ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
「ちょ、待て! 死ぬ死ぬ!! マジで死ぬ!!」
体育館の中、絶叫を上げながら走るのは匙だ。
そのすぐ後をいくつもの魔力線が追い、体育館がいくつもの爆発を引き起こす。その度に体育館が地響きし、このままではいつ崩れてもおかしくない状況だ。
魔力を放っているのはハート状のスティックを構えた現四大魔王の一人セラフォルー・レヴィアタン。
何とも大人気ない話だが悪い噂を聞いたセラフォルーは妹を守るために匙を排除しようとしている。何も知らない匙は面識があるかはわからないが、いきなりの特大攻撃に涙を流しながら走っている。
この混沌とした状況にアルヴェムはとりあえず周りにビットを飛ばしてバリアを作り、被害を体育館のみにしている。
事の発端はセラフォルーに匙がソーナとのデキちゃった結婚を目指していることを言ったことだが、それは匙自身が身から出した錆。これでデキちゃった結婚を遂げるためには現レヴィアタンという一生をかけても超えられないような壁が立ち塞がる現実を知っただろう。
「ふむ……これは一体どういう状況なのかな?」
そう問いかけてきたのはリアスの父であるジオティクス。傍にはサーゼクスとグレイフィアもいる。
どうやら匙が生徒会の一人として、悪魔側の主賓であるサーゼクスたちを案内していたようだ。そして、セラフォルーが引き起こしたカメラマン騒ぎを聞きつけて体育館へ急行。そして、いきなり襲撃された。
問いかけにどう答えるべきか少し考えたが、直球で伝えることにする。
「今追いかけられている匙……ソーナ会長の『兵士』が前にソーナ会長とデキちゃった結婚したいと言っていたことをセラフォルー様に伝えたらこんな状況になっています」
「そうか……彼はデキちゃった結婚がしたいのか。しかし、セラフォルー殿は妹君を何より大事にされている。果てしなく厳しい道のりになるだろうね」
「ははは、いいではありませんか。悪魔として夢は果てしない方がいい。功績を挙げ続ければ、堅牢な牙城も崩れるというもの。彼には頑張って欲しいですね」
「その頑張りを見せる前に命が果てそうよ、彼」
などと、グレモリー親子やグレイフィアが話すもこのまま放置していれば匙は間違いなく死ぬだろう。
匙を利用してセラフォルーの魔力を計測しているアルヴェムはもう少し様子を見るつもりだったが、体育館の中にリアスたちまで到着してしまった。
「えっと……どういう状況なのかしら?」
入ってきたリアスもまたジオティクスと同じような反応をしていた。
とりあえず、一誠、アーシア、木場、朱乃も増えたことでアルヴェムは改めて事情を説明。セラフォルーが現レヴィアタンだと知ると一誠は酷く驚いていたが、それどころではない。
「おま、ダメだろ! あいつの夢を身内に伝えたら!」
「……? 確かイッセーは部長の乳房を吸うのが夢だったか。他者に言うのが恥ずかしい夢なのか? あの時は涙ながらに語っていたというのに」
「言うな言うな言うな! サーゼクス様と部長のお父さんの前だぞ!!」
思わぬ飛び火を受けた一誠。リアスは直球で願望を受けたことで顔を赤くし、何故かジオティクスとサーゼクスは笑っている。もはやグレモリー家は何でもありの状態だ。
「とりあえず、匙くんを助けた方がいいんじゃないかな……? このままだと、本当にセラフォルー様に殺されそうだよ」
「アルヴェム、あなたが火種なんだから助けてあげなさい」
「俺としてはもう少し現魔王の魔力を見たいんだが――」
「早く。これは主としての命令よ」
そう言われてしまえば止めざるを得ない。
問題は止める手段だが今セラフォルーはストレス上昇中。そのストレス値を下げる効果はすでにイングヴィルドで実証済みのため
気は進まないが、セラフォルーと匙の前に立ちアルヴェムは両腕を広げる。
それを見たセラフォルーは一瞬驚くも、
「アルくん、前に出てきたら危ないよ! 今、天誅してるところだから!」
「その天誅をどうにかやめてくれませんか? 彼、一応ソーナ会長の眷属ですし――」
「ソーナちゃんの眷属がデキ婚狙ってるの!?」
新事実が火に油を注いでしまった。
どうやらまだ匙とセラフォルーは面識がなかった様子で、スティックに集約される魔力の密度が上がった気がする。
とりあえず、ビットのバリア展開による障壁で魔力弾から匙を守りながらアルヴェム自身は体勢を低く構える。そして、タックル気味にセラフォルーの間合いに入るとクリンチして制圧を試みる。
「お、おいアルヴェム、これどういう状況!? 何で俺いきなり命を狙われてるんだ!?」
「この人はソーナ会長の姉で現魔王のセラフォルー・レヴィアタン様だ。キミがソーナ会長とのデキちゃった結婚を狙っていると言ったらキミの命を狙い始めた」
「お前のせいかよ!! ていうか、会長のお姉さん!? 現魔王!? どこからツッコんだらいいかわからねえけど、とりあえずヤバいってことはわかった! 全部お前のせいだけど!!」
本当に知らなかったのか驚愕を隠せない匙。
そうしているうちにもセラフォルーはクリンチを受けても前に出続けようと力を前方に込める。
流石は魔王。魔力で身体能力を上げているのか、相応の力で受けなければ持っていかれそうになる。
そんな色々と混沌とした状況に次いで現れたのは――ソーナだった。
騒ぎを聞きつけたのか、後ろには副会長の椿を連れており、体育館内の惨状を見て驚きを隠せない。
「何事ですか一体……って、お姉さま!?」
「あっ、ソーナちゃん! ちょっと待ってて、すぐそこの悪い人を成敗するから☆」
「サジは私の眷属です。決して悪い人では――というより、その恰好は何ですかお姉さま。ここは学び舎なのですから、その、もっと相応しい恰好を……」
「お姉ちゃん、魔法少女に憧れてるってソーナちゃん知ってるじゃない! ……って、それどころじゃなくて! ソーナちゃんとデキ婚しようとしてるの! アルくんから聞いたんだから!」
今もなお突き進もうとするセラフォルーの言葉に、ソーナの視線が今度はアルヴェムへと向けられる。
ソーナほどの頭脳でもいまいち状況を飲み込めていないようだが、確認を取ろうとしているようだ。
「アルヴェムくん、今の話は本当ですか? サジがそのようなことを言うとは思えませんが……」
「あー……申し訳ありません。俺の勘違いだったみたいです」
「えぇっ!? 勘違いだったの!?」
この状況を鎮めるため、アルヴェムは嘘を吐くことにした。
今まで意気揚々と匙を成敗という名の極刑にしようとしていたセラフォルーはようやく前に進む力が抜ける。
だが、力が抜ける瞬間が悪かった。
セラフォルーの力と押し合う形になっていたアルヴェムよりも早く力を抜いてしまったので、必然的にアルヴェムの力がセラフォルーを押す形で進んでしまう。
「きゃっ!?」
するとどうなるか。答えはセラフォルーを押し倒す形で前に倒れてしまった。アルヴェムがセラフォルーに覆い被さる形で倒れ、顔には柔らかな感触が伝う。
考えずとも感触の正体が一瞬で何かわかってしまった。
そして、痛烈に感じる嫌な予感――それも外すことなく、しっかり当たる。
「アルヴェム、いる? ここで騒ぎがあるって、聞いたから……」
今日何度目の乱入か、最後はイングヴィルドとエイミィーが来てしまった。
柔らかな感触から顔を上げれば、見えたのは真っ赤に顔を染めたセラフォルー。そして、アルヴェムですら後ろを振り向くことを躊躇するほどの重圧が襲い来る。
「わ、わわ……私、ちょっと天界に攻め込んでくる!!」
「お姉さまっ!? そんなことをすれば会談が――」
これから共に事情を説明して欲しかったセラフォルーは立ち上がるなり、即座に走り去っていってしまった。状況も良く分からないままソーナはその後を追っていき、残ったのはアルヴェムが結果的に作り出してしまった負債だけ。
ふぅ……と、吐く意味もない長い息を吐き、一度天井を見上げる。
今回ばかりは言いくるめるのも無理だな、とそんな確信を抱きつつ意を決し、振り向く。
そこにあったのは見たことがないほど冷たい笑みで、全身から黒い怒りのオーラに満ちたイングヴィルドの姿だった。そして、その隣には苦笑を隠せないエイミィーもいる。
こういう時、後手の対応をすれば状況はより悪くなってしまう。だったら――
「これには事情が――」
「へぇ……女の人の胸に、顔を埋める事情があるの……?」
あまりにも剣呑とした雰囲気を身に纏うので、この場にいる誰も喋ることができない。あれだけ騒がしかった体育館内がその様相をがらりと変え、静まり返った中でイングヴィルドの足音だけが響く。
完全に怒っている。
いくら感情の機微に乏しいアルヴェムでも、すぐに理解ができた。
目の前まで来たイングヴィルドは冷たい笑みのまま、アルヴェムとしっかり目を合わせ、
「ねえ、アルヴェム……答えて? 私には、どうしてもわからないの。万が一に備えて……あなたは、胸に顔を埋めに来たの?」
怒気を含んだ静かな言葉。
何故かはわからない。ただ、怒っているのは事実だ。
今の状況で
だとすると、今自分にすべきことは何か。
考えはすぐにまとまり、アルヴェムは――その場に跪いた。
日本に伝わる誠意を伝える構え、すなわち正座だ。
「過程はある……あるんだ。だが……結果的には、このような肉体的接触に発展してしまった。それは事実だ……すまない」
こんな時は素直な謝罪に限る。
頭を下げたのを見るとイングヴィルドも納得してくれたのか一息吐いて、冷たい笑みからようやく普段通りの表情へと戻ってくれた。
これで一見落着、と思いきやイングヴィルドは少し考える素振りを見せる。
まだ怒りは収まっていないのか。これ以上の手はないアルヴェムだが、それは杞憂だった。
イングヴィルドが正座したままのアルヴェムの顔を自らの胸に埋めるようにして抱きしめてくる。
唐突な行動に呆気に取られてアルヴェムは目を丸くするも、イングヴィルドは構わず頭に手を置いて撫でてきて、
「ねえ、アルヴェム。私にも、許せないことがあるの。何か、わかる……?」
「……皆目見当もつかないな」
「…………」
ジト目で見られてしまうも、わからないものはわからない。
あまりにも素直に即答しすぎて機嫌を悪くしてしまったかもしれないが、下手に適当なことを言うよりも率直に返した方が良いと判断した。
その判断は正しかったようで、イングヴィルドの機嫌がこれ以上悪くなることはなかった。そして、理由も教えてくれる。
「だったら、これだけは忘れないで。エイミィーは良いけど……あなたの中を、私の知らない女性が占めようとするのは……嫌なの」
いつもは大人しいイングヴィルドも、どうやら独占欲があるようだ。
この場合、どう答えるのが正解なのか。アルヴェムは考えた結果、とりあえず頷いておくことにする。
満足のいく答えかは不明だが、イングヴィルドの表情を見る限り彼女の機嫌を損ねるものではなかったようだ。
「それじゃあ、先……戻ってるね。リアスさんに、お話……あるんでしょ?」
「あ、あぁ……」
アルヴェムを離すとイングヴィルドはどこか赤くなった顔を隠すように踵を返し、エイミィーを連れて体育館から立ち去っていく。
これで一安心。アルヴェムは胸の内に安堵を覚える。
と、そこで両肩にそれぞれ手を置かれる感覚があった。
振り向いてみると、そこに立っていたのはサーゼクスとジオティクス。二人とも微笑みを浮かべており、何か言いたげな様子を見せてくる。
「……何ですか、今度は?」
「グレモリー家の男は代々妻に頭が上がらないものだ。私もかれこれ今の年齢になっても週に三回は妻に本気で怒られている。一度くらい気にすることじゃない」
「もうどこから言えばいいかわかりませんよ」
ジオティクスから助言のようなものを受けるが、まずイングヴィルドは妻ではない上に自分はグレモリー家の者でもない。
しかし、そんなツッコミも何のその、サーゼクスが追随してくる。
「私もプライベートでは大体いつもグレイフィアに怒られているものさ。何、完全に無視されるまでは大丈夫だよ」
「あなた、笑い事ではありませんよ」
怒られているとは思えないほど朗らかな笑顔を見せてくる始末。
その頬をグレイフィアに引っ張られてもなお笑顔が崩れないあたり、流石最強の魔王とも言える。
「あの……誰か、俺の心配をしてくれねえか……?」
セラフォルーの魔力が少し当たっていたのか、体育館の床にできたクレーターの中心で倒れている匙は誰にも気付かれないままだった――