ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第五十二話『古参の僧侶は引きこもり吸血鬼』

 授業参観があった翌日の放課後。

 リアス率いるグレモリー眷属、そしてイングヴィルドとエイミィーは旧校舎にある一室の前に集められていた。

 

 一室――そこは『開かずの教室』と呼ばれている場所であり、扉には『KEEP OUT』と書かれた黄色のテープが幾重にも貼られている。どうやらそのテープが封印の役割を果たしているようで、外部からの侵入を拒んでいた。

 

 事前説明によると、この教室にいるのは今まで姿を見せなかったもう一人の『僧侶』。

 一年生の後輩らしく新顔以外は全員知っているようだが、その能力が危険視されていたためにリアスの眷属でありながら扱いきれないと上に判断されて今の今まで封印されていたらしい。

 

 しかし、フェニックス家との一戦とコカビエルの計画を阻止したことで手腕を上層部から認められ、アルヴェムがいるという前提で外に出すことを許されたらしい。

 

「一応、深夜には旧校舎内のみだけど移動を許されているの。でも、中にいる子はそれすらも拒んでいて……」

「引きこもりってことですか?」

「そういうことになりますわね。でも、パソコンを介した取引率は新参の悪魔の中でもトップレベルですわ」

「へぇ……それはすごいですね。会うのがちょっと楽しみになってきたな」

 

 などと、一誠が興味を示すがアルヴェムは中にいるのが何なのか、すでに分かっている。

 最初に旧校舎へ足を踏み入れる前に計測器で測定し、吸血鬼がいることは知っていた。人物像までは不明だが、接触しようにもリアスに止められていて今日まで叶わなかったのだ。

 

 吸血鬼――悪魔のように長寿であるが生きるために生物の血を必要とし、太陽と銀、ニンニクなどを苦手とする生命体。

 一見、悪魔とは相容れることはなさそうに思えるが、それも縁あって出会ったのだろう。

 

 リアスは手を翳すと扉に施された封印を解いていく。

 解除し終えると、まずはリアスと朱乃が二人で部屋へと入っていくが――

 

「元気そうで良かったわ、ギャスパー」

「イヤァアアアア!! 何事ですか!?」

 

 いきなりの絶叫。中性的な声だが、アルヴェムの計測器にはしっかりと『男』として記載されている。

 残念ながら一誠が願う美少女ではないようだ。中では朱乃も混じってギャスパーと呼ばれた少年を出そうとするものの、その度にギャスパーは叫んで話にならない様子だ。

 

「やですぅううう!! 外に出たくない人に会いたくない怖いんですぅううううう!!」

 

 引きこもりとして思った以上に重症らしい。

 事情を知っている木場は苦笑し、小猫は眉を顰めて呆れた表情を作る。

 こうなっては埒が明かない。アルヴェムは少し開いた扉を全開にして中に入ると、リアスと朱乃が丸まったシーツの塊を撫でて、できるだけ優しく外へ出そうとしていた。

 

 しかし、それではいつまで経っても状況は変わらない。

 こういうのは過去に何があろうとも甘やかせば甘やかすほど悪化する。必要なのは強烈なムチとほんのりとした甘さのアメ――それは人間について調べた際に出てきた統計に基づいた結論だ。

 

 部屋はカーテンを閉められているため薄暗いが、内装は可愛らしい装飾がいくつも施されている。各所にぬいぐるみも飾られており、浮いているとすれば今シーツの塊が蠢いている棺桶ぐらいだろう。

 

 近付くアルヴェムにリアスたちが何か言いたげだが、構わずシーツを掴むなり投げ捨てる。

 そこにいたのはアーシアとはまた違った薄い金髪と赤い双眸が特徴的な端正な顔立ちをした少年だった。それも制服を着ているが女子生徒用のもので、その見た目も相まって女子と間違えそうなほどだ。

 

「おぉっ! 外国の金髪美少女!」

「残念だがイッセー、彼は男だ」

「えぇええええっ!? マジかよ!!」

 

 現に騙された者が一人。

 アルヴェムの言葉でギャスパーのことを女子だと勘違いしていた初見の面々が驚く。

 女装男子という現実に一誠が打ちひしがれている間に話を進めてしまおうと、アルヴェムはその場に屈んでギャスパーと目を合わせる。

 

 ギャスパーは唐突に現れたアルヴェムに今にも叫びそうになるが――口が開いた瞬間、アルヴェムは自らの手のひらをギャスパーの口元へと押し付けた。

 

「少し、静かにしようか」

「ちょ、ちょっとアルヴェム、あまり乱暴な真似は――」

「いいから、俺に任せてくれ」

 

 リアスが止めに入ろうとするも、それを制止して言葉を続ける。

 

「俺は今、キミの顔をこのまま握り潰すことだってできる。でも、それをしないのはキミと友好的な関係を築きたいからだ。さて、それを踏まえてギャスパー……俺の言葉は聞こえているな? 聞こえていたら頷いてくれ」

 

 真っ直ぐ目を見据えて言えば、ギャスパーはすぐに目を逸らして過剰なほどに頷く。

 恐らくアルヴェムに対して命の危機を感じているのだろう。パニック状態から一拍開けさせることで落ち着かせ、その後で手を放す。

 

「まずはいきなりやってきて驚かせてすまない。俺は新たに『戦車』になったアルヴェム・オーヅァだ。そして後ろにいるのが――」

 

 そう言って、アルヴェムはギャスパーにとって新顔である面々の紹介を行っていく。

 その最中もギャスパーは無言で頷き、話を聞いてくれている。先ほどの手は十分に効果があったようだ。だからこそ、今度はゆっくりと問いかける。

 

「外に出ることに対して、何をそんなに怖がっているんだ?」

「え、あ……えっと……」

 

 問われ、ギャスパーは俯いて、言葉を選ぶ素振りを見せる。

 きっと、一言では表せないほどの経験があるのだろう。吸血鬼、そして悪魔ともなれば生い立ちがろくでもなかったことぐらいは察することができる。

 

「ゆっくりで良い。他者からの伝聞ではなく、キミ自身の言葉で聞かせてくれ。そのためなら俺はいつだって待つ。キミの気が向くまで、ここにいよう。邪魔ならば部屋の外で待つことにするよ」

 

 できる限り、優しい声音でそっと語りかける。

 そして、一度ギャスパーに背を向けると棺桶へともたれかかった。

 

 何分、何十分、何時間かかってもどうってことはない。

 何故ならアルヴェムはイングヴィルドやエイミィーの研究に熱が入るあまり、最近は悪魔の仕事を全くしていなかった。それによって当然、契約件数の低さをリアスに突かれることも多くなってしまっている。

 

 それならば、新たな種族の研究も兼ねてここに居続ける方が時間の有効活用とも言えよう。半ばギャスパーを利用する形にはなるが、彼が外に出ることになっても世話を続けていれば、リアスからも再度評価を受けられるはずだ。

 

 完璧な考え、アルヴェムは感心の眼差しで見つめてくるリアスを見て確信した。

 後はギャスパー次第だが、固く閉ざされた心はそう簡単には融解しない。

 沈黙が流れる中、アルヴェムは少しでもギャスパーの気を紛らわせようと一つ話をすることにする。

 

「少し、俺の話をしよう。俺は別の世界からこの世界にやってきたんだ」

「……え?」

「俺の身体は全て機械でできている。今見せているこの姿も数ある姿の一つとも言えるな。過去は別の生き物だったかもしれないが、何せ記憶がないんだ。もう本当の姿もわからなくなってしまったよ」

 

 訝し気に聞くギャスパーにアルヴェムは自らの腕を変形させると、驚きながらも恐る恐るギャスパーは問いかけてくる。

 

「何も覚えてないって、怖く、ないんですか……?」

「この身体を選んだと仮定しても、そう選択したのは俺自身だと思うし、今の力があったからこそ守れるものもある。だから、恐怖心なんてないよ」

 

 それに、とアルヴェムは付け足し、

 

「俺は強いから他者を手助けする余裕はある。それもキミが抱えているものを受け止められるぐらいはな」

「すごい、です……僕は自分のことすらまともにできなくて、僕の目で迷惑をかけないように閉じこもるのが精一杯で……それしかできなくて……」

「他者を思いやれる優しい心があるじゃないか。どれだけ強くてもその心を持てない者は多い。だから、自分をそう卑下するものじゃない」

 

 ようやくギャスパーが持つ事情の一つがわかったかもしれない。

 目、その単語を聞けばアルヴェムは再び振り向き、ギャスパーへと目を合わせる。最初はただ警戒してのことと思ったが、どうしても目を合わせようとしないあたり本当に何かしらの力が目に宿っているのだろう。

 

「だ、ダメです……っ! 僕の目に映ったら――」

 

 その瞬間、一瞬だけ部屋の空気が変わった気がする。

 アルヴェムは何も受けなかったようだが、事情を知らないアーシアやゼノヴィアは何かしらの違和感を覚えたようで自らの身体を見ていた。

 

「今のは……他の方々が一瞬動かなかった――いえ、時間を停められたのでしょうか。この力は神器によるもの、ですね」

 

 エイミィーは影響を受けなかったのか、冷静にそう口にする。

 神器を創り出す神器を持つエイミィーだからこそ、その力に対する感受性が高いようだ。

 

「そうなのか、ギャスパー?」

 

 視線を再びギャスパーへと移すと再びシーツにくるまって隠れており、大きく震えていた。きっと、ギャスパーが抱く恐怖心はこの神器に由来しているのだろう。

 

 目を媒介とした視界に捉えたものの時間を停める――アルヴェムとエイミィーは影響を受けなかったようだが、それでもあまりに強力な神器だった。

 

 問題点とすれば、ギャスパーの様子からして上手くコントロールできていないことだろう。

 アルヴェムはシーツの中で今も震えるギャスパーに手を添え、安心させるように優しく撫でる。

 続けていると、嗚咽混じりの声でギャスパーが息を詰まらせながらも話し始めてくれた。

 

 元々ギャスパーは吸血鬼の中でも名家に生まれたが、母が人間の妾ということもあり純血ではなかった。

 悪魔以上に血統を重んじる吸血鬼にとって人間の血が混じったギャスパーは差別対象そのものであり、幼少期から異母兄弟たちに虐げられて育ったという。

 

 ギャスパーの悲劇はそれだけに収まらなかった。

 人間界に行ったところで、今度は吸血鬼の血が彼を化物扱いさせる。しかも、人間の血を引いていたために神器を宿し、それも制御できない神器だった。

 

 神器の名は『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』。

 制御できず、いつ他者の時間を停めてしまうかわからない……そんな恐怖をギャスパーは常に抱えていたのだ。

 生まれ、そして持つ神器。その全てがギャスパーを俗世から遠ざけ、最期はヴァンパイアハンターに命を奪われ、偶然リアスに拾われたことで悪魔として転生した。

 

「だから……僕はここから出ちゃダメなんです。僕が出たら、皆に迷惑がかかるんです……」

 

 悲痛な過去に誰もが言葉を失う中、アルヴェムだけは違った。

 撫でるのを止めると、ギャスパーがいる棺桶の縁に座り込んで問いかける。

 

「ギャスパー、キミは本当にそれを望んでいるのか?」

 

 生まれの不幸、それは誰もが背負っている。人の数だけ悲劇があると言って良い。

 アルヴェムが知る中ではエイミィーがそうだ。彼女の受けた悲劇は例え世界を殺してでも収まらないほどの痛みと憤りを募らせた。それでも、彼女は復讐を止めて前に進むことを選んだのだ。

 

 だからと言って、ギャスパーも前に進むべきだとは言わない。

 アルヴェムにできることと言えば、選択肢を与える程度だ。

 

「キミには二つの選択肢がある。一つはこのまま引きこもって、いつか来る死まで外界から自分を閉ざし続けること。例えこのまま部屋に閉じこもっていても部長はキミの面倒を見てくれるだろう。それにキミの封印解除は俺がいる前提のもの……だから、俺の裁量でどうとでもなるわけだ。安心して引きこもるといい」

 

 リアスが何か言いたげな視線を向けてくるが首を横に振るって制止する。

 ここで誰かが介入してもギャスパーのためにはならない。どの選択肢を選んだところで、選んだギャスパーは今までなかった『勇気』を出したことになる。それは称賛されるべきものだ。

 

 返事はないが、嗚咽が止まっているためギャスパーは耳を傾けてくれている。

 ならば、とアルヴェムは言葉を続けた。

 

「もう一つは、外に出て自分の神器を扱えるようにして自由に過ごせるようにするか、だ。俺とエイミィーにキミの神器は効かないし、オカルト研究部のメンバーは新旧共に誰もが優しい先輩だ。例えどれだけ失敗を繰り返そうとも決して見捨てはしない」

「ほ……本当、ですか……?」

「この場にいる誰よりも化物の俺が言うんだから間違いないよ」

 

 その言葉を聞いて、シーツの中で悩む様子を見せるギャスパー。

 当然の葛藤だ。今まで誰にも頼ることができなかった時、急に手を差し伸べられれば誰だって躊躇する。

 

「そして、これは個人的な意見だ――俺にはキミが悪いことをしたとは思えない。生まれが吸血鬼でも神器持ちでも、そんなもので迫害される理由にはならないよ。ギャスパー、キミは自分の人生を思い描いて生きていいんだ」

 

 最後に一度だけ、ぽん……とギャスパーの背に手を置いたアルヴェムはそのまま立ち上がると、ギャスパーがいる棺桶から少し離れる。

 すると、もぞもぞとシーツの塊が蠢き出し、か細い声が聞こえてきた。

 

「ぼ……ぼ、僕、あの……っ!」

 

 何か言いかけて、そこからまた止まってしまった。

 声をかけようかとも思ったが、今ギャスパーは懸命に勇気を振り絞っているのだろう。

 邪魔をせず、今は見守る。この場にいる全員がそれを選択した。

 

 それから待つこと一時間ほど、悩んだ末にギャスパーは動く。

 シーツを纏ったまま立ち上がったギャスパーは頭部分を掴むと引っ張ってシーツを引き剝がした。その勢いで転んでしまうも、ふらつきながらでも立ち上がる。

 

「が、頑張ってみたいって、思います……っ!」

 

 勇気ある言葉。

 振り絞ったギャスパーの言葉に状況を見ていたリアスも思わず目尻に涙を溜めて泣きそうになってしまっている。早くも勇気を出した甲斐があったようだ。

 

「わ、わわ……っ!? 急に見られると困りますぅううううっ!!」

 

 しかし、一点に受けた視線に思わず神器を発動させてリアスたちを停めてしまう。

 どうやら前途は多難そうだ――

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