力と杖の魔力を抑える。
しかし、エイミィーの戦意はまるで途切れない。むしろ、強まったほどだ。
「話し合うには他者を巻き込み過ぎましたね。素直に最初から姿を現しておけば、こちらも相応に対応しましたが……ショッピングモールでの行動は看過できません」
「私、ドラゴンなの。ドラゴンはね、ワガママな生き物……破壊的で、邪悪で、強力無比、だからお話をする前にあなたたちが本当に強いのか試したくなったから人間を使っただけよ。それにあなたたちなら守り切れると思ってたわ」
「勝手なことを言いますね……」
幼きながらに倫理観が破綻している。
彼女の目には人間など露ほども映っていない。自分の探求心を満たすための道具を使うような感覚で何の罪もない人々を巻き込んだのだ。
幼女は心底どうでも良さそうな声音で言葉を続ける。
「私にとって人間なんて生きてても死んでもどっちでもいいわ。あなたたち、変わってるわね。悪魔から見て人間なんて、そんなものだと思ってたから」
「神器を持ってるなら……あなたも元々は、人間だったんでしょう? おかしいのは、そっちじゃない……」
「――元人間でも今の私たちは正真正銘の化物だから。人間なんてそこらにある石と同じよ」
「……っ!」
化物、その言葉にエイミィーは眉を顰めて思わず反応してしまう。
それもそうだ。エイミィーをずっと蝕んできた言葉であり、常に付きまとってきた言葉だ。
その言葉、言い方だけでわかる――幼女がまともな人生を送っていなかったことは。
「私の名前はアイシェル……アイシェル・ルシファー。あなたたちとは経緯が違うけど、同じ魔王の血を持つ者よ。そして、私には『
『俺も驚いたぜ。気付いたら、こんな杖の中に入っていてよ。まさに神の悪戯ってヤツだ、グックック!』
『でも、アイシーと一緒は楽しいなぁ!』
『破壊と混沌の申し子だね、こりゃ!』
幼女――アイシェルが言って杖の先端をイングヴィルドたちへと向けると途端にそれぞれの宝玉が輝き、勝手に話し出す。同じ声だが人格が違うようで、アジ・ダハーカというドラゴンがどんな存在なのか知らないイングヴィルドには何が何だかわからない。
「アジ・ダハーカ……三頭三口六眼の邪龍です。千の魔法を駆使する悪の根源とも称されています。今はとある山の地下深くに封印されていると聞いていましたが……」
「『
言って、アイシェルは手元で杖を何度か回すと魔法陣が幾重にも飛び出し、すぐさま消えていく。
何をしたのか、全くわからなかったがアイシェルは真っ直ぐこちらを見据え、
「お話するのも戦うのも自由よ。でも、私はお話したい気分だから選択肢を狭めるわ。今、校舎にいる人間だけに魔法陣を張り付けたから戦うって言うなら、まずは花火を見ることになるわね」
『グックック、俺ならケンカ一択だがアイシーが喋りてぇって言うからよ。わざと威力を弱めてやるから安心しとけ。せいぜい身体の一部が吹き飛んで一生レベルの後遺症が残るぐらいだ』
『見せしめ見せしめ!』
『よっ、ダークネス・ドラゴン!』
楽し気に話すアイシェルとアジ・ダハーカ。
凶悪なコンビ相手に学生たちを人質に取られた以上、イングヴィルドは従わざるを得ないと考えたが、エイミィーはすぐさま手元に魔法陣を出現させて――
「防護魔法陣で防ごうとしても無駄よ。あなたの魔法陣は前の戦闘で見たから対策は十分、どれだけ頑丈に張ってもすり抜けられるわ。それに内側からの爆破にはあなたも対抗できないでしょ?」
『悪ィけど話する以外に道はないんだわ』
『ニンゲンが死んでもいいなら好きにしなよ!』
『きゃーっ! 人殺しーっ!』
好き勝手に笑うアジ・ダハーカ、嫌に冷静なアイシェルは続けて言葉を紡ぐ。
「あと真正面から戦っても今のあなた達じゃ私には勝てないわ。だって、私のこと何も知らないでしょ? こっちは知ってるから、一方的に嬲り殺せるわよ」
アジ・ダハーカが千の魔法を操るならば神器も相応の能力を持っているはず。そして、ルシファーにもまた固有の能力がある。それらがわからない以上、真っ向勝負を挑むのは人質がいる状況ではあまりにも無謀すぎるだろう。
「……わかったわ。お話、しましょう」
意を決し、イングヴィルドがそう言うとアイシェルは指を横に薙いだ。
それだけで感知していた魔力反応が消えていく。どうやら交渉成立にアイシェルが魔法陣を生徒から消したようだ。
「女子会、してみたかったのよね」
言って、アイシェルは出会って初めて微笑みを見せた――