ハイスクールD×Dー機械仕掛けの少年と紫髪の歌姫ー 作:ホスパッチ
「おっ、赤龍帝が復活したようだな」
あれからトップ陣を筆頭に一部を除いて次々と時間停止が解除されていく。
最終的に動けるようになったのはサーゼクス、セラフォルー、アザゼル、ミカエル、グレイフィア、リアス、そして一誠、木場、ゼノヴィアという面々。
アザゼルが目覚めた一誠に説明している間、アルヴェムとエイミィーはすでにサーゼクス、グレイフィアと話をしていた。
やはり、問題になるのは張り巡らされた結界。そして敵に捕らえられているギャスパーをどうやって救出するか、だ。
現在、捕らえられたギャスパーは強制的に『停止世界の邪眼』を禁手状態にされているようで、見た建物の中にあるものすらも停める力となっているらしい。
最初は数分で解けたトップ陣もこのまま受け続ければ、いつかは解除不能にまで陥る。その前にギャスパーを救出する必要があった。
しかし、アイシェルが『無限の檻』と称していたこの結界が脱出を許さない。
現にサーゼクスの一撃でさえ破壊することは叶わず、この場にいる全員が現状破壊できなかった。
アザゼルから説明を聞き終え、こちらに合流したリアスと一誠にアルヴェムは言う。
「この結界はある一定以上の実力を持つ者ほど強く作用する。キミたち二人ならばトップ陣が力を合わせれば、ギャスパーがいる旧校舎に転移することぐらいはできるはずだ。だから――」
「わかっているわ。私達でギャスパーを救出する、でしょ?」
「イングヴィルドのことも俺らに任せろ! その代わり、結界の方は頼んだぜ」
「……あぁ、任せておけ」
「話はまとまったか? おい、赤龍帝、お前に一ついいモンをくれてやるよ」
差し出された一誠の拳に自らの拳を合わせたところでアザゼルが話に割り込んでくる。
手渡したのは二つのリング。ただの装飾品ではなく、一つはギャスパーに着けることで『停止世界の邪眼』の効果を抑制し、もう一つはいざというために一誠の禁手化を補助するためのものだった。
その話を聞いていたのか、サーゼクスがアザゼルへと問いかける。
「アザゼル、一つ質問だが――神器を集めて何をしようとしている? すでに何人かの神滅具所有者も複数名集まっていると聞いている。神はいないというのに、何と戦うつもりだった?」
「備えていたのさ。と言っても、お前らと戦争するつもりはねえ。いるんだよ、備えなきゃならねえ奴らがよ」
「先ほどから不安を煽るばかりの物言いですね。率直に聞きますが、その備えなければならない奴らとは?」
「――『
アイシェルがエイミィーとイングヴィルドを誘ったというテロ組織。
ここで、アルヴェムはある言葉の真意を察した。あの時、ヴァーリと共に出会ったオーフィスの言葉、あれは――
「組織の頭はあの神ですら恐れた最強のドラゴン――『無限の龍神』オーフィスだ」
「そうか……とうとう動き出してしまったか」
その名を聞けば、オーフィスを知る者は皆緊張感を漂わせる。
すでに直接出会ったアルヴェムからすると幼い子供にしか見えなかったが、過去は違ったのだろう。
『その通り、我々のトップはオーフィスです』
聞こえたのは、女性の声。
そして展開される魔法陣に、今まで静観していたゼノヴィアが言葉を零す。
「あれはヴァチカンの資料で見たことがある……旧魔王レヴィアタンの魔法陣だ」
「っ! そうか、今回の黒幕……そして狙いは――アザゼル、ミカエル、早くイッセーくんたちを飛ばすぞ!」
珍しく焦った声でサーゼクスが言えば事態を察したアザゼルとミカエルがすぐさま手を翳す。
新たな転移魔法陣がリアスと一誠の足下で輝けば、二人の返答を聞く暇もなくその姿を転移させる。
そのすぐ後だった――ゼノヴィアが旧魔王レヴィアタンと称した転移魔法陣から一人の女性が姿を現したのは。
「先代レヴィアタンの血を引く者……カテレア・レヴィアタン。これはどういうつもりだ?」
「どうも何も見たままですよ、現魔王サーゼクス。我々旧魔王派の者たちのほとんどが『禍の団』に入りました。そして、今回の襲撃も私達が主導で行っております」
カテレア・レヴィアタン。
前々から名は知っていたが、実際に見るのはアルヴェムも初めてだった。
褐色の肌、胸元が大きく開いたドレスに身を包んだ聡明そうな雰囲気を醸し出す女性。だが、丁寧な口調とは裏腹にその眼は侮蔑に満ちていた。
対し、サーゼクスはあくまでも冷静に問う。
「カテレア……何故だ?」
「あなたたちと逆の結論に至っただけですよ。神も魔王も不在ならば、我らが世界に変革を齎し新たな世界とする……オーフィスはそのために力を集める象徴に過ぎません。一度世界を滅ぼし、再構築した上で我々が取り仕切ります」
旧魔王派はサーゼクス率いる新魔王派に敗れた後は冥界でも隅に追いやられていたと聞く。それが和平など聞けば蓋をされていた鬱憤が噴き出すのは自明の理。それも三大勢力には他にも似たような連中がいたことになる。
「カテレアちゃん、どうしてこんな――」
「私からレヴィアタンの座を奪っておいてよくもぬけぬけと……真に相応しかったのは正当な血を引く私だったというのに! どいつもこいつも私を愚弄して……あの小娘――イングヴィルドの件もそうです。旧魔王派にも関わらず、私にすら隠すなど……」
怒気を含ませた声で苛立ちを隠さず吐き出すカテレア。
だが、すぐに冷静さを取り戻し、哄笑する。
「それも今日で終わりです。セラフォルー、あなたもイングヴィルドも殺して私は真なるレヴィアタンとなります。そして、オーフィスを新たな世界の『神』にし、後の『システム』と法、理念は我々が構築する……それであなたたちの時代は終わりを告げるでしょう」
「ハッ、まんま小悪党の台詞を吐くじゃねえか。あまりに陳腐な妄言だな」
「ふふ、そんな安い挑発に乗りませんよ。時間が経てば、この空間ではあなたたちであっても再度停止する……後はゆっくり殺せばいいだけのこと。まずは、あの紛い物――イングヴィルドを殺しに行きます。セラフォルー、偽りのレヴィアタン……私が戻ってくるまで震えて待っていなさい!」
さらなる高笑いをし、カテレアは転移魔法陣を起動させてこの場から去っていく。
手を伸ばしたところで、もう遅い。旧魔王であろうとも、その血筋は本物。今、ギャスパーの救出に向かっているリアスや一誠たちに鉢合わせれば勝機は薄いだろう。
そうなれば、イングヴィルドを守る術がない。
体感温度の調整など容易いはずなのに、今は全身に悪寒が走って止まらなかった。
虚しく空を切る手にアルヴェムは初めて明確な焦りを見せる。
このままではイングヴィルドが殺されてしまう。
壁に向かって何度も拳を叩きつけるも物理的に破壊は現状では難しい。無限を冠するオーフィスの力を利用しているだけあって、結界が纏う魔力の波長は流動的に変化し続けている。
脱出する場合、この波長を正確に読み取り同じ力を加えることが必要だ。
だが、そのパターンを分析し再現するには時間がかかる。カテレアがイングヴィルドに手をかけるには、あまりにも十分過ぎた。
どうすればいい、どうしたらすぐにこの檻から出られる?
いつもならば冷静に見極め、行動ができたはずだ。それなのに、今はいつもと感覚が違った。焦りからか、冷静な判断がつかない。機械で作られたはずの思考回路がぐちゃぐちゃに掻き乱されている。
ただの契約相手に過ぎない。死ぬことに恐怖も悲しみも覚えることはない。
そう思っていたにも関わらず、思い出すのはイングヴィルドの表情ばかり。何と情けないことか、明らかに――動揺してしまっている。
気付けば額を壁に叩きつけ、言葉を紡いでいた。
「……彼女は本来ならば海辺にある故郷で、戦いも、ましてや悪魔など知らない普通の幸せを享受するはずだったんだ。自分を愛してくれる両親がいて、生き続けていれば恋人にも、自らの子にも恵まれて人生を全うしただろう」
今までアルヴェムは自分のためだけに生きてきた。それは今もだ。他者のために生きる意味など分からず、ただ自分が生きるための過程でイングヴィルドと契約した。
それは今も変わらない。だが、イングヴィルドを見ているとふと考えてしまうことだった。
もし、魔王の血などなければ。もし、覚醒などしなければ。もし――自分などと出会わなければ。第二の人生であっても彼女はもっと違う生き方をできたのではないか、と。
こんなテロに巻き込まれず、旧魔王から命を狙われることもない。
平穏という日常の中で、イングヴィルドは自らの幸福を見つけて過ごせるはずだった。少なくとも悪魔の世界に入ることはなかったはずだ。
「それが今はどうだ……? 人の感情もわからない俺と共にいて、色んなことに巻き込んで……その結果が今だ。守ると言いながら彼女の身を危険に晒して、こんな結界に時間を奪われている」
身体の内側から湧き上がってくるのは、自らに対する苛立ちなのだろう。
例え彼女が望んで一人になったとしても、それを許したのは他でもないアルヴェム自身だ。こうなる可能性だって十分以上に考えられたはずなのに、信頼という言葉で判断を誤った。
自分の甘さに嫌気が差す――そう思った途端に頭へノイズが走る。
目の前の光景が歪み、変質していったかと思えば映る光景は今まで見えていた会場内のものではなかった。
この世界とも違う、荒れ果てた大地。
地面を覆い尽くすように機械の兵士が隊列を組んで歩を進め、地を蹂躙していく。
それを遠くから眺めていたのはアルヴェムともう一人、全ての機械兵士たちが『神』と崇める超常の存在だった。
『アルヴェム、まだ其方は生まれ変わったばかりだ。力の使い方も知らぬ赤子も同然。だからこそ、覚えておくと良い――我ら邪神の力は邪悪な感情にこそ宿る。他者でもいい。怒り、憎しみ、悲しみ……それら全てが我らの糧となる。忘れるな、其方が心に宿した憤怒を、憎悪を、絶望を……さすれば力は際限なく応える』
何故、その言葉を思い出したのか。
理由などどうでもいい。自分が何者かだろうが構わない。
そうだ、自分は怒っている――アルヴェムはそう確信した。だからこそ、今はイングヴィルドの生命を脅かす者を許さない――
「彼女の人生を――邪魔するなッ!!」
『
全身の各所がスライドして変形を繰り返し、その身を巨大化させていく。
一足先に変形を終えた右手は猛禽類の如き鋭き爪を有しており、会場の壁に突き刺されば今まで道を塞いでいた『無限の檻』すらも突き破る――
―○●○―
「な、なんだあれは……?」
破砕音と立てて結界が壊され、外で控えていた魔術師は現れた生物に目を見開かれて驚愕を作り出す。
校舎の壁は脆くも崩れ去り、砂埃が舞い上がる中で影が見えた。それも巨大な影だ。
人ではない。それも、情報で得ていた誰でもない。
魔術師達が知る中で一番類似しているとすれば――ドラゴン。
しかし、どの伝説にも文献にもない姿だった。全身を鱗ではなく、金属の光沢を持つプレートに包まれており、背には両翼があるものの各部には円筒状の推進器がいくつも見える。
分厚い手足を地につけた四足歩行型。
だが、両翼の先端部分には手があり、光の刃を輝かせているため白兵戦にも特化しているように見える。
悪魔のように魔力はない。天使や堕天使のように光を感じることはない。
それでも、あの機械龍からは禍々しく見るだけで命を削り取られそうなほど明確な死のイメージが伝わってくる。
容貌にある目は六つ、左右にそれぞれ縦に三つ並ぶように赤い光が灯っていた。
それらが一際大きく輝くと――展開されていた魔術師の半数以上がその姿を消す。
「え……?」
残った誰かが、そんな素っ頓狂な声を上げた。
誰にも見えなかったのだ。だが、今の一瞬で仲間のほとんどが命を奪われた。
その事実が恐怖として伝播しそうになるも、それぞれの使命が逃走を許さない。
再度展開され、数を取り戻した魔術師たちが一斉に魔法を浴びせるも……機械龍は傷一つなく、その場に佇んでいた。
そして、再度光り輝く死に抗える者などいなかった――