ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー   作:ホスパッチ

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第五十五話『世界の話はどうでもいい』

「さて、そろそろ俺ら以外で世界に影響を及ぼしそうな連中にでも話を聞くことにするか」

 

 会談も終盤、アザゼルがそう切り出した。

 そして、その視線はまず隣に座るヴァーリへと向けられる。

 

「まずは最強のドラゴン様だな。ヴァーリ、お前は世界をどうしたい?」

「俺は強い奴と戦えればいい。それだけだ」

 

 迷いなく即答するヴァーリ。やはり、その在り方に一切のブレはないようだ。

 その答えを予見していたのか、アザゼルはそれ以上踏み込むことはない。代わりに視線を変え、一誠へと目を向ける。

 

「赤龍帝、お前はどうだ?」

「どうって言われても……正直、よくわからないです」

「だったら恐ろしく嚙み砕いて説明してやる。今ここで俺らが和平を結ばなかったら、即戦争だ。そこまではわかるな? そんでもって、お前は『赤龍帝の籠手』を宿している。否応なしに表舞台に出なけりゃならねえわけだ。つまり、リアス・グレモリーを抱くことなんざ夢のまた夢になるってわけだ」

「な、なん、だと……」

「しかし、だ。和平を結べば待っているのは種の存続と繁栄……つまり、ヤりたい放題ってわけだ」

「和平一択でお願いします!!」

 

 一瞬で和平を承諾した一誠。煩悩もここまで直球に出せるものなら大したものだ。

 アザゼルも一誠の答えにゲラゲラ笑い、ひとしきり笑えば次に目を向けたのはアルヴェム。これからが本番だと言わんばかりな眼で見られ、サーゼクスやミカエルもまたアルヴェムへと注目する。

 

「さて、ぶっちゃけ今までのは前座と言っていいが……アルヴェム・オーヅァ、お前はどう思う?」

「……最初に言っておくが、俺は平和主義者じゃない。世界の平和なんてどうでもいいと言っていい」

 

 視線が集まる中、アルヴェムは躊躇わずに言う。

 この答えに笑みを浮かべるのはヴァーリのみだが構わない。

 アルヴェムは静かに言葉を続けた。

 

「俺はこの世界にある力を知りたい……その力が高ければ高いほど知る価値がある。だったら、その力を高めるものは何か? 無論、戦いだ。現にグレモリー眷属を見ていれば、一誠が新たな力に目覚めたのも木場が禁手に至ったのも戦いがあってこそだ。その中で強さを求めたからこそ神器がそれに答えた。それは否定できない事実だろう」

 

 千の言葉を並べたとして、一の力には敵わない。

 コカビエル襲撃事件もアルヴェムやヴァーリの介入がなければ間違いなく街は滅んでいた。結局、言葉よりも力が結果を示し出したのだ。

 

 力は信頼を、安堵を与える。

 それは決して言葉では成し得ないことだと、アルヴェムは確信していた。

 

「強さを求める戦いの場がある、それが種族の進化に繋がると俺は考えている。戦わなくなれば危機感が薄れ、闘争心はなくなり、いずれ衰退の一途を辿り淘汰されるだろう。例え、戦いの果てにあるのが種の絶滅であっても、それもまた自然の摂理だ」

 

 既得権益に対して保守的になればなるほど、種族が持つ力は弱まっていく。

 残されるのは闘争心を失い、死と殺し合いを忌避して作られた平和という名の砂城のみ。そんなものは新たに生まれる力によって、容易く崩れ去るものでしかない。

 

「平和、種族存続、繁栄……そんなものは全て弱者の言い訳だ。群れを成すことでしか己に価値を見出せない脆弱な生物の一面に過ぎない」

 

 そこで一誠が立ち上がって何かを言おうとする。

 しかし、それよりも早くアルヴェムの「だが――」という言葉が聞こえ、踏みとどまった。

 

「その弱さをある程度は許容してもいい……俺はイングヴィルドやエイミィーと出会って、そう思った。きっと、この気持ちこそ誰かを慈しみ、大切に想う心……なんだろう。だから、和平でも何でも好きにしたらいい。俺も好きにする。ただ――イングヴィルドかエイミィーが不満を口にした時には終わりだと思ってくれ」

 

 以上だ、そうアルヴェムが話を締めくくると流れていた不穏な空気も払拭される。

 どうやらアルヴェムが意図していない緊張感が走っていたらしい。一誠からも安堵の息が零れる。

 サーゼクスもこれには苦笑し、

 

「そうならないように、我々も尽力を尽くすよ」

 

 そう言って、アルヴェムが話す番は終わった。

 これで三大勢力による会談も終わり――そう思った瞬間だった。

 

「っ! アルヴェム様!」

 

 エイミィーが何か言おうとしたが、すでに遅かった。

 今まで行われた会話が途切れ、会場内では静寂に包まれる。アルヴェムとエイミィー以外の誰もが時間を停められたように動かなくなり、その事象には見覚えがあった。

 

「ギャスパー……まさか――」

「ええ、そうよ。ギャスパー・ヴラディの神器を強制発動したの」

 

 振り向いた瞬間、聞こえたのは少女の声。

 ウサギの耳を模したフードを目深に被った銀髪の少女が、すぐ傍でアルヴェムの顔を上目遣いで覗き込んでいた。

 その少女を見た途端、エイミィーがすぐさま警戒の色を示す。

 

「アイシェル様……っ!」

「ごきげんよう、エイミィー。女子会以来ね」

 

 アイシェル、その名前には聞き覚えがあった。

 駒王学園に侵入し、イングヴィルドたちを脅して女子会を開き、木場やゼノヴィアを一瞬で戦闘不能まで追い詰めたルシファーの血を引く者。

 身に纏う魔力の質はとても年齢にそぐわぬほど濃密で底知れないもの。確かに、この相手ではエイミィーほどの実力者でも警戒するのは無理もなかった。

 

 アイシェルはフードを後ろに下げると軽く手を振るい、笑みを浮かべて話し出す。

 

「トップ陣はあと数分もしたら動き出すでしょうし、少しお話しましょ。あなたともお話してみたかったの、アルヴェム・オーヅァ」

「だったら、まずは答えろ……イングヴィルドは無事なのか?」

「ええ、無事だし無傷よ。大切なお友達候補ですもの。でも、正直期待以上だったわ。だって、ギャスパー・ヴラディを守りながら、送り込まれた刺客を全員撃退してたのよ? お仕事のこともあったから私が介入して眠らせたけど、他の連中にも傷つけないように言ってあるから安心して。それと、とても頑張ってたから後で褒めてあげて」

 

 言われ、旧校舎にいるイングヴィルドの反応を計測器で調べると、バイタルにも異常はなく本当に怪我はしていない。状態からして本当に眠っているだけのようだ。

 

 それにイングヴィルドの周りを囲うように別の魔力反応が見える。反応からして防護障壁だ。

 アイシェルは本当に身の安全を保障している。出会ってまだ数分にも満たないが、アイシェルからは自己ルールを必ず守る信念があるように見えた。それも愚直なまでに。

 

 ギャスパーもまた怪我までは負わされていないようだった。拘束され、能力を強制発動されてはいるものの、命に別状はない。

 

 だからこそ、疑問が芽生える。

 

「何故、こんな真似を?」

「あら、エイミィーから聞いてなかったの? 和平が結ばれたのを機にテロが起こるの。私はその一員、まあ革命ごっこも世界もどうでもいいけどお仕事だからね。エイミィーとイングヴィルドも誘ったのよ? あなたも連れて入ってみないかって。結果はフラレちゃったみたいだけど」

 

 アイシェルがやってきた後の報告でエイミィーが何かを隠していると思ったが、このことだったのかと納得がいった。

 視線を向けると、エイミィーは申し訳なさそうに、

 

「申し訳ございません……どうしても、言う気にはなれなかったんです」

「この程度で崩れるなら最初からしない方がいい和平だからな。別に責めはしないよ」

 

 だが、いつまでもアイシェルと話しているわけにもいかない。

 眠らされている以上、イングヴィルドの身の安全を最優先に確保しなければならなかった。

 それをわかってか、アイシェルが笑みを浮かべたまま、

 

「じゃあ、もうひとつのお仕事をさせてもらうわ。残念だけど、あなたたちはしばらくここから出られないわよ」

 

 アルヴェムが動くよりも早くアイシェルが指を鳴らす。

 刹那、新校舎に黒い影が落ちた。それは粘性を持つようにして外壁にへばりつき、流れ、やがて景色と同化して消えていく。

 

 結界の一種――だが、そんなものアルヴェムやエイミィーがいる以上、何の意味も持たない。

 拳を握り締めたアルヴェムが窓辺の壁に一撃加える。衝撃が走り、結界諸共壁が崩れ去る――そう思われたが実際は妙な感触と共に何も起こらなかった。

 

「何……?」

 

 周りの被害も考え、一点突破で力を込めたはずだが手応えがまるでない。

 この世界に来て初めての出来事だった。少し驚きを見せるアルヴェムに対し、愉快そうにアイシェルは折り曲げた人差し指を口元へ当てる。

 

「これは『無限の龍神』オーフィスの力を利用して作った結界なの。無限の力に変化し続ける魔力を追加して、如何なる攻撃にも対応する……『無限の檻』ってところかしら。この結界は相当考えないと突破できないわよ?」

 

 周囲の風景と同化しているが、力の流れは計測器で捕捉できる。その流れを見る限り、どうしてこれが成り立っているかわからないほど入り組んでおり、この世界で一番強い者の力を利用しているためにアルヴェムですら脱出には時間を要するだろう。

 

 術者の命が尽きることで解ける魔法も多くあるが、わざわざアルヴェム達の前に出てきたあたり違うと考えられる。いや、それも込みで出てきている可能性はあるが、周りへの被害を考えると戦うべきではないことは確かだ。

 

「あっ、外からの援軍も期待しない方がいいわ。だって――もう皆殺しにしたもの」

 

 言って、アイシェルは人差し指を立てると指先に小さな光が灯る。

 それは今まで見たこともないほど禍々しい醜悪な黒い光。さらにアイシェルは空いた手で魔法陣を起動し、そこに外の風景――駒王学園を囲う結界の外を映し出す。

 

 映っていたのは、凄惨な光景。

 もはやどの勢力の、誰の肉片かわからないほど原型なく無惨に血溜まりが点々と散らばっている。全滅だ。最初の配置を見ていたが、ほぼ全員が最初にいた位置から変わっていないあたり、瞬殺されたことを物語っている。

 

「もうご存じかもしれないけど、これが私の『悪光魔耀』よ」

「時間があるなら答え合わせをしてもらえないか? 俺はその光を魔力または魔力耐性が高い者ほど即死する光だと考えたが――どうだ?」

「ふふ、今機嫌が良いから教えてあげる。正解よ、半分わね。私の『悪光魔耀』は二種類あるの。一つは【讃美(ヒュムノス)】、これがあなたの言っていた『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』。そして、もう一つは――【懲罰(ネメシス)】」

 

 言って、アイシェルは手のひらに邪悪な光を輝かせる。

 一見して、先ほど見せられた黒い光と何ら変わらないが――アルヴェムの背後、飾られていた花瓶や会談で使われていた豪華なテーブルが内側から光が漏れ出し破砕された。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よ。人間を掃除する時とか何か邪魔な物があったら使うわね」

 

 二種に及ぶ悪光。しかも、それぞれが互いを補っている。

 どれだけの規模で放てるかは不明だが、アスモデウスの『星与刻』以上に対人殺傷力に特化した能力。これもまた対策がなければアルヴェムの命を奪う可能性のある能力と言っていいだろう。

 

「出会った時に【懲罰】を撃たれていたら木場たちは生きてはいなかった……本当に運が良かったわけか」

「即死せずとも両方とも内側をズタズタにしていくし、魔力による治療も神器による治癒もできないように強化したはずなんだけど……どうやったの? 後学のために教えてくれないかしら?」

「人間界で言ったら外科手術だ。魔力の暴走を器具で抑えて、損傷した箇所を全て縫合して出血を止めた」

「あら、あなたお医者さんなの? うーん……なら、特別対策する必要はなさそうね」

「戦闘中にそうできるものじゃないからな。キミの能力はそれほど厄介だ」

「ふふ、お褒めの言葉恐縮ね」

 

 クスクスと笑んで、アイシェルは褒められたことを素直に受け入れる。

 しかし、傍で聞いていたエイミィーはこの談笑に不満なのかアルヴェムに耳打ちをし、 

 

「(アルヴェム様……相手は完全に敵です。そう仲良くしては――)」

「(彼女からは敵意を感じない。こちらから敵意を向ける必要はないだろう。それに何かあればアイシェルは躊躇いなく『悪光魔耀』を放つ……実際は人質を取られているようなものだ)」

 

 ギャスパーが持つ『停止世界の邪眼』で停めたものは問題なく触れる上、触った結果が反映される。今、アイシェルが『悪光魔耀』を放てば今会場で停まっているトップ陣は皆殺しだろう。

 恐らく、アイシェルはそれを踏まえた上で接触してきている。口には出さないが、こちらの対応を見ているに違いない。

 

 と、そこでアルヴェムの計測器にさらなる反応が現れる。

 それも夥しい数。そのどれもが魔力を有しているが反応は全て人間。窓から外を見ても、宙に浮かぶ魔法陣に立つのは外套を身に纏った人間ばかりだ。

 

「楽しい時間はすぐに過ぎてしまうわね。もっとお話ししたかったけど、もう時間みたい」

「最後に聞かせてくれ。あの連中は何だ?」

「魔法使いよ。悪魔の魔力体系を人間に落とし込んだ人間が昔にいたの。名前は覚えてないけど、人間に使えるように再構築されたのが魔術、魔法なの。悪魔にもできない魔法を使えるあたり無駄に器用よね」

「そんな連中がテロに加担しているのか……」

「私の結界が破られたら彼らが攻撃を開始する手筈になっているのよ。ま、和平を面白く思わない連中は想像以上にいるわ。彼らの魂胆なんて私の知るところじゃないけど」

 

 そう言って、アイシェルは最後に手を下に向けて何度か振るう。

 意図が分からずアルヴェムは怪訝そうにするも、どうやら屈んで欲しいという意味らしい。

 何をされるか。考えはしたものの、言われるがままアイシェルの背に合わせるようにしゃがみ込むと――

 

「私、あなたのこと気に入ったわ。またお話しましょ」

 

 アイシェルの柔らかい唇が頬へと押し当てられる。

 その後、転移魔法陣を起動したアイシェルは軽く手を振りながら消えていき、再び会場内は静寂に包まれる。

 一瞬、理解が及ばなかったがエイミィーがジト目で見つめてきて、

 

「……イングヴィルド様にまた怒られますよ?」

「いや、今のは不可抗力だろう……」

 

 とりあえず、イングヴィルドには内緒にしてもらえるよう取り計らうアルヴェムだった――

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