ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第五十話『魔王少女との遭遇』

「俺に疲労なんてないはずだが……今日はやけに疲れた気がするな」

 

 昼休憩に入った頃、アルヴェムは天井を見上げて息を吐いた。

 結局、サーゼクスとグレイフィアは二限目までいて、ようやく去ったかと思えば今度はリアスの父であるジオティクスがやってきたのだ。

 

 最初はリアスがよく可愛がっている一誠を見に来たのかと思ったが、サーゼクス同様そうではなくアルヴェムを見に来ていた。あまりにも視線が集中するため、こちらも無駄に精神を摩耗した気がする。

 

 本当に何なのだろうか。何か目的があるなら早く言って欲しい。

 向こうは何かしら事情があっての行動だろうが、受けている側としてはあまりにも不気味な行動の数々に不信感しか募らない状態だ。

 

 そんな状況にも関わらず、エイミィーはクスりと笑んで、

 

「ふふ、お疲れ様です。アルヴェム様は随分と魔王様たちに好かれているんですね」

「笑い事じゃないよ。ああいうのはイッセー相手にすればいいのに」

「でも、珍しいものが見れたわ。アルヴェムの焦った感じ、初めて見たから……」

 

 アルヴェムの狼狽とは裏腹にエイミィーとイングヴィルドは楽しそうだ。

 だが、昼からも同様のことをされると流石に面倒なことは事実。仕方がないとアルヴェムが立ち上がると、イングヴィルドが小首を傾げ、

 

「どこかに行くの?」

「部長に言いに行く……流石に迷惑だ。それとなく身内に注意させれば止むだろう」

「授業参観なんて早々ないものですし、放っておいてもいいのでは?」

「これは俺の推測ではしかないが、放置しておくと絶対にろくなことにならない。会談後の一件もあるし真意が見えない以上、交渉で下手(したで)にならないように牽制は打っておく」

「そこまでしなくても良いと思いますが……だったら、私も――」

 

 と、エイミィーが立ち上がった瞬間、アルヴェムの計測器に反応があった。

 高い数値……これは悪魔特有の魔力反応だ。それも相当なもの、会談のことを考えれば高位の悪魔が来るのは当然だがこの数値は魔王クラス。新たな魔王の出現だろうか。

 

 そうだとすると警戒する必要はないが、アイシェルの一件がある。

 悪魔と言えども必ず敵意がないとは言い切れない。だったら――

 

「イングヴィルド、エイミィーは教室で待機していてくれ。学園内に高い魔力を持った悪魔がいる。味方か敵かわからない以上、万が一に備えて俺が一人で見てくる」

「でも……」

「ビットを置いていくから安心してくれ。じゃあ、行ってくる」

Variable Bit(ヴァリアブル ビット)

 

 言って、背中から小型ビットをいくつか出すと、他の生徒に見えないように特殊迷彩を施す。これで他者は視認することができず、騒ぎに発展することもない。

 何か言いたげなイングヴィルドだが、あまり構ってやれる状況ではなかった。

 アルヴェムは歩みを早めると、すぐさま教室から出て行く――

 

 ―○●○―

 

 教室から出て行ったアルヴェムの背を見て、思わずイングヴィルドは息を吐いてしまった。

 アルヴェムに対する落胆、ではない。一緒についていくこともできないほど認めてもらえていない自分の無力感に苛まれたせいだ。

 

 流れを見ていたエイミィーも、これには苦笑して、

 

「仕方ありませんよ。未知の相手である以上、アルヴェム様はご自分が向かうこと、イングヴィルド様を戦場から遠ざけることを最善策としていますから」

「でも、もし……あのままアルヴェムがいなくなったらって、考えたら――」

「アルヴェム様に限ってそんなことは……」

 

 と、そこまで言いかけてエイミィーは一度言葉を止めた。

 イングヴィルドの気持ちを考えてくれたのだろう。アルヴェムの実力は未知数、しかもすでに最強の魔王とも戦っている上、エイミィー自身も敗れている。しかし、それだけで絶対に死なないとは言い切れない。

 

 離れる理由は死だけではないのだ。

 アルヴェムがイングヴィルドやエイミィーに価値を感じなくなればそこまでであり、気付いたらいなくなっている可能性も十分にある。何か、アルヴェムを繋ぎ止めるものが必要なのだ。

 

 それがイングヴィルドにとっては『ふたりぼっちの契約』。

 しかし、どこまで効力があるかはわからない。所詮は口約束でしかないものなのだから。

 だからこそ、イングヴィルドがそれ以上に繋がりを求めているのは当然のこと。それを理解して、エイミィーは言葉を切り替えた。

 

「庇護下の立場でいる以上、アルヴェム様は決して態度を変えないでしょう。必要なものの一つは『力』です。アルヴェム様が認めるほどの強さ……私を基準にしていただけると良いと思います」

 

 一瞬で街を更地にする隕石群、そして無尽蔵に神滅具を生み出し無限の兵装を宿す肉体には魔王級の魔力と相反する濃度の光を持つ存在。そこまで行くにはあまりにも壁がある気がする。

 一度、アルヴェムにエイミィーがどれだけの強さを持つのか聞いたことがあった。

 

『もし、俺がいなかったら本当にエイミィーは数分で人間界を滅ぼしていたよ。あの隕石だけで地表は焼かれ、二度と生物が住めなくなっていた。それに本人を狙ったところで、あの武装と本体性能は止められるものじゃない』

 

 ある種、サーゼクスよりも実力を評価していた。アルヴェムも認めるほどの実力、そこまで実力を上げられればきっと隣に立つことを認めてくれるだろう。

 そう考えていると「でも」とエイミィーは付け足す。

 

「もうひとつが『行動』だと思いますよ。このまま素直に言うことを聞いていると、アルヴェム様もそれでいいんだと続けてしまいますし適度な反抗をしていかないといけませんね。対等な立場でいるにはしっかり怒ることも重要だって、漫画にも描いてありましたから!」

「っ! ……そうね。行動しないと、始まらないわね」

 

 最近、適度な暇ができたからと恋愛漫画にハマっているエイミィーからの助言。

 情報源はやや不安だが、行動しなければ始まらないことは事実だ。

 エイミィーのおかげで沈みかけていた気持ちが持ち直される。そうなると――

 

「私が離れようとすると、このビット……アルヴェムに教えてしまう、よね?」

「それならお任せください。実はアルヴェム様にも内緒で新しく知った神器があるんです」

 

 言って、エイミィーは透明になっているビットたちへと目を向けた。

 一瞬、その眼が赤く点滅したかと思えばビットの様子がおかしくなり、教室の後ろにある棚へとそれぞれ着地していく。そして、すぐさま電源が停止されたように動かなくなってしまった。

 

「『機界皇子(アンノウン・ディクテイター)』、ちょっとした縁で知ったものですが機械を自在に操ることができます。アルヴェム様のものだと一時的にしか効果はないようですが……」

「縁……?」

「この街に住むようになってから一度私に接触を図ってきた人が持っていた神器です。まあ、すぐに追い返したんですけど……ともあれ、これで自由に動けますよ。さあ、アルヴェム様を追いましょう」

「うん、ありがとう」

 

 何だか悪いことをしている気がするが、楽しくなってきている自分がいる。エイミィーも恐らくそうなのだろう。

 イングヴィルドも頷いて、エイミィーと教室を抜け出していく――

 

 ―○●○―

 

「……何だ、この状況は」

 

 計測器が捕捉した地点に向かってみれば、そこは体育館。

 入るなり目についたのは多くのカメラがフラッシュを焚き、人々の熱気で満ちている空間だった。

 人々は一か所を中心に円状に広がっており、どうやらあの中心に被写体がいるようだ。

 

Jamming Pod(ジャミング・ポッド)

 

 カメラマンの中には一般生徒も混じっており、これ以上の騒ぎは被害を拡散させる一方。

 そのため、アルヴェムは背からパイプ状の機器を展開して一斉に電波を発する。すると、カメラマンたちの目が虚ろなものとなり、電波に混じらせた『被写体のことを忘れ、体育館から速やかに退室する』命令を実行していく。

 

 カメラのデータを消しながら立ち去っていくカメラマンたちに、今まで被写体になっていた人物も驚いているようだ。

 見ると、被写体だったのは女性。それも魔法少女……だろうか、とりあえずアニメのキャラクターを模した服装で先端がハート状になっているスティックを持っていた。

 

 ここは学業を本分とする学び舎、そんな場所で何をしているのかと言いたくなるも他の者たちがいなくなったため必然と魔法少女と目が合う。

 

 どうするべきか、アルヴェムは一瞬判断に迷った。

 見るからに敵意はない。それどころかこちらを見て笑顔になったほど。その反応を見て、アルヴェムが何か言う前に口を開いたのは、相手の魔法少女の方だった。

 

「あーっ! キミ、アルヴェム・オーヅァくんだよね!」

 

 嬉しそうな声を上げる魔法少女。

 猛烈に嫌な予感がしたが、悲しいことに魔法少女とどこかで繋がっているらしい。

 小気味良いステップで近付いてきたかと思えば、アルヴェムの頬に両手を添えられて丸い双眸がじっと見つめてくる。

 

「やっぱり、映像で見た時から思ってたけどホントにサーゼクスちゃんにそっくり!」

「映像……? もしかして、サーゼクス様との一戦を見ていたんですか?」

「うんうん、いきなりだから私もびっくりしちゃった☆ 魔王全員見てくれって、サーゼクスちゃんが言うから見てみたらそっくりさん同士の戦いが始まって、それもすんごい強かったんだから!」

 

 朗らかな笑顔で楽しそうに語る魔法少女に、アルヴェムもその正体が凡そわかってきた。

 魔王であるサーゼクスをちゃん付け、魔王全員が見ていたあの一戦を見れたということは間違いなくそうなのだろう。

 

 どことなく察したのをわかったのか、魔法少女は横倒しにしたピースをしてウインクをし、

 

「うん☆ 何を隠そう私こそ、現四大魔王の一人セラフォルー・レヴィアタンなのです! ブイブイ☆」

 

 本当に大丈夫なのか、現政府……そう思うほどにノリが軽かった。

 かつて内乱で敗北し政権を明け渡すことになった旧政府が不憫でならないほど、セラフォルーの口調は明るく、そして軽い。それもコスプレ付きで。

 

 正直、現四大魔王唯一の女性と知識ではあったが、人物像は妖艶な女性を想像していた。蓋を開けてみれば明るく快活な魔法少女――もとい魔王少女。

 

 ただ、これが魔王としての激務が引き起こしたストレスの果てだと言うのなら納得はできる。アルヴェムはそういう形で己を納得させ、問いかけてみた。

 

「授業参観に来た……ということは身内でもいるのですか?」

「うんうん☆ ソーナちゃんもここに通ってるって言うから特急で来たの! でも、ソーナちゃんったら酷いのよ? 今日のこと黙ってたんだから!」

 

 まさか生徒会会長ソーナ・シトリーの身内だったとは。

 あの厳格なソーナの姉、そう考えると滑稽に思えてくるがソーナ自身は笑い事ではないだろう。何なら授業参観に来て欲しくなかった理由が聞かずともわかる。

 

 ともあれ、一安心だ。

 今回ばかりは敵性もなく、このまま放置していても問題はない。

 とりあえず、今もぷりぷり怒っているセラフォルーにフォローを入れておく。

 

「まあ、ソーナ会長はセラフォルー様に劣らず公私共に忙しい方ですから忘れていたんでしょう。決して悪意があって黙っていたわけではないと思いますが……」

「だよね! ソーナちゃんが私に黙ってるわけないよね☆」

 

 心配するまでもなく、ポジティブ思考の持ち主だった。

 

 しかし、性格はともかく現魔王のレヴィアタンとの接触、それも二人きりなのはそうない機会だ。

 何か聞いておくべきことが――

 

「ね、ね? アルくんはソーナちゃんと仲良しなの?」

 

 アルヴェムが問いかける前にセラフォルーが顔を近付けてきていた。

 早くも愛称を付けられたアルヴェムだが、残念ながらアルヴェムはソーナとほとんど関わりがないために人柄をほとんど知らない。

 

 知っているとすると伝聞で聞いた『厳しいに厳しいを重ね捲くったスイカに塩をかけた程度の優しさ』を持つ女性だということぐらいだ。

 どんな答えを期待しているかは知らないが、

 

「いえ、軽く挨拶した程度でまともに話したことはないですね」

「う~ん残念☆ ソーナちゃんが学園だとどんな感じなのかな~って知りたかったんだけど……」

「ああ、その程度ならわかりますよ」

「ホント!? 教えて教えて!」

「まずは――」

 

 駒王学園に通うにあたって、全生徒の評判程度は調べ上げた。

 圧倒的な票数で生徒会会長の座を手に入れたソーナ。その功績の数々を知っている限り、客観的な視点でセラフォルーへと伝えていく。

 

 部費によっていざこざが起きた部への仲介。用務員となっていた堕天使たちへの教育。校舎の外観、内装の維持のためにどれだけ尽力を尽くしているか。

 やはり並々ならぬ愛情を妹へ注いでいるため、セラフォルーもまるで自分のことのように嬉しそうな表情で聞いていた。

 

 これが家族への愛情、というものなのだろう。

 アルヴェムには到底理解できない――

 

『例えどれだけ離れていても私は……私たちはあなたのことを愛しているわ。だから、忘れないで。あなたは――』

「――ッ!」

 

 不意に走った頭への痛み。

 いや、アルヴェムの肉体に痛覚はない。記憶媒体の暴走が痛みを受けたと感覚を勘違いさせたのだ。

 しかし、それ以上に気になったのはノイズ混じりに映った一瞬の光景。

 

「紅い髪……」

 

 そんな女性、世界を探したところで数が少ないだろう。

 それに声質、一瞬聞いただけの勘違いでなければ――あれはリアスのものだ。

 

 ――自分とリアスには出会う前から繋がりがある?

 

 そんな疑問が過ぎるが、そこでセラフォルーが何か言っているのが聞こえてきた。

 楽し気な表情から一変、セラフォルーは怪訝そうな表情をし、

 

「……? どうしたの? どこか痛い?」

「いえ……大丈夫です。それより、何か言ってませんでしたか? 聞き逃してしまって……」

「えっとね、ソーナちゃんのことを狙ってる子がいないかなって思って☆ ほら、ソーナちゃんかわいいじゃない? だから、悪い虫が寄ってきてたらお姉ちゃんが退治しないと!」

「悪い虫……」

 

 悪いかどうかは知らないが、狙っている者なら覚えがある。

 遡ることエクスカリバー破壊作戦の時、グレモリー眷属以外で協力してくれた者――

 

「デキちゃった結婚したいって言っていたヤツなら知っていますが……」

「誰それ! お姉ちゃん、絶対許さないんだから!」

 

 ぷんすかと怒りを露にするセラフォルー。

 身に纏う魔力の質量が変わり、今にも暴れ出さん勢い。間違いなく対象は塵も残さず消えそうだ。

 

 しかし、現四大魔王の一人レヴィアタンの実力が少しでも見られるのならば、研究の一歩としては良いかもしれない。同じレヴィアタンであるイングヴィルドの強化に繋がる何かも見られるはずだ。

 

 ただ、本当に言っていいものだろうかと一瞬アルヴェムも迷――

 

「おい、そこの二人! ここで何してるんだ!?」

「セラフォルー様、あいつです」

「……え?」

 

 不意に聞こえた声。

 アルヴェムは反射的に入口に現れた匙を指を差す。

 すると、セラフォルーがその姿を捉えた途端、持っていたスティックの先端に莫大な魔力が形成されていくのを見た――

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