ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
「女子会にはお菓子とか飲み物が必要よね。街には面倒なのがいるから、今はこんなものでいいかしら」
駒王学園の中庭にて、一人でそんなことを言いながらアイシェルは杖を軽く振るう。
すると、どこからか白いテーブルや椅子、そしてテーブル上には紅茶が注がれたカップが出現する。お茶請けとして、ケーキスタンドには色とりどりのマカロンが盛り付けられていた。
「あ、座っても椅子は壊れないわよ。私の魔法で強化してるし、心配ないわ。さぁ、座って」
「…………」
学園中の人間を人質に取られている以上、着席を促されると逆らうわけにはいかない。
イングヴィルドとエイミィーは顔を合わせると、意を決して着席する。
「そんな警戒しなくても何かされない限りは何もしないわ。アジーだって今の状態だと何もできないし、警戒せずにガールズトークを楽しみましょ?」
「私たちの関係性でそれは無理なのではないでしょうか?」
「敵になったつもりはないけど……まあ、何も信じられる要素がないし警戒されても仕方ない、か。だったら、手土産ついでに何であなたの重量が上がっているか、その謎を教えてあげる」
「っ! わかるんですか?」
「この中で神器に一番詳しいのは私よ。アルヴェム・オーヅァだって知らないことをいっぱい知ってるんだから」
得意げな表情でアイシェルはマカロンを一口頬張ると、エイミィーの胸を指差す。
胸、というよりも身体の中心を指しているのか、そのまま言葉を続ける。
「ショッピングモールで多くの神器を作ったでしょ? 神器の共存は二つですら無理なのに、数百人分の神器を一つの魂に収容すれば許容オーバーになるのは必然。アルヴェム・オーヅァと戦った時は全部破壊されてたから気付かなかっただろうけど、あなたが創った神器はそのまま残るのよ。だから、完全に消さないといつか一歩踏み出したら地中に埋まるわよ?」
促され、エイミィーは胸に手を当てる。
完全に神器を消すイメージ、それをしたのか今まで地面に数センチほど沈んでいた椅子の脚部分が止まり、彼女の中で問題が解決したようだ。
だが、その表情は今もまだ重いもので、
「……あの時も、見ていたんですか?」
「えぇ、だってエクスカリバーを介した破壊の魔法陣……あれを作ったの私だから。成果を見たくて遠くから観察していたの。おかげで魔法より面白いものが見れたけど」
思わぬところで点と点が繋がってしまう。
あの時は考えもしなかったが、コカビエルの襲撃に関わっていたとは思わなかった。
イングヴィルドとエイミィーが驚く中、アイシェルは思い出すように人差し指を頬に当て、
「私、自分で作った魔法を売る商売してるの。コカビエルが『神の子を見張る者』にあった膨大な研究資料と引き換えに魔法を提供したのよ。ただの破壊じゃなくて、全てを塵に変える魔法だったから発動すればコカビエル諸共散ってたんだけど、それが見られなかったのはちょっと残念」
『自分が戦争したいがために全部巻き込もうとしたぶっとび思考のまま散るってのも乙なもんだったのにな。俺もちぃっと残念に思ったぜ』
「依頼者を……そんな簡単に、殺してしまうの?」
「だって、コカビエルってば魔法陣が成功したら私のことも消すつもりだったから。自衛のために先手を打つのは当然よ。ねぇ、アジー?」
『貰うもんは貰ったが、それはそれって感じだ。ま、アイツからすりゃアイシーは悪魔の中でも魔王の血筋だからな。警戒すんのも無理はなかったってな』
確かに協力者であるバルパー・ガリレイを容易く切ったコカビエルならあり得る話だ。
それにしても、言葉の端々から分かるアイシェルは悪意を抱いてはいないようだ。ただ当然のことをしている、呼吸と同じような感覚でイングヴィルドは彼女から感情の欠落を感じていた。
「……って、こんなことを話したかったわけじゃないわ。そろそろ本題に移りましょ」
「本題?」
「今日はあなたたちをスカウトしに来たの――私のいる『
「また、随分と大仰しい名前の組織ですね……」
「ええ、だって叛逆者の集まり……一言で言ったらテロリスト集団だから」
いとも容易く言ってくるアイシェル。
テロリスト、突然の言葉によって呆気に取られるイングヴィルドとエイミィーに構わず、アイシェルは腕を組み、
「今回の会談で三大勢力は間違いなく和平を結ぶわ。それを良く思わない者たちは多い……特に悪魔なんて前魔王の死と内乱でトップが総変わりしたから旧政府側の悪魔たちは機会を窺っていたのよ。堕天使側もコカビエルみたいな考えをしている者も多いし、今まで燻っていた神器持ちも多く台頭してくるわ」
『グックック……あんだけ戦争したがっていたコカビエルが参加できねえのはご愁傷様だが、イイ火種にはなってるってわけだ』
和平を望まない者、その理由はイングヴィルドにだって理解できる。
今まで戦争状態、敵意を向けるのが当たり前だった相手と友好関係になる、それがどれほど難しいことか。現にエイミィーも難しい表情を浮かべていた。
「アイシェルは、どうしてそんなところにいる、の……?」
不意にイングヴィルドから疑問が零れる。
不思議とアイシェルからは、出会った当初のエイミィーとは違って内側に秘められた憤りや諦めなどは感じない。むしろ、善悪はともかく彼女には自らを支えてくれるアジ・ダハーカという存在がいる。
関係も良好そうで、世界に対して不満はなさそうにも見えるが――
「特に理由なんてないわ。強いて言うなら――面白そうだから、かしら?」
年相応な子供のような言葉で、アイシェルは無邪気に語った。
「世界を滅ぼすとか、世界の変革だとか、そんな大仰しいお題目なんていらないわ。私は自由に生きるの。戦いたい時に戦って、魔法を極めて、珍しいものを見て、おいしいものを食べて……それでいいのよ。どうせ私は冥界でお尋ね者だし、今更テロリストになろうが変わらないわ」
それらの言葉にやはり悪意は一つも感じられなかった。
自分を知り、誰にも左右されずに自分の感覚だけで生きる。それは今まで生まれに左右されてきたイングヴィルドにもエイミィーにもできないことだった。
「二人を誘うのは四大魔王の血筋が集まるのも悪くないって思ったからよ。すでにティクレン……ベルゼブブの血が目覚めている女の子もいるし、四人揃うのも悪くないわ」
そこまで言って、アイシェルは「まあ」と付け足し、
「来るなら歓迎するし、来なくてもいいわ。だって、それはあなたたちの自由だもの。何ならアルヴェム・オーヅァも連れてきていいわよ? 彼、ここに留まってる理由もなさそうだし」
「それは……」
それもまた否定できなかった。
アルヴェムはこの世界を知るため悪魔側にいるに過ぎない。それに今はすでにイングヴィルド、神器をいくらでも創造できるエイミィーがいるため、研究対象は揃っているため悪魔側にいるメリットがもうないも同然。
「答えはいつでもいいわ。どうせ、会談中にでも会うことになるでしょうし――」
「おい、そこで何をしてる!?」
話の途中、少年の声が割り込んできた。
声の方へ視線を向けると、そこに立っていたのは生徒会の腕章をした男子生徒一人、そして女子生徒二人だった。
男子生徒はエクスカリバー破壊作戦にも参加していた生徒会唯一の男子であり、ソーナの『兵士』でもある匙。そして、女子生徒は『戦車』の由良、『騎士』の巴だった。
アイシェルの魔力を感知し、出てきたのだろう。だが、匙たちにはそれぞれ冷や汗が滲んでいる。
秘めた膨大な魔力量を本能が察知している。明らかな格上だとわかって警戒を強めていた。
強い警戒心に対して、アイシェルは一応そちらへ目を向け、
「今、女子会をしてるところなの。私が招待した人以外はお断りよ」
『脅迫込みとはいえ、アイシー人生初の女子会だぜ? 邪魔してやんな』
『手を挙げなー、学園にいるニンゲン共が人質だぞー! 爆発祭りだ!』
『汚い花火! 汚い花火!』
今は解除しているがアイシェルならば、すぐにでも再び学園にいる生徒たちに魔法陣を施すことなど容易なはずだ。
それにイングヴィルドから見ても、シトリー眷属がどうにかできる相手ではない。
しかし、一陣の風が凪いだ。それと同時にアイシェルの首元に二本の剣が突きつけられる。
木場とゼノヴィア、それぞれ聖魔剣とデュランダルを構えており、その目は剣呑とした気に満ちていた。それほど彼らも警戒しているということは、見た目に惑わされず、実力を肌で感じているのだろう。
「キミが何者かはわからないけど、冗談にしては笑えないよ」
「一度だけ警告する。今すぐ、私の妹から離れろ」
少しでも敵意を見せれば斬る、二人は言葉にせずとも剣に纏わせた気迫から告げているがアイシェルは意にも介していない。
その後ろにはリアス、朱乃、一誠、アーシア、小猫とオカルト研究部のメンバーも続々と揃っており、完全に数の利はこちらにある。だが、イングヴィルドはそれでもアイシェル相手に有利を取れるとは思えなかった。
リアスが一歩前に出て、問いかける。
「あなたは何者かしら?」
「ただのはぐれ悪魔よ――アイシェルって言えば、あなたにも伝わるんじゃない?」
「――ッ! 危険度SS級のはぐれ悪魔……『殺戮魔女』アイシェル。まさか、こんな幼い子が手配犯だなんて……」
「その二つ名、かわいくないから嫌いよ」
言って、アイシェルは両手の人差し指を立てる。
指先に灯ったのは小さな光、しかしそれは天使の光のように神々しいものでも堕天使が作り出す光とも違う。黒く、異様な耀きを見せる醜悪な光――全身に悪寒が走った。
その耀きを向けられた木場やゼノヴィアが咄嗟に防御姿勢を取るも、瞬きする暇もなくその全身から鮮血が舞い散る。まるで全身に刃を浴びたような、何が起こったのか誰も理解が追いつかない。
困惑を隠しきれないまま倒れる木場とゼノヴィアに一誠とアーシアが駆け寄る。すぐにアーシアが神器によって、回復させようとするが受けた傷がなかなか塞がらず、アーシアも何をされたのか全く理解できないでいた。
「木場っ! ゼノヴィア!」
「剣を向けたからには、もうお話はできないわ。死ななかっただけ運が良い。才能を与えず産んでくれた親に感謝することね」
「こんの、ロリっ子だからって許されると思うなよ!!」
「イッセー、やめなさい!」
二人がやられたことにより一誠が『赤龍帝の籠手』を左手に顕現し、リアスの制止を無視して飛び出そうとするもアイシェルが魔法陣を手元に出現させると、その動きは一瞬にして止まった。
「な、何だ……? 猛烈に嫌な予感がする……しかも、股間に……?」
「良かったわね。あと一歩進んでいたら、あなたの『モノ』は二センチに変わってハーレム王になっても一生哀れな想いをするところだったわよ」
「かわいい顔してやることえげつなさすぎるだろ!!」
「普通に傷つけるより、こっちの方が効くと思ったから――『
指を動かすと地面に展開された魔法陣からゆっくりと頭部から脚にかけて女性を形取った蝋人形が現れる。
右半分は恍惚した表情でありながら左半分は苦痛に満ちた非対称で不気味な頭部には紐があり、前触れもなくいきなり発火する。灯された火がゆっくりと女性の蝋人形を溶かしていき、誰もがその蝋人形を見て動きと止め、警戒を強くした。
「そのまま動かない方が良いわよ。呪魔法『肉欲の蝋人形』は、この人形が溶けきる前に私以外の動いた者から本人が一番大切にしている部位を奪うの」
真偽は不明。しかし、蝋人形の様相はとてもじゃないが嘘を吐いているとは思えない。
誰もが動けない中、緩慢な動きでアイシェルは席から立ち上がると腕から身体を伸ばし、
「もっとお話したかったけど、残念。今日はこれまでね。その蠟人形はあと二、三分もしたら消えるから、それまではじっとしておくことをオススメするわ」
最後にそう言い残し、アイシェルは転移魔法陣から転移して去っていく――