ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
「男子生徒に堕天使が接触している……?」
「ああ。俺と同じクラスの兵藤一誠、彼と付き合っていると言っていた。ただの交際なら問題ないと思うが、俺に対する敵意が感じられたから念のため報告しておく」
放課後の部室、アルヴェムは今日の出来事をリアスへと報告していた。
今頃、件の一誠は夕麻とデートをしているだろう。休憩時間に自慢げにそう話していた。
「ありがとう、アルヴェム。堕天使が人間に接触したということは……間違いなく
「そういうこと、とは?」
「アルヴェムくんは
話に入ってきたのはリアスの傍らに立っていた黒髪の美少女――朱乃だった。
アルヴェムが理解できないでいると、朱乃もそれを理解して言葉を続ける。
「
「これ以上は扉の外であなたの言葉を待っている彼女にも聞かせてあげないとね。彼女にも関係のある話だと思うから」
リアスの言葉にアルヴェムはひとつ思い出した。
イングヴィルドは"眠りの病"から目を覚ましたのは特別な力があったからと言っていた。
てっきり強大な悪魔の力だと思っていたが、神器が関わっているというのか。
ともあれ、実際にイングヴィルドを呼ばないことには始まらない。
一度その場から離れ、オカルト研究部の部室から退室する。
扉の外で待っていたのはイングヴィルド。アルヴェムの言葉を聞いて、律儀にその場から一歩も動かずに待ってくれていた。
「話、終わったの?」
「いや、キミを交えて話したいそうだ。中に入ってくれ」
「……そう」
「不安か?」
「ううん。少し、緊張してるだけ。でも大丈夫……守って、くれるんでしょう?」
「ああ。今、興味深い力の話が出ているんだ。それにキミが関わっているとなれば、俺は今まで以上にキミに対する扱いを大事にするさ」
「うん……」
手を差し出せば、イングヴィルドもその手を重ねてくる。
エスコートする形でイングヴィルドをオカルト研究部の部室へ招き入れると、初めての場所にイングヴィルドはそそくさとアルヴェムの後ろに隠れてしまった。
「そう怖がらないで。私たちはあなたに危害を加えないわ」
リアスが優しく語りかけるとイングヴィルドはゆっくりとアルヴェムの背中から顔だけを出す。
警戒は解いていない。彼女の不安はアルヴェムの服を抓む力で伝わってくる。
「と言っても初対面だから警戒するのは当然ね。まずは私と眷属たちの自己紹介といきましょう」
そう言って、リアスは手で自らを指し示す。
「アルヴェムから聞いているかもしれないけど、私はリアス・グレモリー。家の爵位は公爵で悪魔よ」
「はじめまして、イングヴィルドちゃん。私、姫島朱乃と申します。どうぞ、以後お見知りおきを」
「二人は学園で"二大お姉さま"と呼ばれているようだ。男女問わず憧れの的らしい。全部聞いただけの話だがな」
「有名人、みたい……?」
「話しただけで裏でリンチされるそうだ。関わりたくない手合いだな」
「えぇ……ちょっと、怖いかも」
「こらこら、変な先入観を植え付けないの。あと、そんなこと絶対ないから」
情報源が松田と元浜なあたり情報には信憑性がないとは思っていた。
本人がそう言うなら、そうなのだろう。実際、この噂に関しては興味のなかったアルヴェムにとってはこれが落としどころだろう。
それよりも有名人、と言えばこのオカルト研究部には他にもいる。
「紹介するわ。裕斗、挨拶なさい」
「はい――木場裕斗です。よろしく、イングヴィルドさん」
「あれが"イケメン王子"木場裕斗だ。歩くだけで女子が歓声を上げる。手を振れば女子生徒が気絶する。魔性の男だ」
「あはは……アルヴェムくんも似たような状況じゃないか」
「そうなの?」
「声はよくかけられるな。編入したてで物珍しいだけだろう」
「……女子生徒からは部長を男性にしたイケメンだと人気です。紹介してと頼まれました」
話題に入ってきたのは小柄な少女。
アルヴェムからすると一つ年下の後輩で、彼女もまた人気者だった。
「ああ。俺もオカルト研究部に入ったことを話したら、元浜にキミのことを紹介してくれと頼まれたよ」
元浜は幼児性愛者――縮めてロリコン。
血走った目で必死に頼まれたが、まともに紹介すると小柄な少女の身にも危険が及ぶだろう。
「……申し遅れました。塔城小猫です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる小猫にイングヴィルドも少し頭を下げる。
リアス、朱乃、木場、小猫、アルヴェム、そしてこの場にいないもう一人。
それが現時点のオカルト研究部のメンバーだった。ちなみに全員が悪魔で、リアスの眷属となっている。
「自己紹介も終わったところでイングヴィルドさん――イングヴィルドと呼んでいいかしら?」
「はい、どうぞ……」
「あなたのことなのだけど、今直接会ってわかったわ。悪魔と人間の混血……悪魔としてのあなたは最上級悪魔以上の強大な魔力を、そして人間としてのあなたは神器をその身に宿している」
その言葉を受け、イングヴィルドは――特に驚いてはいなかった。
彼女自身、わかっていたのだろう。自分の身体にあるもうひとつの力を。
だが、アルヴェムが気になったのは、
「そういうのは見ただけでわかるものなのか?」
「オーラ、とも言えるのかしら。神器に目覚めているヒトからは特別な気配がするのよ。裕斗も神器を持っているのだけれど、本人が隠してもどこかしらに必ずその痕跡は出るわ」
リアスはそう言うが、アルヴェムには全くわからない。
種族、戦闘能力、その身に纏う力(悪魔の場合は魔力)などは読み取れる。
しかし、神器に限ってはその限りではないようだ。木場を見たところでさっぱりわからない。
どうやら、この世界でもかなり固有の力のようだ。
これを読み取ろうとすると神器を持っている者のデータが必要で、そうなるとイングヴィルドが神器を持っていたことはありがたい。
「まだしっかりと発現していないから種類まではわからないけど……恐らく、この異常な力の波動は神をも殺せる上位種――『
その言葉に部員たちも驚きを隠せない。
他の勢力に比べ、あまりにも非力で弱小な種族……それが人間だと思っていたが、そうではなかったようだ。
神器、その存在によっていくらでも力関係は覆る。
この世界で最も警戒すべきなのは三大勢力でもなく、こういった普通の風景に紛れている神器持ちなのかもしれない。
そう考えていると、アルヴェムの顔を見ていたイングヴィルドが小さな声で、
「アルヴェム、楽しそうね」
「世界の広さに打ちのめされたところだよ」
「そんな顔には見えなかったけど……でも、私はちょっと嬉しいかな」
「どうして?」
「ふふっ……今は内緒」
人差し指を口元に当てて、可愛らしい仕草を見せるイングヴィルド。
真意は不明だが、いつまでも内緒にするつもりはないらしい。
それだけ知れば次に確認しなければならないことがある。
アルヴェムは再びリアスへと視線を戻し、
「部長、それで彼女の処遇はどうなる?」
「保護観察対象者、ということになったわ。彼女の出生についても現在調査中で、目覚めたばかりで強大な魔力と超常の神器持ちともなればなるべくストレスを与えない環境の方が良いと納得してくれたようね。その代わり、しっかり守ってあげるのよ? もちろん、私たちも守るけどね」
「ありがとう。助かる」
「本当なら私の『僧侶』にして、さらにグレモリー家として守るつもりだったけど……『僧侶』の駒ひとつだと彼女を転生させるには足りないみたいだわ。まあ、その潜在能力だと当たり前ね」
「転生できないこともあるのか?」
「えぇ。まだ眠っている能力、元々持っている力が大きければ大きいほど消費する駒は大きくなるの。それに相手が神クラスなら、そもそも転生することができないわ」
悪魔の種族存続施策もどうやら限界があるようだ。
だが、イングヴィルドの力を調べる以上、完全に悪魔へとなってもらった方が都合が良い。
「さっき『僧侶』の駒ひとつでは転生が難しいと言っていたが、それ以外の駒だと転生できる可能性はあるのか?」
「もちろん。駒の価値は例えるなら『
「そうか……駒を手に入れたかった場合はどうすればいい?」
「――上級悪魔を目指しなさい。『悪魔の駒』は上級悪魔になれば与えられるわ。今のあなたの階級は下級、上級にはどんどん成果を挙げないといけないわね」
階級制、人間界でもその制度はあった。
確かに悪魔を増やせる代物を何の信用のない者には渡さないだろう。
そうなると――
「だったら、当面の目標は上級悪魔になって『女王』の駒を手に入れることだな。そうすればキミの力も今より安定するだろう。時間はそうかけない。少し待っていてくれ」
「うん、待ってる」
「あらあら、羨ましいですわね。そこまで殿方に想ってもらえるなんて」
言って、クスクス笑う朱乃。
茶化されたイングヴィルドは顔を赤くして顔をアルヴェムの後ろに隠してしまう。
「姫島先輩、あまり彼女をからかわないでくれ」
「うふふ、羨ましいのは本当のことですよ?」
いつもにこにことした笑みを浮かべている朱乃の感情はわかりづらいものだ。
だが、本人の言った通り悪意はない様子で、リアスもつられて笑う。
「ふふ、からかわれているのはどっちかって言うとあなたの方よ。朱乃はあなたの反応を見て楽しんでいるんだから」
「そうなのか。わからなかった」
「アルヴェムくんって、ちょっと変わってるよね。何というか、俗世から離れているというか……」
真顔で答えるアルヴェムに木場も苦笑する。
自分では普通に対応しているつもりだが、どうやら変に見えるらしい。
と、今度はイングヴィルドが口元を手で隠しながら耳打ちしてくる。
「(違う世界から来たこと、話してないの?)」
「(ああ。言ったところで信じられないだろうし、それで態度を変えられても今後に支障が出る。俺は『不思議ちゃん』で行く)」
「(不思議、ちゃん……?)」
「(この世界ではそういうキャラがあるらしい。松田と元浜にそう言われたからな)」
不思議ちゃん。便利な隠れ蓑があったものだ。アルヴェムはそう感心する。
しかし、変にこのまま会話し続ければそれこそ怪しまれそうだ。
そう思ったが、こそこそと目の前で話そうともリアスは嫌な顔ひとつしていなかった。
上級悪魔は心が広いのか……と思った矢先、アルヴェムの頭の中に電子音が響く。
使い魔に監視されていた一見からサーチ範囲を広め、生命反応の変化にも対応するようにしていたが、早速反応があったようだ。
「……? どうしたのかしら?」
「公園、そこで人間が死にかけている。近くには堕天使がひとり……」
アルヴェムの言葉に部室にいたメンバーが一斉に雰囲気を変える。
そこまで言って、アルヴェムは詳細を調べずとも感づいた。
人間と堕天使、他種族同士でそこまで接触していたのは直近で一誠のみ。
時刻にして夕暮れ。ちょうどデートが終わった頃で時間帯としては十分にあり得る。
「本当に神器を宿していた……か」
神をも屠る可能性のある神器。そんな危険なものを三大勢力が放置するわけもない。
人がごみを掃除するのと同じような感覚で彼らも同様のことをしているだろう。
エロDVDの借りもある。堕天使のサンプルも欲しかったのでちょうど良い――そう思った時、立ち上がったリアスの手がアルヴェムの肩に置かれる。
「ダメよ、アルヴェム」
「顔見知りの仇を取るぐらいしてもいいはずだ」
「アルヴェムくん、三大勢力の戦争は未だに冷戦状態……少しの火種が再び戦火を巻き起こすことになります。これがもし堕天使の総意による行動かどうか、それを確かめない限りこちらの一存では行動できません」
「だから、あなたの行動は許可できないわ。主としての命令、従ってもらうわよ」
リアスたちの言葉、そしてそっと手を重ねてくるイングヴィルド。
彼女たちの目にアルヴェムは踵を返そうとした足を止め、
「わかった。だが、ひとつ質問いいか? 部長、あなたの足元が光っているようだが……」
「え……?」
話に夢中で気付いていなかったリアスの足元は確かに光り輝いていた。
魔法陣の光。しかもこれは召喚された時に発生する転移の魔法陣だ。
「なるほど……私を呼んでいるのね。わかったわ。少し出てくるけど、心配しないで。すぐに用を済ませてくるから」
そう言って、リアスは転移の光に消えていく。
残されたオカルト研究部のメンバーは顔を合わせ、怪訝そうにするばかりだった――