ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第四十九話『授業参観の魔王様』

 授業参観当日。

 正確には公開授業と言うらしい。生徒の親が来るのは駒王学園には中等部もあり、将来通うことになる高等部の見学に親を連れて見に来ることも可能になっている。

 未来の後輩たちに情けない姿を見せたくないと思う気持ちもあるらしく、教室内にはどことなくいつもと違う緊張感が少しばかりあった。

 

 ただ、アルヴェムたちにとっては一切関係のない話で――

 

「私たち、見に来る人……いなかったわね」

 

 などと、イングヴィルドが切り出してエイミィーも苦笑する。

 

「そうですね。兵藤様、アーシア様は兵藤家のご両親が訪れるそうですが……私たちは天涯孤独の身ですから」

「必要なら、今から俺が着替えて後ろに親として参加しようか」

「ふふ、じゃあ私もそうしよう、かな」

「お二人はいつから私の両親に……? 気持ちは嬉しいですけど、やっぱりお二人とは、その……良き友人でいたいと思っていますから……」

「冗談だ。そんな本気にしないでくれ」

 

 言って、アルヴェムはエイミィーの頭に手を置いて撫でる。

「もう、子供扱いはやめてください」と撫でられた頭を手で押さえながら軽く赤面していたエイミィーだが、教室が何やら騒がしいことに気付く。

 

「何かあったのでしょうか?」

 

 イングヴィルドも小首を傾げ、見てみると騒ぎの中心はやはりと言っていいのか一誠だった。

 女性関連で騒ぎを起こすのはこの教室で一誠しかいない。今度はどうやらゼノヴィアがやらかしたらしく、その手に持たれた個包装された物が目に映る。

 

「あれ、何……?」

「避妊具だな。望まぬ子を作らないため、性交時に男性器へ着けるものだ」

「じゃあ、ゼノヴィアとイッセーは……そういう関係って、ことなの?」

「お姉様は子供が欲しいみたいですよ。意中の相手がいませんから、より強い子を作るためにドラゴンを宿す兵藤様に目をつけたようです。前にもプールで迫って騒動になっていました」

「イッセーの性欲ならすぐに手を出してもおかしくないとは思ったが……同居しているアーシアや部長がそういう態度を見せないあたり予定はまだなさそうだな」

 

 それに初めての彼女――堕天使レイナーレに殺されているのだ。それがトラウマとなって女性に対する恐怖感が生まれ、多少臆病になってしまっても仕方がない。

 

「ね、ねぇ、アルヴェムはその、興味……ないの?」

「……? 何に対する興味だ?」

「えっと……え、えっちなこと、とか子供が欲しい、とか……」

 

 唐突な質問にアルヴェムは少々思考を張り巡らせる。

 性交、それは種として次世代を残すための行為、または性欲を鎮める遊びの行為。

 前に一度、一誠にアダルトビデオを借りて鑑賞したが特に興味が湧いたわけではない。この世界の生物を知るために経験しておくべきかとは思ったが、今のところは必要性を感じていなかった。

 

 だが、もう一方は――

 

「子供、か。俺の遺伝子を継いだ子がどう生まれるかは気になるな」

「な、何人くらい、欲しいの……?」

「サンプルは多いに越したことはないが……最低でも三十は欲しいな。それぞれの違い、傾向を知るにはそのくらいの数で平均値が取れてくる」

「さ、三十……」

 

 イングヴィルドが驚くのも無理はないだろう。

 人間界で言えば一家族にあたり子供は多くても二人が平均、悪魔に至っては低い出生率からもっと平均値は低い。アルヴェムも言っていて現実的ではないかと思ったが、寿命で考えると『死』という概念はない身体。試す時間ならばいくらでもある。

 

 そう考えていると、何やらイングヴィルドが気合いを入れたような表情で、

 

「私、頑張るから……っ!」

 

 何に対しての意思表示かはわからないが、頑張ると言うなら頑張って欲しい……そう思うアルヴェムだった――

 

 ―○●○―

 

 一誠たちによって少し騒動はあったが、無事に授業が始まった。

 予鈴と共に教室の後ろにある扉から生徒の親が続々と入ってくる。その中には兵藤家の両親も見え、父親と思われる男性の手にはビデオカメラが持たれており、どの親よりも気合いが入っていた。

 

 無論、その気合いが向けられているのは一誠ではなくアーシアで、カメラを向けられたアーシアも少し照れくさそうにしながら手を振り返していた。

 

 それよりも、アルヴェムが気になったのは自身に向けられる二つの視線。

 正直、教室に入ってきた時から気付いていた。目的は一誠かと思ったが、その視線はこれでもかと言うほどしっかりとアルヴェムに注がれている。

 

 恐る恐る確認すると――そこに立っていたのは紅い髪の男性と銀髪の女性。

 言わずもがな、サーゼクス・ルシファーとグレイフィアだった。サーゼクスは授業参観のために用意したのだろうスーツを着込んでおり、グレイフィアはいつものメイド服姿とは違った麗装に身を包んでいる。

 二人とも、完全に授業参観にやってきた両親の顔をしている。

 

 サーゼクスが見るならば、間違いなくリアスの授業だろう。本人もそう言っていたはず。

 それが何故この教室に来ているのか。間違えたにしては、あまりにも堂々とし過ぎている。しかも、相変わらず視線はアルヴェムに注がれていた。

 

 幸い、まだこの授業を担当している英語の教師は到着していない。

 一番後ろの席ということもあり、半身を返してサーゼクスへと問いかける。

 

「……どういうつもりですか?」

「どういうつもり、とは?」

 

 心底すっとぼけたような声で返してくるサーゼクス。

 そもそも教室を間違えるなんてことはグレイフィアが隣にいる以上はありえない。全くもってわからないサーゼクスの真意に対し、アルヴェムは指で上階を指す。

 

「ここは二年生の教室。部長の教室でしたら上階ですよ」

「リアスの授業は二限目に見に行くよ。まずはキミを見に来たんだ」

「何故……?」

「それは秘密だ。ほら、授業が始まる。私たちには構わず学生の本懐を遂げるといい」

 

 その本懐を遂げる邪魔をしているのは誰か。

 そんな風に言い返したくなるも、サーゼクスの言う通り英語の教師がやってきたため、これ以上の質問は出来なくなってしまった。

 

 礼の後、着席すれば授業参観、親御の前ということもあり気合いの入った男性教諭が個包装された何かを生徒一人一人に配っていく。

 

 見ると、中に入っているのは紙粘土。

 まさかの英語、英会話とは無縁の物体が現れてしまった。

 

「いいですか、皆さん。今、皆さんにお配りした紙粘土……これで、好きなものを作ってください。それで生まれる英会話はあります! 親御さんもお子さんが困っているようであれば助けてあげてください! それでは、さっそくレッツトライ!」

 

 英語の授業が図工の授業へと早変わりした瞬間だった。

 もはや男性教諭による授業放棄にも見えるが、皆それぞれ渋々ではあるものの紙粘土を捏ね出した。イングヴィルドもエイミィーも始めているようで、どうやら出遅れたのはアルヴェムだけらしい。

 

 相変わらず突き刺さり続けるサーゼクスとグレイフィアからの視線。

 何を考えているかはわからないがアルヴェムの一挙一動に目を光らせているようだ。授業中にも関わらず、これほど居心地の悪さを感じるとは。授業参観に親が来て欲しくないと言う生徒の気持ちがわかった気がする。

 

 サーゼクスたちのおかげで一つ学びを得たわけだが、アルヴェムの手は一向に進まない。

 好きなもの、そう言われたところで何もないのが事実だ。そのような感情を抱いたことがない。

 

 授業時間は五十分、これが評価に繋がることもないだろう。もう時間が経つのを素直に待って、何か聞かれたら豆腐とでも答えよう。形を変えずとも、すでに出来上がっているようなものだ。

 

 そんなことを考えて、手を止めようとした瞬間、視線が強くなった気がする。具体的にはアルヴェムが座っている机の両側から、それぞれ分かれた視線が――

 

「何も作らないのかい?」

 

 そう問いかけてきたのはもちろん、サーゼクスだった。

 冥界の魔王ともあろう者が机の傍に腰を下ろしてアルヴェムを見上げており、グレイフィアも同じようにして見つめてくる。

 

「本当に今日はどうしたんですか? しかも、二人揃って……」

「先ほど担当教諭も言っていたではないか。子が困っているようであれば助けてあげて欲しいと、だから我々がこうして助力に入ったわけだ」

「いつから親になったんですか……」

「安心してくれ。今は私が父親、そして私の妻たるグレイフィアが母親としての役目をしてくれる。万全のサポート体制を約束しよう」

「今のどこにも安心できる要素はありませんでしたよ」

 

 サーゼクス、グレイフィアの両者に出会って何故か二人の繋がりを強く感じていたが、まさか夫婦だったとは。こんなところで明かされる事実ではなかったはずだ。

 

 それに前に戦った時には感じなかったが、魔王の職務を外れてプライベートになった途端に何故か『軽さ』を感じる。こういうのを制してくれそうなグレイフィアも今回ばかりは違うようだ。

 未だ形を変えず、長方形のまま放置されている紙粘土を見るなり、

 

「もし、これで『豆腐』などと言って提出する気ならば絶対に認めませんよ」

 

 思考を思い切り先読みされてしまった。

 グレイフィアもメイドの時とは雰囲気が変わっている。冷淡さはなく、しかし厳しさはある。どうやら授業参観の時はメイドとしての業務から外れているらしい。

 

 目的は不明だが、どうやら何か作るまで見逃してくれる気配はないようだ。

 どの親よりも生徒に近い状況で授業を受けている状況にアルヴェムは一度イングヴィルドやエイミィーへと半ば助けを求めるような視線を向けるが、見事二人ともに目を逸らされてしまう。

 

 溜め息を吐きたくなる気持ちを抑えつつ、

 

「とは言っても俺に好きなものなんてありませんから、作れと言われても無理な話ですよ」

「よく考えてみるといい。キミはこの世界に来て色々なものを見ただろう。生き物、建築物、食べ物……挙げればきりがないほど。その中で気になるものがあれば、それはきっと『好き』の一歩だろう」

 

 気になるもの、そう言われると様々なものが気になってはいた。

 悪魔を知るために契約を結んだイングヴィルド、一誠から借りたアダルトビデオ、悪魔の天敵となる光を扱う堕天使の実力、悪魔と天使という対極の存在から生まれたエイミィー。

 目に映る全てが気になり、生きるために必要だと研究してきた。それを『好き』の一歩だと言われても、その理屈で言ってしまえばアルヴェムはこの世界の全てが『好き』だということになる。

 

 そうなると、結局どれを作ればいいのかわからなくなり、振り出しに戻ってしまう。

 あまり腑に落ちていない様子のアルヴェム。その様子を見て、グレイフィアもまた言葉を紡いだ。

 

「だったら、あなたがこれまで出会ってきた中で失うことが怖いものはない? その怖さを持つものが、あなたが大切に想っているもののはずよ」

 

 恐怖心、そんなものはアルヴェムにはない。

 いや、この世界に来る以前にはあったのかもしれないが記憶がない上、そのような感情はすでに失われている。そのため、自らの命が失われる瞬間であっても恐怖を感じることはないだろう。

 

 これも仕方がないこと、そう納得する。

 自分の身でさえそうなのだから、他者に対する失う恐怖を感じることはないはずだ。

 

 そう考えていると、何やら教室がざわめき始める。歓声、だろうか。

 一誠の方から聞こえ、目を向けるとそこには――紙粘土で作ったとは思えないほど精巧に作られたリアスの全裸フィギュアが立っていた。

 

 同じ教室にリアスの兄サーゼクスがいるというのに、それを作る度量。そして、煩悩。戦闘能力では全く参考にする点はないものの、こういった面で一誠は異常な力を発揮する。

 

 あれは数えきれないほど洗練された妄想によって生み出された産物。対し、生徒たちからは自然と拍手と、リアスの全裸を知っていることに対する嫉妬の怨嗟で満ちていた。

 

 意外にもサーゼクスは快活に笑っており、グレイフィアは予想通り少々呆れた息を吐いている。

 最後にはリアスのフィギュアを賭けたオークションまで始まる始末。授業の雰囲気はどこへやら、結局アルヴェムは形を変えることもなく豆腐として提出するのだった――

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