ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第五十三話『後輩指導と堕天使総督』

「ほら、走れ! 日中でも行動できるデイウォーカーだろう!」

 

 あれから少しして、ギャスパーは旧校舎付近にある広場でゼノヴィアに追いかけられていた。

 アルヴェム、イングヴィルド、エイミィーはその様子を見ていて、一誠とアーシア、ゼノヴィアはギャスパーの補助に回っている。

 ゼノヴィアが言うには『健全な精神を作るには、まず健全な肉体を手に入れる』らしく、そのため引きこもりで体力がないだろうと推定されたギャスパーに課せられたメニューだ。

 

 女の子走りだが、意外にもギャスパーは速い。

 いや、後ろを追いかけてくるゼノヴィアがデュランダルを構えながら追いかけてくるため、命の危機を感じて本能がそうさせているのだろう。

 

「……ギャーくん、好き嫌いしないでニンニク食べて。元気出るよ」

「好き嫌いじゃなくて食べちゃダメなのぉおおおお! うわぁああん!! 小猫ちゃんがイジメるぅぅうううう!!」

 

 普段周りに年上しかいないせいか、同期いじりに拍車がかかっている小猫。表情は変わらないが、ゼノヴィアと一緒にギャスパーを追いかける姿は何よりも楽しそうにして生き生きとしている。

 

「ひぃんっ! アルヴェム先輩、助けてくださぁあああいっ! めちゃくちゃされてますぅううううう!!」

「おいおい……」

 

 限界が来たのかギャスパーがアルヴェムに向かって走ってくるなり背後に回り、上着の中に隠れて抱き着いてくる始末。

 それでも追撃の手を緩めないゼノヴィアと小猫はそれぞれの武器を構えたまま、アルヴェムの前に立つ。

 

「こら逃げるな! いくらアルヴェムが優しくしてくれるからって、逃げてばかりでは強くなれないぞ!!」

「……そうだよ、ギャーくん。逆境に立ち向かわないと」

「ひぃいいいいっ! いきなりハードすぎるよぉおおおおっ!!」

 

 生まれたての小鹿のように背で震えるギャスパーに対し、アルヴェムも対応に困る。

 この特訓はそもそも聖魔剣関連で天使側からの打診があったためにリアス、朱乃、木場が外出することになり、その間にギャスパーを少しでも鍛えようとゼノヴィアがきっかけで始まったものだ。

 

 アルヴェムとしてはまず外の景色に慣れてからだと思ったが、武闘派の彼女は止められなかった。というより、止める前からゼノヴィアがギャスパーを追いかけ始めてしまったのだ。

 

「アルヴェムもアルヴェムだ。甘やかすからギャスパーに逃げ癖がついてしまうんだ」

「落ち着け。別に甘やかしてはいない。いきなり追いかけて強くなれは理不尽でしかないぞ」

「そんなことを言っては戦場ですぐに死んでしまうぞ! この程度で弱音を吐くな!」

「ふぇえええんっ! 全然優しくないですぅうううううう!! オカルト研究部の皆は優しいって言ってたのにぃいいいいっ!!」

 

 この一連の流れで恐らくだがギャスパー育成においての立ち位置がわかってしまったアルヴェム。

 ゼノヴィア、小猫がいる状況で自分も厳しくしてしまえば間違いなくギャスパーは引きこもりに戻ってしまう。

 

 そうなると、せっかく部屋から出てきてくれた意味がない。

 双方納得できる形でなければ後ほどトラブルに成り兼ねないためどうしたものか、とアルヴェムが頭を悩ませていると代わりに前へ出たのはエイミィーだった。

 

「お姉様、これ以上ギャスパー様を虐めるなら私にも考えがありますよ」

「これは鍛錬だ。流石にエイミィーと言えどグレモリー眷属の問題に口は出さないでもらいたいね」

 

 ゼノヴィアの言葉に対し、エイミィーは一度だけ息を吐くと一本の魔剣を創り出す。

 

「それでは一本勝負で決めましょう。勝った方が方針を決めるということで」

「わかった。試合でも加減はしないぞ」

 

 物騒な雰囲気になったが、アルヴェムたちは一旦その場から離れてエイミィーとゼノヴィアの様子を見守る。

 直接対決を見るのは初めてだ。性能的に言うとエイミィーが断然上回っているものの、ゼノヴィアにはデュランダルがある。武器の性能としては向こうの方が上だ。

 

 果たしてどうなるのか、互いに駆け出して試合が始ま――った瞬間にエイミィーの双眸が赤く輝いた。

 間違いない。あれは『停止世界の邪眼』であり、ゼノヴィアの動きが一瞬だけ停まってしまう。

 視界に映る映像の小さな差異。生じた隙を逃さず、柄頭による一撃がゼノヴィアの顎を軽く打つ。

 

「んぇ……っ」

 

 脳を揺さぶられたゼノヴィアは素っ頓狂な声を上げて、そのままダウン。

 見ていたアーシアも慌てて駆け寄ると治療し始める。エイミィーは「鍛錬が足りませんね」と魔剣を消すとアルヴェムの背に隠れているギャスパーへ身を屈ませ、

 

「さて、これで怖いものはなくなりましたよ。出てきてください、ギャスパー様」

「あ、あの……ありがとう、ございます……」

「いえ、礼には及びません。ギャスパー様に必要なのは継続的な鍛錬環境だと思いましたから」

 

 言って、エイミィーはその場に魔剣で横線を一本描き、二十メートルほど離れた場所にもう一本の横線を描く。戻ってくる際に二つの横線を繋ぐようにして縦線の軌跡を描いた。

 アルヴェムの背から怪訝そうに出てきたギャスパーに、エイミィーは笑みを向ける。

 

「線を描いた場所を走ってもらいます。初日ですから十本にしましょう。一周につき制限時間を設けますので、それを超えると――」

 

 がちゃり、とギャスパーの背中に何か装着された音がした。

 ギャスパーが恐る恐る目を向けると、背に見えるのはまるでイラストで描いたような丸い爆弾。

 目が完全に点へと変わっているギャスパーはエイミィーへと視線を戻すと、

 

「こ、これ、な……何ですか……?」

「お仕置き用の爆弾です。死にはしませんがそこそこに痛いくらいの火力にしています。これでアルヴェム様に逃げることもできませんよ」

「うわぁああんっ!! やっぱり、厳しかったぁああああああああっ!!」

 

 と、泣きながらもエイミィーの号令で走り出すギャスパー。

 それもそうだ。そこそこなんてエイミィーのさじ加減でしかなく、実際どれくらいの威力かわからない。彼女の性能に合わせられていたらギャスパーの身体が爆散してもおかしくないほどだ。

 

 だが、何やかんや泣き叫びながらもギャスパーは頑張っている。

 先ほどと同じくプレッシャーはあれど、デュランダルに追いかけられるよりかはマシだろう。

 とりあえず、様子を見ているとニンニクを手に立ち尽くす小猫が見えた。

 

「……ちょっと残念です」

「終わった後、追いかけてやればいい。エイミィーは小猫を咎めたわけじゃないしな」

「……じゃあ、走り終わった時用にニンニクスムージーを作っておきます」

 

 頑張って走った先に待つのが嫌がらせ以外の何物でもない飲み物だとは、ギャスパーにも同情の念を抱いてしまう。だが厚意なのか悪意なのか詮索は無粋だと思い、これには口出しをやめておくことにする。

 

「ふふ、エイミィーも気合いが入ってるわね。何だか、楽しそう」

「きっと、ギャスパーの生い立ちに自分を重ねるところがあったんだろうな」

 

 隣で見ていたイングヴィルドもギャスパーを指導するエイミィーを見て、微笑みを浮かべる。

 と、そこに見覚えのある人影がやってくる。ここ最近、最も不運だった男の匙だ。

 匙の姿を見ると一誠も手を軽く挙げ、

 

「よっ、匙」

「おー、やってるな。解禁された引きこもりの眷属がいるって聞いたから、ちょっと見に来たわ。おっ、金髪美女じゃねえか!」

「残念、あれは女装男子だよ」

「そりゃ詐欺じゃねえか……って、アルヴェム! ここで会ったが百年目だ!!」

 

 いきなり手に黒い蜥蜴のようなものを装着したかと思えば、そこから黒い線を飛ばして攻撃してくる匙。攻撃される理由はわかりきっているので、アルヴェムは正面から受け止めつつ、

 

「授業参観の一件は俺が悪かった。まさか、すぐ殺しに行くとは思わなかったんだ。よく生きていたな」

「もうそこはいい! その後だ後! あの後、一応ソーナ会長に確認されて思わず『そんなわけないじゃないですか! ソーナ会長は俺の主ですよ!』なんて答えちまったんだよ!! そしたら『そうですよね。私とサジはありえませんから』なんてハッキリ断言されたぞ!!」

「そうなるとキミの責任にもなると思うが……」

 

 その時、本気でそう思っていると伝えれば結果も変わったかもしれないが安牌を選んでしまったあたり、匙は恐れてしまったのだろう。当然の結果とも言える。

 とりあえず、アルヴェムが黒い線を退けて関節技を極めると匙はすぐにギブアップだと手を叩いた。

 

「はぁ……はぁ……くっそつえぇ……コカビエル単独撃破は伊達じゃねえな……」

「多分、これからも含めて勝てる日は来ないよ」

「くぅ……お前はセラフォルー様の胸もイングヴィルドちゃんの胸も堪能して、俺は全て失ったも同然なのに一矢報いることすらできないなんて悔しすぎるぜ!」

「そこは掘り返すな」

 

 一瞬、イングヴィルドの目が変わったため、そこだけはすぐに制止しておく。

 そんな話を終え、ギャスパーも走り終えて爆弾が解除された後――アルヴェムはこの場にいる誰でもなく、背後に感じる気配へ向かって言った。

 

「敵意がないなら出てきたらどうだ?」

「あー、何だ。気付いてたのかよ」

 

 声を掛けた木陰の先、そこから一人の影が現れる。

 黒い髪、浴衣を着た如何にも悪そうなイメージを抱かせる男性。その容姿に誰よりも早く反応したのは一誠だった。

 

「お、お前は――アザゼル!」

 

 アザゼル――その名を聞いた瞬間、その場にいた面々の行動は速かった。

 ギャスパーとアーシアを後ろへ下げたエイミィーは即座に『黄昏の聖槍』を創造し、その柄を伸ばして穂先をアザゼルの首筋へと向ける。

 

Executioner Cannon(エクスキューショナー キャノン)

 

 イングヴィルドを自らの背に回し、アルヴェムは右腕の各部を瞬時に変形させる。

 砲身へと変化させ、砲口の髑髏。各部にも死を彷彿とさせる髑髏の装飾がそれぞれ眼窟を妖しく輝かせた。

 ゼノヴィアは立ち上がるとデュランダルを握り締め、一誠と匙もそれぞれの神器を出して構えると、アザゼルは「くっくっく」と妖しく笑いながら両手を挙げ、

 

「わかったわかった。何も手を出すつもりはねえっての」

「生憎、最近堕天使でろくでもないのを見たんでな。警戒するのは当然だろう?」

「他の下級悪魔くんたちならともかく、アルヴェム・オーヅァとエイミィー・アスモデウス相手に策なしで挑むほど馬鹿じゃねえよ。ただちょっと雑談しに来ただけだ――神器についての、な」

 

 その言葉に心拍数、体温、脳波、全てに嘘はなかった。

 だとしても、騙し討ちする可能性がある以上、警戒を解くことはできない。

 アルヴェムは砲身を維持しつつ、問いかける。

 

「詳しいのか?」

「ああ、ここにいる誰よりもな。アルヴェム・オーヅァ、お前も神器の研究を始めたようだが俺からすりゃまだまだヒヨッコよ。現にレヴィアタンの嬢ちゃんが持つ神器の名も知らないんだろう?」

 

 その点は否定できない。能力はある程度、絞り込めてはいるものの正式名称など形式のものは考えたことがなかった。

 それにイングヴィルドの素性を知っているあたり、すでにこちらの情報はほとんど割れているだろう。一番脆弱な勢力に思えた堕天使も侮れたものではないようだ。

 アルヴェムの態度にアザゼルはまた笑って、

 

「聖魔剣使いを見ようとしたが、面白いのが揃っているな。暇で散歩がてらに来た甲斐があったってもんだ――ちょっと神器の講義でもしてやるよ。ほら、聖槍を退けな」

 

 言われ、エイミィーは一度アルヴェムを見た。

 現状、アザゼルの実力からしてエイミィーの脅威にもならない。泳がせるには十分な戦力差はある。

 どこまで本気かは不明だが話を聞くのはアルヴェムとしても利があるものだ。変形を解き、エイミィーに軽く手を挙げて指示すると彼女もそれに従って聖槍を消す。

 

「交渉成立だな。まずはレヴィアタンの嬢ちゃんが持つ神器のことだが……名は『終わる翠緑海の詠(ネレイス・キリエ)』、歌声で海やドラゴンを普く操る上位神滅具だ。海はこの人間界じゃ言わずもがなだが、ドラゴンを操る方はもっと危険な代物だ。極めればどんな伝説上のドラゴンでも嬢ちゃんに従うだろう」

「『終わる翠緑海の詠(ネレイス・キリエ)』……」

「この世界はドラゴンが多く、そしてどれも強力なのばっかだ。アルヴェム・オーヅァ、きちんと支えてやれよ。その嬢ちゃん次第で人間界は海に沈むし、冥界も天界もドラゴンによって滅ぼされるぜ?」

 

 全く笑い事ではないが本当に愉快そうに話すアザゼル。

 すると、次に目を向けたのはエイミィーだった。

 

「最初に言っておくが、お前の神器は厳密に言えば神器じゃねえ。神が用意した儀式用のもんだ。別名は『継承器(リライズ・ギア)』、俺がまだ神に仕えていた時から創っていたが、さっきの聖槍を見る限り神器を創造する点は完成しているみてえだな……」

「ですが、これは『神の失敗作』だと言われていましたよ」

「何を継承するのかは知らんが神器の創造以上に重要なもんが欠けていたんだろうよ。ミカエルあたりなら知っているだろうが現状知る術はねえな――ただ、使い方には気を付けろ。神が気合い入れて作ったもんはろくなことがねえ」

 

 元々は神に仕えていたアザゼルが言うあたり、説得力があるように思える。神器などまさに典型的な例に当てはまるだろう。

 しかし、イングヴィルドとエイミィーの身体検査は定期的に行っているが現状変わった様子はない。警戒するに越したことはない。

 

「そこのヴァンパイア、お前の神器は『停止世界の邪眼』だな? 五感で発動する神器は宿主のキャパシティを超えていると途端に暴走する。アルヴェム・オーヅァに視界を抑制するもんでも作ってもらえ。それで神器を扱う感覚に慣れろ」

 

 それと、とアザゼルは付け加え、

 

「ヴァンパイアっつう性質上、神器に慣れたかったら赤龍帝の血を飲め。それが一番手っ取り早いやり方だ」

 

 アザゼルの視線を受けたギャスパーはすぐさまアルヴェムに横から抱き着いてきて、ぶるぶると震えながら盾にしようとしてくる。随分と心を許されたものただ、アザゼルの助言はまともなものだ。

 

「それから、そこのお前だが――」

 

 そこから匙もアドバイスを受ける。匙が持つ神器はかつて討たれた五大龍王の一角『黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)』ヴリトラの一部で創られたものらしく、ラインを繋げたものの力を吸い取る、または譲渡。さらに別のもの同士を繋げるなど使い方は多岐に渡る応用性に富んだ神器らしい。

 

「赤龍帝……お前はちょっと別件だな。ヴァーリ……白龍皇が勝手に接触して悪かったな。まあ、アイツは変わったヤツだが今すぐ赤白決着をしようって腹じゃねえ。許してやってくれ」

 

 どうやらヴァーリはアルヴェムとの遭遇後にきちんと一誠に挨拶をしたようだ。

 何とも律儀と言うべきか。ライバル意識が高いというべきか。

 

 と、そこでアザゼルは何かの気配を感じ取った様子を見せる。アルヴェムにもわかったが、どうやらリアスたちが外での用事を終えて旧校舎へと戻ってきているようだ。

 

「どうやら今回はここまでのようだな。そんじゃ、後は若いもん同士頑張れよ」

 

 ふっ……と笑んだアザゼルは踵を返して立ち去っていく。

 堕天使の総督。一体何を考えているのかは不明だが、参考になる部分は大いにあった。

 今受けたアドバイスを早速実践するために、アルヴェムたちは準備をしていく――

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